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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
七章 風の谷の非モテ賢者
73/101

SS3 絶対友達宣言発令中!

恐らくQ.48とA.5の間のお話。

「ねね、フレイヤちゃん。『お友達』ってなんなのかなぁー?」


 木陰で本を読むわたしに話しかけてくる人物。

 葉っぱの隙間から顔をのぞかせるまぶしい太陽を背に、これまた眩しい元気いっぱいな笑顔の女の子。


「ガブリエル……さん?」

  

 わたしと同じでお兄ちゃんが大好きだから一緒にいることは多いけれど、こうして二人でお話するの……そういえばあんまりないや。

 そう思ってしまったせいか、そんな意図はないのだろう彼女らしい純真な質問にも答えづらかった。


「わたし、そういえばお友達いた事なかったなぁーって思ってね、歳が一番近いフレイヤちゃんなら今時の人間の友達事情も分かるかなーって」

 

 ……ガブリエルさんは元々天使なんだっけ? やっぱり天使には友人関係とかないのかな?

 つい最近、ここガーデンで天使の力を失くしちゃって、……たしか、そう。セトラお姉ちゃんを助けてくれたんだって、お兄ちゃんが教えてくれたんだった。

 

 そんな彼女はお友達について知りたいらしい。

 お友達、おともだち……。ああ、わたしにもいたんだった・・・・・・。 

 とにかくやんちゃでどうしてわたしなんかと一緒にいたのか、結局最期までよくわからずじまいだったあの子フィオも。

 わたしよりもおどおどしていて人と喋るのが大の苦手で、でも本の事となるとわたしよりも詳しかったあの子ミーアも。……もうこの世界にいない。

 そして思い出したのは、あたり一面を焼き尽くす炎の渦。

 全部、ぜんぶ燃やしちゃった。……わたしが弱かったから、あの人ラグエルにいいように利用されて。わたしが……。

 だから、


「……。わたし、おともだち……。いない……」


「んー。じゃあフレイヤちゃんもどうやったらお友達になれるかわからないんだねぇー」


 え? 違うよ、別にそういうわけじゃないよ。そう言いかけて、わたしも一体どうしたら友達って言えるのか、とんと見当もつかない気がついた。フィオやミーアとはどうやって友だちになったんだっけ……? いつの間にかよく遊ぶようになってたのは覚えてるけど、初めて会ったときのこと、これっぽっちも覚えてない……。


「困ったなあー……」


「どうかしたの?」


「へ、ううん、なんでもないよ? うん、ただちょっと知りたかっただけ!」


「わたしは力になれないかも……。他のみんなに聞いてみたら?」


「あ……。うん、そうするね!」


 そう言うとくるりとガブリエルさんは背中を向けて私の部屋のドアに手を伸ばす。

 彼女について行ったらフィオとミーアとのたいせつな思い出、思い出すことできるかな……。知りたい。わたしみたいな大人しい変わり者と友達になってくれた二人のこと、ちゃんと覚えていたい。   


「……あ、あのっ! わたしもついて行って……いいかな……?」


 知らない内に思いは言葉に変わっていた。

 ガブリエルさんは、

 

「……! うん、いいよぉー! 一緒に『お友達のなり方』、探しに行こーっ!」


 少し驚いたようだったけど、すんなりとわたしの事、受け入れてくれた。

 


「あたしは常に天才で『ここうのそんざい』?ってやつだから友達とかわかんな~い☆」


 それがクアさんの答えだった。

 相変わらずだめな人だなぁ……。って思った。もう大人なのに、なんて困った人なんだろう。

 さすがのガブリエルさんもこれには呆れちゃったみたいで、


「……だいじょうぶ? わたしがお友達になってあげよっか? なり方わからないけど……」


 天使って聞いてたからもっと怖いのかなって思ってたけど、根はすごくやさしい子みたい。

 この子もひどいこと、させられてたのかな……?

