第1章ー11 最悪の人生に最高の思い出
その後もティポンとポラプレス(多重人格者)の攻防は続いた。ティポンが左で殴りそれをポラプレスが左で受け止めてポラプレスが右手で殴りそれをティポンが受け止めてそんな攻防が続いた。蹴りもそこの間に挟みながらどちらも攻撃していたが攻撃が入ることは無く全て回避と受け止められてしまった。
「俺たちはやらなきゃいかないんだ!!俺の夢を叶えるんだ!!」
「悪魔の夢とか俺にはどうでもいい!!俺は捕まるなんて御免だ!!俺たちはただ平穏に生きたいだけなんだ!!何で俺たちが狙われるかも分からない!!何でだ!!何で!!俺たちはもう戦いたくないのに!!」
攻防の中でさえも声をあげている。そんな中エキドナはただ見ていることしか出来なかった。自分がもっと強ければ、そう思った。これでは2人の夢では無くなってしまう。サクレの方もただ見ているだけだった。
「ティポン!!頑張れ!!ティポン!!頑張れ!!ティポン!!頑張れ!!」
エキドナは考えた。今の自分に出来ることはたった一つ、戦うことではない応援する事だ。自分が戦ったところで足でまといになるのはみえている。応援することで少しでもティポンのモチベーションが上がればいいと思った。
「応援してくれている妻のためにも!!妻のためにも!!この戦い勝たなきゃいけないんだ!!」
「俺は自分の命とサクレの人の命を守るため戦うんだ!!」
この言葉からポラプレスはサクレの出会いからまだあまり経っていない様だ。出会いから少し経っているのであればもう名前で呼びあってもいいはずだ。まだ2人の攻防は崩れない。
「名前で呼びあっていない奴らが力を合わせた所で固い愛情で結ばれた俺たちに勝てるはずがない!!!勝っていいはずが無い!!」
攻防はさっきと違う形になってくる。さっきまでは全ての攻撃が手で両者とも守れていたがだんだん攻撃も顔に入るようになっていた。攻防は攻撃の強い方へと一気に変わった。
「負け…ない…絶対…に!!家族の…ためにも…」
「こっち…だって…負け…られない…」
両者殴られながらも言葉を放ちながらも攻防を止めることは無い。
「こんなんじゃ…埒が…明かない」
ポラプレスはそう言うと後ろへと後退した。ティポンもまたそれを見て自分も後ろへと飛んで後退する。そしてまたポラプレスを見据え拳を握る。両者とも額から血を流す。ティポンはその血を左手で拭いてポラプレスの方は拭かずににやっと笑う。
「おりゃァァァァァ!!!」
ティポンはポラプレスの方へ走り出し右足でポラプレスの左耳を狙う。ポラプレスはそれを左の腕で受け止めるポラプレスはそのまま右足でティポンの左耳を狙う。ティポンは下にかがんで回避をする。そしてティポンはポラプレスの腹へと右足で前蹴りを喰らわせる。ポラプレスは血を吐き後方へと吹っ飛びサクレの手前で止まった。
「よし!攻撃が入った!!」
「くそ!やっぱり強いな…悪魔…俺には愛情が足りないか…」
ポラプレスは初めはフラフラしながら立ち上がったがその後はすることは無かった。そしてポラプレスはティポンの方へと拳を握り走り出す。
「そっちも家族のために本気だろうが俺だって負けねェー!!急に死んでくれなんて言い訳ないだろ!!」
ポラプレスはティポンの顔面を狙って右手で打つ
「しょうがないだろォォォォ!!こっちの任務なんだよ!!!」
がティポンはそれをすぐさま右に避けその右手を左手で掴み空中に飛びそのまま逆側へと半回転しながらポラプレスをそのまま地面へと叩き付ける。
「ぐあぁぁぁぁ」
「どうだ!!俺は負けない!!」
「やった!!ティポンが押してる!!」
ティポンはその攻撃をするとまた後方へと後退する。ポラプレスはその場にすぐさま立ち上がる。
