Q.48 幼馴染の秘策?
ガーデン編最終話。
がっつり説明パートです。
『親愛なるシロお兄さんへ
みんなと一緒に王宮まで来てほしいな!
お兄様と一緒に美味しいお茶とお菓子を用意して待ってます!
P.S.初めて……とってもよかったよ……♡
ソルレーヌより』
聖庭祭の二日後、朝目が覚めたら部屋宛に手紙が届いていた。
差出人は言うまでもなくガーデンの姫(?)ソルレーヌ。
最後の一文は……まあ放っておくとして。一体何の用だろう? テラさんから反対されでもしたのか? いや、それにしては文章から仲睦まじさがにじみ出てるよなぁ……。
なんて手紙を眺めていると、横からひょこりと、
「『初めて』、『よかった』……? お兄ちゃん……まさか……?」
なんとも不思議そうに小首をかしげるおませなフレイヤちゃん(7)。
「まさか」ってなんだ「まさか」って。
「あのぉ……フレイヤさん……? 待って、とんでもない誤解だから! なぁ!! てかどこからそういう知識――」
「ほーら、やっぱり可愛ければなんだっていいのよこの男は~」
と、悪態をつくのは小生意気にもテーブルに肘をつきながら女性向け雑誌をペラペラめくるミラ。
つい先日のデレはどこへ行ったのやら、俺へ対する当たりの強さは今まで通り健在のようだ。
「おいこら! 今すぐ訂正しろ!!」
「あはは~。今日も平和だねぇ~」
「仲がいいほど喧嘩するーって本に書いてあったしねぇー」
どうしてそう思えるのだろうか。クアとガブリエルは5m鬼ごっこを開始しだした俺とミラを見て満足そうにそう微笑む。
「はいはい。二人とも落ち着いてください――ってシロ! 私の巫女服踏まないでー!!」
「え! ちょっと待て、俺は被害者だっての!! つーかそんなに大事なら床に置いとくなよ!!」
「その言い分はあんまりだと思うんだけど!! そもそもどう考えても部屋で暴れるのが悪い!」
「やめろ、くそ、シロ! 吹っ飛べやぁ!!」
飛び交う怒号。暴発する魔法。
部屋を借りていることすら忘れて、というより我を忘れて跳ねまわる勇者、魔王、巫女。
「うるさい……」
「あ、ははー……確かに最近喧嘩しすぎかもねぇー……」
「ううんガブちゃん。皆素直になってきたんだよ~。あたしはこっちの方が見てて安心するなぁ~」
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・
「はい……土下座」
「「「すみませんでしたっ!!!」」」
結局事態を収めたのは最年少のフレイヤだった。聖庭祭を終えてからこのポジションが確実にセトラからフレイヤへと移っている気がしてならない。
……それはきっと良い傾向なんだろうけど。
「……セトラお姉ちゃん。どうするの? 今日向かう?」
「そうだね。ガブリエルちゃんも回復したことだし、必要な装備も整えたし、もうあまりこの街にとどまる理由も無いかな。今日中に用事を済ませちゃって明日から次の目的地を目指せるようにしたいかも」
「じゃあ早い事王宮へ行こう。……でも何の用なんだろうな」
「多分『ご先祖様からの伝言』関係じゃないかなって。ほら、ガーデンは歴史長いからちゃんと残ってるだろうし」
一同の視線が一名へと向かう。
「や、やだなぁ~。あたしに関してはしょうがないと思うんだけど~」
まぁ……スラム街出身という生まれ育ちを考慮するなら仕方ないとも言えるが……。
「……お前直前にシャドに教えてもらってたこと忘れるなよ……?」
「~、~~♪」
なんとまあ下手な口笛だ。
「ったく、今回ばかりは良い情報が手に入ることを祈るしかないな。まあ、ノインなら問題ないとは思うけど」
「そのノインって土の賢者の?」
「あーそっか、ミラは一応面識あるんだったな」
「あの子、男だったのね……。今のソルレーヌちゃん見て何だか納得しちゃったわ」
確かに、あいつも中性的というか、ぱっと見女の子にしか見えないとこあったからなぁ。あそこまで色濃くソルレーヌに受け継がれているとは思わなかった。初めてソルレーヌに会ったときは完全に女の子として見てたし。
「あいつはメルティの次にしっかりしてたから、安心してくれ」
「相変わらず年齢と精神が釣り合ってないわよね、昔のシロのパーティ」
「……それは今も変わらないけどな」
「……あぁ、そうかも」
コクコクと、腕を組んでうなずくミラ。
何を言ってるんだ……?
