Q.60 たった1つの願い
サリエルが割とやばい。
後今回はイラスト付きです。
そろそろあっちは終息したかな。
カガリ君とハヅキちゃんのことだから、あの二人相手にもしものことがあった場合でもなんとかなるはず……。だと信じたい。
「なんだい? もしかして子供達の事が気になるのかい?」
む、なにようロノウェちゃんったら。
「これでもあの子達のことはそれなりに気を配ってるのよ?」
「……へえ。天使にも情があることに驚きだよ」
私にとってあの子達は計画を有利に進めるための駒でしか無い。最初こそそう思っていたけれど、次第に勝手に巻き込んでしまった申し訳無さと、それでもこの世界を楽しそうに受け入れてくれた二人にせめてこっちでは幸せになって欲しいという気持ちが生まれてしまったのだから仕方ない。だって二人ともすごくいい子で純粋なんだもの、それでいて危なっかしいから放っておけなくなっちゃった。
それにしても天使に情ねぇ。ホントにあるのかどうか疑わしいところだけど……。ああ、シロちゃんのところにいる天使、ガブリエルちゃんは割と元気だったわねぇ。他のメンバーもそう考えると感情豊か……ね。うん。あっちに最近全然顔出してないなぁ。もう流石にバレてると思うから気軽に行けるわけないんだけど。
ああ。あと、この娘もか。
『わたし達のことなんだと思ってんですかー? 静電気流しますよー?』
ちょこんと肩に乗ったフェルト生地の天使――の成れの果てから、少しばかりくぐもった声が発せられる。彼女の名前はラミエル。元「七天」のメンバーで、向こうでは多分死亡扱いになってるはずの少女だった。
まんまと巫女の末裔ちゃん達に一泡吹かせられたところをロノウェちゃんに回収され、それを私が改造・無力化したことでこの愛らしい姿になった。元の姿のまま鎖に繋いでおくのも何だか可哀想だったし、それにラミエルちゃん可愛いのよねぇー。私のこと「先輩」って呼んでくれる、こんな生意気で可愛い後輩を見殺しには出来ないわ。
ちなみに今は『どーせこのカラダじゃ何も出来ないですからー』って協力姿勢を見せてくれてる。やっぱりいい子なのよねー。
『ちょっとー聞いてますー? もー! ラファエルせんぱーい、この悪魔わたしのこと無視するんですけどー』
「全く……なんで連れてきたんだ。これで作戦に支障が出たらどうするつもりなのか」
鬱陶しいと言わんばかりの視線をラミエルちゃん人形に投げかけるロノウェちゃん。二人は相性悪いみたい。それもそうか。元はといえばいがみ合い、殺し合ってた間柄なんだから。人間と魔族のように千年もの時間が流れているならまだしも、計画に従ったとは言え魔界を滅ぼそうとしてたんだものね。
「これから戦うのはあのサリエルなんだし、作戦会議の通り、ラミエルちゃんが活躍するかもしれないでしょ?」
『今から交戦するのってあのインテリ眼鏡ですよねー? わたしぃあいつ嫌いなんですよね。なんかキモいですしー、視線とか』
「あらあら。わからないわよ? 鬼畜そうに見えて、実はヘタレかもしれないじゃない」
『いやいや、絶対ねちっこいですってー。あの下卑た笑い顔が全てを物語ってますよー。きっと部屋に可愛らしい女の子の人形を解体したのとか転がってるレベルですってー』
「一体何の話をしているんだ君達は……。はぁ……。神が唯一間違いを犯したとしたら君たちに自我をもたせたことだな。そうしなければ圧倒的有利だっただろうに」