「よし…分かった俺に足りないもの…留子僕の本当の力を見せるよ」
留子はポラプレスを見て頷くそしてポラプレスも頷き返しティポンの方を見る。
「名前で呼んだか…ここからは本気の戦いになりそうだな…」
「あぁ、もう手は抜かない…いくぞ…」
ポラプレスはさっきとは全く違う真剣な顔を見せ目を閉じる。
「出てきてくれ…」
そう言ってポラプレスは顔を上げる。ポラプレスはつり目に変化し殺気が感じられ、全くの別人とかす。ポラプレスはもう一人の自分を呼び起こしたのだ。
「なんだ…こいつ…」
ティポンは見ただけで勝てないことが分かった。もう1人の方は殺気が異常にでかい。こんな奴に勝てるわけがないと思ってしまった。しかし今は逃げることは出来ない。
「……あばよ」
ポラプレスはそう言って光の速さで瞬間的にティポンの目の前まできた。ティポンはその速さには全くついていけなく驚きの声を出す。ポラプレスはティポンを見てにやっと笑い左手で殴る。ポラプレスの攻撃はティポンに直撃する。ティポンは血を大量にはきものすごい速さで後方へとぶっ飛ばされる。飛ばされた距離はエキドナより後方だった。エキドナもまた自分の横を吹っ飛んでこえていくティポンに驚く。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ痛てェェェェェ」
人生で喰らったことがない痛みだった。ティポンはなんとか立ち上がりポラプレスの方へと走り出す。しかしポラプレスの動きはもう人間離れしていた。瞬間的にティポンの前にいたポラプレスは後ろに来てティポンの背中に右足で横蹴りを喰らわせる。ティポンは血を大量に流し飛ばされる。しかし休む暇もなく飛ばされた方向へとポラプレスは移動していた。そしてティポンの腹を肘でぶっ飛ばす。
「くそ…俺は負けるわけには!!うおォォォォォォォォ」
ティポンは叫びだす。そうするとティポンは元の姿からもっと大きい巨人へと姿を変えた。元の姿は5mだがその大きさはもう10mぐらいだ。筋肉もまた元の姿から肥大化し完全の戦士と化した。
「これが俺の修行の成果だ!!」
「ふっ…そんなの見かけ倒しだろ」
「見かけ倒しだって!?ふざけるな!!僕がどれだけ努力をしてきたと思ってる!!お前に分かるか!!」
「人は誰でも努力なんてしている…努力をしたという奴は弱いやつだ…」
「くそォォォォ死んで後悔しろォォォォ!!」
ティポンはポラプレスに向かって走り出す。ティポンはやはり動きが速くなっていてポラプレスと互角の速さになっていた。ティポンは右手でポラプレスの顔面を狙う。ポラプレスはその右手を掴みその右手に沿うようにティポンの頭上の方へ回転しカカト落としを決めようとする。しかしティポンもまたそれに気づき両腕を交差しガードする。ティポンはそのまま交差した両腕を解き放ちポラプレスを後方へとばす。ポラプレスは空中で3回転して地面に着地する。
「はぁ…もう悪魔の動きには慣れた…勝負をつけよう」
「何を言って!!そんな分けないだろ!!」
ポラプレスは格段と速さを変えてきた。戦いの中でどんどん成長しているのだ。周りの岩などを使ってものすごい速さでティポンの周りを飛び回る。それはまさに光だった。そしてポラプレスはあらゆる角度からポラプレスを殴りつける。そして最後にはティポンの目の前に来て顔面を殴る。ティポンは血を大量に出しそのままエキドナの方へと飛ばされる。もうボロボロな姿で立ち上がることも困難だった。そして心配になったエキドナはティポンの方へと駆け寄ってくる。
「大丈夫!?何で急に…」
「ガハッ…ごめんなぁ…夢…叶えられそうもねェ…」
エキドナはティポンから信じられない言葉を聞いた。本人の口からそんな言葉が出てくるとは驚いた。
「何を…何を言ってるの?」
