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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
終章 終わる世界の勇者と魔王
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Q.67 姫騎士の誇り

ルミエール回。

 塔の麓に辿り着くと、空間固定魔法が解除され。地面へと放り出された。


「ガブリエル……っ!」


 大地に影を落とす巨大なミカエルへと走り出そうとする既の所で、ミラに引っ張られる。


「だめよ、シロ。今は進むの。ここで戻っちゃ意味がないじゃない……」


「なっ――! お前いくらなんでも――!」


 非常に思えたその言葉。しかし、ミラとて辛いのだと、彼女の表情を見て自身の失言に気がつく。


「……悪い、取り乱した。行こう。早く終わらせてガブリエルを助けられるように」


「……そう、だな! 大元を叩けばでっかいあいつも消えるかもしれないからな!」


 こういうときウェンの空元気はありがたい。こと空気を読む事においてウェンほど優れた奴は居ないかもしれない。こういったさりげない気遣いをアピールできればモテると思うんだけどな……。


「ありがとな、ウェン」


「良いってことよ! こういうのはお互い様だからな!」


 ガブリエルを背に、奴らの居城と向き直る。

 さあ、進もう。世界のためにも。彼女のためにも。



 そこには既にセトラ達の姿。

 だが人数が足りない。居るのはセトラとフレイヤ、そしてクアだけ。ソルレーヌとルミエールの姿が何処にも見えない。


「セトラ……二人はどうした?」


「…………はぐれちゃった。敵の範囲魔法によって通信も途絶してる」


 返答は、彼女の雰囲気から概ね予想した通り。人差し指が指し示した先には、俺達が来た方向とは真逆の悪天候。漂う霧はあと少しでこちらにまで到達しそうなほど。セトラが言った通り前方の魔力を一切感知できない。ただ、遠くまでは見通さなくとも激しい力の衝突の気配は感じた。


「あれ……テラさんか……」


「うん。止められなかった。ソルレーヌちゃんも、多分……。ごめんね、私のせいだ……」


 憔悴し疲弊しきっているためか、いつもの元気すらも影を潜めている。それ程にここまでの道程は厳しいものだったのだろう。フレイヤはいつも以上に口数が少なく、クアは塔に寄りかかって寝息を立ててる。皆、みんな疲れ切っていた。


「……ここまで引っ張ってきたんだ。十分だよ」

 

 そんなことない。なんてとても言えなかった。


「ガブリエルちゃんは? 姿が見えないけど……」


「あいつ、俺達のために一人足止めで残ったんだ」


「……ああ、使っちゃったんだ。あの魔法。うん……ガブリエルちゃんならそうするよね」


「四人とも、天使さえ消すことができれば助けられる。登ろう、塔を」


「わかった。いつまでもへこたれてられないよね。上を目指そう。狂った神様を止めに行くんだ」

 

 パンパン、と二回強めに頬を叩くと、セトラは立ち上がり、人類軍の残存兵たちへ視線を向けた。その目はいつものセトラの目。意志が灯った彼女らしい目だった。

 人類軍も僅かながらに此処まで辿り着いていたが、かなり数が減ったのだろうと推測できてしまうほど少なかった。セトラは少し離れた所にいる彼等の元へと駆け寄り、


「皆さんはここに居て下さい。この辺りは自立型が少ないですから、下手に動くよりは安全なはずです」


 隊列に指示を下すと直ぐに俺らの元へと戻ってくる。とりあえず、六人。賢者は四人しか居ないが、現状がこれ以上悪転しない内に進むしかない。 

 旅の開始点にして終着点。ようやくたどり着いたこの塔を。あとは登るだけ。

 