――こちらからしたら非常にありがたいことだが。そう締めくくって再び大きく溜息をつくロノウェちゃん。
その通りかもね。現に、こうやってラミエルちゃんはサリエルのことを嫌ってる。きっとわたしはミカエルから嫌われてるし、ほんとうに仲がいいのはガブリエルちゃんとウリエルちゃんの二人くらいね。と言っても今はガブリエルちゃん、天使じゃないから天使勢のチームワークは過去最悪な状態なわけだけど。もし私が神だったらこんな世界を滅ぼすのに三日とかからないだろうなぁ。やっぱりあんなヤツでも未練でもあったのかしらねぇ。
「あれだって全知全能って訳じゃないのよ。きっと元は人間たちと変わらないんだから」
……そう。あいつだって元は、ね。
「ん? ラファエル、君は何か知って――」
「うふふ、『きっと』の話よー♪」
『ラファエル先輩って昔から秘密多いですよねー。二番目に古株のくせにぜーんぜんわたしが造られる前のこと教えてくれないんですもん』
「知らなくて良い事は教えなかっただけ。ラミエルちゃんが傷つく真実なんて教えたくないもの」
これは半分本当。彼女たちにとって自分たちが生まれた理由なんて知らないほうがいい。そのほうがきっと楽だから。生きてく上でも、機能が終わる時も。
『とか言いつつ魔界ではちゃっかり先輩に召喚権奪われててピンチだったんですけどー。ていうかそのせいでこーんな体になっちゃったんですけどー』
あら、「半分」の部分を突かれてしまったわね。
「あはは、ごめんね。ラミエルちゃん」
ロノウェちゃんが拾ってくれなかったら、私はあそこでラミエルちゃんは切るつもりだった。彼女には悪いけどあの状況で邪魔なラグエルちゃんを確実に潰すには、あの二人しかなかったから。だから今ここに彼女がいるのは偶然の一言に尽きる。
『まあ、まだこうして生きてるんだからマシですけどねー。先輩には感謝してますよ』
彼女のことだからもっと激しい避難を想定していたけれど、返ってきた言葉は意外にも「赦し」だった。ああ、やっぱりこの子を連れてきて正解だったかも。かわいいわ。
「やだもう、感謝なら拾ってくれたロノウェちゃんに言ってよぅ」
ラミエルちゃんは立派な癒やし要因ね!
この支配されつくされて、荒んだ国にちょうどいい清涼剤だわ!
『やですよーだ! 悪魔なんて辛気臭く魔界の泥でも啜りながら這いつくばって生きていけばいいんですー』
「こっちこそ天使はお断りだよ。高尚な名前の割には野蛮な殺戮兵器だしね」
前言撤回……かも。
二人の和解を夢見た私を余所に、繰り広げられたのは汚い言葉の応酬。やっぱり班分け間違えたかなぁ。カガリ君の厄介さを引き受けるか、目の前の二人の中の悪さを受け入れるかで悩んだ末にこっちを選んだんだけど……。シロちゃん達に会うわけにも行かなかったしこれが最善なのだとは思うけれど。
「仲良くしてよぅ~。お願いだから~」
「そんな暇はないよ。見なよ、あそこ」
足を止めたロノウェちゃんの更に先、普段は人々の往来で賑わっているであろう広場は、異様な静寂に包まれていた。人がいないわけじゃない。むしろビッシリと隙間がないほどに、几帳面に、神経質に立っている。ううん、並べられているんだ。更に一段高い演壇の上には見慣れた顔が。シロちゃん達の仲間……とあれは誰かしら? 老齢のおじさまとおばさまが麻布のみを身にまとって拘束されている。王族……?