「あいつには…勝てねェ…今の実力じゃ到底及ばない…俺は舐めていた…」
「じゃあ逃げればいいじゃない…今は逃げてまた後で戦えばいいじゃない…」
「それはだめだ…俺の夢は途中で逃げ出して叶えるようなものじゃない…それほど強い夢なんだ…」
ティポンは逃げるという選択は絶対に許せなかった。それはティポンのプライドの問題なのだ。エキドナは辛い現実を受け止めきれず涙を流す。たくさんたくさん涙を流す。
「子供たちはどうすんのよ!!ねェ!!何で!!何で!!逃げてよ!!ねェ!!」
「子供たちのことよろしくな…ごめんな…愛してる」
ティポンはにこっと笑い最後の言葉をエキドナにかける。そうしてティポンはポラプレスの方へと向かっていく。
「ちょっと待って…」
ティポンの服を掴もうとしたがあと1歩のとこでエキドナはティポンを逃してしまう。エキドナの声はティポンには届くことがない。ティポンはもう心に決めてしまっているらしい。
「お願い!!待って!!お願い!!お願い!!お願い…お…ねがい…」
エキドナは涙を流しながらその場に崩れ落ちる。自分は何もすることが出来ない。愛する人がもう自分の手から離れて行ってしまう。結局この世界は強いやつが全てを制するのだと改めて感じた。
「ポラプレスとサクレを捕まえる!!それが俺の役目!!俺の夢は立派なカオスティアになる事だァァァァァァァァァァ!!!!」
ティポンは叫びポラプレスの方へと走る。ティポンは夢を叶えることが出来ないことよりも死ぬことよりも一番悲しいのは自分が愛する人と別れることだった。ずっと過ごしてきた最愛の家族と別れることが1番悲しかった。そしてティポンは涙を流しながら最後の時を迎える。
「覚悟ありか…それじゃ俺も本気で殺す…」
ポラプレスは手を刃物の様にして走って来るティポンを待つ。1番の力で敵を打つそれが今出来る敵を称える行為だ。
「ティポン…待って…」
エキドナの声はティポンに届いた。しかしもう止まることはなかった。エキドナの方を見てティポンはにっこりと笑う。その瞬間ティポンはもうあばらの下の横腹のところをを半分に斬られていた。しかし斬られながらもティポンはエキドナに何かを伝えているそれはくちぱくだったがエキドナにはよく分かった。
今までありがとう、君を愛してる。
ティポンの最期の言葉は今までのお礼と自分が1番強く思っている人に向けての愛情表現だ。それだけは死ぬ時でも決してしないわけにはいかなかった。エキドナはその言葉に嬉しみも少しはあったがそんなことよりもショックの方が何倍も大きく腫れ上がった。もう愛しのあの人には会うことがもうできない。辛かった、苦しかった、もう死にたいと思った。
「ああぁぁぁぁ……うわァァァァァァァァァァ…うわァァァァァん….」
エキドナは頭を抑えその場で倒れ込み泣いた。涙が枯れることは無かった次から次へと涙は出てきた。何度も何度も震えながら声を上げながら泣いた。
「ああああああああああァァァァァ…はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
エキドナの様子がおかしいティポンがいなくなった現実を受け止めることが出来ない。ティポンの死体へと座ったまま足を擦りながら近づいていく。体をティポンの血で濡らしながら近づいていく。ティポンは笑ったまま泣いて死んでいた。エキドナはティポンの亡骸を何度も泣きながら抱きしめた。
「フフフフ…フフ…フゥーふっふっふっふっふっフゥーふっふっふっふっふっフゥーふっふっふっふっふっフゥーふっふっふっふっふっフゥーふっふっふっふっふっ」
