A.5 裏役たちの休息
時系列的にはシロがデートで奔走しているあたりです。
こっちも掘り下げてみたかった。割と平和で微笑ましいパーティです。
「うおぉー!! すげー!! 何でもあるぜ!?」
「カガリ君はしゃぎすぎ。ほら、街の人から変な目で見られちゃうよ?」
ちょっと目を離したスキに私から離れていってしまうカガリ君。
そんな彼を諫める役が板についてきちゃってるハヅキちゃんも、口ではああ言っているけど目線にいつものような冷静さが見られない。
「あらあら、二人ともお祭りは初めて?」
元々二人はラミエルちゃんの魔法によって召喚された異世界の住民。見るものすべてが目新しさで埋め尽くされているのも無理はないのかもしれない。
本来はあの子達に見つかっちゃうとちょっと厄介だからあまり目立って欲しくはないのだけど……。ここ最近塔を離れて徒歩での移動ばかりだったから羽休めも悪くないのかも。
「俺たちの世界にも祭りはあったけど……、こう、なんていうか『ワフウ』……っていうかー……。ああ、説明しにくいっ!!」
「もっと信仰に沿ったものでした。基本は神様を祭る意図を重視してて……。あ、でもわたしたちみたいな子供は単純に屋台とか花火とかを楽しんでました。こっちのお祭りは、あんまり神聖な感じ、しないです」
「へぇ~。そっちの世界にも神様はいるのね。ハヅキちゃんが違和感を感じたのは、ここのお祭りがどちらかというと豊穣への感謝よりも街に対する個人の奉仕への労いに重きを置いているからかも。ここの王様が代々人類賛歌を掲げるような人ばかりだったのも、この風習が根付いた理由の一つかな」
「んー??」
あら、今の説明はカガリ君にはちょっと難しかったみたい。
「つまり『神様有難うございます!』じゃなくて、『一年間ご苦労様!』ってこと、かな?」
「な、なるほどー」
「もうっ、カガリ君!」
わかってないわね……。
聖庭祭の起源はさておき、一応二人には念押ししておかないとね。
「それで、二人とも見たいものがあったら回っていいけど、絶対にお姉さんから離れちゃだめよ? 変に魔力使っちゃうと見つかっちゃうから」
ハヅキちゃんがいるから大丈夫だとは思うけど、念には念を押すことにした。
こんなところで――、
「こんなところで計画が破綻したら困るからね」
後ろからぼそりと私にだけ届く声で釘を刺す。
……ロノウェちゃんもすっかり意地悪な奴になっちゃったわね。
「お姉さんに任せない。そんなつまらない未来は認めないわ、安心して」
「なぁに、今の立場に不満はないさ。もちろん君にもね」
……ほんっと、変わった子ね。
魔界での戦いの後で仲間になりたいなんて言うから相当の変わり者だとは思ってたけど、調子狂わされちゃう。
「でも大丈夫なのかい? ラファエル、君は人間領の通貨持ってないだろ?」
「あっ……」
「……やっぱりかい。肝心なところで詰めが甘い所、気を付けるべきだ。俺のを分けるからそのお金で二人と一緒に楽しんでくるといい」
「えっ……? ロノウェちゃんは?」
「こんな眩しい行事は似合わない日陰者だってことは自分がよくわかってるはずだ。それに、ちょっと会いたい奴もいるからね」
「……そう……。無茶はしちゃだめよ?」
「わかってるさ。それこそ計画の為、だろ?」
そう言うと、彼は霧のように人ごみの中に溶け込んで姿を消してしまう。
……折角だから一緒に回りたかったなんて思ってしまう私がいる。随分と平和ボケしたものだと、自嘲気味に笑ってしまうくらいに。
「待たせちゃってごめんね。さあ、回ろっ――か?」
と、そのタイミングで居るはずの二人が居なくなってしまったことに気づく。
割とピンチでも動じないことで有名な私でも、今回ばかりは顔が引きつっていた。
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「さあ、食べ物、ゲーム、雑貨、全部コンプするぜ!」
……。やっちゃった……。
『カガリ君はわんぱくさんだから、ハヅキちゃんがちゃんと傍で見てあげてね?』。これはラファエルお姉ちゃんとの約束。颯爽と駆け出した篝君を追いかけるのに必死になって、私まで迷子になってどうするの……。
お姉ちゃん怒るかなぁ? 今まで一度たりとも怒ったところを見た事無かったけど、魔界での戦闘で確信した。あの人(?)はこの世界で一、二を争うほどの実力者だ。
放っておいても勝ちが確定していた神様の陣営を投げ打ってまで自分の一人勝ちを望んでいる時点で言葉は悪いけれどいかれてる。この世界のこと、まだ全部解ってないわたしでも理解できてしまう危険な橋渡り。恩人だから手助けしたいって思うけど……それが本当に大丈夫か不安にさえ思えてしまう。
目下、それより不安なのは篝君なんだけど。
「あの、カガリ君こっちのお金持ってるの? ラファエルお姉ちゃんはぐれるなって言ってたしお金ないなら戻った方がよくないかな?」
「はっ! ……しまった。すっかりあっちの感覚でいた……。五千円札があれば大丈夫だと思ってた……」
「もー! 篝君はどうしていっつも考えなしに動いちゃうかなぁ!!」
本当に彼とわたしは同級生なのだろうか? まさか義務教育でおダブりさん……なんてことはないよね? ……ないと信じたい。
「うわっ、怒るなって葉月。いつも怒ってるとしわが増えて早くふけるって俺の母ちゃんが言ってたぞ?」
「余計なお世話――」
ドンッ!
