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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
終章 終わる世界の勇者と魔王
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Q.66-A 諦観と展望

 Q.66の1/2です。

 いよいよ修羅場。

「ボクはね、生命には生き残って欲しかったんだよ。本当さ」


 荒れ狂う暴風の中、姿勢一つ崩さず宙に浮く少年はそう語った。


「貴様等の意志など関係あるまい。我等は自身で進む道を拓くのだからな」


 星の祝福を受けた私達の王様もまた、同様に眉一つ動かさずに切り返す。

 

「皆が皆、君みたいだったならボク達は生まれることなんてなかったんだろうね」


「馬鹿を言うな。民は導く者が居て初めて持ちうる力を超える。旗を振る者だらけならば目的すらも見つけられんだろうよ。その逆もまた然りだがな」


「ふぅん。人類を背負って此処に立っている割に、随分と過小評価をするんだね」


「確かにこの星に生ける生命は皆愚かだ。停滞することを良しとし、安定のために尽くすことを放棄した」


 星を再生させる者との問答の中紡がれたその言葉は、間違いなくテラさんの本心でした。


「――だがな、一度立ち上がると決めたときの恐ろしさはこの世の何物にも勝ることを知った」


 でも、その弱さを私達に突きつけるのは、この人が誰よりも人類の事を好きだから。終わらせたくない、先を見たいという他ならぬ自身の願いを叶えるために、この人は大きなものを背負っているんですね……。


 目に入った人が誰であろうと、困っていたら見境なく助けたくなってしまうシロとは異なり、自分のために全体を救う人間。比べると聞こえは悪いけれど、始めから人類全てを救済の対象に入れている分……きっと覚悟は重いはず。

 私は使命感こそあったものの、そこまで命に執着することは出来ませんでした。救世の巫女なんて持て囃されてもこれっぽっちも誉れと思ったことなんてなかったし、ガーデンへ行くまでは自身の境遇を呪ってさえいましたから。

 だから。だからこそこの人がどれだけすごい人かを私は確かに知っているんです。


「それこそ、そこにいる小娘達に見せられた。人類の可能性をな」


 横目でこちらを見たテラさんと目が合う。あの目は覚悟の目。時折シロも見せる意固地の目。

 私をばっちり視界の端に捉えたテラさんは、此処まで届くような声で告げる。なんとなく察してしまった、聞きたくないその言葉を、大きな声で。 


「セトラ! 指揮権をやる! 隊列を下がらせよ!!」


「……っ! テラさんは!?」


「当然残ってこいつの相手をする。ふん、聞かなければ理解できないほど矮小な出来の頭でもないだろう! 早く行くが良い!!」

 

 聞かなくても薄々感づいてはいましたけど、まさかこの人本気で……。

 貴方がいなくなることは、それこそ民の力の消失を招くでしょうに……!


「……でも……!!」


 もちろんその後の人類を誰が導くべきかなんて大仰なことで、私が本気で考え迷っているわけないです。繰り返しますが見ず知らずの人が死のうが私はどうだって良いんです。知らない命まで意識して背負えるほど私は強くはなれなかったから。

 ただ……残されたソルレーヌちゃんやテラさんを心の拠り所にしていたガーデンの皆さんのことを思うと……。


「……ああくそ。暫し時間を貰っても構わんか? どれ、敵ながら話が分かると見込んでの頼みだ」


 これから敵として刃を交えるだろう相手に、テラさんはあろうことかそんな頼みを申し出ました。


「うん、誰だって後悔はないほうが良いもんね。ボクは構わないよ」


「恩に着るぞ。此方・・に来たのが貴様で良かった」


 そう言うと一礼し、敵前にも関わらずテラさんは天使に背後を見せながら私の方へと向かってきます。魔力も纏わず、今攻撃されたら即死とはいかないにしても不利になるというのに、無防備なままで。

 待機した兵隊の海を割り、王様は私達の目の前までやってきました。


「……ガーデンはセトラ、お前に託す。なに、王位を継げというわけではない。偶に顔を覗かせ、道を誤るようであったら正してくれるだけで構わん。お前ならそれができるだろう?」


 傲岸不遜極まりないあのテラさんが不意に見せたのは、慈しみに溢れた笑顔でした。

 普段だったら似合わないと大笑いしたところですけど、どうして……どうして今そんな顔するんですか……!


