表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ホラー短編

深夜の大学病院にて

 健康優良児で病院などに寄り付いたことがない、という人には意外かもしれないが、大きな病院(と、その周辺)というのは、夜中でも賑やかなものだ。


 手術室は緊急オペ以外にも、夕刻からの長時間オペで、医師や看護師が忙しく働いているし、最新機器を使用する手術には、メーカーの技術屋が立ち合いを行ったり、業者さんが追加の医療機器を運び込んだりと不夜城状態だ。中央材料室の滅菌機は休む暇もない。


 手術室以外でも、昼間うっかり寝てしまった患者様が消灯後に居場所を求めて、ロビーで携帯ラジオを聞いていたりスマホをいじっていたりするし、研究棟では若手医師が、夜中まで実験をやったり論文を書いたりしている。病棟ではナース・コールが鳴る度に、夜勤の看護師さんが駆け回る。


 だから夜間通用口周辺は、夜間診療にやって来る患者様、タバコを一服しに出て来る患者様(敷地内は禁煙のため)、交代の看護師さん、近所の深夜営業の食堂に遅い夕飯を食べに行く若い研究者、客待ちのタクシー、仕事上がりのメーカーさん、などなどが右往左往している。


 そのため、実話怪談系の映像で、恐怖表現のためなのだろうけれども、大規模病院のはずなのに、全く人気ひとけの無い病棟や、真っ暗な廊下などが出て来ると、それだけで異議申し立てをしたくなってしまうのだ。


 だから今日も、通用口から外に出て、上司に手術立ち合いの無事終了の報告を入れてから、敷地のすぐ外でヘビースモーカーと思しき患者様と並んで一服をつけていた時に、ご同業らしい背広姿のサラリーマンが通用口から出てきて携帯電話を掛け始めた時にも、別に何とも思わなかった。


 ご同業たぶんメーカーさんは、しきりにお辞儀を繰り返しながら通話を終えると、大きく溜息を吐いてから携帯のアンテナを縮めて胸ポケットにしまい、又あたふたと通用口に戻って行った。

 ああ何かやらかしちゃたのかなぁ、とご同業さんに少し同情と言うか身につまされて、しかしそのあと、ゾッとした。


 病院の中であれば、機械に影響のない院内通話用のPHSで通話する事は、あり得る。

 しかし、ここは敷地外。

 あの男は、外線に掛けていたはずだ。

 今時、あんな四半世紀も前の携帯電話を使う人間が、いるのだろうか?


 僕は、夜の通用口の喧騒の中で、ただただ立ち尽くしていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  なるほど、あなたのおかげで少し認識があらたまりましたよ。  私は医者が嫌いです。入院何てとんでもないですよ。  かと言って自宅で死ぬのも迷惑がかかるし、救急搬送されて数時間で死ぬのが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