宙を舞う――あれ、なんだろ、パン?
「いったた……。あ、ごめんなさい! ちゃんと前向いて歩いてませんでした!!」
わたしがしりもちをつくと同時、空が揺れ落ちてきたのかと見間違うほどに晴天に溶け込んだ髪の毛が視界の端に映り込んだ。
何て綺麗な女の人なのだろう。よくアニメに出てくるような、元いた世界では絶対にお目にかかれない色の髪の毛を全く違和感なく纏っているその姿は、きっとわたしなんかと違って「美少女」と称される部類の人間。それほどまでに美しい女の人にぶつかってしまったのだ。
「あ~!! あ、あたしの『スペシャルベジタブルサンドイッチミートマシマシDX』がぁ~!!」
おでこの上で縛った空色の髪の束を揺らしながら吠える姿は、外見とのギャップがまあなんともものすごかった。
そんな意外な一言に驚いてしまって、
「わぁーっ! ご、ごご、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
呪文のように謝罪を繰り返す。
わたしの頭に張り付いたしっとりとみずみずしいトマトの水滴が目に入り、急いでそれを服の袖で拭う。
……改めて直視してみても、「すごい綺麗なだなぁ……」といった評価しか出てこない。わたしと同じくしりもちをついているその姿さえ絵になっているみたい。
「べんしょーだぁ~!! 食の恨みは恐ろしいんだぁ~!!」
「何だこのお姉さん!? びっくりするくらい大人げねぇー!!」
「だ、だめだよ篝君! あの、その、本当にごめんなさい。お金……今無いんですけど、ちゃんと弁償しますから……」
どうしよう、どうしよう! こんな目立つような事して、もしこの人たちが勇者さんの仲間だったら絶対顔覚えられちゃうよ……。
「……お姉さん。どっちにしろ旅の道具を買わずに勝手にお金使っちゃったから後で怒られると思うよ……。後ちゃんと前向いてなかったのはこっちもだからお互い様……」
ひょこりときれいなお姉さんの後ろから顔を出した女の子。
わたしより少し年下だろうか。身長的に元いた世界だったら小〇生に当たる小柄な女の子は諫めるようにお姉さんにそう語りかける。
……なぜかすごいシンパシーを感じるような……。
「……あし、大丈夫? すりむいちゃってる……」
「え? わ! ほんとだ、血ぃでてる……」
「わたし……あまり治癒魔法は得意じゃないから……お父さんやお母さんに直してもらって。ごめんね。サンドイッチとおあいこ……?」
なぜ疑問形なのだろう? 同意を求められているのかな?
「う、うん。」
ダウナー気質とでも言うのだろうか、感情の起伏が乏しそうな彼女はもはやこんなことは日常茶飯事ですといった雰囲気で冷静に、淡々とトラブル解決に努める。
一通り落としてしまったサンドイッチだったものを拾い集めると、お姉さんの手ををとって、
「じゃ、わたし達行くね……」
何て健気なのだろう。普通だったら逆だと思うんですけど。
同じく苦労人なのだろう少女に同情したわたしは、
「あ、うん……。その、何だか大変そうだけど頑張って」
無意識のうちに彼女を励ましてしまっていた。
「……? うん、ありがとう」
「や~だ~! サンドイッチが食べたかったのぉ~!!」
「はいはい……あとでわたしがつくるから……それで我慢して……ね?」
「むぅ~! ……。……許した! フレイヤちゃんいいお嫁さんになれるよぉ~」
……。なんて残念な美人さんなのだろう。神様はニ物を与えなかったらしい。
後に残ったのは嵐が過ぎ去った後のような疲労感と、足の痛みだけ。
な、なんだったんだろ……。不思議な出会いだったような――、
「じゃなくて!! 篝君早くラファエルお姉ちゃん探すよ!」
「あ、おう。その、悪い葉月。俺のせいで怪我させちゃったかも」
「へ? あ、ああ! こんな傷大丈夫だよ! わたし達こっちに来てかなり丈夫になったみたいだし……」
とは口で言うものの、実際は体内で波紋を作っているようなじんじんとした痛みに笑顔が引きちゃってるかもしれない。
――それに、真っ赤な血は、あの事故を、思い出すから……。
「ほれ」
「ひゃ!? え、えっーと……?」
かがんで背中を見せる篝君。
「担いでってやる。ちょっとはしゃぎすぎちゃったから、葉月担いでたら俺も回り見えずに屋台に突撃ー、とかできないし」
まったく、もう。
「わたし、重いよ?」
そう言いつつ彼に体を預ける。わたしと同じくらいの子供の背中なのに何だか大きく見えちゃうのはなぜだろう。
「今の俺は結構力持ちだから、この重さくらいなら大丈夫だぜ!」
「……そこは重くないって言って欲しかったかも」
「あ、悪い……」
「謝られると余計自信なくすからやめて!」
……。
この世界でわたしが唯一縋れるのは篝君しかいないんだ。
ラファエルお姉ちゃんは優しくしてくれるし、最近仲間になってくれたロノウェお兄さんは面倒見がよくてわたし達によく構ってくれるけれど。
それでも引っ込み思案なわたしが元いた世界と百八十度違うこの世界でも笑ってやっていけるのは、同じ境遇の篝君がいたからかもしれない。
……もしわたしに、お兄ちゃんがいたらこんな感じなのかな?