「お兄様……戻ってきてくれるよね……?」


 ソルレーヌちゃんも違和を感じ取ってか、いつの間にか彼の元へ詰め寄り袖をギュッと強く握りしめていたました。


「離せソルレーヌ。お前もそろそろ兄離れのときだろう。いやシロに付いていくと言った日は驚いたがな……」


「やだよ! だって……だって……まるでもう会えないみたいな……そんなの…………っ!」


「――頼む・・


 誰に頼んだのか。一瞬、ほんの一瞬辛そうな表情を浮かべたテラさんが一言そう口にすると、まるで糸が切れた人形のようにパタリとその場に崩れ落ちるソルレーヌちゃん。


(貸し一つ、ね~♪)


 唐突に天より降り下りた女の人の声には覚えがありました。二度目のガーデンを発つ前、ソルレーヌちゃんの体から追い払ったはずの天使の思念体。


「ふはは、馬鹿を言え。大切な肉親の体に、貴様のような下女の魂を欠片でも残しておいたことを光栄と思うが良いわ!」


(あらあら、下女だなんて心外ね。こう見えて生前は貴族の娘だったのだけれど。まあ良いわ、借りは必ず・・返してもらうから。それじゃ、一足先に塔で待ってるわ)


「……ふん、まあ感謝はしておくか。こうでもしないと、な……」 


 天へと消えていく声から、再びソルレーヌちゃんへと視線を戻したテラさん。

 数秒の間、何か言いたそうに彼女かれの小さな躰を見つめて……。


「さて、セトラ」


 迷いを振り切るかのように、意識を失ったソルレーヌちゃんから私の方へと向き直りつつ話し始めました。既に兄の顔から、王の顔へ。


「我にはもう思い残すことはない。あるとしたら貴様が我軍を死にたらしめたその時だ。さあ、進め。」


「いや、ヤです……!」 「セトラお姉ちゃんっ!!」


 何故か、涙が止まりませんでした。行かなきゃだめだと分かっているはずなのに。フレイヤちゃんの制止すらも聞き入れず。 


「だって、私……まだ……!」


 この王様は心残りはないと、そう言いました。けれど私は……っ!

 まだ言い残したことは沢山あるし、ソルレーヌちゃんを半ば無理やり連れ出したことも……。

 それに何よりガーデンでの戦闘のこと、傷負わせちゃったこと、まだちゃんと謝ってないのに。

 

「なあ、セトラよ」


 名前を呼ばれて、俯き、涙に歪んだ顔を上げると。


「――また、刃を交えられたらよいな。その時は、今度こそ全力だ」


「……っ。…………はい」



 振り返ったらもう進めない、知らぬ内にそんな自己暗示じみたものに囚われ、私の足は只々前へと進んでいました。


「全隊、後退して下さい!! 一刻も早くこの場から退避しますっ!」


 涙はもう流さない。袖で拭った分を最後にして。

 後方で次第に遠ざかっていく声が二つ。

 

「さあ、準備はいい?」


「ああ……。随分と待たせたな。この礼は全霊を持って相手取ることとしよう!」


「じゃあ、行くよっ!!」



 地図にも載っていないであろう旧世代の忘れ去られた道を進む。

 背後の世界は到底この世のものとは思えないものとなっていました。止むことをを知らない驟雨、轟く雷鳴、立っていることさえ侭ならぬ烈風、吹雪。同時多発的に天候災害が巻き起こって、通常よりも足取りを阻まれている気が……。

 既に数km離れている此処ですらこの状況なのですから、あの中は一体どうなっているか想像もできません。テラさんが人類を象徴するならば、あの天使の少年はまさしく自然そのもの。まさかこんな形で、気ままに猛威を振るう「現象」である自然の力を、意志を持って扱われる事がどれだけ恐ろしいかを思い知るとは。

 テラさん……どうか無事で居て下さい……っ。


「セトラお姉ちゃん……。今は、これからのことに集中して。……くるよ」


 私の心の機微を感じ取ってか、フレイヤちゃんがそう忠言してくれたまさにその直後。


「――!! もーりーっ! 防いでっ!!」


 風雨に紛れて、きらめく光が一筋。

 見えたと思った時には既に遅く――。

 蒸発音と共に弾けた、フレイヤちゃんのコウモリを象った自立型炎魔法が私を守ってくれたと認識するのに、そこから更に数秒。


「セトラ~。囲まれてるみたいだよぉ~!」


 珍しく声を張ったクアさんの声で我に返る。


「もうっ! 普段からですけど、どうしてもっと早く言ってくれないんですかクアさんっ!!」


「だってぇ~、この雨とか霧とか、魔力を遮断してるし~」


 そう言われて気付く。

 後方の隊の魔力を感じていないことに。幾ら微量な魔力であろうと敵を常時警戒し、反撃可能な状態で張り詰めていたら少なからず反応する魔力を感じない?

 こと魔力探知においては人並み以上の自信はありましたけど……、どうして?


 次いで、木々を縫って響く叫び声が連続して別々の方向から次々上がる。

 既に奇襲を受けている!? 助けに行かないとっ!


