現状
「来ないなら敵とみなすから」「敵であるなら出てきて発言しなさい」と伝言して改めて会議を収集した。
しかし、次も白髪の老人以外来なかった。
シェラはため息をついた。仕方ない。
「ねぇ。どうして、あなたは他の人に伝えなかったの?」
「な、なにを」
白髪の老人が怯えている。
「いいえ。ごめんなさい。あなたに期待し過ぎね」
シェラは立ち上がった。
そして来なかった者の部屋を訪問し、全て殺した。
***
残った老人ギアンダルド=ベイがシェラの行いを泣きながら責める。
けれど口論する余裕はもう人間には無い。誰かが強力な王となり、統一した意志を持って魔族と対峙する以外に道はない。
そんな中、城の上空から、魔族が現れて襲撃を始めた。
「シェラ様! 魔族襲来です! 飛行型ばかりです! 6体を確認!」
「分かった」
とっさに避難しようとしたギアンダルド=ベイを置いて、シェラは外に向かう。
飛行型と言われたので、3階の広いバルコニーへ出た。
広がる光景をシェラは忌々しく思った。
確かに土地はまだ人間のものだが、空は魔族の影響を受けて曇天だ。
遠方から飛来したわけでは無く、魔族領から直接転移できるほどに、空は魔族に奪われている。
シャッと稲妻のように光が放たれる。
シェラが村から連れてきた一人が、いつものように魔法使いと組んで光を乗せた矢を放ったのだ。
まるで流星のように煌めく尾を引いて、魔族に当たる。
魔族がただの鳥のように落下していく。
落下地点に向かおうとするもう一組の様子を見て、撃退に問題はなさそうだと判断しながらシェラ自身も聖剣を握り、空から来る魔族が降りたちそうな場所を考える。
「後で、城の体制がどうなっているのか聞かなくちゃね」
シェラは、自分と組んでいる二人の魔法使いたちに呟いた。この段階で城側からの他の攻撃が一切ない。
「魔法を使えるものがもういないようです」
と一人が報告した。
「ではどうやって戦ってたの」
「聖なる鎧の所持者であったチェド様が鎧の力で跳ね返したと」
「ちなみにシェラ様が切り捨てられた中のお一人です」
「あら」
シェラはさすがに気まずそうに言った。会議に出てこない一人だったか。
「ごめんなさい。やっちゃったわねぇ」
「それは後で。移動します!」
一瞬で三人まとめて、魔族の降り立った場所に転移する。
魔族に迷うことなく聖剣を振るった。
***
5,6分で片はついた。
普段はもっと魔族の数は多いらしく、加えて数時間かかる事があるとギアンダルド=ベイが話した。
そんな状態でよく保っていたものだとシェラは眉根をしかめた。
「襲撃の魔族の数が減ったのは、私が聖剣を持ち帰った影響では無いのよ」
シェラはギアンダルド=ベイを知識役にすることにして、自分の情報を与えることにした。
「来て早々切り捨てた人間の身体を、地面に埋めた結果よ」
「何を」
言いかけて言葉がでないギアンダルド=ベイに、シェラは説明した。
「土地に、人間が殺した、人間を埋め、人間が選んだ樹を植える。この行為は、土地の上で魔族が人間を襲い殺す事より、はるかに土地に影響を与えるの。私がモリフィア村を人間領に戻せたのは、アツィエンの身体を埋め、樹を植えた事がものすごい効果を持っていたから」
「なんと・・・」
「だから、私が先ほど切った人たちも含めて、皆、まず城に身体を埋めさせてもらうわ。死んで人間に役立ってもらう」
「しかし、そんな・・・」
「私はこの方法で臨むわ。他の方法より即時に効果があるのだもの。土地が揺らいでいるから空が混乱している。土地を正しく人間領に固めなければ、このままだと全てが魔族領になる」
戦慄くギアンダルド=ベイにシェラは丁寧に話をする。
「ここが本当の瀬戸際だと思うわ。この王城周辺が魔族領になれば、完全に魔族支配の世界になるわね。魔族に生死を握られるか、人間に生死を握られるかなら、まだ希望があるのはどちらかしら?」
シェラの言葉に、ギアンダルド=ベイは表情が抜けた顔でじっとシェラを見つめた。
それから頭を垂れた。
「ワシたちが呼んだ。・・・チェドよ、ハクネイアよ、テニよ。お前たちと守ってきたものを、ワシは血まみれでも守ると誓おう」
「・・・それって殺されて埋められたいって希望なの?」
真面目にシェラが確認したら、ギアンダルド=ベイはヒィっと声を上げてブンブンと首を横に振る。やはり慣れた者でないと意志の疎通は難しい、とシェラは思った。
「とにかく、至急、土地固めを行うわ。切り捨てた者の身体を、至急手配して城周辺に埋めなさい。あと、私が気に入らない者は全て切り捨てるから。皆、私の意のままに動きなさい」
***
魔族が襲撃する。王妃シェラが引き連れてきた部隊が主になって撃退する。
反対の声を上げる者は殺された。殺された者の家族が恨んで刃を向けてくるのも殺された。
死体は城の周りに埋められた。王妃の気に入っている樹がその死体を養分にするようにと植えられた。
王妃シェラは、自らを王位に就けた。
意見役であるギアンダルド=ベイが即位の際に、人間からの贈り物だと言って名前を進呈した。
シェラ=バーテニア=ウェル。
全土を総べるという意味の名前が、期待を込めて贈られた。シェラはその名前に役目を全うすると誓った。
人々は黙々と動くようになった。数々の暴挙は、魔族から守るためだと皆分かっていた。具体的な方法までは教えられていないが。彼女は今の世の唯一の希望だ。彼女には実績があるのだから。