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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
七章 風の谷の非モテ賢者
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Q.49 風の賢者の子孫はいずこへ?

七章開幕です。


 おっ! あそこにいるねーちゃんかっわいい~!

 ってなんだよ彼氏持ちかよ……。


 ……はぁ。どうしてモテないんだろな、オレ。風の賢者なんだけどなぁ。

 こーみえて一応やるときはやる男なんだけどなぁ……。

 一組、二組、三組……あーもう死ね!! 目の前でイチャイチャしてんじゃねーよ!!

 神だとかなんとかより真っ先にリア充ぶっ潰す!!

 世界平和だとかなんとかはその後だ!!





「出発! ――したのはいいけどさ……。目的地が無いのは流石にまずいんじゃないのか?」


 ガーデンを出てはや二日。目的もなく唯々足を動かしているという今の現状にはどうしても疑問を覚えてしまう。


「そうしてる間にも賢者が危険な目に合ってるかもしれないんだよ? だったらまずは足を動かさなきゃ」


「むっ。でもなぁ。……いや、とにかく一度作戦会議を提案するぞ。ってことで休憩ターイム!!」


 どうせいくら口で言いあっても生真面目なセトラやフレイヤが渋るだろう。伊達に今まで共に旅をしていない。だから今回は先手必勝、多数決によるなし崩し的勝利を狙わせてもらう!

 ふっ、俺が休憩を宣言すれば食いつく奴が三名ほどいるんでな。

 出でよ――!!


「え、休憩? 今休憩って言った? その言葉に二言はないのね!? はい、もう私てこでも動かないから! てかもう動けないし!!」


 肉体レベルが一般人類にまで落ちてしまった超絶わがままお姫様のミラ。


「やったぁー! 休憩だぁー! お菓子食べよお菓子!! えっへへー、ガーデンでいっぱい買ってきたもんねぇー。あ、おにいちゃんも食べるー?」


 颯爽と取り出したクッキーをすでに口へと運んでいる天真爛漫ガブリエル。ちゃんと後で貰うから、俺の口元に無理やり突っ込むのはやめなさい。痛いから。

 そして、


「じゃああたしも休憩しよっと~」


 ガーデンで購入した馬車(引手はフレイヤの動物魔法)から顔だけ出して目をこするクア。お前は今まで寝てただろうが。何をいまさら休憩する必要があるのか全くもって謎だが、まあ人数を増すためには目を瞑ろう。

 俺含め休憩賛成派は四人。中立のソルレーヌを入れても反対派は三人だ。

 セトラはくるっと一周パーティメンバーを見回して、


「ぐ……。わかった……、私の負け。シロがそこまで言うならいいよ。休憩しよっか」 



 一同岩場に腰かけて円を作る。ここ最近は分断されていたというのもあってか、一気に大所帯になった気がする。俺の右隣にミラ、次いでクア、ソルレーヌ、セトラ、ガブリエル、フレイヤといった並び。ソルレーヌを見た目だけで判断するのなら様々な方面の可愛い、美しいを凝縮したような錚々たる面々で、俺がここにいるのが何だか場違いな気さえしてしまう幸せな光景。

 大人しく座ってくれてはいるものの、それぞれ興味が色々なものへと向かっていて俺に集中してくれない。ぶつぶつ自分の体に文句を言う者、じーっと無言で俺だけを見つめている者、お菓子に夢中な者、既に夢の世界に旅立っている者……。

 埒が明かん。

 今までも十分個性的な面子と思ってはいたが、ここまでくるともう手に負えない。

 こほん。

 まるで演説を始める将軍のように芝居がかった咳を一つ。


「……シロお兄ちゃん。……どこかお体が悪いの……大丈夫?」


 違う、そうじゃないんだフレイヤ。いや、気遣いはありがたいんだけど。

 結果として俺を健気に心配するフレイヤに興味は移ったようで。


「みんな聞いてくれ。今から俺の推理を話そうと思う……!!」 


「ほー。ま、へんてこりんな推理もどきでしょうけど、茶の子代わりに話だけは聞いてあげるわ」


 こいつ……。ガーデンのデレデレ具合はどこへ行った? また株が下がっていくぞ……?

