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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
七章 風の谷の非モテ賢者
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Q.53 賢者ボスラッシュ? ~炎の賢者編その1~

少々痛い目を見るといい。

「あのさぁ。これ・・ってそんな凝る必要あるか?」

 

 リファブール集落地を谷に沿って登っていく道すがら。

 万物の一アルス・マグナで生成された華美な岩の階段のデティールを眺め、ふと疑問に思う。


「んー? だってかわいいは正義だよ?」


 いや、にしたってだろう。

 先ほどの戦闘時のように、器用に壁からくりぬいた部分を用いて作り上げられた階段はファンシーそのもの、俺なんかが歩いていると似合わな過ぎて軽くシュールなくらいの造形だった。

 それこそソルレーヌみたいな女の子(のような外見)の子には似合っている。先頭を歩く人形のような少年が言う通り正義となりうる可愛さだろう。


「わぁ……、お姫様みたい……」


 などと頓珍漢なことを宣っている元姫君は置いておいて、


「これだけ派手だとばれると思うぞ? いっそ谷の中を貫通させた方が良かったんじゃないか?」


 谷の上の旧集落を目指す以上、道は限られる。

 今やってるように上に進むか、迂回して高低差の少ない谷の始まりの場所を探して上ルートを進むか。後者は安全だが、この状況においてそんな悠長なことをやっている時間的余裕がないのは確かだ。そもそも数日で効くかどうか。

 だとしたら直接登るしかないのだが、問題なのが――、

 

「あっ! シロ、フレイヤちゃんの魔法来てる!」


「わかってる! エーテルブレ――」


 フレイヤの魔法、炎の鳥を視認するのとほぼ同時。ミラの魔法を再現しようと魔力を込めた時には、


「もー、ぼくの階段壊したらさすがにフレイヤさんでも怒るんだからねー?」


 ボフン、と迫力のある音を立てて、急造の岩の壁に阻まれた魔法の鳥が霧散した。


ここ・・なら彼女の魔法と相性がいいから遠距離攻撃は心配しなくてもいいんだよ」


「……」


 ああ、そうか。

 万物の一は環境に大きく左右される魔法だ。風の谷は周りには岩しかなく、万物の一をもってしても生成できて精々金属といったレベル。だがそれが今は優位に働いている。フレイヤもソルレーヌも同じ賢者である以上自然物を元に魔法を組み込んでいるため、素の魔法には強くても自然物に弱い。ついさっきの現象を見る限り、フレイヤの遠距離魔法はよほど火力がある場合を除いてソルレーヌの岩の前では無力らしい。 


「でもいつもの戦闘を見てた上での予想なんだけど、直接の魔法はこれじゃ防げそうにないかも」

 

 どうしよっかなー? なんて、足取りを止めることなく軽い調子で着実に頂上を目指す少年にミラが小声で俺に一言、


「ねぇねぇ! ソルレーヌくんって意外と戦闘狂みたいなとこあるよねっ」


 ……。

 何故嬉しそうなのかはおいておくとして、えっと、とりあえず。

 お前が言うな。

 


 道中数度の追撃を難なく躱し、千を超える段数を登りきる。

 谷底にいた時には得られなかった広大な蒼天、荒涼とした村落の残骸が視界に映る。


「これは……」


 広がる瓦礫の山。下の世界とは違い、煉瓦や木材など谷の民としての生活を捨てようとした痕跡が妙にもの悲しさを感じさせる。

 そんな荒廃してしまった世界に、エルメリアを重ねてしまった。

 焼け焦げた家屋の中、一人蹲り涙を流していた少女の姿がフラッシュバックする。

 

「……フレイヤ」


 少女は立っていた。俯き垂れた癖のある前髪で顔が覆われているが、少なくともあの時とは違う。

 明確な闘気。戦う事なんて知らなかったあの子とはもう違うのだと、脳が警鐘を鳴らす。


「……あは、お兄ちゃん……来てくれたんだね」


 蠢く陽炎、唸る豪炎。

 昏い笑みを浮かべた少女の瞳は、これまた吸い込まれそうな緋色に染まっていて。

 それが歓迎なのか、威嚇なのか。


「シロ! 下がってて……! 私がやるからっ!」


 フレイヤの異常な様子に警戒してか、手を広げて俺の前に出るミラ。


「……ミラお姉ちゃんはだまってて。私はシロお兄ちゃんに用があるの」


 しかし、怒気を孕んだフレイヤの静かな牽制にミラが一歩後ずさる。

 あのミラさえも押し黙らせたフレイヤが、その調子のまま、続けて、


「……お兄ちゃんとの一対一がしたい。だめ……かな?」


 ……最早それは要求じゃなくて脅しだろう。と突っ込みたくはあったが空気を読んで一歩前に出る。


「ちょっ、シロ!?」


 ――フレイヤちゃんと戦えるの? 横に立つ俺にそう不安そうな目で訴えてくるミラ。

 ぶっちゃけ戦いたくない。でもここで断ったらここら一体蒸発させかねない不安定さと狂気を今のフレイヤは併せ持っている気がしてならないのだ。だとしたら行くしかないだろ。たとえ彼女がどんな思いを抱いていても、それを受け止めなくて何が大事な人だ。