「っ! 先陣は任せま――」


「だめ」


 背中から聞こえた鋭い制止に私の言葉は遮られました。

 伸し掛かっていた僅かな重さが徐々に消え、ついさっきまで気絶していたはずの声の主はゆっくりと私の背中から降り終えると、更に続けて、


「ぼくが行くよ。セトラお姉さんはお兄様に言われた通りにしなきゃだよ?」


 口調こそ、いつもの明るめのソルレーヌちゃん。ですが、その瞳は笑ってはいませんでした。


「大丈夫。絶対塔には辿り着くから。賢者の仕事は忘れてないよ。それに――ぼくが強いの知ってるでしょ?」


 小悪魔じみた笑顔。いつもだったら可愛さ満点、花マルをあげたい所ですが、今ばかりはどうしてか強がっているようにしか見えなくて……。


「……じゃあ、まかせた。ぜったい戻ってきて。やくそく、ね」


「フレイヤちゃん!?」


「迷ってるひま、ない……よ? だったら強いソルレーヌに任せたほうがいい……」


 いや、確かに合理的だけど……っ! 


「あの、心配なようでしたらわたくし、ソルレーヌさんに付いていきますわ!」


 初めての戦闘。ついていくのがやっとといった様子だったルミエールさんがそう言うと同時に勢い良く手を挙げました。


「ん~。そうだね~。あたしとルミちゃんの役割が被っている部分もあるし、それが一番得策かも~」


「……。わかりました。けれど目標は『後方部隊の救出と必要に応じての救護』、これのみです。あと、この霧で無駄になる可能性もあるかもしれませんが、私の通信魔法で常に状況は報告して下さい」


「はい。なんとしてもソルレーヌさんと戻ってきますので!」


「じゃあ、行ってくるね」 


 来た道を戻っていくソルレーヌちゃんの背中。


「さ~。あたし達はあたし達で頑張らないとね~」


「そうですね。ソルレーヌちゃんの為にも、……テラさんの為にも。しっかりと塔までのルートを拓きましょう。――五感拡張ライズ・オール


 研ぎ澄まされる感覚。魔術師として久方ぶりの戦いは、血湧き肉躍る……というわけでもないみたいですね。


「セトラ~右から二体~! 引き付ければ四、五体一気にやれるよ~」


「了解、ですっ!」


 さっきは避けられなかった光線も間一髪ながら避けられるまでに視えている。大丈夫、あの時と違って私も戦える……!

 でも、私じゃ敵の自立型に致命傷を与えられないことは明白ですので、最小限の出力に絞りつつ注目を集めて……!

 いまっ!


「フレイヤちゃん、お願いっ!」


「きてっ……! サラマンダーっ!!」 


 霧ごと敵を薙ぎ払う爆炎。到底私の背よりも二回りほど小さな少女が発動したと思えない、純粋な魔力による力の奔流。

 風の谷でのシロとの戦いを経て此処まで強くなったなんて……。えっちなウェントス君にも多少ばかりは感謝しないといけませんね。ほんとに不本意ですけどっ!


「よ~し、これでひとまずは大丈夫っぽいよ~」


 同じ水属性だからか、それとも純粋に魔力探知補助の面で勝っているのか、私よりもクアさんのほうが正確みたいですね。私は魔法で強化しても半径10m程度しかわからないんですけど、流石は水の賢者。普段からしっかりしてくれれば文句はないんですけど。まあ、それもクアさんらしさですね。ハキハキ動いてるクアさんはぶっちゃけらしくないというか、恐怖さえ覚える気がしますし。


「援護、ありがとうございました。できるだけ魔力消費を抑えて進みましょう」


「あいあいさ~!」

 

 さて、と。人数が減ってないことを確認して、再出発です。



 進む、進む、霧の中。

 前進しているかも分からないまま、何が正しかったのか迷いながら。

 後ろに残してきた者を想いすり減っていく精神、途絶えることのない敵襲に消耗する魔力。

 幾度戦闘を繰り返しただろうか。永遠にも感じる道程を彷徨いながら、進んで、進んで。

 ――やがて、


「辿り、着いた……?」


 見覚えのある場所。

 シロ達と出会った、はじまりの場所へと私達は辿り着いていました。

  

 はい。何故チームを分けたのかと、過去の自分をぶん殴りたくなりました。

 理由って言ったら可能な限り皆に出てほしい! の一言なんですけどね。

 ですので合流まで暫しお付き合いください。


 実は、フレイヤちゃんの召喚する魔法ペットには一人ひとり名前があったり。いつか纏めるのも良いかも……。


 シロパートもあるよ!

 

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