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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
終章 終わる世界の勇者と魔王
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Q.73 旅の終着点

 さてさて、長らくのおつきあいありがとうございました。

 次回ちょびっと導入、以降は個別分岐です。


 ――時間が、ゆっくり流れている。

 

 交差する二人を固唾を呑んで見守るみんな。

 そう、互いへ自らの意思をぶつけ合った二人・・の戦いは決着を迎えた。


 立っているのはただ一人、神の座に就いたシロの前身である青年だけ。

 勝利の余韻を感じているのか、はたまた甚大な魔力消費による軽度の後遺症からか、剣を握りしめた態勢のままピクリとも動かない。


 次にラビエル。彼女は魔力切れで気絶し、糸の切れた人形のように意識を失っている。

 恐らくシロ達が衝突した瞬間に幾重にも偽装魔法を展開したんだろう。それこそ自身の魔力量いっぱいを惜しげなく注ぎ込んで。その痕跡は至る所で見て取れた。シロへ対する衝撃緩和魔法、周囲への魔力探知妨害魔法、加えて幻覚魔法。多数の魔法をこれだけ同時に、かつ高精度で展開できる彼女の技術には素直に拍手を贈りたい。って、私の別の可能性なんだっけ? その領域に至るまで一体どれほどの時間を費やしたのか。我ながら大したもんだわ。

 

 当のシロはと言うと血を吐き、床に突っ伏してしまっている。

 こうしている間にもじわりじわりと赤い液体はその面積を広げていく。その姿を見て、フレイヤちゃん達が駆け寄るが、ラビエルが発生させた結界に遮られ近づけないでいる。まだ息はあるけど放っておいたら後数分で死に至る。もう少し待ってなさい、絶対に死なせない。


 そして彼女のすぐ近くで倒れているのは、。ううん、あれは正確には私を模した精巧な人形コピーだ。

 シロの手を取り寄り添うように倒れている。これもラビエルが残した魔法の一つ。本人わたしじゃなければきっと些細な違いにも気づけ無いに違いない。ご丁寧に絶望の表情までさせてくれちゃって。


 ……ここまでの情報で状況を把握した。

 私だけ・・が今この瞬間、決着の直前から直後に渡って何が起きたかを全把握することができているんだ。もう一人のシロは、衝突の瞬間、ラビエルの手で一人宙へと強制転移テレポートさせられた私に気がついていない。突っ伏したシロと偽物の私を見て、私たちに勝ったと思いこんでいる。


 …………どうして。どうしてシロはいつもこうなんだろう。ボロボロになってまで私が傷つかないように庇ってしまう。斬り合う瞬間、シロは自身の防御に回した魔力以外を全部私へと渡してくれた。きっと私じゃ耐えられないと踏んでのことだろう。実際その読みは当たってる。あの衝突に巻き込まれたら即死、良くて半身欠損だったし。

 

『――悪い。後のことは任せたぞ、ミラ』


 衝突の瞬間のシロの言葉を思い返す。あいつは決して負けるなんて微塵も思ってなかった。例え自分が打ち負けても二人で勝てればそれは勝ちだって、伝わってきた。うん、嬉しいよ。信頼されて、任せてくれるのは凄く嬉しい。


 でも! 何が『任せた』、よ!  

 ばかよ。ほんとうにばかなんだからっ……!

 ずっと、ずっと私の事ばっか……。

 あんたが倒れたら私だって困るのよ! 少し位自分の体のことも考えなさいよ……っ!


「……幻想イマジナリ神を抉る一双の魔槍スピア・オブ・エーテルブレス!!」


 想起するのは番いの槍。これまでのエーテルブレスに改良を施した理想形。私の頭の中を映し出すように現実へと投写されていく。

 ……悔しいなあ。結局追いつけなかった。私と彼の間に、絶対的な差やもう越えられない壁があるのはとっくにわかってた。それこそガーデンの時からずっと。今私の中にある魔力がそれをより確信めいたものへと昇華させてくれる。……私は、気持ちだけでも同じ場所にいられただろうか。異質の強さを押し付けられた彼に寄り添えただろうか。

 