「……うん、ものわかりが良いね。ありがとう、お兄ちゃん」


「ああ、他ならぬフレイヤの頼みだからな。けど一ついいか?」


「ミラお姉ちゃんのこと……?」


「そうだ。離れられないからミラも巻き込むことにはなるけど、こいつは狙わないでくれ」


「……。……うん、一対一だからお姉ちゃんは狙わない」


 ……じゃあ始めよっか。あの時のわたしとは……違うからね?



 爆発、次いで爆発。もいっこ大爆発。


「うぅぉぉぉぉおおおお!!!」

「きゃぁぁぁぁああああ!!!」


 今までのフレイヤとは規格が違う! 

 魔界での戦闘は実際に見ていないが、フレイヤの魔力量はここまでではなかったはずだ。だと言うのに、この火力……。廃墟とはいえまだ街の形をしていた建物は、爆風によっていよいよ本格的に岩の破片に姿を変えようとしている。


「やばい、やばいよぅ! シロ、フレイヤちゃんに何したのよ! めちゃくちゃ怒ってるじゃない!!」


「なっ――!? 俺のせいか!?」


 そう言われても……今朝はあんな調子だったし……、うん、全く身に覚えがないぞ!


「あんたそうやって乙女心に疎いからいつも大変な目に合うのよ!」


「ぐ、言い返せない……」


 しかし今回ばかりはさっぱりわからない。フレイヤが一対一を提案してきたことに何か意味があるのだろうか? ま、まさか、俺の態度に業を煮やしたフレイヤの心中……!


「ごめんなミラ、俺、ここまでみたいだ……」


「何バカ言ってるの!? 何度死にそうな目にあっても生きる粘り強さが取り柄でしょ!」


 けどどうしろと?

 爆音とともに一つ隣の建物が音を立てて崩れ去る。

 今彼女が展開している魔法は、今までのフレイヤの炎獣とは比べ物にならないのだ。

 まず姿が見えない。隠れているとかじゃなくて、物理的に。目の前にあろうと視覚では確認できなくなっている。フレイヤは以前クアと蜃気楼という現象について実験していた。何やら温度差で光がねじ曲がるとかなんとか。学のない俺は二人の話を半分も理解できなかったが、クア曰く「これをうまく使えば見えなくなる」らしい。それをすでに実現段階まで昇華しているあたりメルティアの子孫である。

 更に消えない。先程、谷底で相手した四足獣や階段で見た鳥獣などは倒せば消えた。形を維持しきれなくなった時点で消滅する機構だったのが、今は違う。どのような原理で魔法を維持しているのか分からないが、爆発するくせに消えてはくれないのだ。

 もしもフレイヤの魔力が無尽蔵だった場合、俺に逃場はなくなる。常に爆発する見えない獣にいつの間にか囲まれ、爆散待ったなしだろう。ほら、いかに今のフレイヤが可怪しいかよくわかっただろう。もはや一体を相手取る「クラフトワーク」や「レプリカ」ではジリ貧なのだ。

 加えて先程からのしかかる倦怠感。これも彼女の魔法であった場合、エルメリアの頃からどれほどまで成長したことか。


「くそ、来やがった」


 魔力感知で大まかな場所は分かるにしろ、実体が見えなかったら止めようがない。その為に先程から後手に回り、こうしてミラを連れては逃げ回っている次第だ。

 

「ミラ、走るぞ。行けるか?」


「うん、まだ大丈夫。私が足引っ張ってシロが負けたんじゃ恥ずかしくて外に出られないし!」


「じゃああの民家まで突っ走るぞ!」


 敵城に潜入するかのごとく、魔法駆動の獣達の合間を縫って移動する。

 見つかった瞬間に死が確定する。心臓が跳ね上がりそうだ――!


 転がり込むようにして入ったまだ比較的損壊が少ない民家。その中には、


「わぁー! おにいちゃん!? び、びっくりしたぁー!」 


 ……何故かガブリエルがいた。


「えっと、聞くけどどうしてここにいるんだ? てか正気?」


「え? 私そもそも魔力無いから精神操作系の魔法は効かないよ?」


「んん?」


 イマイチガブリエルの言っていることがよくわからない。普通魔力がない=耐性がないだろう。一般人のほうが余計に魔法にかかりやすいのでは?


