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せめぎ合い

本日2話目

10年が経った。

女王シェラの元、人間は奮闘していた。

けれど、徐々に人間領は王城とモリフィア村周辺以外は魔族領に変質していた。


死体を埋めて守ってきた王城も、陸続きで攻め入られ、ついにはどのようなきっかけで魔族領に変わるか分からない状態だ。曇天と晴天が交差する。空も人間領と魔族領の攻防を如実に表していた。


空に直接魔族が転移できるようになった時、数度、魔王の力も現れた。

大きな腕が空から伸びて地上を探る。その動きで建物は壊れ樹は払われ、人は簡単に潰された。

広がる亀裂から、大きな眼球が覗いてきた。

シェラとも目が合った。

聖剣を持つシェラは目立つのか、途端潰しにかかられるのを、シェラと同じく生き延びている魔法使い二人がかりで防御する。

その間に亀裂に向かって魔法矢が何弾も撃ち込まれ、まだ存在を保っている神殿が長い詠唱を唱え終えてやっと光の鳩を空に飛ばす。長い詠唱が最大の問題だが効果はてきめんで、光の鳩が青空をもたらして空の亀裂を消し去った。


魔王の力が消え去り、残りの侵入者の魔族たちと交戦する。最近では数時間もかかるようになった。


あぁ、もうどうしようもないのか。シェラは嘆きそうになる。

殺して埋めて、守ろうとしたが。滅びはしていないが盛り返しも叶わない。


シェラは自嘲で口の端を曲げた。


まるで、魔王様の城に居た時のようだわ。

砕け散ったガラスを直す。魔王を殺そうと魔族が向かい、殺される。

人間の死体が与えられて、アツィエンは震えながら生け垣の世話をする。


あの時から、時間が変わっていないかのようだわ。


そう思って、ブルリとシェラは身震いした。

冗談では無い。


まだ私たちは全てを失ってはいない。守らなくては。

魔族に浚われた人の帰りたい場所が、消えてしまうのだけは嫌だった。


***


少ない人数で攻撃を増そうと思えばいい素材に頼るほかない。

城の中、役に立つものを探させていたシェラは、発掘されたそれに目を引かれた。


赤色の美しい大きな宝石だった。宝石の価値は知っている。強い魔術の糧にできるのだ。


弱っていたのか、シェラはそれをつまみ上げ、じっと見つめた。頼もしく魅力的に思えた。

吸い込まれるように視線が外せず、石の中の煌めきに目が奪われる。

「美しいわね」

と一言漏らしたのを、シェラを長年支えてきた一人が目を丸くして見つめていた。


***


シェラは宝石を好むようになった。美しい輝きが心を慰める。

それから衰えてきた体力を補うために、食事の量をぐっと増やした。

食材が足りないというので、魔族を焼いて食べようとした。酸味がきつくて食べられない。

ならばと人間を試しに食べれば食べられた。


やせ細っていた身体に肉がついていく。今まで太る事が出来ない体質だったのにふっくらしていくのが嬉しくなった。

「ふふ、貧相でぼろぼろのシェラ、さようなら」

シェラは歌うように己に告げた。


それから気になって聖剣を握った。

振ろうとしたが、振りにくい。

「困ったわね。指が太ってしまったようだわ」


真面目に困っているので、一人が進言してきた。

「シェラ様。それも随分使い込んでおられます。新しい武器に変えられてはいかがでしょうか」


シェラは少し思案した。

「そうね」

それから、笑った。

「おかしなことを言うわね」

ふふふ、と笑いながら、シェラは己の指を見つめた。全ての指に、大きな石の指輪をつけていた。

「おかしいわね」

と彼女は真顔になった。


それから、急いで神殿に使いを出した。一刻も無駄にしないで、来るように。ただし、シェラに分からないように防御を万全にして来なさい、と伝えられた。


***


その日、シェラは聖剣を手放した。

持ちづらいから、神殿に返して、代わりに大きな切れ味の良い剣を手に入れた。宝石をたくさんつけることも忘れない。


シェラの功績を称えて、神殿から『生命の球』が贈られた。

人間がまだ保っているのはシェラの功績だ。

ここでシェラが尽きるわけには行かなかった。シェラの生命力を補佐するのが目的だった。


「肌身離さずお持ちください」

と神殿には言われていたが、昔からついている一人がシェラのために

「いっそ、お飲みになってしまわれたらいかがでしょう。きっと寿命が延びますわ」

と心から進言してくれたので、シェラはニコリと笑って飲み込んだ。

身体の中に力が入ったのが分かった。


「あなたが先に死んじゃうのが辛い」

とシェラは静かな笑顔をその一人に向けた。その一人は泣きそうになった。


「私が死ぬとき、皆はもういなくなっているのね」

この言葉に、部屋にいる皆が涙を落とした。

「シェラ様。いいえ。私たちは、命が尽きても、お守りいたします」

「そうですわ。昔、アツィエン様とシェラ様をお守りした勇者キッタ一行が成し遂げたように」


温かい言葉のはずなのに、なぜかシェラの中には黒々しい忌々しさが湧き上がってきた。

シェラがムッと眉を潜めれば、皆が涙を浮かべながら微笑んだ。

「シェラ様は本当に偉大なお方ですわ。王様になられて良かった」


シェラは機嫌を直した。

なぜか痛むように強い苛立ちが湧き上がってきたが、シェラはそれを封じようと目を閉じる。

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