表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
二章 紅蓮の街の寡黙少女
9/101

Q.8 お二人はお互いの事どう思っているのでしょうか?

炎の賢者編終了!

次に一つ茶番を入れてさらにその次から新章です!

「行ってきますねーっ!!」


 休憩室にも届くようにとお腹から声を張り上げたのは私、セトラ・アーリエ。 


 お昼下がり。シロ様とミラ様を図書館に残して、フレイヤちゃんと一緒にショッピングデートです。

 ……いやー緊張しちゃいますね! 私こう見えて案外人見知りが激しいので、いくらフレイヤちゃんが幼いとは言えど初対面の人と二人きりになるとどぎまぎしちゃいます。

 思えば私の護衛団の方々とも最初はぎこちない関係でした。もっと早く打ち解けて、もっと多くお話したらよかったのかな。皆の最期の顔を思い出すと……。

 って! いけませんね! 私がこんな顔してちゃ、団の皆にもフレイヤちゃんにも申し訳ないです!

 巫女のお仕事は皆に希望を振り撒くことだって、お母さんも教えてくれました。


「えへへー、フレイヤちゃんと二人っきりになれて嬉しいです。沢山お話ししましょうね!」


「……うん」


 フレイヤちゃんはどちらかと言うとあまり感情を表に出さないタイプです。今の、……うん。から読み取れる情報はお話はしても良い、だけ。

 うーん、喜ばれているのか煙たがられているのか、彼女との距離感が上手く掴めません。

 今も彼女は私の半歩先をとてとてと歩いています。お店へ案内してもらってるから当然かもしれませんが、どこか警戒されている気がしちゃったり。


 私はシロ様の様にフレイヤちゃんと一緒に戦ったわけでも、ミラ様の様に真っ直ぐに感情を余すことなく全て伝えられる訳でもないですし……。

 あっ! ならこういうのはどうでしょう?


「フレイヤちゃんも賢者の血を引いてんですよね?」


「……うん」


 返ってくるのはつい先ほどと同じ返事ですか。……ここで折れて堪るものですか。もうひと押しです! 私だってフレイヤちゃんを抱きしめたり――いえ、仲良くしたいんです!


「私も巫女の血を引いてるんですよ。もしかしたら私たちのご先祖様はお友達だったかもしれませんね!」


 ふ。共通の会話で「親近感」を持たせ、話題を繋げる。

 私が編み出したコミュニケーションの必殺技です!

 さあ! 会話を続けましょう!


「……そうなの? じゃあ、わたしとセトラお姉ちゃんも仲良くしようね……!」


 キターーー!!

 完璧です。策士です。天才です!

 残念でしたねシロ様、ミラ様。お二人がフレイヤちゃんを我が物にしようと奮起していたのは知っていました。ですからあそこであの提案をしたのですよ……!

 シロ様ならミラ様を案じてもう一つの案を潰してくれると踏み、フレイヤちゃんと二人っきりというこの状況を作り出すために…ね!


「……やった。 お友達が三人も増えた……!」


 ああ、可愛すぎます! 

 真っ白尽くしのミラ様を生きた芸術と例えるなら、フレイヤちゃんはまさに可愛さで構成された天使!

 ……おっと。シロ様じゃありませんけど、もちろんいい意味でですよ? 


「あ……見えた……」


 先を進むフレイヤちゃんが目的のお店を見つけたのか突然足を早めます。

 あ、そんなに慌てると転んじゃいますよ。

 見てて危なっかしい彼女を近くで見守る為、私も駆け足に。

 

「ここ……バロおばさんの雑貨屋さん……だったところ」


 言葉の端をすぼめて私に解説してくれるフレイヤちゃん。

 ……そうですよね。やっぱり辛いはずです。だって私の半分くらいの歳の子が受け止められる現実の域を超えてますもん。この世界も大概絶望的ですけど、それでもこの街で起こった事はフレイヤちゃんに大きなダメージを負わせたはずです。


 フレイヤちゃんは律儀に挨拶をしてお店の中へ入っていきます。

 私もそれに続くと待ち受けていたのは、女の子向けの可愛らしい小物や小瓶に入ったお菓子の数々。目を閉じれば年頃の女の子が賑やかに買い物を楽しんでいる様子が目に浮かびます。


