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スイング・バイ・ニビル  作者: 粂田
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シー・ハオユー博士の遺産

 宙工大では外宇宙プロジェクトという計画が進行していた。人類を太陽系の外の外宇宙へ送り出し、あわよくば帰還させようという計画で、宙工大だけではなくかなりの団体が参加していた。それを可能にするために新しく開発・改良しなくてはいけない技術が多すぎるからだ。それは単に最先端の宇宙船を作るだけではなく、未だ誰も見たことのない宇宙船を作るということだ。付属高校時代に改良型EMドライブの基礎理論を選択した私は、その現実的な運用の為のエネルギーは空間膨張力「MEP」が有望だと考えていた。MEPは当時ひどい扱いを受けていて、MEPの存在を信じる人間はかなり少なかった。ただし、外宇宙へ人間が到達する計画が成功することを信じる人間たちは、彼ら自身がオカルト信者に近しい存在だったので「可能性がありそうなことにチャレンジする」ことを厭わない人間が研究チームにはひしめいていた。MEPはシー博士という研究者によって21世紀に走り書きされた概念で、シー博士亡き今、最初の「M」が何の頭文字かも分からない。宇宙がビックバン以来空間ごと膨張していると考えた時、宇宙はゴム風船に喩えることができる。その表面に予めセロハンテープを貼りつけておいたら、セロハンテープは膨らむゴム風船に引っ張られ、風船もまたセロハンテープに引っ張られて不恰好になる。その不恰好な歪みが本来あるべき風船の形に戻ろうとするエネルギーを取り出す考え方がMEPだ。ただこれは同じ宇宙の中にいる状態ではできないことで、セロハンテープ(実際にはセロハンテープは使わないが)は宇宙の外に無くてはいけない。MEPの実現には幾つかの障壁があった。宇宙の外はあるのだろうか。その宇宙の外にセロハンテープを差し伸べる事が出来るのかどうか。差し伸べた時に何が起こるか。この3つだった。地球は膨らむ宇宙の割と端っこにある為、地球だけを見れば宇宙の中心からエスカレーターのように一方向に流れていくように見える。そのエスカレーターの真ん中にエスカレーターと一緒に動いてくれない障害物を置いたら、乗っている人は大変にジャマな思いをするかもしれない。地球上で考えると、例のセロハンテープで万里の長城に貼りつけた野球のボールが「恐ろしい速度で地球が動いているせいで」、アメリカの自由の女神の頭を砕くかもしれない……ということになる。そのため、そのバカげた実験は地球の軌道を計算した上で宇宙で行う必要があって、それは凧揚げや花火などの一部の玩具を使うときは、周りに何もない広い場所で遊ばなくてはいけない事に良く似ていた。カレンは熱心にMEPに関心を持ち、私と短い恋の季節を過ごした後、宇宙の実験室に旅立っていった。

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