 シロが渡してくれた魔力――人と神、そして賢者の魔力。それらが元々備わっていた魔族の魔力と混ざり交じり合う。魔法を起動しただけで体に張り裂けるような痛みが伴い、気を抜いたら意識を持っていかれそうになる。しかし、色んな想いを綯い交ぜした心境とは裏腹に、ふつふつと湧き上がる一つの感情。……滾りを抑えられない。私の中の血が戦いを渇望する。私の最盛期、魔界時代と同等――もしかしたらそれ以上の力が漲ってくる。

 シロはこんな魔法を常時使用していたんだと思うと、もう引っ叩きたくなってしまう。明らかな無茶のしすぎ。人間の体でこんなことするのは死期を早めているだけだ。でも、寿命を縮める力だとしても振るうしかなかった。大切なものを、場所を護るために。

  

 ……それも、もう終わりにしよう。辛いのはこれで、この魔法で。シロも彼もそして私も。ぜんぶおしまい。

 

 私の体が落下を始める。風を切る振動が心の臓の鼓動まで早める。

 言葉にならない気持ちがこみ上げてくる。

 だって――世界の命運を託されたんだもん。

 まさか私に託されるなんて……思ってもなかった。

 ……けれど、やるしかないわね。


 シロが受け継いだ、シロから受け継いだここまで出会ったみんなの想いが詰まった魔力。その全てを注ぎ込んだ一撃!

 あいつへ、報われなかった彼へと目掛けて振り落とす――!!


「なっ――っ!!」


 出力を抑え、精度に特化した一投目。拘束の役割を担ったその槍は、瞬時に対象を地面へと縫い付ける。最早私の手を離れた直後には、「命中した」という結果が生まれていた。過程さえも超越する……。これが……神の力って訳ね。

 身動きを封じられた神様目掛けて、続けざまに振りかぶる。全力全開の二投目。

 ――本気の、一撃。


「これでぇ! 最後だぁぁあぁあああ――――!!」 


 音の壁、光の壁を突破した、衝撃波を伴う閃光が彼の体へと突き刺さった。

 瞬間、光が爆散と収束を繰り返す。

 彼を中心に溢れんばかりの光が生まれ、天上の神殿を覆い尽く指定糞の刹那。輪郭すらも飲み込まれていく彼の顔は、全てを悟った寂しさを感じさせた。


「――ああ、そうか。だから・・・お前達は……ここまで…………」

 

「これが私達の強さよ。一人ぼっちじゃきっと敵わなかった」


「……ラビエル。ごめん、ごめんな、俺――――」


 もう、彼に抵抗の意志はなかった。終戦を告げるその表情に安堵する。

 これ以上戦わなくていい。

 ……やったよ、私。私達勝てたんだ。

 一緒に、帰ろう。私たちに帰る場所なんて無いけれど。一先ず、平凡な日常へと。

 