「バロおばさんはね……優しい人だったんだ。……いつもお店によるとお菓子をくれたり……二人目のお母さんみたいだった」


「そうだったんですか……。きっと皆ここに集まっていたんですね……」


「……すごい! お姉ちゃんなんで分かったの?」


「何ででしょう。お店に入っただけですけど、皆の笑顔が浮かびました。バロおばさんは良い店主さんだったんですね」


 ふとカウンターの向こうを覗くと、バロおばさんがそこに居た証が残っていました。黒い灰――きっと最期の瞬間までここでお客さんの相手をしていたのでしょう。


「――虚ろなる還れぬ魂よ。せめて安らかなる時を過ごし給え」


「……なに……今の?」


「ちょっとしたおまじないです。バロおばさんがゆっくりできるように大地にお願いしたんです。フレイヤちゃんもやりますか? 想いさえ込めれば後は口にするだけです」


 ――その小さな背に圧し掛かる物に耐えられなくなったら、私も背負いましょう。


「えっと……――うつろ?なるかえれぬ魂よ……せめて安らかなる時を過ごしたまえ……」


 こんな良い子なんです。一日でも早く、彼女がその罪の重さから解き放たれるように。


「うん、上出来です! きっとバロおばさんも喜んでくれるはず――」


 そう言いかけた時、耳元で聞きおぼえのない声がしました。

 ――ありがとうね。旅の巫女さん。この子をよろしくね。

 ……前にお母さんが言ってたっけ。巫女は死者の声を聴いてあげなさいって。こういう事なんだね。ここまで旅をして、初めて分かった気がするよ……。

 

「ううん、喜んでいますよ!」


「……うん……うんっ!」


 とうとうフレイヤちゃんは涙を堪え切れなくて、その大きな目を潤わせてしまいます。

 あー。これがばれたら怒られちゃいますかね……?

 私の胸に飛び込んでくるフレイヤちゃん。私は黙って彼女を抱きしめました。



「もう、大丈夫ですか?」


「うん、ごめんなさい。もう泣かないって決めたけど……ダメだった」


「ふふ……良いんですよ。別れを悲しまないとその相手も悲しみます。けれどそれを引きずっちゃダメです。前を向いて生きなきゃまたその相手が悲しんじゃいますから」


 ……私も同じですね。


「うん! わかった……!」


「じゃあ必要になりそうな物だけお金を払って買っていきましょう! お菓子もちょっと位ならお姉さん許しちゃいますよ!」


 バロおばさんのお店は表向きは女の子向けに安く装飾品やお菓子を提供する雑貨屋ですが、その一方で旅の必需品、寝袋や、ろ過機、簡易火炎魔法符といった旅人をターゲットにした品ぞろえも豊富でした。

 火炎魔法はミラ様やフレイヤちゃんが居ますから必要ないにしろ、ろ過機なんかはガロニアの森にも無かったですからラッキーですね。お値段もそこまで高くない……バロおばさん凄いです!

 

 取り敢えず人数分の水筒とろ過機、お薬、後は護身用にもなる万能ナイフなんかを選んで再びカウンターへ、そこに合計1500フロルを代金として置いておきます。ありがとうございました。大事に使わせていただきますね。

 と、私の服の裾をちょいちょいと引っ張るフレイヤちゃん。


「あ、ごめんなさい。欲しいお菓子はありました?」


 ふるふる。彼女は首を横に振ります。

 あれ、良いお菓子がなかったのでしょうか?

 結構美味しそうなお菓子はあったはずですけど……そう私が不思議そうにしていると、その代わりにフレイヤちゃんが手の中の物を見せてくれます。

 差し出されたのは、20フロルの髪留めでした。


「……これにする」


「あ、あーさっきのは冗談ですよ? 別に一つじゃなくても……」


「お菓子は無くなっちゃうから……」


 なるほど。両方買うという選択肢はフレイヤちゃんの中には無かったらしいですね。

 まあ良いです。お菓子はこっそり買っておいて後で渡してあげましょう。

 受け取った小さなオレンジ色の髪飾りをぱちりとつけてあげます。うん! ばっちり可愛いです!