「行こう。これで最後だ」


 俺達を招くように開かれる扉。不気味なほど漂う暗闇へと、その一歩を踏み出した。


~~~


「これで……二百七十……よんっ!!」


 崩れ去る自立型を見下ろす。

 こいつらが憎くて憎くて仕方がない。一刻も早く、一体でも多く殺してお兄様の所へ――!


「ソルレーヌさん……その……」


「なぁに? ルミエールお姉さん。……ぼくを止める気ならやめておいたほうが良いよ」


 ビクリと肩を震わせるお姉さん。ぼくへと近づく歩調が一段階減速する。


「……っ」


「例え仲間だろうと、ぼくは今ならきっと殺しちゃうだろうから」


 再度脅しをかけると、お姉さんは俯いて完全にその場で停止した。

 まあ、本当に死にに来るわけないか。自分の命は大事だもんね。それはそれできっと正しい。ルミエールお姉ちゃんみたいな人間ならば、特に。だから同様の理由でお兄様は死んじゃいけないんだけど。

 だとしたら先を急ぐだけ。ルミエールお姉さんに背を向けて先を急ぐ。

 ――それは、ぼくが背中を見せた瞬間だった。お姉さんの剣の魔法に足を貫かれる。


「仲間だからですわ! わたくしは、ここで貴方を止める! 止めてセトラさんの元へ連れて行きます!! 私、約束しましたので!!」


「はは、足を貫通させるほどの攻撃を仲間にするんだぁー。じゃあぼくも容赦しないから!」


 三分で片付けよう。所詮相手は王族。多少の武芸を習っていようと、実戦の経験があまりにも乏しいはず。そんなのはガーデンの口だけのお姉様達を見てよく知っている。あの頃だってお兄様の側にいるためにずっと我慢してたけど、ほんとは殺せたんだ。やろうと思えば力を見せつけることができたんだ。

 今は、違う。お兄様の側に行くために力を見せつける。

 ルミエールお姉さんには悪いけど、こればっかりは譲れないんだ!!


万物の一アルス・マグナ!!」

 

 この世の全ての仕組みを記す魔導書を手に取る。

 力が入らない足を再錬成。飛び散った血を回収、足りない部分は手持ちの素材で補う。


「……あら、もしかして私が補助魔法だけのか弱いお姫様だと勘違いしてません?」


 齢十六の王女は腰に刺した細剣を抜く。構えは騎士。一見よくある王族剣技の一つ。所詮模造の域を出ない大量生産品にしか見えない。この程度なら、一瞬で片付けてやる!


「違うの? まぁ、それは今から数秒後に分かるけど、ね!」


 万能の魔法に、剣技や純粋な力のみで敵う訳がない。

 地層から鉱物のみを取り出し、弾丸を精製。空気を圧縮させて推進力に変換、発射!


「そうですわね。……輝き誉れる五の剣デコラシオン:シュヴァリエ!」


 大気に花びらが舞った。霧の海を晴らすような光が迸る。

 魔法を発動させたルミエールお姉さんはと言うと、洗練された純白の鎧を身に纏い、白に近いブロンドの長髪を後ろで束ねた姿で光の中から現れた。

 地面には放った弾丸が全て綺麗に真っ二つに切られて転がっている。

 斬撃の魔法? でもルミエールお姉さんの立ち位置は変わらない。手に持った剣が振るわれた姿さえ見えなかった。斬った結果だけがそこには存在しているみたい……。


「不思議ですか? 先に話しておきましょう。私の魔法は身体強化と精神強化。それぞれの強化には段階と特殊強化が存在し、全五段階。一度殺される度に力を増しますわ。騎士シュヴァリエの特殊強化は『物体切断』。それが物であり、私が斬ろうと思ったならば全て切断し無力化させる魔法です」


 わざわざ、先生が生徒に教えるみたいにご丁寧に能力を教えてくれる。


「……なにそれ? もしかして、ぼく舐められちゃってる?」


 だとしたら流石に頭にきちゃうなぁ……。まるで下に見られてるみたいでイライラしちゃう。ぼくを嘲笑ってきたあの顔を思い出しちゃって。


「いいえ、これは騎士の矜持ですわ。持ちうる力を全て曝け出して、ソルレーヌさん、貴方に勝ちます」


「それを舐めてるっていうんだよっ」

  

 話の通り斬撃の魔法だとしたら大前提として近づいちゃいけない! まずは遠距離から様子を見つつ牽制する。まずは剣を実際に振っているのかどうかとその有効範囲。手数ならこっちに分があるはず!

 手当たり次第に周囲のものを変換し、さっきと同じようにルミエールお姉さん目掛けて発射する。形状はとりあえず先端を尖らせるだけ。ディテールよりも速度と手数を重視してみる。