 ……デレデレされる状況を思い浮かべて寒気しかしなかったからそれはそれで困るんだけど。

 まあいい。続けよう。 


「今まで賢者の子孫はそれぞれ身に宿す属性に所縁のある地に居座っていた。だったら風の賢者の子孫は風に由来がある土地にいる可能性が高いんじゃないか……!?」


「うわぁ。凄いドヤ顔で周知の事実語ってるよぉ。相棒として恥ずかしいよぉ」

 

 そう言ったミラは活動限界5mギリギリまで俺から離れる始末。

 俺の推理に難癖付けるミラに軽く殺意を抱いたが、どうやら他のみんなも一様に微妙な表情を浮かべている。 


「うーん。というかもう向かってるよ? 風の谷」


「え? 風の谷?」


 ここから南東に進んだ先にある大渓谷。千年たった今も変わらず残り続けているのならきっと俺の知る風の谷だろう。

 風の谷リファブール。複雑に入り組んだ渓谷はその内部で風が循環し、年中突風が吹いている。

 千年前はあんな辺鄙なとこに住んでるやつはいなかったんだが……、今は状況が異なっているのだろうか?


「ほら、ガーデンでフレイヤちゃんが図書館から借りてきた本あったよね? あれにガーデンの姫が派遣された場所が大体記してあったからそこから候補を絞ったんだけど、どうかな?」


 やだセトラすごく有能……!

 てかそうならどうして俺に教えてくれなかったんだ……。


「あのぉー……。セトラぁ……」


 気まずそうに何かをセトラに視線で訴えるガブリエル。


「ん? ガブちゃんどうかした?」


「おにいちゃん、ほらお風呂じゃ目も耳も使えなかったから……」


「ありゃー……。そうだったね……」

 

 あー……。浴場で俺が魔法で何も聞けない間に話してたのか……。道理で女子勢は共通して知ってるわけだ。

 つまり今回の俺だけ仲間はずれ事案は突き詰めればミラによるものらしい。じろりとミラを睨もうと思ったが、よくよく考えたら俺自身そんな刺激的な光景や音声に耐性がない。だからミラの入浴についていくことになっても結局は自分で暗闇無音の世界に閉じこもっていただろう。

 いや、ちょっと待て。女子勢・・・……?


 ゆっくりとソルレーヌの方を見る。

 にっこりとした愛でたくなるような可愛らしい笑みが返ってくる。

 お、お前まさか……っ!!


「どうしたの? ぼくの顔に何かついてる?」


「いっ、いや何でもないぞ! うん、ただちょっと後で詳しく話を聞かせてもらうから!」


「やぁー/// お兄さんダイターン/// ぼくを暗がりに連れ込んで詳しく話を聞くんだね!」


「な、ちがっ! てかお前――」


 男だろ! と言いかけたところで、 


「…………わたしがその役……もらい受ける……!」


 むふーっとやる気満々なご様子のフレイヤの参戦表明。むしろ俺の身が危ない気がしてきた。

 とまあ、新メンバーの加入は頭が痛くなる混沌具合を醸し出していた。


「ごめんねガブちゃん。また私ったらうっかりしちゃってた……」


「いいんだよぉー♪」


 ちなみに命を救ってもらった好みからか、セトラはガブリエルに対して既に語調が砕けている。元々純粋で人懐っこいからってのもあるんだろうけど、あそこまで早いとちょっと嫉妬しちゃうってもんだ。……そしてミラに対してまだ敬語な辺りにミラとガブリエルの違いが出ているのだろなと強く実感させられる。もっと素直になりゃいいのに……。折角あれだけの破壊力を秘めているのにもったいない。