「じゃあ1520フロルですね!」


 正確には1550フロルを改めて代金として払い、お店を後にします。去り際、フレイヤちゃんに見つからないようにこっそりとお菓子を貰って、またまた先行する彼女の後を追いかけます。



 再び街を散策中。

 武器屋、防具屋なんかは大半が燃えてしまっていて駄目でした。なんとか装備だけでも…と思いましたが、どれも熱で変形してユニークな芸術品と化していたので早々に諦めることに。もう少し粘ったら一旦図書館へ手に入れた物資と置きに戻りましょうかね。

 お友達認定をされたからか、雑貨屋さんでの一件があったからか、もうフレイヤちゃんとは普通にお話が出来るほど打ち解けていました。うん、私も大分フレイヤちゃんソムリエに近づいた気がします。

 彼女、一見無表情で今どんな感情なのか判別しづらいのですが……なんと以外にも眉毛に感情が現れやすいんです! 前髪に隠れているのでどっちにしろ分かりにくいのですけど、その薄く整った眉毛がピョコピョコ動くので、慣れてしまえば彼女が何を考えているのか予想するのは簡単かもしれません。

 

「……セトラお姉ちゃんは好きな人とかいないの?」


 これは想定外の質問でしたけどね!

 仲良くなりすぎて、答えづらい質問にも答えなきゃいけないのが悩みなのは贅沢でしょうか?


「……じつはシロお兄ちゃんの事が好きだったり?」


「そそ、そんな事無いよっ!」


 フレイヤ、恐ろしい子!

 最近の女の子はこの歳でもう恋愛話が主流なんですか!? そんな……今まで一度も男の人を意識したことなんて……! ああ、そう考えるとガロニアのお風呂の出来事が凄い恥ずかしい事のように思えて……!!


「あはは、おねーちゃん顔まっかっかー……」


「ち、違うってば!!」


「あれ……そういえば何でシロお兄ちゃんはおるすばんなの?」


 あ、フレイヤちゃんはお二人の事情を知らないんでしたね。これから旅を共にする身なのですから情報共有はしっかりと済ませておきましょうか。


「あのお二人は5mより遠くに離れられないんだよー。私の予想では『勇者』と『魔王』の二役、個として強すぎる存在を世界に留める時にペアであった方が安定するからだと思うんだけど……秩序の問題かなぁー?」


 私の説明を聞いて眉が吊り上がっちゃうフレイヤちゃん。


「ごめんね……ちょっと難しかったかも。要はあのお二人は離れちゃ消えちゃうんだよ」


「え……消えちゃうの?」


 あ。これは失言でしたね……。不安がらせてしまいましたか。


「大丈夫、あの二人ならきっと大丈夫だよ。何だかんだで今回も勝っちゃったし」


「そうなんだ……なんだかはなれられないって恋人みたいだね」


 おやおや? どういう事でしょう? 今回ばかりは意図が読み取れませんね。私自身恋愛沙汰に疎いものですから、こういう時は――羨望? それとも……?


「フレイヤちゃんも二人の事が気になるの?」


「ちょっと……。ミラお姉ちゃんだけ一人占めはずるいよ……」


 し、シロ様ー! モテ期来てますよー!?

 ああ、こういうのって聞いちゃっていいんでしょうか!? このまま聞いちゃったらフレイヤちゃんを応援するしか――ってミラ様は「そんなの」じゃないって仰ってましたし……いえでも!!

 あのお二人はお互いの事をどう思っているのでしょうか?


「そうだ……! お姉ちゃん、もう少しよらなきゃいけない所あった……! いい?」


「へっ? え、あ、うん。まだまだ時間はあるし私は構わないよ?」


 と、唐突に話が切り替わる辺り無邪気な子供らしいですね……。色々頭の中で渦巻いてた時に話しかけられたのでつい取り乱しちゃいました。


「それで、どこへ行きたいの?」


「……んーっとねぇ」



 やって来たのはぺちゃんこに潰れてしまった一軒家。特に豪邸といった見た目でもなく、この街でのごく一般的な世帯の家といった様相をその潰れたままの姿からでも醸し出しててくれています。…もしかしてここって――、


「ここ、フレイヤちゃんのお家?」


「……うん。お母さんが言ってた『だいじなこと』をわすれてた」


 『だいじなこと』? 何でしょう?