ちょっとバカで、考えなしで、お調子者だけど。
案外わたしは、そんな篝君の事が割と好きなんだと思う。
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やっべぇー……。さっきから葉月が全然喋んねぇよ……。
絶対怒ってる! マンガとかアニメだったら、このまま背中をブスリ!ってなってるかも……。
ということは、葉月に背中を預けてるこの状況はかなり危険!?
やべぇ!!
「は、葉月ー? もう歩けそうか?」
「もうちょっと……おんぶしててもらいたいかな……」
ひゃぁぁぁあああ!!
狙われてる! チャンスをうかがってる!
「えへへ……おにいちゃん……」
おにいちゃん……!?
俺は葉月とはこっちに来てくれてから知り合ったはずなのに「おにいちゃん」!?
いや、待て。確かあれは兄貴の部屋で見つけたCDだったか……。
包丁を持った女の子のイラスト(なぜか目が虚ろだった気がする)が書いてあるCDを聞いたら「お兄ちゃん……」って、そう言って女の子が! ドカーンって! 怒ってて!!
「うわぁぁぁぁああああああああ!!!」
「か、篝君!?」
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何やら城下町が騒がしいが……、誰かが問題でも起こしているのかな?
まさか、カガリ君じゃないだろうと思うけど。ラファエルもついているはずだし。
「それで? 何をしに来たのだ、国を捨てた裏切り者が」
王たる象徴である黄金をふんだんに身に纏った青年。
人類という種の頂点たる存在が俺を見下ろす。
人に見下ろされるのなんて幾時ぶりだろう。そう思案してみたけれど割と最近、それも立て続けに二回も見下ろされてたか。
「いいや? 俺は別に魔界を捨てたわけじゃないさ。こうした方が結果的に正解だとそう解釈しただけだ。――君が勇者シロを選ぶように、ね」
ラファエルの下についた理由に関しては、実際それが全てだ。俺が今魔界であの玉座に居座っていても、事態はなにも進展しやしない。むしろ悪化の一途をたどるだけだからね。だったら俺はいなくなったことにして自分で事態を終息に向かわせた方が手っ取り早い。魔界の頭が固い連中は今頃大慌てかもしれないけど、それもいい機会だろう。
「どうやら我と貴様では王たるものの捉え方が違うみたいだな。なんとも嘆かわしい。国には民と土地、そして王が必要なのだがな」
「君の国を見ててつくづくそう思うよ。ただ魔界は昔から弱肉強食、幸せを掴むには自身の努力を必要とするからね」
「その結果今魔界では争いが増加しているのではないのか? 我が国の援助無しでは三日と持つまい」
「ああ、その件に関しては本当に感謝している。過去に遺恨を残しているにも関わらず、ご厚意感謝する」
「……過去の対戦に関しては俺たちが話す事でもあるまいよ。少なくとも我が魔族を恨む理由はどこにもない。思想は違えど、な」
「違いない。いやいや、今日は人類王がどんなお方かと顔を拝見しに赴いたが、実に噂通りで安心したよ」
「ふん。では突然の来訪という無礼を不問にする代わりに最後に一つ問おう」
「なんなりと」
「貴様は我達の敵か?」
「さあ、どうだろうか。少なくとも敵ではないよ。今はね」
「ふん……。食えん奴だな」
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どこなの、カガリ君、ハヅキちゃーん!!
お姉さんを置いていかないでー!!
章の終わりということで人物設定紹介もかねて、せめてメインのパーティメンバーくらいはデフォルメでキャラ画像描きたいけどみてみん(画像連動)のシステムが不便ゆえに悩み中です。
今のところまともにキャライメージが出てるのがガブリエルちゃんだけという主人公組の不遇っぷり。
流石に何とかしてあげたさはあるんですけど。
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