表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
七章 風の谷の非モテ賢者
71/101

Q.HV  Happy Valentine's Day 2017

甘々です。甘いの苦手な人は諦めてください。

 さてさて、ようやくこの日がやってきましたね!

 ふふ、町の男の人達がそわそわしちゃってるのは何回見ても面白いものです。


 この一日のために女性陣は嫌だめんどくさいー、と言いながらも腕をふるって大量に茶色いお菓子を生産し、男性陣は毅然な態度を取りつつも、やはり内心は貰えたらいいなー、と淡い恋心に翻弄される。全くおかしなイベントですよね。この日は皆まともじゃないですよー。いや、かく言う私も同じなんですけど。

 今年は市場で買った既製品で済ましちゃおっかなーって考えてましたけど、皆必死にチョコ作るんですもん。そりゃ私だけ手抜きするのも憚れます。一生懸命怪しげな本を頼りにチョコを作ってるフレイヤちゃん可愛かったなー。

 おっといけない。この日はチョコを渡すまでが女の子の役目です。

 さくっと最終工程を終わらせに行きましょうか。 


「なんて言ってくれますかねー? あ、もしかしたら本チョコと捉えられる場合も……!? うーんそう考えると恥ずかしさ倍増です。落ち着け、落ち着くんですセトラ・アーリエ。私はできる子です!」


 いっそ、義理チョコって言ってしまいましょうか。それなら向こうも気兼ねなく食べられそうですし……いえ、でもそれは折角のチャンスを逃すみたいでちょっともったいないような……。 

 

 あ、そうこうしている内に見つけちゃいましたよー……。ふむふむ、どうやらまだ一個ももらってないみたいですね。私が一番乗りみたいです。

 では、あくまでも冷静に、


「ハッピーバレンタインです♪ はい、どうぞ。手作りチョコです!」


~~~


 う……。

 いざ渡すとなると、はずかしい。

 ちゃんと受け取ってもらえるかな……。

 ちゃんとおいしく出来たよね……?

 

 町の本屋さんで買って来たレシピどおりに作ったから大丈夫なはず……!

 一週間前から準備したし、材料も自分であつめてきたし、おこづかいぜんぶ使ってめずらしいミルクも買ってきた。本に書いてあったとっておきの『かくしあじ』もちゃんと入れたし……。 

 

 うん……かんぺき! ありがとう、「好きな人をバッチリ落とす魔女チョコのつくりかた vol.7」……!

 これのおかげで……わたしはがんばれたよ……。ちょっと指を切らなきゃ――切っちゃったけど、このくらいチョコを作れたんだからへっちゃら……!

 

 あ、いた。うぅ、どきどきする。

 お、思いきって……っ!

 

「はい……これ、あげる。いつも……その、あ、ありがとう……っ」 


~~~


 うん、これは友チョコ、これは友チョコ。

 女の子だろうと男の子だろうと大事な人にチョコを渡すのは問題ないよ。うん、問題ない。

 

「大丈夫……だよね?」

 

 あえてベーシックなハート型を避けて四角い形にしてみた。ぼくが変に意識しすぎなのかもだけど、受け取ってもらえなきゃ意味がないし……。

 やましい気持ちはない。これはいつもぼくに優しくしてくれてる感謝の気持ち。

 でもほんの少し、すきって感情に気づいてくれたら……うれしいな。

 

 うん。ここまで頑張ったんだもん、しっかり気持ち、伝えよう。

 服装をチェック、寝癖混じりの髪をとかして見た目を正す。

 よし、今日もかわいい……はずっ!

 意を決してターゲットの部屋へ、ノックは二回。少しして扉越しに足音が近づいてくる。

 扉が開いた瞬間に、チョコを両の手で差し出し頭を下げる。


「ぼくのチョコ、受け取ってください……っ」 


 きっと恥ずかしくて顔を直視できないから。うぅ、早くしてぇ……! 