 そうだなあぁ。勝手に気絶した罰は、膝枕&頭ナデナデの刑で許してあげることにしよっと……。


~~~


 ……気がつくと、隣にはあいつが横たわっていた。

 どうやらミラは上手くやったらしい。作戦とも呼べない、賭けに近い選択だった。咄嗟の思いつきだったし、ラビエルがタイミングを合わせてサポートしてくれなかったら、きっと失敗に終わってただろう。でも成功するだろうと信じてた。ミラならやってくれるって。

 そして当の本人はと言うと、こちらへ向けてドヤ顔で親指を突き立て、嬉しそうに眉と口角がつり上げている。「さあ! 褒めなさい!」と言わんばかりの満面の笑みに応えてやりたかったが、どうやら体が言うことを聞かないらしく、腕を上げることもままならない。仕方ないから取り敢えず笑い返しておいた。感謝や、褒めてやりたい気持ち、その他の様々な感情は後で語らっても遅くはない。

 だって、俺達は明日を確約できたんだから。


 すると、ミラからは見た目相応の柔らかい無邪気な微笑みが返ってきた。同じ喜びの表情ながらさっきまでの笑みとは異なる、純粋な感情がこちらまで伝わってくる。

 ああ、よかった。正直、死を覚悟した。もう二度とその笑顔が見れないかと思ったから。クアが一足先にミカエルを倒し戦闘を終えてなかったら失血死だったらしい。きっとセトラあたりに後でこっぴどく説教されることだろう。

  

「……どうだ。うちのミラ、おっかないだろ?」


 絞り出す声で隣に寝そべるもう一人の俺へと話しかける。


「ああ……ラビエルがあんなのになってたらと想像したら……恐ろしいな……」


 彼に既に戦意が無いのは見ていて明らかだった。恐らく俺と同じく動けないし魔力ももう空っぽなのだろう。皮肉交じりの返答さえも俺と同様、絞り出すようなものだった。

 

「ちょっと! あんなのって何よ、あんなのって!!」


 ミラが横から抗議の声をあげてくる。


「ううん、ミラちゃんがそうあれた・・・・・からシロちゃんは道を間違えなかったのよ。私は、途中で諦めちゃったから――」


「いい。もう言うな。俺が、間違っていた。いや、そんなことはとっくに気がついていたんだ。ただ報われない境遇を呪い、出会うはずもない自分を呪った。自分だけが不幸だと思い込んでた」


 ――君だって同じだったのに。 


「寂しかった。辛かった。ラビエルが……君がいればそれで十分だったはずなのに。俺は、全てを得ようと望んでしまったんだ」


 慚愧の声が、広い神殿内に虚しく響く。


「……やり直したってきっといいことばかりとは限らないさ。それよりもラビエルと共に歩めるこれからの方が、大切にすべき未来だと思うぜ」


 なんて、成功した俺が言うのは卑怯なのかもしれない。


「負い目に感じることはないさ。事実お前の言っていることが真実だ。俺にも未来があるってわかったから」


 心の中を見透かされてるような返事。だが、彼に嫉妬の感情は一切無い。清々しささえ感じさせるような声色だ。


「うん、私もそのつもりでここに来たんだもん。一緒に神として地上を見守ろう? 昔みたいに二人っきりだけど、上手くやっていこ?」


 彼の前に差し出されるラビエルの手。

 

「ああ、もちろん。賛成だが……神になれるのは原則一人だけだ。その制約を打ち破るにはどうすればいい?」


「あ、それなら私に考えがあります」


 と、そこでセトラが話に割って入る。

 

「シロの魔法で二人を半分ずつ神にします。生命体の種族を決めるのは魔力量なので、二人で一柱分の神の魔力を共有できれば事実上一対で一神として座に就けるはずです」


「は!? いやいや、そんな器用なこと――」


「大丈夫だよ。変換魔法アラトロンの元々の理論立ては口伝によるものだけど、構築自体は私がしてるからバックアップできる。二人のためにも一緒に頑張ろ?」


「あ、ああ――――」


「あーっ!!」

 

 いつも以上に優しいセトラにどきどきしつつの相槌を遮るのは、聞き覚えのある高音域。


「もう終わってる!! ほらぁーだからもっと急いだほうがいいって言ったのにー!!」

「斯様な体で何を言うか。シロの気苦労を増やさぬために遅れてやったのだ」


「ガブリエル……!?」

「お兄様!!」


 塔内部へと続く入り口から、見知った少女と男性が現れる。

 ガブリエルは一目見ただけで大層苦戦しただろうことが伺えるほどボロボロだった。真っ白で統一されていたブラウスとスカートは血の赤と土の茶で汚れ、彼女がくぐった死線を連想させる。

