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アツィエンの決断

魔法使いゼグウィアが言うには、聖剣には、魔法使いゼグウィアにも使えない『魔族領からの帰還魔法』が組み込まれているという。発動条件は『魔王の討伐完了』。言い換えれば、完了しないと発動しない。


「俺、魔法使いゼグウィアの言葉は、今まで少しずつ受け取ってきてた。俺がその通りに動いていなかっただけなんだ。聖剣があって、それで魔王を倒せば戻れるって、結構始めの方に言われてた。でも、無理じゃないか。勇者キッタたちが無理だったのに。でもそれしか無いって言われるんだ。でもそんなの・・・試そうとした途端、殺されるのは決まってる。そんな事を俺が知ったって魔族に知られるだけで、殺されると思って恐ろしかった」

「えぇ。私もそう思う」

アツィエンの言葉に、シェラは頷く。誰が考えたって殺されるに決まっている。

怖くてシェラにも話せなかったと理解できる。


「でも、きみが死んだのに、俺だけ一人で生きているなんて、どうしたら良い?」

「え? アツィエンも死んだでしょう」

話しかけられて不思議に首を傾げて尋ねたら、アツィエンにきょとんとされた。

それから、アツィエンは少し立ち止まって、また笑って、空いている左手でシェラの顔を触ろうとして、少し迷ってから鼻先を指でつついた。


「シェラ。俺たち、生きてるよ。まだ死んでないよ」

「え? でも、ここは天国なのでしょう」


「違うよ。ここは、聖剣の、帰還魔法が作った、帰り道の中だよ」

「・・・じゃあ、さっきの、青空の場所は? あそこが天国だったの?」


「あそこは、誰がしたのかは分からないけど、勇者キッタ一行の力だと思う。魔法使いゼグウィアが、俺に『英霊召喚』って叫ばせた。でも俺は言われた通り叫んだだけで、実際何がどうなってああなったのか分かってない。でもあれは、勇者キッタたちの魔法の一つだと思う」


「・・・そうなの」

「うん。俺も魔法はよく分からないけど。魔法使いゼグウィアも『倒した』って喜んでた。それに、今帰り道を歩いてるって事は、魔王が倒せたから、帰還の魔法が発動したからだ」


「・・・そうなの」

「うん」


「・・・私たち、生きてるの・・・」

「うん。生きてるよ。生きて、人間の暮らしに、戻るんだ」


「そう。そうなのね」

「うん、そうだよ」


アツィエンが笑っているので、シェラもなんだかホッとしてきた。

どうやら死んでいなかったようで、ここは天国でも無かったようだ。


魔王が死んでしまった?

酷く不思議な気持ちがするけれど、そう言われるならそうなのかもしれない。


「一緒に帰ろう」

「えぇ。良いわ」

また一緒に歩き出す。


「あの、シェラ。良かったらさ」

「なに?」


「戻ってからも、俺とずっと一緒にいてくれないか」

「え? 良いよ」

「本当に!? 俺とずっと、一緒にきてくれる!」

「えぇ。良いよ」

アツィエンが顔を赤くしながら喜んで、シェラの顔を覗き込むようにする。

シェラはただ頷く。良いよ、と。


「俺・・・! いや、戻ってからちゃんとするから・・・!」

「・・・えぇ」

よく分からないけれど、戻ったらちゃんとするのだろう。


「やった、はは、えっと、それで」

アツィエンが興奮して浮かれているようだ。

シェラはまた心配になった。急に殺されてしまいそうで、怖い。

またキュと手を握ったら、アツィエンは浮かれたままシェラの方を見て、それからシェラの表情に驚いた。


アツィエンは少し無言になって考えたようだ。

「説明が途中だった。あの、俺も何があって魔王が死んだかちゃんと分からないところもあるけど、でも、最後まで話したら、シェラも安心できるはずだ」

「・・・えぇ」


アツィエンが少しまた考えてから、話出した。

「シェラが、殺されたと思って、俺は生きている意味が無いって思ったんだ。俺も死んでしまいたいって思った。ごめん、一人で生き残る勇気が無かったんだ。だったら、せめて、魔法使いゼグウィアの言う通り動いて、死んでしまおうって」


アツィエンが続ける。

「魔法使いゼグウィアは、近づいた俺がどうして泣いているか尋ねた。俺はシェラの事を話した。きっと魔王のところで直す仕事を言われたんだっていうのも話した。魔法使いゼグウィアは瀕死だけど、『生命の球』っていうのを抱えたから、まだ生きてて魔力も残ってるって言って、シェラがまだ生きてるって透視した。早くいかないとその娘は死ぬぞ、って言った。それで、俺に、聖剣とかを勇者キッタの死体から剥ぎ取れって言ってきた。『やって成功するか死ぬかは分からない。やらなかったらただ死ぬだけだ』って言われて、その通りだなって思った。どうせ死ぬなら、シェラのために動きたいっていうのもあった」


「聖剣とかとったら、それを身につけろって言われた。正直嫌だったけど言われる通りにした。魔法使いゼグウィアは、それから、自分の身体を聖剣で切って、中心にある『生命の球』を取り出すように言った」

「え」

シェラは話の途中で驚いて声を上げた。

そんな事をしたら、魔法使いゼグウィアは死んでしまうのでは? せっかく生き残っているのに。


アツィエンはそんなシェラに頷いてみせてから、話を続けた。

「魔法使いゼグウィアは、そうしろって言うんだ。『心配ない、身体を捨てるだけだ』って。怖くなったけど、言われるままに動いた。聖剣なら、簡単に取れたよ。『生命の球』から魔法使いゼグウィアの声が聞こえたから、安心した」

「まぁ」


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