「シロは納得できたかな?」


「ん、おう。むしろ悪かったな。変に水差すような真似しちゃったから」


「んーん、いいの。この分だとみんな大分疲れてたみたいだから、うん、丁度よかったよ」


「そーよ! ちょっとは普通の人間の身を労わりなさいよね! 」


「あはは、ごめんなさいミラ様。でも疲れたら遠慮しないで言ってくれてもいいんですよ?」


「う……遠慮なんかしてないし!」


「ふふ、そうですか。じゃあ今度から気を付けますね」


 ああしてる分には普通に仲いい姉妹って感じなんだけどな。二人の間にある妙な溝が埋まるのはいつになるやら。



 再び道中。


「皆さん、右方から魔獣襲来です! 数は四、かなり大きい……竜種です!」


 セトラが臨戦態勢へと移行する旨をパーティに伝える。

 まだ人類領とは言えガーデンから南方に進むとそこはもう人が住まう土地ではない。俺たちが足を踏み入れんとしているのは今では希少となった竜種、幻獣種といった凶暴な性能を秘めた魔獣たちが跋扈する地なのだ。

 ……もちろん天使とやりあってきた俺たちが、今更魔獣たちに負ける道理はない。だが俺とセトラは体内に天使、神性の魔力を秘めているため、暴走という万が一に備えて戦闘は支援のみを行う取り決めとなった。

 セトラは一転範囲内の敵を探知する索敵、俺は戦闘中のみんなの様子を魔力感知し、その場に応じたサポートを。今回は希少な竜種が相手だから可能な限り生かしたまま沈黙させたい。人類にとって敵でも自然にとって敵とは限らないからな。世界を救えたとしてもそのあと環境悪化でのたれ死んでたら意味がない。


「ミラ、先頭の一匹撃ち落とせるか?」


 隣にいる魔王様もたまには使ってやらないとかわいそうだ。ぶっちゃけ戦えないのは俺が前線に出ない様にとセトラに言いつけられているからで、ミラだってもう十分に戦える強さまで成長しているのだ。

 こいつ、律儀にリンクがつながった後でも、こっそりと夜に魔法理論勉強しなおしてたりするし……。


「なめないで! そんなの余裕なんだから!」


 と、返ってきたのは何とも頼もしい言葉。

 ミラの前方に展開される細く鋭い針。一本一本はさして強力な魔法じゃないが、この戦法の恐ろしさは俺が一番よく知っている。

 天に向かってぴんと伸ばした腕を振り下ろすと同時に、一斉に竜種目がけて飛んでいく魔法の針。

 ――が、しかし。


「にゃっ!? あんまり効いてない!」

 

 カッコつけて詠唱破棄するからだろ……。

 まあ、バランスは崩せたし地面ギリギリまで落とせたなら上出来だ。


「ソルレーヌ、拘束頼む!!」


「まかせて! 起源魔法、万物の一アルス・マグナ!!」


 魔法を発動した彼の細く可憐な右手に絵本のような子供っぽい装飾で彩られた本が現れる。

 ソルレーヌの魔法は他とは性質が大きく異なる。普通の魔法使いや賢者たちが自身の魔力から何かを生み出す術式に対して、彼はすでに世界にあるものを変化させる。

 その正体は錬金術。それもかなり高速度の。

 一度手合わせをしてみたが、戦闘中でも地形、所有武器の変形と強化、その他諸々を手に取るように自由自在に操るのでやりにくいったらなかった。テラさんが負けるのも何だか納得だ。明らかに人間の手に負える力じゃないからな。弱点を挙げるとしたら、あの本を持っている間しか錬金できない点、錬金対象とある程度の距離があると発動しない点だろうか。

 それでも十分驚異的な魔法だけどな……。 


 故に、彼が使える魔法は万物の一アルス・マグナの一つだけ。

 発動したらあとはもう彼の一人舞台だ。

 

 黒く変色した大地から伸びる鋼の鎖。低空飛行でミラを狙って一直線な竜に絡みつき、地面に叩きつける。一度捕まったら最後、触手のように増殖し、まとわりつく鎖に竜種は身動きが取れなくなってしまった。