 一斉掃射後、普通の人間だったら蜂の巣になっているはずだけど、純白の鎧の騎士は涼しい顔でそこに佇んでいた。


「わーぁ。空気の弾丸まで斬っちゃうんだ。この時点で十分最強だね」


「音で認識できちゃいますから。できれば仲間には使いたくなかったんですけれどね。ソルレーヌさんが抵抗しますので」


 気まずそうにしながらはにかむお姉さん。あの国の人達がお姉さんの虜になる理由がよく分かる笑顔だ。これが戦闘中じゃなかったら良かったんだけどね。

 

 さて、どうしようか。あの場から一歩も動かないだけで移動能力が上がっていない保証はない。いや、むしろ身体強化されているのだから上がっていないわけがない。

 いつの間にか心の何処かで燻っていた余裕は消えていた。

 だけど今ので致命的な弱点を見つけた。あの魔法は重なった物を同時に切れない。重なった弾丸を、わざわざ二度の切りつけで対処した。一振りで届く範囲でも、わざわざ二振りで。

 草花から繊維を取り出し布を精製する。急造品だけど弾丸を包めれば十分だ。これで恐らくお姉さんは弾丸を防げない。


「また遠距離からちまちま攻撃するのですか? 幾ら試した所で効きませんわ!」


「それはどうかな……? まずは一殺、もらった!」


「っ!? 防げない!?」


 心の臓を貫く音。破裂する赤に景色が染め上げられる。直後、穿った心臓部から光が漏れ出す。


「……輝き誉れる五の剣デコラシオン:オフィシエ。布ですか……やりますわね……」


「次の魔法の効果も教えてくれたり?」


「ええ、もちろん。次の特殊強化は『光速切断』。単純に剣を振る速度が上がるだけです。ただ、それに付随して動体視力も上がりますので、疲れるんですよね、これ」


 そう言いつつ目を瞑る。

 馬鹿なのかな? 目が疲れるからと言って普通目を瞑る? 見えなきゃ死んじゃうよ?

 更に構えすらも一新される。新たな構えは東の国の騎士を想わせる構え。鞘に納刀した状態で、敵が近づいた瞬間に勢い良く刀を抜くあのスタイルは、幼いころお兄様の友人とガーデンで刃を交えた経験と物珍しさから記憶に残っていた。果たして細剣でその構えを取ることに意味があるのか甚だ疑問は尽きないけど……。


「有効範囲は15mですわ。上手く避けてくださいね!」


 ――? 何を言って――。

 なんとなく。ほんとになんとなく、後ろへ下がった。15mと言われて怖気づいたわけでもない。きっと死線が見えたとか、そんなような感覚。勘が全力で後ろに下がれと脳に命令を下す。

 鞘に収まった剣に力が入ったところまでは視えた。

 その後、視界に入ったのは、肩まで流した自分の髪の毛が体から離れるところ。


 冗談でしょ? ここ、到底あの剣幅で届く距離じゃないのに。

 そして相も変わらず剣は鞘に収まったまま。


「まだまだ行きますわよ!」


 だめ、これ以上連続は見切りきれない!

 近づくどころか、避けることもままならないなんて……っ!


「くっ……!!」


 肩と腕に食らってしまった。だけど、致命傷じゃない。この程度なら十数秒で治せるし。

 厄介だ。15mなんて距離、剣が補っていい範囲じゃない。

 でも、時間もない。相手がまだ三段階も力を残しているこの状況で持久戦を仕掛けるのは愚の骨頂!

 攻める! どうせこの身は使い捨てだ。切り刻まれたって治せばいい。

 可能な限り前方へと物を錬成する。今のうちに。

 進め、進め前へ!!


「うぁあぁああああ!!」


 岩が切り崩される。草木は裁断され、鉄にヒビが入る。 

 耳が飛ぶ。指がちぎれる。脇腹は裂けて、血が滝のように溢れる。


「や、やめて下さい! いくら元に戻せると言っても痛いのは嫌でしょう!?」


「お兄様のためなら……こんなの、慣れたもんだよ!」


 左手で魔導書を守りながら、右の手で持った鉄製のナイフを突き刺す。 


「はぁ……。お見事ですわ。実は速さに割り振った分火力不足なので。見掛け倒しですけど、大抵の相手はこれで諦めるんですけどね」


 血を吐き、先程と同様に傷口から光が生まれる。


「可能ならば、これで終わりにしたいです。輝き誉れる五の剣デコラシオン:コマンドゥール!」


 次の段階に移行した途端、細剣の剣身が消失する。


「あれー? 切る部分がない剣で一体どうやって戦うのー?」


 軽口を叩いてる内に、傷を修復する。肉体の修復は魔力消費が大きいから出来れば多用したくないんだけどな……。どの道この分じゃ出し惜しみした時点で負けちゃうか。

 

