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帰還と混乱

『生命の球』を持ったアツィエンは、魔法使いゼグウィアの指示のままに、行動した。

魔法使いゼグウィアが数えるから、三、二、一、の直後に『英霊召喚』と大声で叫べ、と言われただけらしいが。


そして、『英霊召喚』と叫びきる一瞬前にあたりが暗く変わり、叫び終わった直後でパッと青空に変わった。

驚いているアツィエンを他所に、勇者キッタたちが現れて魔王とが戦いを始めた。

魔王すら対応できない奇襲だったのと、すでに死んでいるため物理攻撃を受け付けなかったらしい勇者キッタたちが、聖剣を使って魔王を倒した。

なお、アツィエンが着込んでいた鎧なども、勇者キッタたちが身につけて現れたらしい。伝説の武器や道具だから、勇者キッタのところに帰ったのかな、と、アツィエンが宙を見上げて言う。


「倒せたのはさ、きみが魔王の傍にいたからだって。魔法使いゼグウィアが言ってた。先を読まれないようにって、きみのところに転移した。きみが魔王を倒せる場所にいてくれた。魔法使いゼグウィアはそれも計算してたみたいだけど。やっぱり勇者キッタたちはすごかったんだ」

アツィエンが言った。

「でもシェラ、きみが生きていてくれたからだと、思うよ」


「私は何もしてないけれど、役に立ったなら、良かったと、思うわ」

「自覚が無いな」


「アツィエンの方がとても偉かったわ。大変な事を、やってのけた」

「俺は、ただ、言われた通りにしただけだよ。自棄になってたし、俺もちょっとね」


「でも、偉いわ」

「・・・きみに褒めてもらうの、安心するよ」


「そう。じゃあ、いつも褒めてあげる」

「うん。・・・うん・・・」

アツィエンが照れたように俯く様にして、またシェラに笑う。

シェラも笑んだ。アツィエンがこんなに笑うのを初めて見た。嬉しくなる。


「きみが笑うの、初めて見た」

と驚いたようにアツィエアンが言った。


「ふふ。私だって、笑えるの」

「今見てる。本当だ」


二人で顔を見合わせてから、歩き続ける。

まだ白いふわふわした場所だけど、前方に、輝くような緑色が見え始めた。きっとあそこに向かっている。

魔族の世界には決して存在しない、日の光を浴びた木々の色。


「・・・魔法使いゼグウィアの声は、もう聞こえなくなった。でも、一緒に人間界に帰るって言ってた。今、一緒にいると思う。皆で、やっと、戻るんだ」

アツィエンがしみじみと言った。


「・・・聞いてくれ、シェラ。俺のことを、勇者だって、魔法使いゼグウィアが褒めてくれたんだ。俺が魔王を倒したって。シェラはどう思う? 俺は、勇者って言ってしまって、良いのかな」

アツィエンの言葉に、シェラは首を傾げた。

「魔法使いゼグウィアが言うなら、それで良いと思うわ。魔王を倒したのは、あなただし」

とシェラは答えた。

勇者のイメージがあまりにもアツィエンとは離れているから妙だけど、魔王を倒した人を勇者と言うのなら、アツィエンも勇者になるんだろう。


「そっか。・・・じゃあ、やっぱり、なんか変な気分だけど、言われた通りにしよう」

とアツィエンが言った。


「言われた通りって何?」

「王様のところに行って、聖剣を捧げてさ、『魔王を倒してまいりました!』って言うんだって」

「ふぅん」


「勇者キッタたちの事も、話して欲しいって言ってた。褒美がきっともらえるから、全部お前がもらえば良いって笑ってた」

「まぁ」


「褒美って、何だろう」

「何かしら。おいしいものだと、良いわね」


「はは。本当だ。そうしよう」

緑色が近づいてくる。

切りとられた窓の光景のようだ。色んなものが見える。緑色の木々。それから、城。それから、人々。


手を繋いだまま、アツィエンとシェラは、人間界に帰還した。


***


アツィエンとシェラが現れたのは、人間の王の城の、大切な儀式の間らしい。

光り輝く中、急に二人が現れたから、そこに居た人は腰を抜かしていた。

それから、大騒ぎになった。


アツィエンとシェラが戻ったから・・・だけではない。

人間の王や側近たちが、二人が戻る数時間前に、急に皆倒れて死んでしまった、らしかった。


残された皆は青ざめて、事態を把握して何とかしようと走り回った。

アツィエンとシェラの報告も飛び交ったけれど、最終的に報告するべき王様たちが皆死んでしまったから混乱が収まる様子が無かった。


***


「間違いなく聖剣です! 間違いなく魔王を倒した! だからあの部屋に帰還されたのです!」

「勇者キッタたちの事も知っているって!」

「彼らは勇者だ、勇者キッタたちの跡を継いだ!」


***


バタバタする城内で、落ち着かない気分で身を寄せ合うようにソファーに座っていたアツィエンとシェラの前に、何人かがやってきてひざまずいた。


「どうやら、私たちの王も、魔王に取り込まれていたようです」

と老人が言った。

「平等に人間の上に立てる人、認められる人間は、今、いない。そこで、勇者に頼みがある」

と、片足が悪いらしく、姿勢が酷く歪んだ男が言った。


アツィエンに向かって熱い視線が注がれている。

アツィエンは怯えてシェラの手を強く握る。シェラはもう片方の手も添えてアツィエンの手を包んだ。シェラの顔も強張る。


「勇者よ。あなたを王と認めましょう。立つのです。あなたなら、残された人類、皆が王と認めましょう。この世の平和のため、人の世に尽くしていただきたい」

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