「それは置いておいて! おにいちゃんフレイヤちゃんに何したのぉー?」


 純真な眼差しで先程のミラ同様の問いを繰り出してくるガブリエル。


「だからなんで俺が何かしたって決めつけるんだお前たちは」


「だってフレイヤちゃんをあんなのにできるのはおにいちゃんしかいないしー」


 うんうん。隣のミラも大げさなまでに首を縦に振る。


「いつも以上におっかないねぇー。特にほら、あの魔法」


 指差す先、建物の老朽化から生まれた亀裂からフレイヤの姿が視認できる。

 彼女は両の手に何かを持っていた。燃えてるロープ?なんだありゃ。


「おにいちゃんってフレイヤちゃんに何処かで本読ませたりしたー?」


「どうしたんだ急に? 確か魔界の図書館で二人で色んな本探したりしたこともあったけど……」


「あぁー……。だったら自業自得だねぇ、因果応報だねぇ。あれは神話から着想を得た魔法だと思うよぉー。ほら、フレイヤちゃんって動物を使役するでしょ? 彼女なりにより効率よく動物たちを操るかって考えて、至った結論があれ。詳しくはわからないけど、あれは手綱なんだと思う」


「手綱? 動物を従えるっていうあの手綱か?」


「そうそう。それも最高級だねぇ、あれ。おおよそ乗れるものならなんでも従えることができるんじゃないかなぁー?」


「げ、まじで?」


 ふと、セトラから聞いたフレイヤの魔界での戦いっぷりを思い出す。確かフレイヤ幻獣種まで作り出したって言ってたような……。


「はぁ……。これでまだましってことね……。どうするの、シロ?」


 叩くなら早い内の方が良いんじゃない? ミラがそう言いたいことは、感覚をリンクしなくともなんとなく口調から伝わってくる。

 ちらりと覗き穴からフレイヤを見る。……なんとも必死で、でもとても辛そうで。扱う魔力が大きすぎて、彼女の幼い体はそれに耐えられないのだろう。そこまでして俺に勝ちたい理由は何なのだろうか。できることなら早々に負けてあげたいとさえ思ってしまうほど、遠くから見る彼女の姿は真っ直ぐだった。


「……。それもそうだな。早く……終わらせよう」



 廃墟からフレイヤを避けてぐるりと南西に移動。これで準備は整った。

 ミラに視線で合図を送る。緊張した面持ちでコクリと頷く。


「行くぞ!」


 フレイヤは見晴らしの良い平地の中央で魔法を操作している。俺たちを視界に捉えた瞬間に迎撃する態勢なんだろう。

 じゃあまずはその視界を遮ってやる。


「固定解除、『エーテルブレス』……! 今だ走るぞ!」


 三方向で巻き起こる旋風。真空の槍が空間という空間を抉り切り裂き、通過した後には突風が残った。僅か一秒も立たない内にミラ自慢の魔法はフレイヤ付近の地面に突き刺さり、凄まじい轟音とともに大地を刈り取る。

 ここまで来る途中に仕掛けてきた「エーテルブレスこていほうだい」でフレイヤの視界を潰す。

 その隙に……!

 ミラの手を引いてフレイヤのいる中央めがけて走る。飛べればいいのだが、やはりミラが許してはくれなかった。幸いにも爆風に巻き込まれたか、釣られたか、炎獣たちは近くにいない。

 俺らの視界も良好ってわけじゃないけど、これならフレイヤに届く!

 あとは、「レプリカ」で魔法を封じることさえできれば俺達の勝ち――、

 指輪が光る。セトラから貰ったものではない。薬指に嵌めたフレイヤから渡された誓いの指輪が、同時に体の力が一気に抜けて――、


 ――刹那、一条の閃光が俺達の真横を駆け抜けた。

 土煙など異にも介さぬそれが、圧倒的質量を持つ突進であると認識するのに二秒。危機を察知して後ろを振り返るまでに更に二秒。致命的な四秒の遅延は、彼女に二度目の攻撃を許してしまう。


「――『煌き燈す手綱レディアント・レイン』。どうして……お兄ちゃん……」


 光が、燃え盛り、天駆ける幻獣に跨った彼女が。

 怒りとも悲しみとも取れぬ表情で、そう呟いたのを確かに耳にした。

   



二週間ぶりの投稿となってしまい申し訳ないです。

言い訳は活動報告にでも上げておきます。私自身は元気なので安心してください。


さて、VSフレイヤちゃんですね。いよいよ本格的にガーデンでいちゃついたツケが回ってきた感じです。

フレイヤちゃんは祖先のセンスを色濃く受け継いでおり、魔法の拡大解釈といいますか都合よく自分の魔法に落とし込む力がずば抜けています。そのへんはまた次回にでも。

ソルレーヌが錬金の天才だとしたら、魔法の鬼才って感じです、多分。

風の子も、光の子も、魔法はあまり得じゃないので賢者の中ではフレイヤちゃんが最強かもしれません。もちろんソルレーヌちゃんくんやクアさんなど相性的な不利は多いですけど。


ブックマークありがとうございます!

感想や評価もお待ちしてるので、ぜひしていただきたいです!

twitter → @ragi_hu514


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