だんだんエキドナの様子がおかしくなってくる。エキドナは笑っている。精神状態はいよいよおかしくなってきている。もう自分を止めることは出来ない。その瞬間エキドナは体を肥大化させ始めた。目は真っ赤になり、髪の毛は蛇の様なものがうじゃうじゃ湧き、下半身の蛇は10m級の大蛇へと姿を変えた。もうその姿は化け物だ。
「末代まで祟ってやるぅぅぅぅぅ!!末代までぇぇぇぇぇぇ、はぁはぁはぁはぁはぁはぁ、フゥーふっふっふっふっふっ」
もうエキドナは自分が何を言っているのか理解出来ていない。この世界全てが憎かった。もう何もかも信じられなくなった。エキドナは赤い目から血を流す。
「もう許さないぃぃぃぃポラプレスぅぅぅぅぅあんたを殺すぅぅぅぅぅはぁはぁはぁはぁはぁはぁ」
「やばい留子逃げよう!!」
ポラプレスとサクレの2人は一目散に逃げ出す。エキドナはもう自分を制御することが出来ずその2人を追いかけることさえ出来なかった。エキドナは辺りの木々や岩を破壊つくし等々力尽きた。
目を覚ますとそこは真っ暗な夜で荒地の様だった。エキドナは元の姿に戻っていた。自分がこれを全てしたことはエキドナには想像出来なかった。もう周りには誰もいない1人寂しく泣きながら家へと帰る。
「はぁはぁはぁはぁ、私がぁぁ…はぁはぁはぁはぁ、子供たちを守るぅぅ、愛する…愛するぅぅぅ子供たちぃぃ…ヒュドラちゃん…ケルベロスちゃん…ケートスちゃん…」
独り言を喋りながら現実を受け止めるのに必死になる。その日にあったことがエキドナを全くの別人へと変えてしまった。家へと帰ると子供が待っていたしかしもう喋る気力さえも残っていない。涙を流しながら絶望の顔をしている。帰ったその玄関で倒れ込みそのまま眠りについてしまう。子供たちもエキドナを見てティポンが死んでしまったことを受け止める。そして次の日になるがエキドナは元気を取り戻すことは出来ないただひたすらポラプレスを憎んでいた。そしてそれを戦況報告しなくてはならなかった。
「私の夫は死にました…はぁはぁはぁはぁ…殺されましたァァァ…ポラプレスに…殺されました…それを報告致しますぅぅぅ…はぁはぁはぁはぁ」
「なんだと!!ティポンが死んだ!!しかもポラプレスに殺された!?そんな…そんな馬鹿な!!」
連絡越しにダンダリオンの焦りが感じ取れる。ダンダリオンは予想がけない状況に驚きを隠せなかった。
「私…カオスティアに入ります…はぁはぁはぁはぁ…入ってポラプレスを捕まえて殺します…末代まで殺しますぅぅぅぅぅ…ティポンの夢を叶えるのですぅぅぅぅぅ…絶対に叶えるのです…フゥーふっふっふっふっふっフゥーふっふっふっふっふっ」
「分かった…お前の気持ちはよく分かった…カオスティアになる事を許可する」
そうしてエキドナはカオスティアに入ることを決めた。しかしエキドナはそれからポラプレスとサクレと会うことは叶わなかった。そんな最悪な過去がエキドナにはあった。
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場面は晃孝たちに変わる。エキドナはさっきから肥大化を止めない。見る見るうちにもう30mぐらいに肥大化していた。体がボコボコとマグマの様になっている。エキドナはどんどん大きくなる。晃孝は今生涯を終えようとしているところだ。エキドナに顔を掴まれ動くことも出来ない晃孝は絶対絶命だ。
「これが私のォォォォォォォォ過去よォォォォォォォォはぁはぁはぁはぁ、貴方に分かるぅぅぅ!?だから死んでね…ティポンに私は頑張ってたって伝えてェェェェェェ!!!」
「くそ!!!死ぬぅぅぅ…くそ!!」
「晃孝!!はやく助けないと!」
ベリトは晃孝の危機を救いたいがもう体を動かすことが出来ないチェルノボグもまた動くことは出来ない。
「信じる!!信じる!!信じる!!信じる!!晃孝!!!!」
礼羽は晃孝に言われた通り信じ続ける自分たちの勝利を信じ続ける。
