簡単にキレちゃあいけません
「君達に恨みはないけれど、半殺しぐらいは覚悟してね!」
「眷属たちの恨み、貴様らの死を以って晴らさせてもらおうぞ!」
台詞が嚙み合わない魔王と邪龍王。
そこはボスっぽくキメて欲しいところである。
「こらー! ファヴちゃん、そこは打ち合わせ通りやってくれないとダメじゃないか!」
「知ったことか! 我は心のままに行動するのみ。お前達悪魔に手を貸すことはあれど、愉悦を満たす義理はないわ!」
「むむー。キレてるかと思ったら、全くの正論を返すその的確さ。流石は邪龍王だネ! ボクとしてはちょっと反論しようがなくて困りものだヨ」
「当然だ。如何に邪悪に成り果てようとも、龍族は嘘をつかぬ。貴様ら悪魔と同じにしてくれるな」
「ああー! それは偏見だ! 種族差別だ! 悪魔の中にだって正直者だっているよー!」
プンスカプンと怒りながら全力で抗議する悪魔っ子。
それに呆れたように吐息を漏らすボスドラゴン。
なんとも緊張感のないやり取りだ。
悪魔っ子に関しては、怒り方が可愛らしくて微笑ましくもある。
ていうかね、こいつ等、オレ達のこと完全に無視ってない?
「それはそうとして、先程は我の聞き間違いか? 貴公はあの者達を殺すつもりはないと聞えたが」
邪龍王ファヴニールがジロリとオレ達を睨みながらアマイモンに尋ねる。
うん、ごめん。アンタだけは無視どころか殺す気満々だったね。
「へ? そうだよ。聞き間違いなんかじゃないよ、ファヴちゃん。ボクには彼らを殺す意思はない。それはここに来る前に伝えたはずだよね? 今回はそれがメインじゃないってさ」
「たわけ! 我が配下を散々暴れさせておきながら、自身の手は汚さぬと言うか!」
「仕方ないじゃないか! それがサタン様からの命令だし、ボク達悪魔に架せられた禁でもある。ボクにはどうしようもできないよ」
「地の魔王が吐く台詞とは思えぬ。なんとも嘆かわしいことだ。どうやら、魔を統べる悪魔どもはこの数百年の間に腑抜けとなったと見える」
「……へえ」
ニタリと悪魔っ子が嗤う。
空気が……変わる。
それまでワイワイと煩いほどに言い争っていた魔王と邪龍の間に流れる空気が張り詰めていく。
「それ、本気で言ってるのかな? ファヴちゃん」
「ふん! 言ったはずだぞ。それとも悪魔とは一寸前の事すら覚えていられぬか? では、もう一度言ってやろう。我ら龍種は――」
「いや、いいよ。でもそうか。なら試してみるかい? 君のその身をもって」
「……ほう。ここにきて我に挑もうというか、地の魔王よ」
どんどん険悪になっていくお二方。
悪魔っ子はドラゴンの頭からおり、空に浮かぶ。
向かい合う地の魔王と邪龍王。
既に彼らは臨戦態勢と言わんばかりに黒いオーラを纏っている。
比喩ではなくマジで。
だが、これはチャンスだ。
なんだか知らないが、仲間割れするならこちらとしては好都合。今の内に逃げてしまうのが吉というもの。
姑息と思われるかもしれないが、こういうお偉いさん方の言い争いに割って入らないのが社会人としてあるべき姿なのです。
まあ、お偉いさんと言っても、片っぽはガキだし、もう片っぽは堅物のおっさんっぽい巨大トカゲなんだけどね。それに敵みたいだし。
さあ、そうと決まればそろーっと退散――。
「ちょっとあんた達! こっちを無視して何勝手に始めようとしてんのよ!」
「……」
エリカの叫びに、オレも悪魔っ子もドラゴンも動きを止めて彼女を見る。
おいぃぃぃぃ! 何考えてるの? この小娘は! バカなの!? 死ぬの!?