 ……大きなお胸をバカみたいに反らせたクアお姉さんを見ると、なんだかむかついたからガブリエルさんの手を取り、放置して他の人に聞きに行くことにした。



「はぁ? 友達ぃ? お金と権力に犬みたいに尻尾振って媚び諂う奴らのことなんて私が知るわけないじゃない!!」


 これがミラお姉ちゃんの答えだった。

 ……わたしが口を出して良いことじゃないかもしれないけれど、何だか昔にすごく大変なことがあったんだろうなってことはわかった。

 わたしとガブリエルさんは可哀想になって、何も言わずミラお姉ちゃんの頭をナデナデしてからその場を去った。


「な、何なのよあんた達ーっ! こら、待ちなさいよーっ!!」


 せめてこの世界ではまともな友達に出会えると良いね、ミラお姉ちゃん。



「はぁ、友達かぁ。うーん……戦友しかいたこと無いからなぁ……。向こうが友達って思ってくれてたかわかんないし」


 なんともはっきりしないのはお兄ちゃんの答えだった。まだ本調子じゃないのか、ベッドの上に横たわったまま窓の外を眺める姿は、なんだかとても悲しそうだった。


「俺の場合遅すぎたんだろうな。当たり前だと思ってた人たちに別れも言えなかったからそれを確かめようと思っても、もう手段もないし叶わないなぁ。おっと、そういう暗い話じゃないよな。ゴメンな、俺には友達って何なのかちゃんとわからない。でもきっとそんな難しいことじゃないんだと思うぞ」


「何だかごめんねー……。やなこと思い出させちゃったかな?」


「いいや、そんなこと無い。むしろあいつらのこと思い返せて嬉しかったよ。愚痴聞いてくれてありがとな」

 

 そう話を終えるお兄ちゃんの顔は、もう悲しそうじゃなかった。むしろ本当に嬉しそうな、ちょっと懐かしそうな、そんな不思議なお顔だった。前にもそんな顔したことあったかも。わたしと初めて会ったとき?

 ……昔、お兄ちゃんと一緒に旅してた人達。わたしのご先祖様はお兄ちゃんと友達だったのかな……?



「友達かぁ。……ふむふむ。そうだねー、二人で街へ行ってお買い物でもしたら何か分かるんじゃないかな?」


 ようやく手がかりになる答えをしてくれたのは、セトラお姉ちゃんだった。

 最初からこの人に聞けばよかったと、思わずガブリエルさんと顔を見合わせて笑ってしまった。


「……ありがとう、セトラお姉ちゃん」


「いーえ、お姉ちゃんですもの。妹分達が困ってたらちゃんと助けてあげるよ!」


「え! わたしももう妹なんだね……」


「嫌だった?」


「ううん、嫌じゃないよ! ちょっとびっくりしただけー!」


「ふふ、どうも。友達もきっと似たようなものですよー。はい、これあげるから二人で思いっきり街を楽しんできてね。できれば『今一番欲しいもの』を買ってくれるとお姉ちゃん嬉しいかなー」 


 そう言われて手渡されたのはわたしとガブリエルさん二人分のお小遣い。

 『今一番欲しいもの』……それってわたし達がってことだよね……?

 何を買えば良いんだろう?


「何買ったかあとで教えてね」


「わぁあ! 人間のお金だ!! ありがとうセトラおねえちゃん!!」 


 ……ガブリエルさんって結構ちょろい……?

 とりあえずガブリエルさんに続いてお礼を言い、セトラお姉ちゃんの部屋を後にした。

 


「ひぃふぅみぃ。……たくさん!」


「えへへ……よかったねー。……ガブリエルさんは何がほしいの?」


「んー。『今一番欲しいもの』だっけ? それは……お友達なんだけどお金で買ったら駄目だし……フレイヤちゃんは?」


「あはは、それじゃあミラお姉ちゃんみたいだもんね。わたしは……んー。最近髪の毛伸びてきたから髪留めがほしいかなぁ。でも一番……なのかな。ちょっと不安……」


 セトラお姉ちゃんは一番欲しいものって言った。

 髪留めが一番欲しいかっていったら違う。今わたしが欲しいもの――、

 