「お前も含めてだぞ?」
「あ? 戦争がしたいならそう言ってよ――ね!!」
その魔法弾が第二次宿屋対戦の開戦合図となった。
……その後フレイヤとセトラにこってり絞られました。
・
・
・
「ソルレーヌちゃーん! あーそびーましょー!!」
「あのなぁ……。一応相手は王族なんだからもう少し礼儀をもってだな……」
ソルレーヌに向かって猛ダッシュ、背中に羽でも生えたように駆けだすセトラ、高価な絵画に目がないミラ。ふらふらと廊下をうろつくクア。……全く聞いちゃいねえ。
「正しいんだよ。お兄ちゃんが正しいの」
「……よくできました。よーしよし」
「ガブリエルぅ……、フレイヤぁ……」
パーティの良心はもうこの二人しかいなかった。本当に今後やっていけるかが心配である。
「わぁ! みんな来てくれたんだね!! 待ってたんだよー。お兄様は外に出してくれないし、そのせいでお姉さまたちにいじめられちゃうし散々だったんだから!!」
出会い頭に結構ブラックな王宮の内部事情をぶっこまれても反応に困るぞ……。
「仕方がないだろう。あれだけ外出時は我に託を残すようにと言っているのに、勝手に外に出た罰だ」
「ぶーぶー!! お兄様のけちー!」
「はは、やっぱり喧嘩とかじゃなかったみたいだな。安心したよ」
まるで本当の兄妹のようなやり取りを見て微笑ましくなる。俺たちの中には兄弟、姉妹持ちがいないからこういった身内同士の掛け合いは新鮮だ。
となると、だ。やっぱり呼びつけたのは――、
「そうそう! 今日はみんなに見せなきゃいけないものがあったから集まってもらったのです!」
無い胸(あるはずがない。むしろあったらあったでそれは事件だ)を目いっぱい張って賢者としての義務を全うしようとするソルレーヌ。えらいぞ。同時に横目で見たクアがかなり落ち込んでいるように見えたが特にノーコメントで。これで楽観的性格にちょっとは歯止めが利くといいのだけれど。
「ガーデンは管理体制が万全だったためか、『伝言』とやらが魔法記録媒体として残っていてな。ああ、心配しないでくれ。来るべき時が来るまではアールグランド家のものでも見られないようになっていたからな」
と、テラさん。
「見られないように……ってことは何らかの条件、保護魔法的なものがあると?」
「その通りだ。相変わらず貴様は理解が早いなセトラ。条件――というよりは『鍵』に近いな」
テラさんはそう言うと王座から腰を上げ、懐から何やらオルゴールのような小型の箱を取り出す。その箱には話の中に出てきた「鍵」を使うのであろう鍵穴が一つ。
「『鍵』? ここまで来てさらに探し物クエストとか私は勘弁よ」
俺のすぐ後ろで素人目にも高価なのが分かる絵画を鑑賞していたミラが、唐突に会話に首を突っ込む。そもそもまともに探さないだろうしな。せいぜい大人しくおんぶされてくれれば御の字といったところだろうけど。俺も願わくばそれは勘弁したい。
「その点も問題ない。『鍵』はシロ、貴様が持っているはずだ」
「え? 俺……!?」
急に指さされて、加えて「鍵」に心当たりがなくて焦る。
「えぇ……「鍵」……? そんなもんアトラからもらった覚え無いぞ……」
まずあいつから貰ったものなんて、冒険するきっかけと、忠誠心と、ほんのちょっとの愛情くらいしか……、いや、もうよそう。心が痛い。
「『クラフトワーク』はだめなの?」
「お、おお! ナイスセトラ! それなら可能性あるかも!!」
確かに「幻想展開仮想魔法」はフレイヤの先祖であり、俺の魔法の先生でもあるメルティと、アトラの二人が構成を考えてくれてる。アトラから貰っていると言っても、まあ差支えはないだろう。
「じゃあ、早速試してみますか。――『幻想展開仮想魔法』」
目を瞑る。
思い描くのは、あの箱の鍵穴に合うような鍵。
鍵穴を隅々まで観察したわけでもないのに、まるで設計図が脳内に残っているようにどんな構造の鍵を作ればいいかが理解できてしまう。
――。目を開けると、小指大の鍵が掌に現れていた。
「ほう。なかなか高度な錬成魔法だな……。ソルレーヌの魔法よりも創造的なんじゃないのか?」
「ぼくだって負けてないもん! でもでも、あの鍵だけはどうやっても開けられなかったからきっとあの魔法じゃないと駄目なんだろうね」
そういやソルレーヌの魔法、結局教えてもらってないなぁ。戦闘になったら見せるって言ってたと思うけど、錬成系なら素の戦闘能力が結構高いのだろうか。
なんて考えつつも、テラさんの元まで歩み寄る。
手渡された箱の鍵穴に鍵を差し込み、時計回りに一ひねり。
かちり。
「あいた……!」
「さてさて、千年前からの情報か。少し心躍るな」
すると、箱がゆっくりと重さをなくしていくような……。段々と浮いてる?