 すっと軽くなった手の先。顔をあげるのが怖かったからそのままでいたら、頭を撫でられた。

 その嬉しそうな顔で安心した。


「えへへ……だーいすき!」   


~~~


 今日は何の日でしょう!?

 はい、今日はチョコが食べほ~だいな日で~す!

 市場は茶色一色! どこへ言っても良いにお~い!

 試食品を店頭に出してる店を中心に吟味するのって楽しいよね~。これならいくらでも食べられそうだよ~。

 

 と、街路地に視線をやると、そこにはまだ幼い男女のカップルさんが!

 いけない現場を目撃しちゃったみたい……!

 ん~、でも普通にチョコ渡してるみたいだね。女の人から告白したのかな~? 何やらいい雰囲気だね~。頑張るんだ、見知らぬ女の子!

 男の子は数秒悩んだ後、女の子のチョコを受け取って手を取った。

 どうやら成功したみたいだね~! いや~甘酸っぱいなぁ~!

 

 ――ふと、あの人の顔を思い出す。

 ……そうだね~。あたしもいっつもお世話になってるから、あげようかな。


 作ってないから買ったものを渡そう! 来年こそ作るから今年は許してもらおう!


「おじさ~ん、このお店でいっちばん美味しいチョコちょうだ~い」   

「おっ、クアちゃん。自分用かい?」

「違うよ~。人に渡すのっ!」

「あ、あのクアちゃんがか!? この市場では『世界を齧るものニーズヘッグ』と呼ばれてるクアちゃんがか!!?」

「おじさ~ん、流石にあたしでも怒るよ~?」


 ふっふっふ~。ということで味では誰もあたしに敵うまい!

 でもちょっと罪悪感。

 うん、来年こそは、必ず、ね~。


「はい、チョコあげる~。そうだね、姉チョコ?みたいな感じだよ~。え?手抜き?ら、来年はちゃんと作るから~!!」


~~~


 お姉さん、隠してたけど実は料理は得意なのよね。

 というわけで、準備してきました、チョコレート!

 喜んでくれるかな?

 どうやらあっちの世界にもチョコを渡す風習はあったみたいだし、だったら作るしか無いわよね。

 魔法で可愛くラッピングしてっと。

 愛情は隠し味、よしっ、準備完了ね。後は渡すだけ。

 

「はい、これチョコレートだよ。バレンタイン、知ってるよね?」 


 あらあら、顔真っ赤にしちゃって。もしかしてもらうの初めてなのかな?

 

「いつもお姉さんのわがまま聞いてくれてありがとう。これからもよろしくね♪」


~~~


 そうだった。今日は人間たちは「ちょこれーと」ってお菓子を好きな人に渡すんだ!

 だから昨日フレイヤちゃんやセトラちゃんやソルレーヌくんは頑張ってたんだねぇー。気付くのが遅かったよぉ……。


 うーん、今から作って間に合うかなぁ……。

 こんな時魔法がつかえたならって思っちゃう。あ、でもどうせなら手作りしたいなぁ。

 いつもお世話になってるし、あぁ、でもでも皆の分も作りたいし……。

 

 ん? あそこのお店、「ちょこれーと」売ってない? 他のお店は「ちょこ」ばっかり売ってるのに。


「えっと……『バレンタインのプレゼントにお花』……?」


 ……はっ! これだよっ! これならわたしにも渡せるものあるよー!

 プレゼント用にリボンだけ買って急いで渡しに行こう!


 ……よし、可愛く巻けたよね? うん、大丈夫。

 ドアをこんこん、ちょっと自信ないからか音が小さかったかも。

 あ、でも聞こえたみたい。ドアが開いた。

 

「あ、あのね、今日『ばれんたいん』なんだけど、『ちょこれーと』ね、準備できなくてね」


 お、怒ってないよね? 怖いよぉー……。

 後ろで隠してたプレゼントを思いきって差し出す。

 えい、もうどうにでもなっちゃえ! 


「これ、『エンゼルトランペット』ってお薬に使えるお花なんだけど、こんなのしか用意できなかったの、ごめんなさい……」


 多分他の子は「ちょこれーと」を渡したんだと思う。きっとお花なんて渡したのわたしだけだ。

 でも、受け取ってくれた。「ちょこれーと」じゃなくてもうれしいよって。

 

「ありがとっ、わたしもすんごくうれしいっ!!」

 