「はぁはぁはぁはぁ、子供たちを殺された私にはァァァァァはぁはぁ何も残らないぃぃぃぃ!!もう私はァァァ親バカになるしか無かったァァァ!!それしか出来ないからァァ…もう一人になったァァァァ!!あんたもサヨナラァァァァァ」
エキドナは蛇の様な髪の毛を晃孝の心臓へと突き刺そうとする。
「クソォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
死なない。様子がおかしい。エキドナの動きが止まった。エキドナは肥大化を止めない。しかも体が震え始めている。
「何だ…何なんだよ!!うわっ!!」
エキドナが晃孝を放す。放したというよりもう手の自由が効いていないようだ。晃孝はそのまま地面に落っこちる。そして何故かエキドナは頭を抱え苦しみ始める。
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅ..............ううぅぅぅぅぅ」
「何なんだ!?何をしたんだ晃孝!?」
「おい!!説明しろ何がおきてんだ!!」
ベリトとチェルノボグも何がおきているのかが全く分からない。もう終わったと思っていたが目の前で敵が苦しみ始めている。
「俺だってわかんねェーよ!!急に苦しみ始めたんだ」
礼羽はすぐさま晃孝の方へ行き晃孝に肩を貸し何とかその場から離れる。
「ありがとう礼羽…」
「やっぱり信じたら変わった…」
晃孝通り信じる事で戦況が変わった。しかしエキドナはまだ肥大化を止めずに苦しんでいる。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ、うわぁぁぁ…うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…」
「分かった!!分かったぞ晃孝!!エキドナは肥大化を制御出来てないんだ!!今のエキドナは憎しみに侵されているんだ!!このままだとエキドナは憎しみに殺される」
「なんて酷ェ最後なんだよ…生まれて終わるまで最悪な人生じゃねェーか」
「ずっと…うっ…最悪では…無かったわ…うぐっ…家族と過ごした…あの日々だけは…最高の思い出よ…私はここまで…待っててねみんな…」
エキドナは前の喋り方に戻っていた。最後の最後で自分の正気を取り戻したように見えた。エキドナは目から赤い涙を流す。悲しい顔をしながら何度も流す。エキドナは肥大化の速さがさっきよりもいっそう早くなった。そしてどんどん体が大きくなる。
「あばよ…蛇女…いい戦いだった…俺の負けだよ...勝負は俺の負けだったよ…」
晃孝はそう言い残しエキドナを見る。
エキドナは50mのボールの様になっていた。もうこの状態が長く続くことは無さそうだった。
「そうね…いい戦いだったわ…もう悔いはない…」
エキドナも晃孝との戦いを振り返る。そして家族のみんなの事を思い浮かべる。
「ティポン…ケルベロス…ヒュドラ…ケートス…愛してる…」
エキドナはそう言い残し目を閉じる。肥大化した体は減っこんだり出たりを繰り返す。そしてその瞬間エキドナの体は風船のように破裂した。ものすごい爆風が晃孝たちを襲った。晃孝たちはそのまま飛ばされてしまう。周りの木など小石も一緒に飛ばされる。
「ここは…」
エキドナは真っ白な世界に立っていた。恐る恐る前へと進む。少し先に4つのシルエットが見えてきた。それはエキドナならすぐに分かった。涙が溢れてきた涙を手で拭いても涙が止まることなく溢れ出す。
「みんなぁ………私はもう疲れたよ…頑張ったよぉ…もういい?…頑張んなくて…みんな…行こう…」
そうしてエキドナを合わせた5つのシルエットは白い遠くの方へと消えて行った。
「みんな…平気か?」