自動的に宙に浮かび、開いていく。
次の瞬間――、
『やほやほー! シロ元気ー? あ、ミラちゃんもおひさしぶり!! って言ってもアーレアの私とは別人格なんだけどね』
もっとも見たくないやつの顔が浮かび上がる。いや、想像とかじゃなく、実際にアトラ・アーリエがこのガーデン王宮、王の謁見の間の空中に浮かんでいる。
千年前の魔法技術どうなってたんだよ……! 下手したら今でもかなりの難易度だろこの魔法!
「……アーレア? シロお兄ちゃんとミラお姉ちゃんが飛ばされた先で向かった村だっけ……?」
「そうそう、その近くでわたしに出会ったんだよぉー」
「……なんで千年前のアトラ……お姉さんがそのことを知ってるの……?」
確かに。フレイヤらしい鋭い着眼点だ。俺に関しては「あ、知ってるんだ」程度の反応だったが、まあどうやって知りえたかは気にならないこともない。
『あはは、さては驚いているな!? 未来予知の力は伊達じゃないってこと! ――じゃなくて。本題ね』
ああ、結局結論は「アトラさんスゲー。何でも出来ちゃう」になっちゃうんだ。うん、知ってたけどな。
そしてそんな回答にすごい不満そうなフレイヤ。真に残念だが、こいつには常識という常識が通用しないからこればかりはもう慣れるしかない。
『さて、シロは私の思惑通りなら今、通常の人間の魔力に加えて魔族、賢者、そして天使と四種類の魔力を体内に宿していることになるけど、大丈夫かな?』
「なっ――!」
アトラの発言に驚きを隠せない者、感心する者、僅かながら目を伏せる者、無反応の者。様々な、十人十色の反応が現れる。
『周りの反応は置いておいて、シロは世界を統べるには何が必要だと思う?』
「……はぁ? 俺は……。……」
その質問を聞いて、ミラの過去を思い出す。
メギドラ家に迫害され、両親を失いながらもたった一人、個の力で魔界をひっくり返した王の事を。
けれどそんな力は必ず限界が来る。ミラ自身が潰れなかったのが奇跡のようなものだ。
俺は――そんな力には頼りたくないかな。
「俺は『理解』だと思うぞ。力で抑え込むより、そっちの方が……誰も傷つかないと思う」
『へぇ。うんうん。まあ聞こえないんだけど、シロなら誰も傷つかない答えを出すんだろうね。それが私がこの作戦にシロを選んだ理由。私じゃどうしても最低限だけど犠牲を出しちゃうだろうから』
「……お前の子孫もお前と全く同じだったよ」
『でね、魔力って言うのはその種の権限が沢山詰まってるの。「クラフトワーク」が分かりやすい例かもね。急にメルティアの声が聞こえたりしなかった?』
思えばエルメリアでも、つい最近のガーデンでの戦いでも、メルティやノワールの声が聞こえた。
あれは「クラフトワーク」に込められたメルティの魔力や、ペンダントから流れ込んだ賢者の魔力によるものだったってことか?
『あれは権限の一部ね。つまり今のシロはこの世界の全ての種族にアクセスできるってわけなの』
元々備わって生まれた人間の魔力。
シャドのペンダントによって継承された賢者の魔力。
セトラから奪った天使の魔力。
ん……? でも、だったら魔族の魔力はいったいいつ手に入れたんだ?
