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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
二章 紅蓮の街の寡黙少女
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Q.7 ……どーせ、炎魔法使う人はみんな元気な人ばかりだっておもってるんだよね?

色々謎が深まる今回。

「かつて世界を滅ぼした力を見せてあげましょう。『第一の警笛』です!!」


 天使の男は小さなラッパを生み出した。

 それは世界を滅ぼした力。お伽噺の中だけだと思っていた、非現実的な恐怖。彼がそれを吹くと、天空の眩い魔法陣から冷たく輝く真っ赤な雹が浮かび上がった。  

「……させない……! わたしの前からは……だれも消えさせない……っ!!」


 小さな女の子は夜に太陽を生み出した。

 それはかつてこの街を燃やした爆炎。それと同じ、いやきっとそれ以上の想いを詰め込んだ真っ赤な希望が夜を照らす。


 ぶつかり合う二つの魔法。

 奪うものと護るもの想いがせめぎ合う。

 それでも……ダメだ。足りない。少女の魔法が少しずつだが押されている。

 やはり賢者と言えど神の使いには敵わないのか……!


 ――一人なら、ね。


 何処からともなく声がする。頭に直接語り掛ける優しい声色。だがその声の主はセトラではない。

 千年前に聞いた声。

 その声の主が誰か判った途端に、横たわる俺の隣に炎の賢者が表われる。

 そんな――こんな事、あり得るのか? 


「メルティ……? メルティなのか!?」


 ――……お久しぶりだね。お兄ちゃん。


 炎を纏って現れた少女は俺の知るメルティよりも少し大人びた、世界を救った後のメルティだった。

 短かった栗色の髪は少し伸び、邪魔にならないよう後ろで縛っている。小さかった体も女の子らしく、成長して――。

 それでも「お兄ちゃん」呼びは固定なんだな。懐かしいような、こっぱずかしいような。

 ――じゃない。今は感傷に浸っている場合じゃない! 


「どうやって――いや、それよりも何でこのタイミングで!」


 ――私は一つだけお兄ちゃんに嘘をついていたんだ。幻想展開仮想魔法イマジナリ・クラフトワークはお兄ちゃんと私だけの魔法じゃないんだよ……。

 

 俺の質問に答えるそぶりは一切見せず、おもむろにそう言うと少し寂しげな表情を見せるメルティ。


 ――……実はあの魔法はアトラお姉ちゃんに頼まれて創ったんだよ。「鍵」を創ってくれって……いつか必要になるからって。


「『鍵』? 何を言っているんだメルティ! それよりも今君の子孫が大変な目に……!!」


 ――……お兄ちゃんならきっとあの子を導いてくれる。……あの子は……私に似てちょっと臆病だけど、才能だけなら私も敵わないかも。

 さあ、私達の魔法を使って。それで助けてあげて……メルの希望の光を……!


「おい――!!」


 その言葉を最後にメルティは空気に溶けていくように消えてしまう。

 どういうことだ? 幻想展開仮想魔法イマジナリ・クラフトワークを使えばいいのか?

 アトラは俺に何を隠していたんだ?


「……んっ……だ、だめっ……!!」


 空を見上げると炎が雹に押し敗け、今にも消えてしまいそうなほど小さくなってしまっていた。

 

 ミラは――駄目だ、目を覚ますそぶりは無い。

 

 ――違う。誰かに頼るな。メルティが言った事を信じるしかない!

 

 少女の前に立つ。折れた肋骨が突き刺さったか、肺が尋常じゃない程悲鳴を上げるが何とか立ち上がる。

 

「……よく頑張った。この炎ならきっと燃やし尽くせる。勇気を振り絞ってくれて、ありがとう」

 

「……でも! ……もう消えちゃうっ!」


 あと少しでも刺激を加えたら泣いてしまいそうな少女の頭を撫でる。

 ……ちょっと位は無礼講だ。格好はつけさせて貰うぜ。


「まあ見てろって。絶対に死なせやしないし、俺も君の前からいなくならない」


「……っ!」


 ……メルティア。今度こそ頼むぜ。

 ――任せてよ、私達で守り抜こう。


「『幻想展開仮想魔法・炎イマジナリ・クラフトワーク!!』」


 少女の繰り出した炎は一度完全に潰えた。

 それを見て勝利を確信したかのように高らかに笑う天使。


「ハハハッ!! 一足遅かったみたいだね……思い知ったかニンゲン! これがぁ! 神と! 地を這う虫共の違いだぁ!!」


 バーカ。思い知るのはお前の方だ。

 人間が神に逆らえないとでも思うなよ。もうこちとら一匹は天使をやっちゃってるから引っ込みがつかねーんだよ!