「あーっ!! あのサンドイッチ美味しそー!!」


 ……。なんでもない言葉のはずなのに。妙に心に残るガブリエルさんの言葉。

 あれ、何だろ今の。どこかで今のやり取りしてたような。そんな、懐かしい記憶。

 これって、確か……。


~~~


 薫る風、なんて気持ちのいい昼下がりなんだろう。

 お母さんと一緒に作ったお昼ごはんを片手に、本を読む。今日はいつもの絵本じゃなくて、家にあった古い字だけの本を持ってきてみた。絵のついてる本もすきだけど、わたしはこっちの字だけの本もすきみたい。

 誰にもじゃまされない時間。

 そんな環境にゆったりと身を預けてページをめくりつつ、本を持つ方の逆の手で持ったお昼ごはんを一口、食べようとしたその時、


「あーっ!! そのサンドイッチ美味しそう、いいないいなー!」


「あっ……」

 

 ぱくり。わたしの手ごとサンドイッチにかぶりつく女の子。身長的にどうやらわたしと同じくらいの歳みたい。いや、そうじゃなくて。


「んー、んまんま。ハム、レタス、……マスタードか! 珍しいなあ。この味……さては料理の天才ねあなた!」


 今の気分を例えるならそんなの最悪に決まってる。わたしが物事をはっきり言える性格だったら、きっと大声で怒ってたと思う。このごはん、朝はやくから作ったんだよ? おかあさんといっしょに!!って。

 そうできなかったのも、この犬のような女の子の隣りにいる子が、


「だ、だめだよぅ、フィオちゃん……。あの、その、ご、ごめんなさいっ! お金なら払いますからっ!!」


 ペコペコと高速で頭を下げ続けているからで。

 そんな様子を見ていると怒るに怒れなくなっちゃった。


「お金はいいよ……。いま本読んでるからどっかいってほしい……」


「あ、この本『初心魔道士メルトの冒険』ですか!?」


「は……はなし聞いてた……?」


「あー、ダメダメ。ミーアは本の話になるとあたしより聞き分けなくなるの。あたしはフィオ。で、料理上手なあんたはなんて名前?」


 お、教えたくない……! ぜったいこの子達やばい……!


「……メ、メルティア……イフリータ……」


 つい口から出たウソはとっても苦しまぎれなものだった……。

 ごめんなさいメルティアさん。


「ウソです!! メルティアさんはもう千年も前になくなってるはず! はっ! もしやあなたメルティアさんの子孫ですかっ!?」


「え? マジ? なーなあーほんとの名前教えてくれよー」


 ここまで来るともう諦めが勝ってしまった。

 お昼ごはんを食べられたのは別として、この二人のことを不思議ともっと知りたいというのもあった。


「……フレイヤ。フレイヤ・リヒトムート」


「お、じゃあ今日からフレイヤはあたしとミーアの友達だ!」


「え……。え……?」


 あまりにも唐突だった。それまで無縁だった言葉をいきなり突きつけられて。

 

「なんだよー。やなのかよー。あたしはフレイヤと一緒にいたら楽しそうだって思ったんだけどなー」

「だめ……ですか? わたしフレイヤさんともっと本のお話してみたいかも……です」


 本を読んでるだけだったわたしのどこが楽しそうだったのか。

 ますます、おかしくなってきて、とうとうわたしは笑いだしてしまった。


「あははっ……! うん、いいよ。……よろしくね、フィオ、ミーア」


 隙間を縫って差し込んだ太陽の下、わたしたち三人は友達になった。


~~~


 ああ、そうだった……。

 最初はあんな出会いだった。最悪で、けれど不思議と嫌じゃない出会いだった。

 そんなことも忘れていたなんて。

 嫌なことを隅っこに押しやって逃げてたわたしが……バカみたいだ。

 

「うん……見つけた。欲しいもの。ガブリエルさん。ちょっとまってて」


「え? うん、わかったよー」


 素早く列に並び、二人分のサンドイッチを代金と引き替える。

 偶然にもその中身はあの日わたしが持っていったものと同じだった。

 