『ほらー。やっぱ陰湿じゃないですかー』
意識もないまま演台に立つ一人の天使を注視している様子は、私の目から見ても間違いなく「悪趣味」という評価が下った。恍惚を浮かべたあの表情に-100ポイントしてあげたいくらい。
「ここにいるだけで国民の半分近くいるんじゃないのかい?」
「残りはお城とか主要部分かしら。でも郊外は灰が不自然に多かったから被害がないわけじゃないと思うの」
「まあ、間違いなく数百は殺されてるだろうね。抵抗されたか、ある程度の実力者か、はたまた第三者か。あの天使はいざとなればあそこの人たちを殺すかもしれないことは頭に入れておいたほうが良いかもね」
「……関係ないわ。人質を取られようと、人質ごと殺す。私達は始めから正義じゃないんだから」
そういうのはシロちゃん達の役割。私達まで正義に染まる必要なんて無い。
「君は……よくわからないね。カガリ達を案じたと思ったら人質は殺すって」
「……もしもの時の話よ。そんなことが起きてもいいようにカガリ君をこっちから外したんだから、それくらいは我慢してちょうだい」
「よくわからない」。そんなことは私自身もよくわかってる。もし明確な解答があるとすれば、きっと私は自分が一番可愛いのだ。「本当の彼に会う」。その目的を達するためだけに全ての物を切り捨てる覚悟はできてる。ただその中から切り捨てるものに優先順位を付けているだけで。仮にこの広場の人々が一斉に殺されようが私には何の被害も、実害も無いのだから。
「やれやれ、どの種族だろうと女って生き物はわがままだなあ」
ロノウェちゃんはそれを分かってくれるから好きよ。きっと王族である以上「捨てる」事ができる人物なのだろう。ガーデンの王やシロちゃん、そして彼とは違うタイプだから。
『差別はんたーい! 女の子は夢に生きてるからすべて許されまーす!』
「中身の綿をくり抜いて、豚の脳みそでも詰めた方がまだマシな思考になるんじゃないかい?」
「やめなさいって! そろそろ行くわよ。いつ向こうが動き出すかわからない」
相手がこのふざけた人形遊びに意識が向いている間に仕掛ける。彼の能力はちょっとばかり厄介だからなんとか先手を取りたい。
「精神汚染」、それが私とラミエルちゃんが知っている限りの情報からはじき出したラミエルの力だった。効果は単純。相手の深層心理まで彼の思うがままに塗りつぶす。死ねと命ずればきっとすぐにでも絶命に至るだろう。発動条件は恐らく対象が彼の目を見ること。これについては十数分この国の外から遠見の魔法で様子見したのみだから確証はない。事前にハヅキちゃんの能力を参考に対策を考えたけれど、「相手からの干渉を断つ」くらいしか思い浮かばなかった。ハヅキちゃん曰く、「わたしの場合は名前を告げることで相手にわたしを意識してもらうんです。あっ、でも、原理は……わからない……ですけど……」だそうだ。身も蓋もないその一言で対策会議は終焉を迎えてしまったのだ。ぶっちゃけると思考に割り込む方法は千差万別で本人すら正確にわかってないとのこと。
戦うのに全感覚を封じるわけにもいかないし、だったら事前対策ではなく事後対策を練ることにして、ラミエルちゃんを連れて行動することにした。原始的な手法ではあるけれど、洗脳が始まる前に彼女の放電で意識を取り戻す。効果があるかどうかは定かではないし、彼女に接触している一人に対してしか発動しないけれど、何も無いよりは遥かにマシだと思う。
ネックとしては、一番火力が高いと思われるロノウェちゃんに持たせようとしたら、彼女の方から『魔族臭くてやでーす! いい匂いのラファエル先輩かハヅキちゃんが良いですー!』とNGが出てしまったことかなぁ。私としては一撃で決めちゃいたいからロノウェちゃんが持ってくれたほうが助かったんだけどなぁ。
ううん、これ以上悔やんでも仕方ないか。そろそろ動き出そう。
「行くわよ。私が気を引くからロノウェちゃんは隙を見て攻撃を始めて。魔法系は抵抗のせいで効きが薄いはずだから可能な限り物理で重たい一撃をお願い」
「はぁ。だったらカガリを連れてくればよかったものを」
「あら、貴方を買いかぶりすぎたかしら?」
「そう言われたなら致し方ないな。結果は行動で示すとしようか」
口の端を歪めて地面に消えていくロノウェちゃん。頼んだわよ。一撃で殺せれば、被害は出ない。もしその後が続いてしまうようなら、周囲に遠慮ができるほど私に余裕はないんだからね……!
ゆっくりと、歩み寄る。
自然な足運びで、いつものように、お気楽に、何も考えてないふりをして。
「おや? 裏切り者のラファエル嬢じゃないですか。どうしたんです? こんなところに、単身で」
ん、気づかれてない……?
