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スイング・バイ・ニビル  作者: 粂田
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ないものねだり

 カレンはMEPの研究の第一人者になっていった。以前、風船と表現した宇宙の外側にテープを貼るのがMEPの基礎理論だと説明したが、実際には風船の内と外があるわけではなく、色の違うセロハンを重ねるように我々の宇宙である風船の「中」と、その「外」は重なっている。違う言い方をすれば古い地図と最新の地図が重なるようになっていて、我々の住む街の地図はどんどん膨らんでいるけれど、古い地図は元の大きさのままでいるような感覚だ。その古い地図と新しい地図にたかし君の家と学校があったとして、そこにそれぞれピンを刺すと、だんだん大きくなる地図はしわくちゃになり、古い地図は引っ張られて破れそうになる。その歪みをエネルギーとして取り出す研究にカレンはしつこく食いついていたのだが、最初に宇宙の実験室に旅立った後、実験もせずに半年で地球に帰ってきた。


「おかえり」

「ただいま」


 遠距離恋愛は一旦半年で終了し、カレンは多次元についての研究論文を読み漁りにボルダーへ行ってしまった。私は相変わらずナイロビの宙工大で研究と訓練に明け暮れていた。特に「代謝が極端に下がっているコールドスリープ中に長期間微量の宇宙放射線を浴び続けるいことで起きるかもしれない様々な悪影響にどのように対処するか問題」に関して、一向に解決の糸口が見えていなかったためカレンに構っているどころの騒ぎではなかった。ただ、カレンが宇宙にいた時には送信したメッセージが相手に届くのに1分少々の時間を要していたのが、同じ地球にいるおかげで1秒以内のラグで通話ができるようになったので、遠距離感は薄れた。二人で色々な話をした。カレンは我々の宇宙の「外」には「絶対空間」があって、その存在を検知するには多次元的なアプローチが必要になるが、その存在自体は比較的複雑ではないと主張していた。

 ある時期を過ぎると研究に携わる多くの人間が同じ壁に突き当たるようになった。相対性理論の壁だった。数世紀前の科学者アインシュタインから人類への置き土産である相対性理論を読み解くと、こういうことが書いてある。「質量のある物体を光の速度まで加速するとき無限大のエネルギーが必要になる」といった内容だ。無限のエネルギーに近づけば近づくほど世界はエキセントリックになっていく事を、後の科学者は手を変え品を変え主張してきた。莫大なエネルギーがあると空間も時間も何もかもがエキセントリックになる。これは「世界中の人間が毎日私に1セントずつ分けてくれたら私は大金持ちになって世界から貧困をなくして平和にするために活動する」と言っているような話だ。エネルギーが無いからエネルギーを産む方法を考えようとしているのに、そのためには無限かそれに近いエネルギーが必要だということだ。しかも「無限に近いなどという数字はこの世には無い。なぜなら無限ではない自然数は全て無限から見ると無限に遠いのだから。」老若男女の研究者がそうした悪態をつき始めた。彼らのストレスを加速させたもう一つの原因は、食品用3Dプリンターでインド料理の莫大なレシピを全て作れるようにする途方もないチャレンジを推進していたヤガミ研究室(ヤガミ准教授は真に尊敬に値する人物であったが)が作る失敗作のせいで、研究所の一角は常にスパイス市場のような香りを放っていたことだった。そして、そのスパイス市場でブレイクスルーは起きた。

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