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言わなかったシェラの過去

シェラの隣、シェラの手を握ったまま歩くアツィエンが、自分の境遇などを話している。

シェラはそれにじっと耳を傾けた。

他は静かだ。景色もふわふわ白い。


アツィエンの涙はやっとおさまったようだ。涙の跡は残っているけれど、今はどこか浮かれたような様子に見える。

怖い、とシェラは思った。

浮かれた様子の魔族たちは、その後全て魔王に殺された。いなくなってしまったから。


ギュと手を握り返すとアツィエンは前を向いていた顔を少しシェラに向けて、フと笑って手を握り返してくれた。それから、嬉しそうに手を前後にゆらゆら揺らす。


酷く楽しそうだ。だから、怖い。


「一緒に戻るって約束したけど、本当に、願いが叶って良かった」

とアツィエンがはにかむ。


シェラが生きていてくれて、本当に良かった。

話の中で、アツィエンは何度もそんな事を言った。


***


シェラは黙って話を聞く。こういう、どこか浮かれたような様子の時に、口を挟んで不興を買う事があると知っているからだ。

いつだっただろう。それで殺された人たちを、たくさん、見た。きっと初めの方だと思う。


だからシェラは心の中だけで思い出す。


生きていてくれてよかった、生き延びていてくれて良かったとアツィエンは何度もシェラに言うのだけれど。

シェラはすでに何度も死んでいる。

ただ、『仕事』をする奴隷が完全にいなくなると困るらしい魔族が・・・あのいつか姿を見せなくなった魔族が、自分を蘇生させたのだ。


〝本当に生きかえった”

〝言っただろう。最上級の蘇生薬のはずだと”


〝これ俺にもっとくれよ”

〝私が奪い取ったものだ”


〝そう言うなよ。人間にしか使えない、いわば骨董品だ。それにそんな薬なら余計、こんなゴミみたいなヤツに使い切った方が良いはずだ!”

〝・・・一理あるが。まぁ良い処分の仕方だろう。・・・なら、あいつら関係の薬品をお前にやろう”


〝ひゃはは、やった! これで頑丈な一人は確保だ!”

〝王命を違えるほどお前も命知らずでは無かったわけか”


多分初めて生き返らせられた時に、二人の魔族がそんな話を傍でしていた。

カチャカチャと瓶の音がして、シェラにスープみたいなものを飲ませてくれた。

暖かくて、幸せな気分がした。

すぐに血色も良くなったらしい。


そういえば、あの魔族は、シェラが疲れている時に、こっそりシェラに何か美味しいものを食べさせてくれていた。

〝お前、味覚に合うもの食う時は笑うなぁ”

と感心したように言われたっけ。


シェラは、あの魔族に少し懐いていたのを自覚している。

見るたびに見目が整っていったのは、もしかしてシェラのためだろうか。

始めは人間とは全く違う姿をしていたのに、徐々に人間のような姿になっていたのだ。


なら、シェラが懐いたのが間違いだったのだろうか。

見目などに惑わされたから。醜悪なまま、力だけを求めた魔王に負けたのだ。


***


アツィエンの話は続いている。

アツィエンは生け垣の世話を命じられた。


もう少し具体的には、人間の死体をきちんと並べ、すでに生えている魔生生物をうまく切り分けて、追加した死体に植え付ける仕事だ。そして、魔生生物を増殖させる。弱らせ枯らしてはならない。


その事は、前からシェラに聞かされていた。吐きそうだったり震えが止まらないアツィエンをシェラは今まで背を撫でて落ち着かせようと努めてきた。

せめて、追加されていく死体の中に自分の顔見知りがいないように、とアツィエンは祈っていた。

祈りが届いたのか、顔見知りがいたという話は聞いていない。

ちなみに、死体には二種類あるという。生け垣に残り続ける体と、あっという間に消えてしまう体だ。

アツィエンには違いが分からない。だから、並べても生け垣に穴ができる。そこを埋めていく。そして、生け垣を伸ばしていく。終わりなどない。


「言えなかった話なんだけど、結局、あの生き物の株分けの時に使える場所が決まってきてた。どれだけ株分けしても弱らないところがあったんだ。でも、そこからは、うめき声がずっと聞こえて来てた。だから本当は近寄りたくなかった」

白いふわふわした中を歩きながら、目線を下にしてアツィエンが言った。

「俺に気づいてからは、こっちに来い、って、ずっと俺を呼ぶんだ。嫌だった」


泣きそうな顔で、アツィエンがシェラを見た。シェラも見あげる。

「きみが、あの日、連れて行かれて・・・。待っても帰って来なくて、殺されたって思った。それで・・・俺は、声が言うように動く事にした。生け垣には、勇者キッタたちが埋められてたんだ。勇者キッタは死んでた。一人だけ、魔法使いゼグウィアが瀕死ながら生き続けてた」

その言葉に、シェラも驚いて目を見開く。

アツィエンはそんなシェラの様子に頷きを返した。


「魔法使いゼグウィアは、俺に、勇者キッタの死体から、聖剣とか、盾とか、全部剥ぎ取れって言った。魔生生物が植え付けられてるし、無理だって思ったけど、魔法使いゼグウィアが炎の魔法を使って焼き払ってくれた。すぐ生え戻るから、一度では無理だったけど・・・。聖剣が取れたら、あとはまだ楽だったよ。魔法使いゼグウィアが『もう良い』っていうから、勇者キッタの死体を切り刻んで、全部剥がした。中に入ってた身体は、もう泥みたいになっててさ。でも、指輪とか、恋人からの贈り物っぽいものとかあって、自分のしてる事に絶望みたいなの感じた」

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