~~~


 やばい。部屋にチョコの匂いが充満してるわ。しかも割と焦げくさい。

 私もみんなと一緒に宿屋のキッチン借りて作りたかったのにっ! こんな部屋で一人でボウルと型だけ持ってベッドの上で調理しなきゃいけないなんて……。

 ……はじめて作るからセトラに色々教えてほしかったのに、これじゃうまく出来た自信がない。

 茶色を通り越して黒ずんでるし、少なくとも甘い匂いはしないし、形も型を使ったはずなのに何だか不格好。おまけにチョコペンで書いた字はヘニャヘニャしてる。

 うっ、ううっ、こんなことになるのがわかってたならちゃんと日頃から料理したのに……!


 あ……。もう目を覚ましそう。

 もう色々と最悪ね……。幻滅するかな? そりゃ幻滅するよね……。そもそも私、チョコを作るって柄じゃないし、普段からガサツで乱暴って言われてるし……。出来たチョコはこんなんだし……。

 

 寝ぼけ眼のあいつは、部屋の変な匂いとすぐ隣で泣き出しかけの私を見て、少し驚いた後優しくと笑いかけてきた。


「な、なによぅ……。そんなに私がおかしい……?」  


 へ? それよこせ……?


「そ、そんなに欲しいって言うならあげるわよっ。その、色々世話になってるし……。恩返しって意味でのチョコだから! 変な事考えないでよねっ! な、なにニヤニヤしてるのよ! 早く食べなさいっ!!」


~~~


 あはは、みーんな上手くいったみたいだねー。

 いやーよかったよかった。ミラちゃんが上手くチョコを作れないイライラから世界を滅ぼすような未来とか、フレイヤちゃんがやばいもの混ぜて人知れず破滅級の召喚陣が形成されるような未来なんかは回避できたみたい。

 今となっては私は渡せないから皆が何だか羨ましいなー。あー、こんなに後悔するくらいだったら、あの日、あの時ちゃんと渡せばよかった。なーんて。

 

 一方通行、決して実ることのない思いに焦がれるなんて我ながら馬鹿馬鹿しいけど。

   

「ハッピーバレンタイン。結局、生きてる間は一度も渡せなかったなー」

 

 チョコを空に放り投げる。不均一な形ながらも計算通り放物線を描いたそれは定められていたように私の口の中へ吸い込まれる。

 あー、ちょっと甘すぎたかもね。

 いつかまた会えた時は、恥ずかしがらずに渡そう。

 また一つやりたいことを見つけ、甘い一日に別れを告げた。

はい、突然のバレンタインプレゼントでした。


どっちでも良かったのですが、一応誰に渡したのかそれぞれ想像で補完できるように最大限配慮してみました。

ミラちゃんは……、もうどうしようもなかったです。


個人的には今回の中ではガブリエルちゃんがいちばん好きです。私、あまりチョコレート好きじゃないので、仲の良い友達は気を使ってクッキーとかにしてくれます。分けて作るの大変なのに申し訳ないです。その経験を活かして?あえてチョコじゃないプレゼントを選んでみました。チョコじゃないもの渡すのって勇気いりますよね。


というわけでいかがだったでしょうか。ちょっとでもほっこりしていただけたら幸いです。


ブックマークありがとうございます!

感想や評価もお待ちしてるので、ぜひしていただきたいです!

twitter → @ragi_hu514

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ←登録しました! 押して頂けるとありがたいです!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