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シェラと聖剣

※残酷描写

シェラはアツィエンの身体を自室に運ばせた。

そして、アツィエンの部屋から持って来させた聖剣を握りしめる。


自分の周囲の皆には、アツィエンを故郷に連れて行きたいと説明した。

その際、復讐を勧められて笑ってしまった。

でもそれは、今でなくても良い。


人払いをする。

それでも残りたい者は部屋の隅に控えているけれど。


シェラには自覚がある。

自分が、魔族と死に慣れている事を。

そして、価値観の基準が、魔族寄りである事を。

どこが変か分からないから、改めることができない。


でも、きっと、これは皆は見ない方が良い事だ。


机の上に、アツィエンの身体。

グッとシェラは聖剣を振りかざした。

王様に捧げる剣のようだと、いつかの日を思い出した。


- ねぇシェラ。俺たち、結局、言ってないね。聖剣を捧げてさ、『魔王を倒してまいりました!』って。王様、俺がなっちゃったもんなぁ -


- 自分でやってみたら、アツィエン -

- 俺が? やってみようか。『王様、魔王を倒してまいりました!』 ハハハ、自分にって変だね。シェラ、勇者役、してみる? -


- うん、良いよ? 『王様、勇者アツィエンが魔王を倒してまいりました!』 -

- 『よし、よくやった、褒美をあげよう!』 -


- 『では私たちに美味しいご飯をたくさんください、王様』 -

- 『よし分かった、お安い御用だ。美味しいご飯に、それから城に、服に、それから、アツィエンとシェラを結婚させてあげるからここでずっと住むと良い』 -


- ふふ。変なの -

- そうか? でもあれだな、願いは結局こうなってたかなぁ。・・・シェラは、これで良かった? -


- えぇ。良いわよ。どこでも、大丈夫だったから -

- そっか。俺も、まぁ、良かったの、かな -


- どうしたの? 違ったの? -

- ・・・本当はさ。村に帰りたかったな。皆にシェラを紹介したかった。『俺が帰ってこれたのはこの人のお陰だ』って -



泣かないで。


ズシャン、

と大きな音だった。

アツィエンの身体と、机が、真っ二つに折れる。


「ヒィッ!」

後ろで、漏らしてしまったらしい悲鳴が聞こえる。

「シェラ、さま・・・」


シェラは振り下ろした聖剣を、再び持ち上げる。片手では無理だから、両腕で。

あぁ。机まで折れてしまって、切り辛い。


ズシャン。


アツィエンの手。

よく握った。腐らないと良いのに。死んだら、腐ってなくなってしまうのだ。


アツィエンの顔も。ずっと持っていられたら良かったな。でも。


死んだら、土に還るだけだ。

生きていないと、傍にいられなかったのに。


シェラは身体を切り刻む。聖剣はよく切れる。さすが。

残っていたのか血が飛び散る。


「お、王妃様!! 一体何を!!」

シェラの周りの人でない男性が扉のところで叫んだ。


ズシャン。


「ヒィイ、王妃、何を、お前たち、王妃を止めろ、一体」


ズシャン。


はぁ、とシェラはため息をついた。

小さくなった塊を手にする。


先に部屋に用意させていた鞄に詰めていく。


「お前たち、一体、何を!」

「お下がりください。テニ様」


「シェラ様」

ベシャベシャと鞄に入れていくシェラの傍に、二人が来る。

「お手伝いを、致します」


「無理しないで。私は、慣れているだけだから。夢に見ちゃうよ」

「いいえ」


「手に、感触が残って、洗っても消えないよ。血がつくよ」

「いいえ、シェラ様」

「あなたが一人でされるなんて、いけません」


「殺したのか、王を! 王妃が!」

後ろで騒いでいる声にシェラは静かに怒った。間違いは正さないといけない。

シェラは扉を振り向いた。


ヒィイイ、と、男が腰を抜かした。


「アツェインを、殺したのは、お前たち。そうでしょう?」


「亡骸を、亡骸に、剣を、いれるなど」


「アツィエンを、王に望んだのは、お前たち。なのに、殺した」


男は真っ青になって震えている。

これ以上言葉をかけるのが無意味に思えて、シェラは作業に戻る。


アツィエンを村に返すのだ。

それで。


「シェラ様。手配が、整いました。・・・すぐ、行かれますか?」

「うん。ここに、来てもらえる? 申し訳ないけれど」

「そのように伝えます。すぐに」

「樹は、あった?」

「そちらもこちらに。すぐに」


シェラはゆっくりと頷いた。


シェラは、入り口で腰を抜かしている男をフィと見やる。

勝手に死ねば良い。王を、力を、取り合って殺し合う。殺し合わないはずがない。


「あなたたちは、自由にして。ついて来なくても大丈夫よ」

シェラはまだ部屋に残る、自分によくしてくれていた人たちを見る。

皆、青ざめながら、気丈にシェラを見つめていた。


きっと恐ろしいだろうに、とシェラは漠然と知っている。

魔族領に浚われた時に、恐ろしかったと覚えがあるから。

血まみれの中、人間の死体が飛び散っている様は。


それでも皆気丈に首を横に振るのはどうしてだろう。

「変なの」

シェラは笑った。

「私なのに、世話をしてくれて、ありがとう」


皆がなぜか泣きだした。

「どうか、ご無事で」

「どうかお戻りの日を、願っております」

「どうか。アツィエン様のところで、穏やかに過ごされますように」

「ありがとう」


***


手配をしてくれた、魔法使い5人が部屋に着いた。部屋につくなり吐いた者がいる。吐いていても、術さえ実行してくれればそれでいい。

全てのカバンと、聖剣。そして、どうしてもと言ってきかない世話をしてくれる人2人と、植えるための樹。


シェラの声をうけ、転移魔法が発動した。

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