Q.45 ソルレーヌのきもち?
ソルレーヌのきもちとか銘打っておきながら半分セトラ回の続きです。
ちゃんといつかソルレーヌとのお風呂描写入れるからそれで許してください。
気まずい。気まずすぎる。
夕方、セトラの行方も気になったが、とりあえずソルレーヌとの待ち合わせ場所に向かった俺は、思わぬ再開を果たすこととなる。
にこにこと笑顔のソルレーヌの隣には、僅かに朱色を帯びた顔色のセトラ。
泣きはらしたのが容易に想像できてしまったがために心が痛かった。
「えっと、どうしてセトラも……?」
「う……その……」
何ともばつの悪そうな顔。だろうな。きっと俺もそんな顔だろうから。
「いやぁー、さっきぐうぜん会ったんだよぉー」
今までの快活さとは打って変わってあからさまに間延びした口調。
「偶然じゃないってことだな……。ってことはソルレーヌがセトラの約束の相手か」
「ごめんねシロお兄さん。どうしても三人で回りたかったの!」
「ああ、うん。別に俺は構わないんだけど」
……セトラがなぁ。
一度たりとも視線を合わせてくれないのは地味に傷つく。ソルレーヌがいる手前下手に声を掛けることができない俺も俺だが。
「良かった! じゃあお祭り見て回ってもいい?」
上目遣い+宝石のようにキラキラした目。
断るに断れなかった。小悪魔系とはこういう子の事を言うのだろう。
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ソルレーヌは当然のように、片方の手を俺と、もう片方の手をセトラと繋ぐ。俺たちの事を知らない人達から見たら仲睦まじい家族にしか見えないのだろう。
……父親役と母親役の表情が引きつっていることを除けば。
「わぁ……! ぼくお父様もお母様も見た事無かったから、こういうのずっと憧れてたの!」
沈んだ気持ちを畳みかけるような踏み込みにくい話題。
ただ、セトラと異なりソルレーヌについての情報が皆無に等しい俺としては、彼女の事情を知りたくはあった。
掘り下げようか悩んでいると、
「王宮の中ではいじめられてばかりだったし……テラお兄様位しか遊んでくれなかったから……。今とーっても幸せ!!」
……。アレー? キキマチガイダトイイナァー。
テラさんの妹(?)。セトラと関わりがある。アールグランド家の風習。土の賢者。
そしてテラさんとセトラの世界を巻き込んだあの戦い。
どんなへっぽこな探偵でも全ての辻褄を合わせられるだけの情報が、脳内を右往左往する。
いやいや、待て待て。落ち着け。何もそうと決まったわけでは無い。
「これから旅に出たら毎日二人といられるんだ♪」
「あのぉ……セトラ、さん?」
俺に名を呼ばれることを恐れていたように、肩をビクつかせる。
「……ソルレーヌちゃん、土の賢者、……です」
どうしてやや片言なんだ……。そこまで喋りたくないのだろうか。泣きそう。
「あれ? まだ話してなかったの!? じゃあシロお兄さんはぼくの事……」
「普通にセトラと関わりのある街の子だと……」
「それでデートOKしてくれたの……? へぇー♪」
ソルレーヌはご機嫌の様子。その隣の方が恐ろしくてたまらないが。というかこれに関しては問題ないはずですよね? ソルレーヌは――、
「……わかってますよ、ソルレーヌちゃんかわいいですもんね」
「ま、まてっ! それは誤解だって!」
事実デートの誘いに乗ったのもその他の危機を恐れてであって、決してやましい事はない。
だが今の超ネガティブモードのセトラにはそんな言い訳は通用するはずもなく、そこで会話は途切れてしまう。
「「…………」」
「え、えっと、じゃあ改めて。ソルレーヌ・エルド・アールグランドって言います。よろしくね! お外の事はあまり知らないけど、戦うことに関しては自信あるから!」
無い胸(たぶん本当に無い)を目いっぱい張って自信満々のソルレーヌ。
「でも外に出た事無いんだろ? なのにその自信はどこから湧いてくるんだ?」
「だってぼく、テラお兄様より強いから! 喧嘩しても勝つのは絶対ぼくなの!」
どう言う事だろう? いまいち実感が湧かない。