 笑いたきゃ笑ってろ。絶対にその顔を腐って歪んだ性根と同じにしてやる!


「……まだ……消えてないよ……!」


「ああ、ここからだ……弾けろっ!」


 ――瞬間。

 

 夜の闇から生まれる大爆発。

 

 爆音と共に夜空に大量の炎の花が咲き乱れる。

 ミラとのコンビネーションでは威力を重視し過ぎていささか攻撃が直線的過ぎた。じゃあこれならどうだ?

 真っ黒なキャンパスを縦横無尽に駆けていく炎の網。

 圧倒的な火力が雹の礫を、魔法陣を、ひいては天使の男まで飲み込んでいく。

 やがては全てを包み込む巨大な球体となり空に浮かんでしまう。


「そんなッ!? バカな! 『第一の警笛』だぞ!? 神の力がぁああアアア!!!」


 男の絶叫が消えてもまだ炎は残り続ける。中身を燃やし尽くそうと燦々とエルメリアの街を照らし出す。


「……やった……の……?」


 目を細め、敵の姿が見えない事を確認する少女。

 やめてね! それ言うと大体やってないこと多いから! 旅の経験で学んだから!  

 

 ボフンッ…!


 あぁ……出てきやがった! やっぱり仕留めきれてない!

 かと言ってこの子を責めるのも筋違いだぞ、俺。落ち着け……相手は確実に弱っている。ワーククラフトもあと一発ならギリギリ発動できる。……落ち着けば勝てる。

 

「フフッ……げほっ……まさか『第四の警笛』まで吹かされるとはね。これは参った。完全に見くびって……ごふっ……いたよ……!」


 羽は焦げ落ち、整った顔は煤まみれ。

 やったぜ! イケメン顔が台無しだぁ!!

 相手が弱った事で急に強気になり出した俺は間髪入れず次の魔法の準備へ移行する。


「……まって……」


 ――が、それを隣のフレイヤに制止されてしまう。

 

「……フハハ……今回はこの辺にしておくよ。僕はラッパを二つも吹いて少々疲れてしまった。……君達とならまた会えるだろう。……次は『塔』で待っているよ……」


 どっからどう聞いても負け惜しみにしか聞こえない。俺の中の天使のカリスマ株はここに来て大暴落を続けていた。案外人間らしいところもあるんだなと、そう思っていると、


「……なんどでも……守るから。だからどうか街のみんなは……安らかに暮らせるようにしてあげて……」


 何も知らない無垢な少女はなおも天使へ懇願する。己の罪を償おうと。

 ……この街を漂う灰が街の皆だとも気付かずに。


「……何をバカなことを――」


「黙れ。それ以上喋ったら問答無用で撃ち落とす。翼を焼いて俺らと同じにしてやるよ」


「……フッ……随分と血気盛んなナイト様だ。わかったよ。消えるさ……だが」


 ――次会う時は君達が灰になる番だ。


 とんだ捨て台詞だな。返す言葉は決まっている。


「「ならないよ……絶対に……!」」


 少女と顔を見合わせる。生まれる共感。溢れる純粋無垢な笑顔。

 そして俺達は同時に糸が切れたようにその場に倒れこんだ。



 ――鳥たちの鳴き声が聞こえる。

 あー。目が開けられない程眩し……って朝っ!?

 時間経過が恐ろしく早い事に驚いて、反射的に勢いよく跳ね起きる。

 あれ、跳ね起きても体がどこも痛くない……? むしろよく眠れて疲れが取れたような……?


「あ、おはようございますシロ様」


 目を覚ました場所は街外れのあの図書館、その一室。

 本を読みながらゆったりと時間を潰しているセトラが朝の挨拶をしてくれる。

 ああ、結局あの後気を失って……。そこで記憶が途絶えている。戻ってきたセトラがここに運んでくれたのだろうか。三人をこんな離れまで運ぶのは大変だったろうに。

 どうやら余程魔力が枯渇していたからか少々固いソファでもぐっすりだったらしく、まだ目は窓から差し込む光を煩わしく感じ取っている。


 そうだ……少女は!?