「お姉ちゃん、ちょっとここの木をどかすの手伝って?」


 フレイヤちゃんに指示されるままに元は玄関であっただろう所の瓦礫や木材を運びます。今更家を綺麗にした所でもうこの見た目ですから、流石に別の意図があるとは思うのですが……。


「あっ……ここ……! 後ちょっとだよ……!」


 ここほれわんわん。昔読み聞かせて貰った童話にこんな風に探させる犬が居ましたね……。フレイヤちゃんの場合ピョコピョコ動くのは尻尾じゃなくて小さな眉毛ですけど。

 ここで良いのかな? 更に詳細に指定された箇所に覆いかぶさっている物をどけ、軽く手で掘ってみると、


「これは――!!」


~~~


「シロー、飲み物ー。取ってー。あ、ちが、飲ませてー」


 ……ええい鬱陶しい。お互い向かい合いソファに座っているのだが、自分が動けないのを良い事にとうとう俺に横柄すぎる態度をとり始めた真っ白な美少女魔王、ミラ。 

 今みたいに「飲み物」。更には「背中かゆい」、「眩しい」、「ご飯」……数えたらきりがない。普段ミラがどれだけ甘やかされていたかがよぉーく分かった。

 もしまだこいつの執事やメイドがご存命なら、ガツンと一発言ってやらなければならない。


「……」


 だから俺は無視を決め込んだ。せっかくセトラが選んでくれた本をゆっくり読める時間なんだ。残念だが必要以上にお前に構っている暇はない。


「のーみーもーのー! ……ほう、良い度胸じゃない、相棒さん。これは二度目の破局かなぁ?」


 因みに今読んでいるのは『火炎魔法の神髄』だ。少しでもフレイヤの事を知ろうと、セトラが選んだ本の中から真っ先に読み始めた。どうやら火炎魔法の火力は感情の起伏に大きく左右されるらしい。この辺はメルティも似たようなことを言ってたっけ。彼女の言葉を借りるなら、「日によって調子が良い日と悪い日があるんだ」だっけ? 後天気が悪いと魔法が湿気るとかなんとか。これは抽象的過ぎてわからないけど……そもそも魔法って湿気るモノなのか……? 後でフレイヤに聞いてみるか。


「……変態! ロリコン!」


 前回の大喧嘩とは違って、ただミラは俺の気を引くためだけに悪口を叫んでいると分かっている為、俺も安心してスルーでき――、


「――童貞勇者!!」


「おい待て! お前流石に童貞はひどいだろ! ってか一応女の子なんだからそんな言葉言うな!」


「ククク……まんまと罠にかかりおったわ……ッ!」


 急にスイッチが入る痛い魔王モード。この話し方を聞くと、あの封印の中に閉じ込められてから日が浅い頃を思い出す。今でこそ一人称以外はまともな喋り方をするが、当初はこの、何を言っているか分からないステータスを「格好つけ」に全振りしたような話し方のせいでまともにコミュニケーションも取れなかったな……。

 つまり要約すると、この状態のミラは非常に面倒臭い。 


「……汝も所詮は常世の迷い仔。わらわの『この世全ての悪意(スルーキャンセラー)』の前では地に這う蟲と同義よ……クックック……」


 やたら痛々しい言い回し。俺はそちら側の住人じゃないので、今ミラが何を意図して話したかすら自信をもって答えることはできない。十中八九馬鹿にしてるんだろうけど。 


「はぁ……めんどくさ。よく考えたらお前もどうせ同じ・・だろ? そんな奴に言われてムキになるとか……あーあほらし」


「ちち、違わいっ!」


「もしそうだとしても、それはそれで……ねぇ? ちょっと乱れてますよね? 服も前はきわどかったし……」


「ふん、毎日バリバリイケメン集めてたから! 


「ほう……それでそんなにイケメンを集めて美少女であるミラ様はどうしたんだ?」


「……え、えーっと……そう! いっぱいキスした!」


「……。あーはいはい。お子ちゃまなりによく頑張りましたね」


 お前がそう・・だってことはな……美少年図鑑をカブトムシを追いかける少年の様な純粋な憧れの視線で眺めている時点で明白なんだよ!!


「ぐ、ぐぐ……覚えてろぉ……!」


「……。なぁミラ」


 ――ぱたん。栞を挟んでから本を一旦閉じる。


俺達・・、勝てなかったな」


 あ。こいつ目をそらしやがった。


「どうするよ。いつまでもこのままじゃいずれもっと悲惨に負けるぞ」


 きっと敵はあいつだけじゃない。七天がどうとか言ってたしなぁ。更にその上には最終標的である神様もおわすことだし。