「二匹目、三匹目接近!」


「……右はわたしにまかせて……」


 そして、フレイヤ。

 正直、彼女の戦う姿を俺は想像できなかった。魔界でも主戦力だったと聞いたが、普段の彼女の温厚な性格と戦いという単語を結びつけることが俺にはどうしてもできなかった。

 だが――、


「……起源魔法、出てきて、みんな!!」


 炎の鳥獣たちを引き連れる彼女の後姿は、子供ではなく既に立派な魔導士だった。

 大切なものを護りたい。そんな意志が込められたもっとも強力な魔法。

 ……セトラ曰く、魔界じゃもっとでかいの出してたよ? とのこと。……これからはあまり怒らせない様にしよう。うん。    

 的確に翼と足だけを攻撃し、見事に宣言通り対象を沈黙させる。

   

「!! 左側の一匹突撃してきます!」


 セトラの通信、その数秒後、吹き荒れる旋風が後ろの馬車を激しく揺らす。

 

「あっぶねぇ!」


「あ! ねぇねぇ! あれ・・試してもいいかなー? いいよねー!?」


 何を思ったか、くいくいと俺の袖を引っ張るガブリエル。

 まだ誰もケガしてないし、彼女の出番は今のところないはずだけど……。 


「いや待て何のこと――」


「ソルレーヌちゃんと一緒に作ったからどうしても試したくてぇー」


「は!? ちょっと説明を――!」


「みんなぁー、伏せててねぇ! いっけぇー!!」


 ピンッ。

 ピンッ? あれ、もの凄く嫌な予感が……。

 瞬間、太陽よりも激しい光が空に瞬く。

 轟音。雷が落ちたかと錯覚するくらい、体を芯から揺らす爆音。

 

「んなっ……!!」


 言葉も出なかった。ガブリエルが竜種の方へブン投げたのはまさしく爆弾。

 爆発自体はそれほど威力のあるものじゃなかったが、音と光の衝撃をもろに食らった竜種は気絶して地に横たわっている。

 

「どうしてそんな危ないもん作ってるんだよ! ガブリエルが買った本は薬の本だったろ!?」


「え? 火薬って薬じゃないの? 身を守る方法って書いてあったから、一応ね、調合はちゃんとやったんだよぉ……ダメ……だったかなぁ……」


 瞬く間にしゅんと落ち込むガブリエル。


「はぁ。もしガブリエルがケガでもしたら嫌だから、今度から調合するときは俺の傍でやってくれ。……いいか?」

  

「え? それって……、じゃなくて、いいの!?」


「ああ、ちゃんと見ててやるから。後ソルレーヌにもきつく言っとかないとな……」


 ちらりとソルレーヌの方を見ると、嬉々として気絶して竜種の方へ駆けつけて鎖で縛っていた。箱入り娘扱いとはいえ、ある意味逞しいというか、流石はテラさんの弟というか……。


「こら! なに私の隣でイチャイチャやってんのよ! まだ終わってないっての!」


「ラスト一匹――、体内に高濃度魔力を検知……っ! ブレス、来ます!」


 しまった油断した!

 真っ赤に染まる喉元、あれは……直撃したらまずい!

 ソルレーヌは――だめだ遠すぎる!

 こうなったら俺が、


「くそ、間に合わ――」


「ふぁ~地震~? ん~、きげんまほ~、水鏡の盾シルト・レーゲン~……」


 馬車の奥から聞こえた気の抜けた声の後に続いて、発動する水魔法。

 竜種の咆哮ドラゴンブレスにすっぽりと覆いかぶさりあっさりと無効化。それどころか、竜種まで巻き込んでまん丸い水球となる。

 

「クア……。助かったけどさ、次からはちゃんと起きててくれるとありがたいぞ」


「えへへ~ごめんねぇ~」

  

 我がパーティの守備の要、クア。こいつは最近いつもに増してさぼり癖が顕著になった。

 いても大体ぼんやりしてるだけだが、クアがいないとソルレーヌくらいしか身を護る魔法使えないからな……。


「……。反応はこれ以上ありません。戦闘終了です。皆さんお疲れ様です」


 とまあ、大体こんな感じで。

 どうして、いつも死を実感する戦闘ばかりなのだろう。

 実力は十分なはずなのに……。

 無事に風の谷まで辿り着けるか心配だぞ……。

全然本編関係ないですけどもう年末ですねー。

なんだか今年はとても早く感じました。

皆さんはどうでしたかね?


ブックマークありがとうございます! 

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