晃孝が目を覚ます。その他の人もボロボロになりながらもゆっくりと立ち上がる。
「周りが元に戻ってる…悪魔は死ぬとその存在ごとこの世に無くなるのか…」
ベリトは起きると周りが元来た時と一緒になっている事に気づいた。ディアーブル族は死ぬとその存在ごとこの世から消えてしまう。なのでエキドナたちの痕跡はひとつも残っていなかった。しかし確かにエキドナと戦ったことは覚えている。
「存在が消えるなんてな…あの悲しみさえ無くなるんだよな…最悪の人生の中に最高の思い出か…」
そしてその後みんなでゆっくり歩き真ん中に集まり肩を組んだ。
「でも勝った…勝ったんだ!!エキドナに勝ったぞ!!」
晃孝は3人のチンピラのあと活躍することが出来なかったので勝利を喜んだ。
「ありがとう…ありがとうみんな!!助けてくれて…ありがとう!!」
礼羽が改めて自分を助けるためにみんなが死にものぐるいに戦ってくれたことにお礼を言う。
「良かった!助けられて!!」
「助けるのは当たり前!!礼羽さんにはあの時の恩もあるからね!」
「仲間を見殺しにすることは絶対にしねェー!!」
「良かった!!こんなハラハラしたの初めてだよ!!本当に死ぬかと思ったけどね!!」
「本当に…敵が悪魔なんだもん…全く…でも本当に良かった…礼羽はたった1人の私の親友なんだよ!!」
晃孝、ベリト、チェルノボグ、了、愛は礼羽を助けることが出来たのを心から喜んだ。だが晃孝はその場に崩れ落ちる。戦いの終わりで一気に気が抜け疲れが押し寄せる。
「おいおい!!晃孝!!お前なんだよ!強いな!!」
了が晃孝の身体能力がこの戦いでずば抜けていることに気がついた。
「まぁおっちゃんにボクシングとか教えて貰ってたからな…あとはじめから運動神経はよかった方だから...」
酒場のおっちゃんに晃孝はたまにボクシングを教えて貰っていて避け方などパンチの打ち方などを知っていた。
「なんか悲しい話になっちゃったけど…ちげーよ!!運動神経じゃなくてお前の体強すぎねェ!?」
了は晃孝の運動神経を驚いていたのではなく攻撃を受けても立つことができるその力に驚いたのだ。
「俺もよく分かんないけどさ…体が勝手に動いたんだ…初めは喋ることが出来なかった…でも少し経つと普通に喋りながら動くことが出来た…」
「うーん…なんか不思議な感じだな…要は人間の覚醒状態の様なもんだな…10%が何とか何とかっていう奴あったよな」
了は勝手に納得した。最後のをうろ覚えで話すのは了らしい所がある。
「了、それは人間の脳は10%しか使われてない…でしょ!」
すぐさまベリトが了のうろ覚えに答えを出した。
「じゃあ俺は…後の90%を出したってことか?」
晃孝は勝手にそのようになっとくする。脳の活動は10%と言われているが晃孝の行動は人間からかけ離れていた。しかしあとの90%が使われたとなると人間離れしたあの覚醒状態にも納得がいくだろう。
「そうかもね…だから今はそれがとけて脳が働かず晃孝は立つことが出来ないんじゃないかな…」
「そういうことか!!俺は天才肌なのかもしれねェーな!!」
「何を言ってんだか…自分を課題評価しすぎだろ」
チェルノボグが課題評価している晃孝につっこみを入れみんなで顔を合わして笑った。そして辺りはもう真っ暗になっていた。帰らないといけない時間だ。エキドナとの戦闘でたくさんの時間を取ってしまった。
「よし!今日は帰ろう晃孝!!ポラプレスはいなかったけどまた明日も探せばきっと見つかるさ!!」
ベリトが帰ろうとみんなに合図を送る。そして晃孝もゆっくりと立ち上がりみんなで帰りの方へと歩き出す。その瞬間、晃孝はまたあの頭痛に苦しめられた。
「うっ…あァァァァァァァァァァ!!!!うっうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