「……勝てるかな、わらわの魔法で」

 

 今回の決定打、フレイヤとミラの違い。それは魔法の柔軟性だった。

 フレイヤの気分が一時的に高揚していたのも影響はしていたが、炎と槍では操作性の問題で前者が勝っていた。ミラが炎を出せない訳では無いが……あの奇襲の二撃目はぶっつけ本番で新しい事をやる場面では無かったし、正直な所俺もそれで決まると思っていたからなぁ……。

 だから本当にフレイヤが居なかったら、俺らは今頃黒い灰か、魂の理から外れて空間ともいえない所を彷徨うだけの存在になっていたかもしれない未来が濃厚になってた。


「幸いにも時間はあるんだ。色々試すしかねーだろ。他の武器・特性を対応させるか、ワーククラフト以外の決め手を探さないといけない」


 たった一つの最強技に頼った結果がこのザマだ。


「……そうね」


「こりゃ当分は寝る時間削って特訓だな」

 

 疑似戦闘じゃ得られる経験値は微々たるものだが無いよりましだ。 


「えぇー……まあしょうがないかぁ……」


 渋々ながらも強くなりたいと意志を示してくれる。かといって具体的にどうするかさえ浮かんでこないんだよなぁ。

 レベルアップによるランダムなスキル獲得を狙うとして冒険者お馴染みの魔獣を狩りまくる作戦を取るにも、「魂の総数」にひっかっかるから同じエリアで狩り続けると目に見えて効率が落ちていくだろうし。

 新しい技術を手っ取り早く身に着けるにはスキルや魔法を所持している人に伝授して貰うのが効率が最も良く確実だが……人が大勢いる街に行ったところで二年前まで平和だったこの世界で、武を極めようとした物好きがいるかどうか。

 ……色々と現実は厳しい。


「はぁー……参った。相手が自分たちより強くて、こっちはレベルアップしようが無いんじゃもう詰んでるも同然だぞ」


「わらわは具体的には次のレベルまで三兆匹のぷにスライムを狩らなきゃいけない」


「マジか……魔王すげー。ぷにスライムを絶滅させかねん勢いだな」


「仮にレベルが上がったところで確実に有用な能力が手に入るとも限らないしね」


「あれって幸運依存だろ? 幸運が現在進行形で下がりつつある俺なんて絶望だぞ」


「……」「……」


 あれ、これ本気で詰んでね……?

 

「――話は聞かせて貰いましたよ!」


「「!?」」


 唐突に割り込んでくる第三者の声。

 部屋の入り口に立っていたのは――なんだセトラか。


「そんなお二人に良いお話があります!」


「そんな簡単に強くなれる訳……」


「さあ! これを見てください!!」


 やたらテンションが高いセトラは、物資を集めるために持って行ったバッグの中から綺麗なオレンジ色に煌めく本を取り出した。

 何だあれ……ただの本じゃ無さげだけど……?


「なんとこの本、シロ様への専用アイテムです! フレイヤちゃんのお家で発見しました! 『専用』なんですからきっとシロ様しか使えない魔法とか載ってるんじゃ……!?」


「な!? 何でそんなもんがこの街に――まさかメルティ!?」


 「専用アイテム」。その名の通り製作者が指定した人物にしか使用を許されないアイテム。関係のない者が持っていてもただのゴミなので売価は高くないが、それ自体に掛かっている魔法が珍しい為、一部のコレクターの間では莫大な価格で取引されたりしていた。……というのも千年前の話。俺が居た時代が千年前であることから同様にこの本が製造されたのも約千年前。

 ……もし、売ったとしたら、その希少価値からその希少価値から一生(このまま事が運ぶと三年間になるけど)遊んで暮らせる大金が手に入るだろう。

 メルティがせっかく俺に作ってくれた品だから絶対に売らないけどな! 


「はいどうぞ。ご自身の目で確かめてください」


「おう……」


 こ、高級品すぎて取り扱いに困る……! 受け取った瞬間指先に宿る微かな温もり。まるでこの本自体が熱を帯びているみたいだ。

 背表紙の登録名を確認すると……やっぱり名義が変更されてるな。本当の名が記されているかと期待したが、セトラの言う通り「シロ」宛だ。俺がもしあの時「ああああ」って名前に決められていたらこの本は「ああああ」宛になっていたと、そう言う事だろう。

 まず表紙には何も書かれていない。炎が灯っているように不規則に色の濃淡を変化させるオレンジ色ただその一色だけで構成されている。