「手っ取り早く勇者を殺そうと足取りを追ってたらこの国にたどり着いただけよー」
「ああ、あれなら城の地下牢ですよ。近くまで来ていたので仲間ごと洗脳したら落ちました。どうしてラグエル君やラミエルさんは手こずっていたんでしょうねぇ」
服に隠したラミエルちゃんが『出してくださいー! ぶっ殺しますー!』と、小さく唸りを上げてくすぐったかったから軽く叩いておく。『ぐへっ。ひ……ひどいですよぉー……』と、切なげな声が上がった後彼女はとなしくなってくれた。後で良い生地に代えてあげよう。
「便利な力ねぇ。私のなんて治すだけで何も使えないから羨ましいわぁ」
「これでも意外と使い勝手が悪いんですよ。目を見る必要がある上に、純粋に魔力量が多い者には時間も多くかけないといけないので疲れるのです。そこにいる炎の賢者なんて十時間ですよ十時間、こぉんなちっさな体のくせにどこにあんな魔力を隠し持っているのか。……中まで見てみたいですねぇ。そう思いません?」
つつーっと指で、壇上に拘束されているフレイヤちゃんの下腹部をなぞるサリエル。控えめに言って気持ち悪いわね。
ラミエルちゃんたら大正解ね。綿まで最高級に代えてあげましょう。
「……え、ええ。でも私は子供好きだから、そういう小さな娘を苛めるのは好きじゃないかも~……」
「あは、そう言われると悩んじゃいますねぇ。でも、残念ですけどここに拘束している賢者と王家の関係者は殺されることが確定しているのですよ。後で地下牢から勇者と光の賢者を連れてきて、彼等の目の前で一人づつ殺していくんです。ゆっくりと、始めは付き合いが浅い、もしくは関係が遠い者から。そいつらを殺していく中で、想像するんです。最も大切な者が殺される瞬間を。ああ! 待ち遠しい!! きっと美しい処刑にして差し上げましょう!! 今世紀!! 最高の!! ショータイムですよぉ!!!」
己の処刑感を熱弁する彼の影から、音もなくロノウェちゃんが姿を現す。手には無骨な、いかにも攻撃力に特化した大剣を携えていた。
それを軽々と、片手で振り上げ――。
「残念。飛ぶのは君の首だ」
……。
…………。
………………。
『先輩っ! 気を確かにっ!!』
チクリとお腹に針が刺されてかのような感覚。それを皮切りに意識を取り戻す。
時間が停止したのかと思った。思考がぷっつりと途絶えて、彼以外の全てが停止していた。
ロノウェちゃんの剣はサリエルを捉える既の所で止まった。私はそれを不審に思うことすら無く、ただただその場に立ち尽くしていた。
「おや? 私の『神の邪視』を破りましたか。大抵はこれで終わるんですけどね。0を1に戻すラファエル嬢とは相性が悪いと見ました」
発動条件が、違ってた……? 正面にいた私はともかくロノウェちゃんにまで効果が及んでいる。もしかして効果まで違うんじゃ……!?
ラミエルちゃんが静電気で刺激を与えてくれなければ戻れなくなってた……。
「あは。天使同士で殺し合いですか。それはそれで……。ああ、ラファエル嬢はどうなってるんでしょうか? 二番目に生まれた天使。価値が高いですねぇ。想像したら中まで分解したくなってきました。天使はガブリエル辺りでやろうかなと思ってたんですけれど、ほら、彼女こんなになっちゃってもう天使じゃないんですよ」
今度はガブリエルちゃんの頬を突く。勇者に殺されてしまえばいいのに。
「えぇ~? お姉さん痛いのはやだなぁ」
「だったら大人しく汚染されてくださいよ。それが嫌なら、血みどろパーティです」
やるしか……ないか。
「満足させてあげられるかなぁ、自信ないなぁ」
見せかけの翼を展開する。鳥が威嚇するように、自らの矮小さを偽装するために。
「来なさいサリエル。お姉ちゃんが相手してあげましょう!」
とんでもない奴を生み出してしまったと後悔してます。サリエルで不快になってしまった方は申し訳ないです。次回をお待ち下さい。
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