「はい、どうぞ……っ!」


「……。フレイヤちゃん良かったの……? 一番ほしいもの……」


「わたしは……これが一番欲しくなっちゃったの。ねえ、ガブリエルさん。わたしと……」


 ……今度は逆だ。わたしが言う番。

 ちょっとドキドキするな……。フィオもあの時、こんな気持ちだったのかな。

 もし、まだ友達なら、友達だと思ってくれるなら、この一言を言い出す力、貸してくれるかな。

 ……よしっ。


「わたしと友達になってくれる……?」


 びっくりしたのか、あっけにとられたのか、ガブリエルさんの手からするりと落ちるできたてサンドイッチ。 


「あわ、わ、わ、……あ、あぶなかったぁ……」


 何度も空中で浮いたり落ちたりを繰り返したそれは、ぽすりとガブリエルさんの手の上に収まった。

 

「えっと、それでぇー……お友達……いいの? わたし、元々天使だし……酷いこといっぱいしてきたし……」


「いいの。……ガブリエルさん、いい人ってのは見ていれば分かるよ。だから友達、なろ?」


「わーっ! 大好き! フレイヤちゃん大好きだよぉー! なるよぉ友達なるなるぅー!!」


 ガブリエルさんが抱きついてきた瞬間、二人のサンドイッチがまた宙に浮かぶ。

 やば――、


「ふー。あぶないあぶない……」 


 とっさに発動した炎魔法。今はサンドイッチを焦がさないように、空気のみを操作して浮かせるだけにとどめてコントロールできるようになった力。

 

「わぁ……。こんな使い方もできるんだね。きっとフレイヤちゃんはとっても優しい魔法使いだよ!」


 ……。

 その一言で、心のなかで何かが晴れるような気がした。

 エルメリアの事は忘れない。忘れることは出来ない。けれどきっともう悲しい思いなんてしない。 


「……。ありがと、ガブリエルさん……!」


「え、え? どうしてフレイヤちゃんが感謝してるのー? あははっ、変なのー!」



「じゃあ、ちょっとフレイヤちゃんここで待っててね」


「……? うん、わかった……」


 ぴりりとマスタードが効いたサンドイッチをおいしく食べたその帰り道。

 ガブリエルさんにそう言い付けられ、道ばたで待っていると、


「はいっ! どうぞフレにゃん!」


「ふぇ、ふ、フレにゃん!? なにそれ……! って、これ髪留め……」


「えへへー、お揃いにしちゃった! 色違い! ……嫌だったかな?」


 リボンに近い触感の髪留め。ガブリエルさんのは薄緑でわたしのは赤色だった。


「ううん、うれしい。とってもうれしい……けど。フレにゃんって何?」


「あだ名だよぉー。その方が友達っぽくないかなー? 『ガブリエルさん』って何だかよそよそしいもん!」


「うーん、ちょっとはずかしい……かも」


 ……。そんな悲しそうな目をしないで……。


「……じゃあ、ガブにゃん」


 す、すんごくはずかしいよう……!

 でも、ガブリエルさんものすごくニコニコしてる……っ! か、かわいい……! 


「ガブにゃん、ガブにゃん、ガブにゃん……。うん慣れた。もう……大丈夫」


「じゃあ、帰ろっかフレにゃん。セトラおねえちゃんに何買ったか教えないとね」


「ん。そだね。」


 元天使のおんなのこ、ガブリエルことガブにゃん。

 わたしの……三人目の大切な友達。

 三人分の友達のきっかけ、きっと忘れられない思い出になったと思う。


 ……。

 ……ちなみにこの後みんなの前でガブにゃんって呼ぶの、めちゃくちゃはずかしかったのはガブにゃんには内緒。

割とパーティメンバーぼっち多いなぁと感じさせられる回でした。

シロとかミラとか背景が背景な不憫な子も多いからなんとも言えないんですけど……。

ちなみにセトラに友達と呼べるような人は居ないです。理由は使命による短命から来てますけどね。


ブックマークありがとうございます!

感想や評価もお待ちしてるので、ぜひしていただきたいです!

twitter → @ragi_hu514


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