 ずっと眺めていられるほど不思議な装丁だがそんなことをしていても仕方がない。取り敢えず一頁捲ってみることにした。


 ――お兄ちゃん元気かな? きっとこの本が開かれているってことは私がこの本を作り終ってからかなり後の世界にお兄ちゃんが居るってことになると思う。…だからもうお兄ちゃんと同じ世界に私が居ることは出来ません。…こんな事ならもっとお話ししておくんだったね。


 この本にはアトラお姉ちゃんから賢者の皆に託された予言の一部と、私がお兄ちゃんに教えきれなかった魔法を記しておきます。……ちょっとでも役に立てたらいいな。


 ……。ページを捲る。


 ――まずはアトラお姉ちゃんの予言からだよ。本人が言ってたことをそのまま書き写すね。


 ――やっほー。シロ元気ー? あ、メルティア、ここはちゃんと子供や孫にも伝えてね。ん? 「……私、忘れっぽいからメモだけ取らせて」? 了解! あ、もういい? じゃあ喋るよ?

 

「ぶほっ!!」


 予言だって言うからもっと堅苦しいのが来るかと思ったら本当にそのままじゃねーか! メルティの真面目さが如実に出ていて微笑ましいな、おい! 

 ついかつての旅のノリで突っ込んでしまった。

 うん……気を取り直して続きから。

 

 ――そろそろアトラちゃん疲れてきちゃった。この挨拶ももうメルティアで五人目だし……。

 念のためもしこれが一つ目の予言になる場合もあるから簡単に説明だけしておくね。

 実は私、とんでもない未来を視ちゃったんだ。

 もう気付いてるとは思うけど、神によってこの世界は滅ぼされます。

 ……貴方とあの白い魔王ちゃんを封印すると世界は多分停滞するんだ。大きな戦争が無くなるから武器や力は必要なくなる。それが何年続くか分からないけど、もし……もし千年も続く未来があるとしたら、その未来では神様が世界を終わらせに来るでしょう。

 でも! 私達としてはせっかく守った世界が壊されるのは癪なので、これから封印されるシロに後の世界を託します! 貴方が世界を二回も救う未来が視えちゃったから……嫌かもしれないけど我慢して救って?

 その代わりにといっては何だけど、一人じゃ辛いだろうから私の持つ情報を賢者に伝えて貴方をバックアップしていくね!

 はい、ここまでが簡単な説明ね。せっかくメモとるならこんな感じで話口調で伝えてね。その方がシロは喜ぶから! ……いい? メルティア? うん、OKなら次行くね。


 ちょっと待て、情報が多すぎる。一先ずおさらい。

 まず、これは多分話の内容から察するに、まだ俺と旅をしているときにメルティに伝えたんだと思う。と言う事は封印を選んだのは後を見越しての事だったのか……?

 次に……アトラの未来視か。巫女に与えられた特殊な力の一つ。確かミラの脅威を感じ取ったのが始まりだったな。その後更に現在の世界の惨状を視て封印作戦を思い立ったって感じか。

 後は……神が世界を壊す理由もメルティが書き洩らさずにいてくれた。先程も俺が懸念していた「武」や「智」の衰退。ひいては人類、魔族の緩やかな衰退が原因らしい。平和すぎるから要らないとか……こっちからしたら堪った物じゃないぞ。……随分と勝手な神様だ。

 そんな身勝手な神様から世界を守るために千年前からバックアップか。何というか――アトラらしいな。一風変わったお人好しさがアトラらしい。


 さあ、ここまでの内容は頭に入った。次は――、


 ――次はお待ちかね、メルティアだけへ渡す伝言ね!

 えーっと、メルティアへの伝言は……あれだ! 「賢者の子孫を集めなさい」! え? 話が違う? 「アトラお姉ちゃん、私には幻想展開仮想魔法イマジナリ・クラフトワークの説明するって……」? 

 あ! あはは……間違えた。さっきのはヴィントへの伝言だ。あはは……はは……。

 まあいいや! どうせこの話全部が伝わる訳無いんだしね。


 気を取り直して幻想展開仮想魔法イマジナリ・クラフトワークについて説明するよ。その魔法は通常の使い方の他に、貴方の記憶障害魔法を紐解いていく為の「鍵」としての役割もあるの。

 例えば……メルティアの事を目覚めた貴方は忘れていたでしょう? でも、メルティアの情報が「近くにある」だけで記憶が戻った。そんな経験をしたんじゃないかな?

