自世界転生
「会わせてくれ!俺の家族に!」
「申し訳ございませんが、番号が違うので家に入れることはできません」
全国でそんなやりとりが繰り返されたのは、政府がマイナンバーのシャッフルを行なった次の日のことだった。
超格差社会と化した日本で、貧富の差が問題視されたのはもう何年前のことだっただろうか。たとえば、富裕層の子供は生まれつき年間何百万もする私立教育を約束され、逆に貧困層の子供達はまともに高校や大学に行くこともままならない。経済格差だけでなく、所得格差、情報格差など、資本主義を推し進めてきた日本でその差は広がり続ける一方だった。
事態を深刻に受け止めすぎた政府は、個人に与えられる番号、「マイナンバー」の総入れ替えを参議院で可決した。「マイナンバー」自体は数百年前の古びた制度ではあった。だが、今では個人の預金やもらえる年金の額、はてまた朝起きて磨く歯の数など、ありとあらゆる個人データが一枚のカードで管理されている。この「個人番号」は最早その人そのものだといっても過言ではなかった。
そのマイナンバーを、ある日全国民でババ抜きしたのである。
お金持ちも、ホームレスも、みな生まれながらにしてマイナンバーを割り振られている。その個人番号が入れ替わってしまえば、当然、通帳の預金額も変わる。お気に入りの歯磨き粉の味も変われば、住んでいた家族だって入れ替わる。何たってマイナンバーは、個人そのものだったから。怒り狂った権力者が、どんなに自分が自分であることを熱弁しようと無駄だった。何もかもが機械化されたこの現代、センサーが読み取る番号の前に人間はあまりにも無力だった。
こうしてある日突然、皆が生まれ変わった。
何億円もの豪邸に住んでおきながら、一晩で一文無しになった者もいれば、突如大金持ちになった者もいた。国会議員御用達のカードを手に入れたホームレスは、国鉄が乗り放題になった。医師免許を持っていない小学生が、本日予定されていた心臓のバイパス手術のために廊下を走っていった。政府の発表では、次のシャッフルが行われるのは一年後だという。
こうして、日本は超格差社会を抜け出した。誰もが均等に、誰かに生まれ変わる権利…いや命令を押し付けられ、今や番号による超管理社会へと突入したのである。