「この剣は、人を傷つける為のものではないのですわ。『時空切断』。人の生きる数秒を操る力です」


「数秒を操る?」


「見ていただいたほうが早いですわね」


 その場で剣を軽く振るう。警戒してみたけど、攻撃がやってくる様子はない。


「はい、こっちですわ♪」


 後ろから声がした。

 思い切り振り返ると同時に、地面を隆起させて突き刺そうと試みる。


「残念、そっちもハズレですので!」


 捉えたと確信した瞬間、ルミエールお姉さんの姿が消え、後ろから光の魔法に貫かれる。


「くうぅっ!!」


 一度きりじゃない。

 発射された魔法は直線のはず。なのに数方向からほぼ同時に魔法が襲いかかる。

 

「うぐぁああああ!!」


 今までの比じゃない流血。体液の欠乏を脳が訴えている。修復に魔力をつぎ込む。殺される。

 認識を改めなきゃ。この人、本当に強い。更に言うと相性が最悪だ。段階によって異なるけれど、基本的に「万物の一アルス・マグナ」の利点が通用しない。物量と応用性。そのどちらもするりとかわされてしまう。

 だとしたら……あまり得意じゃないけど物量で攻めるしかない……!


 大地に接続する。

 少しだけ、この人を倒せればそれでいい。力をぼくに貸して!


 地面が鳴動する。木々が生え、ぼくの周囲を取り囲む。

 なおも増殖を続ける木々。元の森の姿すら跡形もないほどに変形させ幻惑させる。 

  

「――!! まだこれほどの魔力を残してたんですか!?」


 これが、外れたらぼくの負け。

 当たっても……あはは、ちょっと厳しいかな……。

 ――でも引き下がれないよね。


「当たれぇええ!!」


 同時錬成。異形の森が胎動する。蠢く木々がルミエールお姉さんの姿を完全に覆い隠す。

 出来れば数秒の間に移動できない範囲を覆ってしまえ!

 原理はわからないけど、既に攻撃されているエリアには移動できないはず!

 

 拳を握りつぶす。

 その動作に連動して人工の森が徐々に音を立てて圧縮される。


「これで、どう!?」


「ええ、いい勝負でした……。チェックメイトですわ!!」


 声は上から響いた。倒れる体はやけに軽くて。

 力を使い切って防ぐことも叶わない。

 あーくそぅ。避けられちゃったか……。

 魔力欠乏によって薄れ行く意識。


 ああ、ごめんね。お兄様……。 



 魔の霧が烟る森の天井を眺める。


「……世界は広いなぁ。小国のお姫様がここまで強いなんて思いもよらない誤算だよー……」


 同時に、人を一番見下してたのは自分だったのだと思い知らされた。私を嘲笑ってた顔。きっと私がルミエールお姉さんに向けてたのはそんな顔だった。

 あーあ、恥ずかしい。完敗だよ。

 シロお兄さんに勝てなかった時は悔しかったけど、でもここまでじゃなかった。

 今は、只々悔しい。全部の魔力を使い果たして、それでも届かない。これじゃあお兄様の助けにもならないよ。


「あれより上がまだ二つもあるんでしょ?」


「あはは、残り二つはちょっと卑怯ですので。ここで終わらせることが出来て良かったのですわ」


 あれより卑怯って、それこそ記憶改竄とか幻覚系とか、なんでもありそうで末恐ろしいや。


「ねぇ、もしどうしてもお兄さんの所へ行くなら、私がついて行ってあげますわ」


「……ありがと、ルミエールお姉さんは優しいね。でも、目が覚めた。塔へ戻るよ」


「良いのですか? お兄さん……すぐそこにいると思いますわよ?」


「今ぼくが向かっても足手まといにしかならないもん。ぼくのせいでお兄様を危険に晒すのが……一番嫌だ」


「賢明ですわ。あの方はきっと負けませんと思いますので」


「……うん。ぼくもそう思う。そう思うことにするよ」

 

 差し伸べられた手を取り立ち上がる。この霧の向こうで戦っているお兄様。

 信じてるから。絶対、ぜったい戻ってきて。

 ぼくは、世界を救ってくるからね。お兄様の帰る場所を、あの玉座をちゃんと守っておくからね。

 騎士ってかっこいいですよね。

 女の子なのにかっこいいって憧れは、リ○ンの騎士辺りのせいな気がします。


 ブックマークありがとうございます!

 感想や評価もお待ちしてるので、ぜひ!

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