 私達はとある理由で貴方に記憶の封印を施したんだけど、流石に何も思い出せないのは可哀想だし、賢者を集め――おっと、色々支障が出るから幻想展開仮想魔法イマジナリ・クラフトワークで思い出せるようにこっそりとメルティアに改造して貰ったの。封印後も同じ装備でいられる保証はないし……って考えたら魔法に無理やり組み込むしかなくって。ごめんね。

 うん。そんな所かな? え? 「何で賢者に伝言を分けて伝えさせるの……?」って? やだなーそんなの面白いからに――、

 ――本を閉じた。 


 ……メルティが有能すぎるせいで色々台無しだ。

 なぜか二つ目の情報まで手に入っちゃったしな。

 「|幻想展開仮想魔法《《イマジナリ・クラフトワーク》》は賢者の記憶を掘り起こす『鍵』」、「賢者の子孫を集めろ」こんなとこか。

 一つ目はともかく二つ目については今のところ良く分からないな。集めた事でどう変化するのかが分からん。天使に有効とか塔に張られた特殊な結界を破る、とかが濃厚かな。


「…シロお兄ちゃん大丈夫? 泣きそうになったり、吹き出したり、困ったり……いそがしかったけど」


 本を管理してくれていた炎の賢者の子孫が心配そうに顔を覗いてくる。

 フレイヤ……お前のご先祖は多分最も立派だぞ……。


「大丈夫だ。この本を見せてくれてありがとう。結構重要な情報ばかりだったよ」

 


 この本が「専用アイテム」である以上他の人がこの本を読むことは適わないので、今知りえた情報を一通り皆に伝えた。


「ということは、後五個も重要な情報が伝言として残ってるってことですか?」


「ほぼ四個と半分って感じだがそうなるな。賢者も集めなきゃいけないし」


「賢者の子孫の場所は……」


「書いてなかったな。多分片割れの情報になるんだと思う」


「……そうですか」


 途方もないご先祖からの要求に折れ掛けそうになってしまうセトラ。情報も無しに残り期間で全員集めろて言われても厳しいよな。せめて場所さえわかれば、


「でもでも! 魔法は覚えられるんでしょ!? それなら『強くなる』って目標はある程度達成されたんじゃない?」


 ミラが沈んだ空気を嫌ってか、違った点から前向きな意見を出してくれる。


「ん。一理あるな。後は俺の努力次第だ」


「じゃあそれだけでも十分ね。フレイヤちゃんえらい!」


 あっこら、自然な流れでフレイヤにちょっかい出すな! 羨ま――けしからん!


「えへへー……ありがとっ」


「ああ~癒される~!」


 ソファに座ってじゃれ合う二人。こうして見る分には美少女姉妹に見えなくもないから困る。

 そんな二人の向かい側、俺の隣にちょこんと座り、未だに肩を落としている巫女の末裔。 


「そんなに気負うなって。そりゃあ……まあお前の先祖はフレイヤの先祖と比べて幾分か残念だけど……」


「もうっ! それもちょっとへこむ原因なんですからやめて下さい!」


「――でも考え無しじゃない。あいつの事だからできるって信じて託したんだろうよ」


「……ですね。ありがとうございます……シロ様」


「……あ。セトラお姉ちゃん、やっぱシロお兄ちゃんの事――」


「わー! だめぇー!!」


 何事か、飛び上がったセトラが大慌てでフレイヤの口を塞ぐ。


「え? 何々聞かせてよ~」 


「絶対だめです!」


「え~?」


 ――フレイヤが加わるだけでこのパーティも随分と賑やかになった。男一人ってのは少し疎外感を感じるが、まあだんまりお葬式ムードよか余程良いだろう。

 

 さてと、当分の目的は「魔界へ帰郷」と「賢者探し」か。

 ……何だかんだでこの旅を楽しんでる俺が居るんだよな。死にたくないのは一貫して変わらないはずなのに。その理由がこの旅で見つかるだろうか? 

 今は未だ分からないけれどこの仲間たちとなら……旅のワクワクの理由も見つかりそうな気がする。


 さあ次の街だ! 今度こそふかふかのベッドと暖かい毛布を求めて!!

長かったですよね……。ここまで読んでくださった方はお疲れ様でした。

感想、意見、指摘等貰えるとありがたいです!


Twitter→https://twitter.com/ragi_hu514

投稿した際に呟いてお知らせします。よかったらフォローして貰えるとありがたいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ←登録しました! 押して頂けるとありがたいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