A.6 [検閲済み]
ちょっと胸糞。
「……。貴女、中々しぶといですね。これまでこの責め苦に耐えられた人間など居ないのに」
声が聴こえた。鉛のように重い首を上げ、光が指した方を見る。
「……民のため、国のため、ひいては人類のため。わたくしは……なんとしても此処で折れる訳にはいきません……から」
その言葉に口を醜く歪ませる天使の彼。
こんな悪意に満ちた存在が天使だなんて何の冗談なのでしょう。
嘗てはこの国も神を信仰していましたが、ここ数年での衰退も頷けてしまいます。
「ふむ。人間らしく表現するのなら『嗜虐心を煽られる』という感情なのでしょうか。いけませんね……。此のままではラグエル君と同じ結末を辿りそうで」
彼の言動はまるで観察しているみたいな。
人間の心を学習している……のでしょうか?
「ではでは、天使からのささやかなプレゼントです。此処まで耐え抜いた貴女のための、ね」
芝居がかった仕草で指を鳴らす天使の男。
「……! なんですか、これ……。頭のなかに、映像が直接……!!」
映し出されたのは筋骨隆々な天使と街の結界によって守られた人々。
良かった……映像の様子を見る限りまだ結界は保ってるみたいで――。
『貴様等、光の王女を助けたいのだろう? そうだな……。百人だ。百人結界の中から出てきたら考えてやろう』
「今すぐやめさせなさいっ! 話が違うでしょう……っ!」
安心したのも束の間、急転直下で絶望させられたわたくしの顔がそんなに面白いのか、狭く暗い室内に声高に響く笑い声。
「私には止められませんよ。それにしても余程忠誠心があるみたいですね。いえ、貴女の場合は忠誠心と言うよりは寧ろ信仰心でしょうかね。ほら、見てくださいよ」
一人また一人。王女様を助けられるのならばと、あの方は人類の為に欠けてはならないからと、結界の外に自ら出ていく姿が映し出される。
やめてください……、これ以上は……。
『まさか全員が迷わず出てくるとは驚いた! 驚嘆の褒美として、どれ楽に死なせてやろう』
『約束しろ! 絶対に王女を解ほ――』
次に流れてきた映像は、余りにも衝撃的な内容だった。人間はあれ程に脆いものだったのか。筋骨隆々な天使が腕を振り下ろしただけで百数十の命はいとも容易く奪われた。
わたくしのせいで、罪のない多くの命が。
「うわああぁぁぁあぁあああああ!!」
黒い灰が、元人間だったものが街の上空へと舞う。
「それにしてもミカエルは毎度のことながらやりすぎですね。これじゃあ直ぐに全滅させてしまいます」
男の言葉はもう頭に入ってこない。最早どうでも良かった。
解放なんてする訳がないことは初めから分かっていた。こいつ達は人間を羽虫と同列、ゴミと同義にしか扱っていないのだから。
「……うっ。いやだ……。もういやだよぉ……。こんなの、わたくしは、いったい何のために……」
首筋に絡みつく指。自分も今からじわじわと結界を侵食されて殺されるのだろうか?
あんな風に。死に意味も持たせてもらえないまま。
「やだなぁ、自分のことをゴミだなんて。ミカエルにとっては粛清すべき汚れかもしれませんが、私からしたら貴女達人間は愛すべきおもちゃですよ。ですから、ゆっくりと大事に壊してあげます。貴女が抵抗を望む限り、永遠に」
そうですねぇ。次は親族を目の前で殺すとか面白そうですね。しかし早く壊したいですけど壊れるまでの過程も重視する派なんですよね。如何にしてより深く絶望させるか。とすると振り幅が必要ですよね。希望、そうです希望をちらつかせることでより絶望は味わいを増すんです! ね?貴女もそう思うでしょう? ああ、早く次のサプライズを考えなくては! 黒塵化は確実に人類を終わらせるためには有効的ですけど些か表現に欠ところがデメリットですね。先ほどみたいに一瞬で殺すと塵になりますし……。血は出るのですからまずはそこら辺の人間でどこまで死に近いところまで耐えられるか実験してみることにしますか。私としては首を落としたいのですけど難しそうですね。どこまでが生きていてどこからが死んでいるのか、人間はよくわかりませんね。全く不思議な生き物です。あ、そうだ。貴女確か妹さんがいましたよね。まだ小さい可愛らしい妹さんですよね。純粋無垢で今何が起きているのかも分かっていないのではないですか? さっきみたいに結界から出てきたらお姉ちゃんを助けてあげるよって言ったら出てきますかね?ね?どう思います? そんな無知で愚かな妹さんとご両親、周りは臣下達で飾って……。ああ!素晴らしい! 見えてきましたよ貴女を叩き落とす作品が!! 楽しみに待っていてくださいね。もう少しで家族に会わせてあげますから。うれしいですか?うれしいですよね?うれしいに決まっているでしょう?こんな未来も希望もない世界で家族と一緒にいられるのです。ちゃんと私に感謝してから壊れてくださいね。お願いしますよ。さて、そろそろ実験しに行きますかね。あ、安心してください。貴女の見えるところでしか人間、殺しません。どれだけ死にかけてても直してあげます。だって限りある資源ですからね、大切に使わないと。遊び尽くして弄り倒して骨まで使い果たして切って剥いで削って叩いて裂いて破って砕いて抉って千切って傷つけて刳り貫いて壊してようやく価値を見いだせるってものです。では、ちゃんと大人しくしててくださいね。
……。
狂った声は、ようやく聞こえなくなった。
……目の前はとうに真っ暗だ。一寸先すら見えない。未来を照らす光なんて、なおさら。
あいつらは――天使なんかじゃない。
誰か、神に代わる輝きの持ち主がいるとしたらお願いです。わたくし達を、この狂気に囚われた国を救ってください……。
風の谷編の最中に行われていたやり取りでした。
短めです。次章の導入的な感じです。
綺麗な部分しか書いてないですからね。暗いお話も入れておこうかなと。
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