「無事ですよ。シロ様と同じくぐっすりです。ふふっ」


 セトラが指さす先、向かいのベットに少女はいた。

 若干栗色に近い黒色の先端がくりくりとしたショートヘア。ちっこい体躯。今は閉じられているけどミラと比べると幾分か優しい色をした真っ赤な眼。うーん。改めて少女をよく観察してみるけど、どれをとってもまあどこにでもいる普通の幼女だ。(※ただし美幼女であることは間違いないと俺が保証しておこう)

 こんな小さな子が昨日俺達を救ったんだから大したもんだ。

 彼女は今回はちゃんと『自分』と『その他大勢(おれたち)』を両方を救ってくれた。間違いなくメルティの意志はこの少女に受け継がれている。


「そうやってると寝込みを襲おうとしている不埒な輩に見えますよー」


「……ご指摘ありがとうセトラさん。でも俺にそんな趣味は無いから」


「……むにゃむにゃ……お兄ちゃん。えへへ……」


 なんてことを! 最悪のタイミングで寝言を発するなぁこの爆炎幼女は!


「じー……」


「知らない! 『お兄ちゃん』って呼べなんて一言も言ってない!! 断じて、神に誓って!!」


「あはは、おっかしー……! もう、私達を見捨てた神に誓ってどうするんです」


 確かに。じゃあ魔王ミラに誓ってが正解? 

 あ、そのミラはどうなったんだ? あのキザ天使にぼこぼこにされて気絶したのは覚えているけど大事には至らなかったのだろうか? 指輪の糸が切れていないから消えたなんてことは無いだろうけど。

 魔法の糸をぐいと手繰り寄せると、俺が眠りこけていたソファの下からずるずると元魔王が這い出てきた。


「……なんでそんなとこで寝てんの?」


「うーん……結構ダメージ喰らっちゃったから日に当たりたくないの!」


 そういうトコは魔王っぽいのな。


「何よその顔は! ……で、シロ。あいつはちゃんと倒したんでしょうね?」


 急に眼つきが鋭くなるミラ。蛇に睨まれているような――煙に巻く選択肢を許さないだろう姿勢。

 はぁ……正直に話そう。あいつとの因縁はこれからも続くだろうし。


「逃げられた。後ちょっとまでは追い詰めたんだけどな」


「どうして殺さなかったの! あの子をあんなに痛みつけて――」


 部屋に響く怒号。今からでも消しに行ってやる。そんな意を含んだ怒りを露わにする。

 

「……わたしが……やめてって言ったの」


 ミラの大声で目が覚めたのか、まだ重たそうな目元を擦りながら少女が答えた。

 

「何でっ! あいつのせいでこの街は――」


「ううん……違うよお姉ちゃん。わたしがやったんだからわたしのせい。それくらいは……わかるよ」


 年端もいかないこんな少女が背負うにはあまりにも重すぎる罪過だとは思う。きっと一生忘れることが出来ない記憶となって少女の中に強く根付いていくんだろう。

 しかし、それを背負うと少女は決意した。


「……夢の中でごせんぞ様に会ったんだ。今度は……その力で多くを救いなさいって、そう言ってた」


「そうか。メルティはそんな事を……」


「ねえお兄ちゃん……。わたしもいっしょに連れて行って!」

 

 もちろん、そのつもりだった。セトラに確認をとろうと目をやると、彼女もそのつもりだったらしく何も言わずただ頷いてくれる。

 ミラは――、 


「何て良い子なの!? 感動しちゃった……! ねえ、セトラ! わらわこの子を妹にする。良いよね!?」


 寝そべった体勢のまま高速で這い寄り少女の足へ頬ずりを始めた。……ああ、自力で立てないのか。にしてもその少女の足を頬ずる光景はまごう事無き事案そのもの。


「いやー、私じゃなく本人に確認をとった方が良いのでは……?」 


 苦笑いを返すセトラに変わって、仕方なく俺がミラを少女から引き剥がす。ついでにソファに座らせておいた。もちろん反対側の。


「あ、ごめんシロ。わらわはバゼッタ・ミラ・エイワーズ。『ミラお姉ちゃん』とそう呼ぶのよ!」

 

 随分とぐいぐい行くなぁ。そういやこいつ妹が居るんだっけ? 正確には「妹みたいなもの」だったか。……シスコンだ。絶対にこいつはシスコンだ!