「散々天界を荒らしておいて、今度はここで仲間割れですって!? ふざけんじゃないわよ! そんな勝手、このアタシ、ヴァルキュリアの一人、エリカ=エルルーンが赦すと思ってるの!」
高らかな宣言を発するエリカ。
けれども、そこには嘘が溢れている。
こんな時になっても彼女は見栄を張っていた。
ヴァルキュリアがどれ程の存在かは分からないが、見習いであることを隠していることとか。震える手足を必死に抑え込んでいる辺りとか。
怖いなら逃げてしまえばいい。
それが賢いやり方だ。
だって言うのに、何が彼女にそこまでの見栄を張らせるのか。
「おい、アマイモン。戦乙女はこの宙域には不在だという話ではなかったか?」
ジロリと邪龍王の眼光が魔王を睨む。
それに魔王は可愛らしく小首を傾げて答えた。
「んー? ボクもそう聞いてたよ。だからこそ、サタン様も今回の作戦を実行に移すことにしたはずだし」
「では、あれはなんだ? 戦乙女と名乗るあの小娘は」
「さあ? ボクも幾らか戦乙女と手合わせしたことがあるけど、彼女のような少女は初めてだよ。だから、きっとあれじゃないかな? ここ最近に戦乙女となったか、あるいは――」
悪魔っ子はニヤリと厭な笑みを零す。
それにドラゴンは目を細め、
「なるほど……戦乙女を騙る痴れ者ということか!」
低く唸るように声を発しながら、ドラゴンの眼光がギラリと光った。
ノウ……エリカさん、嘘が完全にバレてるよ……。
「だ、誰が痴れ者よ! ふざけないで! あんた達なんか、このあたしが本気になれば一瞬で蹴散らせるんだから!」
「ハ――ハハハハハッ!」
「ク――クワッハハハハハハッ!」
エリカの強がりに魔王と邪龍王は一瞬面食らった後、大笑いを始めた。
「な、なにがおかしいよ!? あたしは本気よ!」
「可笑しくて笑いもするさ! それが本気なら尚更ね。ボク達を蹴散らすだって? 魔法使いの君が? とんだ笑い話だよ!」
「まったくだ! 我が眷属を撃ち落とした程度で調子のるなよ、小娘!」
「こ、このぉ……!」
エリカの威勢を前にして、彼らは歯牙にもかけない態度を取る。
その様子に、ついにエリカはブチキレた。
「いいわ! だったら見せてあげる! アタシの特大魔法をお見舞いしてあげるわ!」
「ああ、いいとも。無駄だと思うけどやってみるがいいよ」
「このっ! もう謝ったって許さないんだから!!」
エリカの奴、顔を真っ赤にして。完全に頭に血が上ってるよ、この子は……。
これだから、最近のガキはキレやすいから嫌なんだ。
そんな簡単にキレちゃあいけません!
「おい、落ち着けよエリカ。ここは一旦――」
「煩い! アンタは黙ってろ!」
聞く耳持たずですか、このガキは。
大人の言う事には素直に従った方がいいと思うのだけどなぁ。
エリカはオレの言葉も聞かず、杖を悪魔っ子たちに向ける。
「悪しき者、その闇を聖なる輝きを以って浄化せし――――」
紡ぎ出される詠唱の言葉。それと同時に浮かび上がる青い巨大な紋様。
それは魔竜たちを倒したものとは明らかに別物だった。
宙に浮き出た魔法陣は高速回転を始め、まるで収束していくようにそのサイズを縮めていく。
それに伴って、魔法陣の周りは稲妻のようなスパークが発生し始めていた。
「む。これは――!」
何かに気づいたように呟く邪龍王。
その反応にエリカは勝ち誇った顔をして叫ぶ。
「今更気づいても遅いわ! これで消し炭よ!」
彼女は既に勝利を確信している。
魔法陣は準備が整ったのか、苛烈なスパークはそのままで回転を止めている。
それは、その膨大な力を解き放たれるのを今か今かと待ち続けているようだった。
「放て――《魔を屠る聖なる光帯》!」
名が告げられる。
途端に魔法陣から膨大な光が放たれた。
それは全てを照らす黄金の輝き。
一つの闇も残さず、光が全てを飲み込んでいく。
ぶっちゃけ、どこぞの騎士王様もびっくりなビーム砲である。