テラさんの事だからこの子に手を抜く事も考えられそうだけど……。もし仮にテラさんよりも強いとしたらこんなにも頼もしい事はない。
「今はまともなアタッカーが俺とセトラとフレイヤしかいないから、それは有難いな。武器は何使うんだ? それとも魔法?」
「ふふん、今は内緒だよ! 戦う時が来たら見せてあげるね!」
「えぇー……。まぁそこまで言うなら楽しみにしとくよ」
そのままソルレーヌの事について聞きながら歩いていると、人の壁に遮られそれ以上は進めなくなってしまった。
「どうやら先の方でパレードやってるみたいだな。人が多くてここからじゃよく見えないけど」
「あ! じゃあじゃあ、シロお兄さん肩車してよ!」
またまた無邪気さにやられ頼みごとをすんなりと受け入れさせられてしまう。
しゃがんだ俺によじ登るソルレーヌ。見た目通り結構軽いな。……それに悔しい事に何だかいい香りするし。
スカートのひらひらが耳に当たってくすぐったかったが、ぱたぱたと跳ねる足を見る限りご満悦のようなので良しとしよう。
「わぁー! よく見えるよっ! すっごくきれい!!」
「……。……その、いいのか? ここから離れたら当分こういうのも見れないぞ?」
「……うん。もう決めたから、いいの。ここでじっとしてるより、自分の力で何かやってみたいから。シロお兄さんたちについてけば、何かできること、あるはずだから」
「ん。ならもう止めない。よろしくな、ソルレーヌ」
「うんっ! ありがとうね! ……セトラお姉ちゃんも!」
「…………」
セトラは何も言葉にすることなく、ただソルレーヌの感謝を反芻するように、黒色に染まりかけた空をぼんやりと見上げていた。
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「んと、ぼくはそろそろおうちに戻るね。これ以上外に出てたらお兄様も怒っちゃうから。出発するときになったら声かけて」
「おう、しっかり準備しとくんだぞ」
「あははっ、シロお兄さん本当のお兄さんみたい! じゃあ、またねー!!」
待ち合わせた公園でソルレーヌと別れる。
これからあの子が旅に加わるのか。そう思うと何だかあまり実感が湧かなかった。
見た目は幼い女の子だし、とても旅に向いてるとは思えない。けれどあれでも土の賢者だしなぁ。ノインの子孫だから実力は折り紙付きだろうけど。いろんな意味で楽しみだ。
そして何と言ってもシャド以来の男メンバーなのである。今まで女衆に散々虐げられてきた身としては、一刻も早く辛さを共有できる仲間が欲しかった。
……当のソルレーヌが女の子にしか見えない点が今後の課題になりそうで不安しかないが。ようやく慣れた&(ミラの呪縛から)解放された風呂がまた侵略される未来しか見えない。当分の間は目隠し風呂の再開だな……。
さて、と。
隣のこの心此処に非ずな巫女さんをどうしよう。
「セトラ、さん……? 宿へ帰るなら送ってくけど……。次フレイヤの番だろうし」
「あ、え、えっと……? は、はい、よろしくお願いします?」
なぜすべての語尾に疑問符が付くのか逆にこっちが訪ねたい。
おそらくものすごく動揺しているが故の反応だろうなんだろうけど……。
もし嫌われてるとしたら……。
セトラとの旅の記憶を思い出してちょっと涙がでた。
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すでに日はとっぷりと暮れていた。
丁度食事時だからか昼間と比べると道行く人の行列もまばらになりつつある。それでも多いほうだが。
セトラに声を掛けるべきか否か躊躇っていると、
「あの……さっきはすみません。シロ様が一番辛いはずなのに、一方的に感情をぶつけてしまって」
向こうから話しかけてきてくれた。
ここは何としてもフォローを入れて気まずさを解消しなければ!
「気にしない、気にしない。それよりもセトラ全然話してくれなくて、マジで嫌われたかと心配だったから安心した」
「そんなっ、嫌いだったらあんな……事……。そ、その言いませんから」
「「………………。」」
な、なんて返せばいいんだろう……!