 俺の姿を見つけると、歩みを早め、すぐ側へと駆け寄ってきてくれた。動くことも出来ない事を看破したのか抱きついてくる代わりに手をぎゅーと握られる。


「無事だったか……」


「うん! おにいちゃんがギリギリで魂を解放してくれたから! その後はね! テラさんが運んでくれたんだ。ほんとは助けに来たかったんだけどぉー」


 むーっと、むくれるガブリエルは視線を恨めしそうにテラさんへと向ける。

 見た目こそ酷い有様だけど、いつも通りの明るさを貫けるあたり元気そうで一安心だ。


「いいんだ。無事ならそれで十分だ。良かったよ……」


「あははー。流石にわたしももうだめかと思ったよぉー。うん。わたしも、また会えてよかったぁ」


 ぱぁっと笑顔の花を咲かせるガブリエル。その無邪気さはミラとはまた違ったタイプだ。こっちまで元気になれるような、そんな笑顔。   


「お兄様っ! おにぃさまぁ……っ!!」


「ああ、よくやったなソルレーヌ。下からだがちゃんと見ていたぞ」


 ソルレーヌはソルレーヌでテラさんへ一直線。さっきまで勇敢に戦っていたとは思えない、幼い子供のような半べそをかきながら兄へと抱きつく。


「うん、ちょうどよかった。人手は多いほうがいいからね」


 と、そんな兄弟を見てセトラが頷く。


「どういうことだ?」


「どうもこうもないよ。シロの魔力空っぽでしょ? そんな状態で天使魔法を発動させるなんて怖くてできないから」


 あ、言われれば確かに。もう搾りかすすら出てこないほど空っぽだと、指摘されて理解する。


「皆からちょっとずつ魔力を別けてもらお。儀式はそれからにしよっか」



 数十分を掛けてその場にいた全員から魔力を供給してもらう。

 セトラは、俺が回復に時間を費やしている間に必要な準備を整えたらしく、回復し切る頃には既に設置を終えていた。流石だなぁ。セトラはいつも手際が良い。持ち前のドジを帳消しにしようと努力した副産物なんだろうけど、幾度それに救われてきたことか。

 

 さて、そんな事を考えている間に儀式を行う準備は整った。


「それじゃあ、契約の儀を始めるね。お二人とも準備はいいですか?」


「ああ」「ええ」


 ここ一番の大仕事。巫女としての使命を果たさんと、セトラの顔つきが鋭く変貌する。


「救世の巫女が命じます。現神ヘズは座をラビエルと分かち合い、二神として新たなる世界の行く末を見守ることを誓いなさい」


 ヘズとラビエルが互いに手を取り合う。


「誓おう。例え悠久を過ごそうと、もう違えない」

「誓うわ。例え幾星霜を経ようと、もう離さない」


「承認しました。……シロ、準備はいい?」


 セトラの荘厳な雰囲気に飲まれ、こっちが変に緊張してしまう。

 もしかしたらヘズと戦う前よりも。


「ああ……。人神悪魔反転炉アラトロンっ!」


「……落ち着いて。コントロールは私がする。シロは穏やかに、一定量の魔力を流し続けて……」


 耳元で囁かれる澄んだ声。

 みんなから受け取った魔力を、少しずつ、糸をぴんと張る様に一定に保ち続ける。

 大事な儀式だから緊張するというのもあるけど……寄り添い制御してくれるセトラにも……。ミラやフレイヤ、ガブリエルとは至近距離の接触が図らずと多々あったけど、セトラは性格からして一線を引くタイプだっったからここまで接近する事はかつて一度たりともなかった。だから逆に――!


「うん、大丈夫だよー……。そのまま、リラックスして。あとちょっと」


 ああもう! 本人は至って真面目なため意識していないのが辛い。こうも近くにセトラの存在を感じると緊張でおかしくなってしまいそうだ。

 頼むから早く終わってくれ!


「うん、よし! ではこれにて引き継ぎの儀は終了です。それじゃ……よろしくお願いしますね」


 ようやく終わった安堵感も冷めやらぬ内に、セトラの言葉で二人との別れが近いことを察する。


「……カガリくん、ハヅキちゃん」


 ラファエルが、重そうに口を開く。


「二人には凄く迷惑かけちゃったね。私、手伝って貰うだけで何にもしてあげられなかった。その……もし、もし二人が望むなら、今ラミエルちゃんと協力して元の世界に戻せるけど……どうする?」


「いや、いいよ。この世界でまだ戦わないといけない人がいるからな。戻れないぜ」

「カガリくんが残るなら残ります。放って置けない。それに友達も作らなきゃだから」


 カガリは、真っ直ぐと挑戦的な眼差しでこちらを見据えていた。


「ああ、俺も、君とは何故か決着をつけるべきだと思っていたから。望むところだ。今はちょっときついから、また今度。いつでも来いよ」