晃孝は頭を抑えその場に倒れ込む。みんなが気づき振り返る。みんなで心配の声をかけるがそれさえも晃孝には聞こえてないようだ。
「くそォォォォ…前の時より痛てェェェ…うぐッッッッ…ああァァァァァ」
この頭痛は前に起こったよりも痛みが増していた。その瞬間ものすごい速さで色々な物がフラッシュバックする。はじめにしたのはおっちゃんが首を飛ばされているとこ。エキドナの顔。その次は自分が色々な戦いで吹っ飛ばされているとこ。そして最後はよくわからないが自分の手が血に染まっている所だ。そのフラッシュバックを全部見た後に段々と頭痛は消えていった。晃孝はゆっくりと顔を上げる。
「おい!大丈夫かよ!?晃孝!!どうしたんだよ!!」
了が心配して声をかける。また他の人も心配な顔をして晃孝を見つめている。
「あぁすまねぇ…頭痛だ…疲れが溜まってみたいだ…よし!!早く帰ろう!!」
「こんな戦い初めてだったもんな!頭痛が起きても仕方ないさ!」
晃孝は了に心配の声をかけられたが何回も起きる頭痛のことは相談しなかった。そうしてみんなで帰りの方向へ歩き出し大沼を離れた。帰りの途中晃孝のケータイに1通のメッセージが届いた。
「ん…なんだろう…えっ………」
晃孝はそれを見るに驚愕した。そのメッセージの言葉の差出人は酒場のおっちゃんだったからだ。みんなも晃孝の驚きに不思議になって晃孝に近づき携帯を覗く。みんなもまた驚いた顔を見せ口をポッカリと開ける。そしてそこにはこうかいてあった。
ちゃんと逃げられたか?俺も何とかなった。こっちは心配ない。今日晃孝の方へ行って状況を説明する。
というメッセージだった。
「えっ…どういう事だ…?あの時…えっ…死んでない…死んでない!死んでない!見間違えだったんだ!!」
「そうだよ!晃孝!!あの時は駅が発車した直後で見ずらかったね!錯覚でそう見えたんだ!!」
「良かった…ほんとに良かった…」
ベリトと礼羽も声を出して喜ぶ。この状況を理解出来ていないのは愛だけだ。チェルノボグが愛に説明して愛も納得する。晃孝はそのメッセージに返信を送る。
そっか分かった!俺たちは群馬にいる!群馬の方まで来てくれ!来たら駅で待っててくれすぐ迎えにいく!じゃあ明日の10時に待ち合わせだ!
こう送り返し晃孝は喜びを噛み締めた。自分が見た光景は偽りだったことに初めて自分の間違いを嬉しいと思った。礼羽の祖母の家へと帰った。帰ると玄関には礼羽の祖母が笑って迎え入れてくれた。
「みんなけえってきた(帰って来た)か!またうんまい(美味しい)ご飯作っといたから食べな!あら愛ちゃんも来たんかい!仲間が増えて良かったなぁ~」
もう晃孝たちはあの戦闘のせいでものすごい腹ぺこだった。みんなで一斉に玄関に入っていく。しかしチェルノボグだけは玄関から入るのにつまずいている。愛もまたお辞儀をして入る。今日のメニューは白いご飯にお味噌汁、煮物、豚カツだった。
「うめェェェ!!この豚カツうめェェェ!!最高だよ!!礼羽のばあちゃん!!」
「そうかいそうかいまっと(もっと)食べてね」
礼羽の祖母はにっこりと笑いみんなをながめた。
「でもどうだったんだい…ポラプレスは見つかっかい?」
「あぁ見つかんなかった…でもよぉ!ばあちゃん!エキドナっていうでっけェェェ蛇女が襲ってきたんだよ!!!」
「遂にカオスティアが動いてきてしまったんだね…だんだんここも危ういかもしれないねぇ…でもきっとポラプレスは見つかる!みんなも頑張るんだよ…」
そして話も終わる。その日はいつもよりたくさんのご飯を食べ、風呂に男、女の順で入る。明日は酒場のおやじとの約束もあるので早く布団をしきぐっすりと眠りについた。いつもよりよく寝ることができた。