 はっ! まて、今この流れなら便乗しても不審に思われない……?  


「お、俺はシロって言うんだ。ま、まぁ一応仮の名前だけど好きなように呼んでくれて構わない……ぜ?」


「……うんっ! シロ『お兄ちゃん』! ミラお姉ちゃん! えっとぉ……」


 ふはは! ちょろい、ちょろいわ! 残念だったなミラ。この呼び方はお前だけには渡せねえ……!

 キッと、名前が分からないセトラへの対応に困っている少女に気付かれないように、僅かな間だけ俺に忌々しいと言わんばかりの視線を送ってくるミラ。だが言い返せまい。お前が先に言い出したんだからな。ここでみすみす好感度を落とすような真似は出来ないよなぁ!? 

 と、クズ二人がいがみあっている一方で、 


「私はセトラって言います。セトラ・アーリエ。あなたのお名前は?」 


 唯一完璧な対応を俺ら二人にみせしめるセトラ。

 アーリエ……か。わざわざ確認をとるまでもないと思っていたけども、かつての巫女、アトラ・アーリエと同性を持っている事を間接的に伝えてくる。

 まあ、雰囲気、性格、声色。どこをとってもアトラにそっくりだもんな。そりゃ当然か。


「……わたしはフレイヤ・リヒトムートっていいます……。よろしく、セトラお姉ちゃん……!」


 こちらはメルティと同性ではないみたいだ。おおよそ「エルメリアと炎の賢者」の記述から予想はついていたけれど、理由は単純に一族が表に出るのを嫌ったからだろう。

 要らぬ迫害や責任を後世に背負わせないようといったメルティなりの配慮だろうな。

 そんな俺の横で口をパクパクさせているミラ。余程お姉ちゃん呼びに拘っていたのか、結局全員同じ呼び方で統一された事に呆然のご様子。もうそこまで行くとちょっと怖いぞ……?

 

「はい! 楽しい旅にしましょう!」


 ――それでですが。とセトラは話を続ける。


「これからどうします? ミラ様のお知り合いの方に会うのに魔界へ向かうのは変わりませんが。ミラ様がその後様子じゃ長旅は危険ですし……」


「数日この街に留まるか、危険を承知で次の拠点を見つけるかってことだな?」


「わらわは大丈夫……。引きずられても文句言わないって約束する」


 おお珍しい。……ミラ的には俺達の足手まといになるのが嫌なんだろうが、


「却下だ。戦闘時に俺が困る。そういう事だから無理に進むのにはあまり賛同できないな。旅慣れしてないフレイヤもいるし」


「ですね。私も同意見です。数日の間は街の方々には申し訳ないですが、残っているお店から食料や装備を買い取って備えましょう。ミラ様……よろしいですか?」


「うん……わかった」 


 真っ直ぐ座るのを諦めて体をソファに預けるミラが少し不満げに呟く。

 俺はそんな一人では動けない体になってしまったミラを見て内心でほくそ笑んでいた。

 大丈夫だ。安心しておけ、俺がフレイヤと仲良くしておくから。なんなら返ってくる頃にはおんぶとかしておいてやるよ……!

 ここで初めて、フレイヤが自分から言葉を発する。


「……セトラお姉ちゃん。わたし……まだ燃えてないお店わかるよ……」


 いいね。セトラと三人で楽しくショッピングだ! 


「おっ、良いですね! じゃあ二人(・・)で行きますか!」


「うん……っ!」

 

 あれ、何故か置いてけぼり感がするなー。何でだろうなー。

 何で自然に俺を仲間外れにしてくれたのかなー? ……泣きそうなんだけど。

 ……ここでよくよく今の現状をおさらいしよう。

 ミラと5m以上離れられない+ミラ行動不能=? 


 あれっ……じゃあ俺は……?


「はい♪ シロ様もここでお留守番ですね!」


「……いやだぁぁあああ!!!」


 悲劇の元凶を睨み付ける。

 ……ソファに横たわるミラの口元から八重歯が顔をのぞく。一瞬の事だがその口が悍ましく、邪悪に歪んだ気がした。 

シロとミラ以外のキャラの名前には一応意味とか由来とかあります。

中でも性質上、賢者勢、天使勢は特に顕著だと思います。

この辺りは厨二全開ですね!

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