 そしてハヅキはミラへと。


「……ん、なによ」


「約束、ちょっと経って落ち着いたら……うーん、そうだなあ。ガーデン! ガーデンでお買い物に付き合ってくれない?」


 意外なお誘いに、ミラはその真っ赤な目を丸くする。 


「は? えっと……私と?」


「うん。ミラちゃんとはずっとお友達になりたいなって思ってたから」


「え……でも私達、その、えっと。あ、あまり接点なかったし……」


 相も変わらず友好関係を築くことに消極的なミラ。やんわりとした拒絶に、少女は一瞬寂しそうな表情を見せるが、


「だーめ! 行くの!!」


「ひゃっ!?」


 ミラの手を取り、無理やり指切りを交わすという圧倒的積極さを前に、為す術もなかったようで、


「わ、わかったわよ! そこまで言うなら行くわ! 行けばいいんでしょ!!」


「うん。ありがとう。改めて、よろしくねミラちゃん」


 まんまと押し切られてしまった。

 ルミエールのときもそうだったが、ミラはとことん押しに弱いなぁ……。まあハヅキのような子だったら心配することはないだろう。


「ふふ、わかったわ。じゃあ、次はロノウェちゃんね。えっと、ごめんなさいね。神様の力欲しかったんでしょ? わかってた。怒ってる……よね?」


「こんな結末見せられてどんな性根をしてたら怒れるんだい? そうだな……魔界が安泰ならそれで構わないよ。君がいるならわざわざ神の力を自ら振るうまでもない。だから……よろしく頼む」


「うん、うんっ。私、頑張るから……ごめんね、そしてありがとうロノウェちゃん。あ、あとラミエルちゃんのことよろしくね」


「は――?」


『ちょ、せんぱーい!? こんな陰気な奴の元なんて勘弁ですってー!!』


 何処からか甲高い抗議の声が聞こえたと思うと、ぴょこりとロノウェの服の胸ポケットから顔を出す――人形……なのか? あれ。


「な!? 天使は例外を残して全員消失したはずだろう!?」


「あら、ラミエルちゃんだって例外よ。人形の中に入っている天使が例外じゃないなんてありえないでしょ?」


『やですってばー! 一緒に連れてって下さいよー!!』

「そうだ! こんな下品な天使と一緒なんて有り得ないだろう!!」


「はい、文句はぜんぶ却下でーす。ラミエルちゃんは残念だけど連れていけないから。……お願い」


「……はぁ。全く。……本当に君はずるい人だな。わかった、わかったよ」


「ありがとう。本当に無理だったらシロちゃん達に渡してもいいからね?」


 え? なんだ? 唐突に巻き込まれた気がするのは気のせいか……?

 この無茶を突き通す辺りやっぱりミラなんだと実感させられる。


「最後に、シロちゃん、ミラちゃん。貴方達は幸せになりなさい。私達が見てて嫉妬するくらいに、これからを目一杯楽しんで。約束よ」


「わかったよ。悔いの残らないように生きるさ」

「もちろんよ! 言われなくてもわかってるわ」


「そう、じゃあそろそろ――さよならね、そしてありがとう、みんな」


「シロ。俺を止めてくれて、道を示してくれてありがとう。上手くやれよ・・・・・・

 

 嬉しそうに、名残惜しそうに涙を流すラビエル。

 意味深にそう言い残しながらも、最後には笑みを見せたヘズ。

 二人は、最後まで羨ましくなるくらい幸せそうなまま、光の柱へと飲まれていった。 

 


 さてと、儀式と別れはあっという間に過ぎ去り、再び塔の最上階。

 塔の淵に足を放り出し、地上を眺める。

 沈む夕日は燃える緋色に染まっていく。真っ白だった塔は淡いオレンジ色を塗りたくられたみたいに様変わり。

 眼下に広がる橙色の世界は紛うことなく俺達が救った世界だ。

 掴んだ平穏を噛みしめるように目を瞑る。

 ……そんな黄昏れる俺の背後に迫る数名の影。

 ピリピリと感じるプレッシャー。振り返りたくない思いで心は埋め尽くされた。

 ああ、ついにこの時がやってきたんだ。


 ――選択の刻が、迫る。

 ようやくここまで来たかーって感じですね。

 ずっと見ていてくれた方がいたら本当にこの上ない喜びです。

 そんな方たちのためにも、キャラクターたちのためにも、次回以降きちんと終わらせられるようあと少し努力していきます!

 (ミラ編とセトラ編はほとんどおわってるよ!)


 ブックマークありがとうございます!

 感想や評価もお待ちしてるので、ぜひ!

 twitter → @ragi_hu514

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