俺は決してセトラが嫌いなわけでは無い。だがこれまでそんな対象として見てなかったというか、見られてると思ってなかったというか……。
彼女の思いを汲むにしても、安易な応えは許されない。そして今ここで彼女の想いを受け入れるというのも何だか違う。受け入れるなら自分の意志でしっかりと「俺も好きだ」と言うべきだ。
告白する側にどれだけの勇気がいるかはアーレアで身をもって知った。もちろんその後の気恥ずかしさも。
「その、悪い、セトラ。ちゃんと考えて決めたい。だから……我儘かもしれないけど時間が欲しい」
「……いつまで、待てばいいですか……?」
震える声。弱くて、もろそうな、不安が込み上げた彼女の心が声色に現れる。
いつまで、か。俺は長くても数年、世界と同じだけしか生きられない。
――あなたが好きなんです!! そんな人が居ない世界なんて、幸せでも何でもない!!
……いいや、違う。それじゃあ駄目なんだ。それだとこの少女はいつまでも涙を流したままだ。
――生き残る。
「……。この戦いが、終わるまで」
それは、明確な意思表示。戦って、生き残る。みんなと一緒にいられる未来を掴む、そんな決意。
「……ぜったい! 何があっても絶対いなくならないって約束してくれますか!?」
「約束する。みんなの前から、セトラの前からいなくならない」
どこにもそんな当てはないけれど、それでも、何としてでも生き残りたい。
彼女の想いが、深く爪痕を残してくれたから。
それに応えるためにも、返事をするためにも。
「みんなで終わらせよう。この戦いを」
「はい……っ、はい……!」
今日一日でセトラはどれだけの涙を流したのだろうか。またもすすり泣く彼女の手を強く握った。
最後の涙が、嬉し泣きで良かったと、そう思えた。
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「えへへー。シロ様絶対に逃がしませんからねー」
「……急に元気になったな」
「いろいろ、吹っ切れましたから。未来の事、考えないとですし。もちろん……全力で」
「あ。あとさ、ずっと気になってたけどセトラはどうして俺に対して敬語使うんだ?」
「あー……。実は私、あまり人と話すの得意じゃなくてですね。これなら自然に話せますから……」
「告白までしておいて!? まだその程度の距離感なのか……?」
「確かに……。フレイヤちゃんに対してはすんなりといったんですけど」
「今までフレイヤにだけ普通だったのは単に一番仲良かったからなのか。みんなにも砕けた感じでいいと思うけど」
「んー。でもずっとこれで来たので」
「無理にとは言わないけどな」
「じゃあ、シロ……大好きだよ?」
「――――。ごめん、やっぱ戻してくれない? あいつと被る」
「ははは、やーだ♪」
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「ふう。次はフレイヤだな。これでこのデートも最後か……」
「あっ! 忘れてた! その……一番最後にミラ様入れてあげてほしいんだけど……」
あいつ……。素直になればいいものを。
「わかったよ。またここに戻ってくるようにする。悪かったって伝えといてくれ」
「ううん、それはシロが自分で伝えたほうが良いと思う。……それに」
――ミラ様とはもうライバルだから!
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星が輝く美しい夜空を見上げる。
拝啓。アトラへ。
貴女の子孫は、色濃くその血を受け継いでいるようです。良かったですね。
俺は最悪な気分です。……でもちょっと嬉しくもあるけどな。
あいつが見てたら今の俺を笑うのだろうか。
きっと、笑うか。無様にまだ生きようとして、なんて。
何だか俺の人生はアーリエ一族に振り回されっぱなしな気がする。……気のせいであることを祈ろう。
まあ、でも。それが楽しいと思えてしまうんだから俺も何処かおかしいのだろう。
だから、生きてみるよ。少なくとも戦いが終わるまではセトラと一緒に。
先送りにしてしまったけど、しっかり自分で考えて、応えを出せるよう頑張るから。
大人しく、ちょっかい出さずに、そのまま楽しみに見守っててくれ。
彼をチキンだとか罵ってあげないでください。むしろ愛情的に重いのが後二人残ってますのでまだ善戦したほうです。
結末をどうしようかはまだちゃんとは決まってませんが、彼らは基本ハッピーエンドを目指してますので誰かが悲しむことにはならない、かな、たぶん、おそらくは。
適当にお茶を濁して感謝タイム!
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