「アトラ」
唐突に、場を凍らせるほど冷たい声色が広間に響く。
それがミラの声だと認識するまでに多少、時間を要してしまうほどに。
『あー……私魔法によって生まれたプログラムだから聞こえない。ごめんねミラちゃん』
おい。その反応は流石に聞こえてるだろ。
「クロの!! バゼッタ・クロノワール・エイワーズの魔力をどうやって手に入れた! 答えろっ!!」
見事なまでの取り乱しっぷり。推測の域を出ないが、あの「クロ」ってのは俺の代わりにラグエルと戦ったって言うミラの元眷属の事だろう。
『ごめんね。本当にごめん。貴女が怒るのも無理はないと思う。だけど言えないの。これが彼との契約だから』
「ミラ様……」
「やっぱりあんただったのね……。じゃあシロは……」
『うん。ミラちゃんの想像通り。だから彼の魔力が必要だったの。……ごめんなさいミラちゃん』
「……。全部あんたの掌の上って訳ね……。その鬼畜さ、怒りを通り越して尊敬するわ。やっぱりこの時代に来るべきだったのはシロで正解だった」
「おい、ミラ。なんなんだよさっきから二人だけで」
「ごめん。今は放っておいて。気持ちの整理に時間がかかるから。後できちんと話す」
……なんだよ。らしくないぞミラ。
それを最後に、ミラは俯き何も言葉を発さなくなってしまう。
アトラは一体ミラに、ミラの眷属に何をしたんだ?
『本題に戻すね。つまり今のシロはもう既に神になる資格は十二分に持っているってこと。しかも全種族を魔力による権限で納得させた上で、ね』
「……なるほどな。セトラが元々使うつもりだった天使の力+他種族の魔力があるからってことだな」
『その通り! でもどちらにしろ塔に登って現在の神様を引きずり下ろす必要はあるの。同時に二人の神が存在するなんてことはあり得ないから』
もし俺が神になったときは完全に独りぼっちって訳か。さらっと流すけど、やっぱり地味に堪えるな。
てか、やっぱりこいつ普通に会話してるよな……。魔法プログラム設定はどこ行ったんだ。
『結局シロ達の目標は、「残りの賢者たちを集めつつ、塔を登る準備をしておく!」ってとこだね』
「あのさ、賢者を集める理由って何かあるのか? これも魔力による権限に関係してるとか?」
『んー、半分あってるって感じかな。権限はいわば陣取り合戦なわけ。シロが獲得してる陣営は人間、魔族、、賢者、天使。対して向こうの神様は恐らく、人間と天使だけだと思う。現状では圧倒的有利ね』
「あー。そこで賢者の魔力が取られると折角苦労して手に入れたアドバンテージが無くなるってことか。じゃあ向こうが人間の魔力を持ってるのはなんでだ?」
『そんなの簡単。人間なんて塔の周りに幾らでもいるからね。ある程度の魔力を持った人間なら魔力から権限を取り出すのは容易だと思うから、かな。というよりそっちの元天使ちゃんに聞いた方が早いかも』
言いつつアトラの視線がガブリエルへと移る。
「へぇ!? わ、わたし!? ……その、ごめんなさいっ! わたしは遊撃役だったから詳しい事……しらないです……」
『ありゃ、残念。でも少なくとも魔界はシロ達の活躍で侵攻されてないから、魔族の魔力は手に入れてないはずだよ』
「ガロニア付近にも魔族はいるぞ?」
『そこまでの魔力を持ち合わせてないから大丈夫。それこそロノウェ君レベルじゃないと――』
ロノウェ……現魔界の魔王。だけど、確か、
「ロノウェはあの戦いの後消息が途絶えてるはずだ……! もしかしたら――」
『あー……。説明するのめんどっちぃなぁ。うん、とりあえずその心配はしなくていいよ、大丈夫』
「なっ!? 何を根拠に!! それよりお前どこまで知ってるんだよ!!」
『あははー。シロの焦った顔面白ーい! 貴方たちが主役なら影の脇役もいるんだよ。大船に乗った気でいなさいって!』
誰も口を挟まないが、一同の間に「こいつに任せて大丈夫なのか?」という雰囲気が浸透している気がする。それもそうだ。いくら会話が成立しているとはいえ、アトラは千年前の人物。特にフレイヤのような話に整合性がないと気が済まないタイプは特にだろう。この辺りはメルティとアトラのそりが合わなかったのと何ら変わらないみたいだ。逆に何も考えてない(ように見える)クア辺りは「じゃ、安心して旅ができるねぇ~」と、言った様子である。
『あれー? もしかして信頼されてない感じ……?』
「……当たり前。いくらセトラお姉ちゃんのご先祖様でも、今の話を信じろというのは……あぶないと思う」
『おっ! メルティアの子孫ちゃんだね。やー、メルティアにも「そんな話信じるわけないですよっ!」って言われちゃったばかりだよー。やっぱり似てるもんだねぇ』
「……わたしたちはこれ以上誰も欠けないまま世界を救いたいの。……お兄ちゃんと約束したから。」
『ふふっ、妬けちゃうなぁ。だったら猶更私の言う事を信じたほうが良いよ。私も可愛い子孫たちが悲しむのが嫌だから、こうして手伝ってるんだから』
その一言はやけに重みをもっていた。現状、アトラがいなければ俺たちはここまで巧くやってこられなかったかもしれない。わざわざ「伝言」なんてものを作ってるあたりそうなるよう仕掛けられる気もしないでもないが……。
「…………。……わかった。シロお兄ちゃんに判断してもらう。それなら……ついていこうって思えるから」
それがフレイヤなりの最低ラインの妥協案だったのだろう。いかにも不満そうに頬を膨らませているのを見ればわかる。
『あははっ! 子孫ちゃんってばほんとにメルティアそっくりだぁー! はははは!!』
「む、……わたしにはフレイヤって名前がちゃんとある」
『あらら、ごめんごめん。フレイヤちゃんね。だそうだよ? シロは私の事信じる?』
はは。そんなの愚問だろ。
「信じるよ。お前の言う事はなんだかんだで最終的には正しいからな」
『ありがと。シロならそう言うと思ってた。じゃあ今回教えられるのはこのくらいかな。今皆は最高の状態でここに集まってることを忘れないで。頑張ってね、舞台裏で応援してるから。じゃあ、また』
そこまでアトラが言い終わると、宙に浮かんでた箱が浮力を失って地面に引き寄せられる。
カツン。
小さな音を広間中に残して、伝言は終わりを告げた。
・
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・
「圧巻、だな。過去との対話とは……。先程は現代の魔法でも高難度と言ったが、評価を改めなければならないな」
真っ先に口を開いたのはテラさんだった。
まるでみんなの意見をまとめたような感想。
アトラならできないことはないのでは――そう思ったが、彼女は「私はダメ」と言い、俺をこの時代へ送り込んだのを思い返す。
俺じゃないと駄目な理由がどこにあるのだろうか。どうせならそれも聞いておけばよかった。
「あんなのが先祖ってアーリエ家の血はどうなってるんですかね……? 千年先まで視えるって今更かもしれないですけど、歴代の巫女の中でも化け物ですよ……」
「実際に一緒に旅してたから言えるけどあいつの予知は別格だからな。試験の答案を見ながら答えるみたいなもんだったよ。賢者もすんなり全員集めたし」
「ごめんなさいねー! 私の能力がしょぼくて!!」
「や、別にセトラがしょぼいなんて一言も……。俺としてはあいつよりセトラの方が良いし……」
精神衛生上。
「え、えぇ……。皆がいるのに面と向かってそんな事……」
「違うから!! 今のはそう意味じゃねーから!!」
「わかってるよシロ。『セトラの前からいなくならない』、だもんね」
「やめろぉ!! その前にちゃんと『みんなの』って言ったし!!」
にんまり顔でからかってくるようになったあたり、こいつもアトラ化してきたのかもしれない。やはり血は譲れないという事か。そうなのか。
「でも、結局次どこへ向かえばいいか分からないよね」
と、冷静な分析による感想を残すソルレーヌ。
「お兄さんは他の賢者の事何か覚えてないの?」
「悪い。俺、記憶が一部なくてさ。賢者の子孫の場所どころか残りの千年前の賢者の名前すら思い出せないんだ」
「うーん……だったら本当にノーヒントかぁ。でもでも! きっとこのパーティなら何とかなるよ!! 変に焦らず探していこ!!」
「ああ、だな!!」
~~~
「ふふ、まさか貴方がこっち側についてくれるとはね。お姉さん的には意外だったわ」
「あんな事言われたらついていかざるを得ないよ。全く貴女は卑怯な人だ」
「あらあら、お姉さんはいつだって」
「さ、行きましょうかロノウェちゃん。次なる目的地は――、そうね。風の谷かしら」
「彼らはもういいのかい?」
「ええ、お姉さん的にはもうやる事終わったから。どうせすぐ会えるだろうし。ほら、二人も行くわよ~」
「え~っ!! もっとこの街見てたい!」
「カガリ君。お姉ちゃんに迷惑かけるのはめっ、だよ?」
「あらあら~、全く元気なんだから~。でもここから忙しくなるからちゃんとお姉さんの言うこと聞いて? ね?」
「うー……わかったよ。ごめんなさい」
「ふふっ、いい子ね」
「ロノウェちゃん。さっき私を『卑怯』って言ってたけど――私は私のやり方ですべてを手に入れて見せるわ」
――だから安心しなさい。最後に笑うのは私達よ。
何気にラファエルさんパーティの立ち位置が好きだったり。
そして今見返すとガブちゃん大分丸くなりましたねぇ……。最初は結構ぶっ飛んだキャラだったのに……。
これも恋する乙女パワーなのかも……。
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