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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
六章 天使になりたい少女と天使をやめたい少女
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Q.42 クアのきもち?

クアパート。実は一番彼女が健気かも。

「お~! 見てみてあの屋台おっきいね~! あっ、しかもいい匂い!!」


「こら待て、一度に食べていいのは三つまでだって言っただろ? 今クアが持ってるのは?」


「えっと、チョコバナナと~、サンドウィッチと~、フランクフルト!」


 ったく、子供じゃないんだから……。

 デートだって言ったのはクアなのにこれじゃおもりだ。


「はい、アウトな。それ食い終わってからにしろ」


「ぶー! 今日のシロはいつもに増して厳しいなぁ~。セトラみたいだよ~」


「いいのか? セトラにチクるぞ?」


「やめて! 言いつけ守るから許して~!」

 

 ま、本人が楽しめてるならそれでいっか。


 人ごみを二人でかき分けながら街の中を特に当てもないまま散策する。

 クアは歩きながら食べているためか時々遅れがちになるので、はぐれるのも面倒だし、たびたび後方を確認しなければならなかった。

 

「ほら、しっかりついてこないとはぐれるぞ。ってこれ年下に言われるセリフじゃないからな?」


 多少毒づいてみるがクアの表情に陰りは見られない。それどころか決まって、


「えへへ~。お姉さんには優秀な弟君がいるからね~。だから安心して食べられるわけですよ~」


 これだから気が滅入る。

 このお気楽能天気をセトラに分けてやりたいもんだ。そうすればあいつも背負ってるものから多少は逃げられるのだろうか。


「……はぁ。はいはい、じゃ弟君からの提案」


「ん? なになに~?」


「いちいち確認するのかったるいから、とりあえず落ち着いたところで食べてから回ろう」


「あら、どしたのシロ。今日はなんだか優しいね~?」


 顎に指を当て首をかしげるクア。……そのすぐそば、ほっぺにチョコがついてるけど何だか癪なので黙っといてやろう。


「セトラの事でいろいろ大変だっただろうし、それに……魔界戦でのお礼もちゃんと言えて無かったから、さ」


「おぉ~!! ついにシロがデレた! クアさんモテ期の予感だ~」


「違うからな」


 どうやらご満悦の様子。あぁー黙ってればうざ可愛いの「うざ」の部分が消えるのにな。……よく考えたらうちのパーティなんてそんな奴らばっかりか。



 近くの公園のベンチに腰を下ろす。ガーデンはこんな憩いの場まであるとは驚いた。道理で街の活気が他とは違うわけだ。ガロニアやラ・ブールも活気づいてはいたがそれはあくまで市場として、街としてであった。だがガーデンは住民一人一人が生き生きしている。余裕があるんだ。

 数と、圧倒的な信頼による統治の賜物、か。


 俺がベンチに体を預けると、クアも次いで俺の横にすとんと座ってくる。

 今日もクアは空のような澄んだ色をした前髪を天に向けて縛っている。なんとも活発的なイメージ。座るよりむしろ動いていたいのかもしれないが、危ないしはぐれたら面倒なのでおとなしくしてもらう。


「そういやさ、どうして俺の事デートに誘ったんだ?」


 今度はフランクフルトに口をつけ始める。ぐるぐる巻きタイプだから結構お腹に溜まりそうなのに、クアはそんなのお構いなしにぱくぱく平らげていく。

 こいつの事だから何も考えてないことも十分にあり得るが……、セトラの天使化の事もあり、それだけではないような気はしていた。


「ん~。ちょっと二人きりで話したかったのかな~? ごめんね、いまいちあたしもわかんない」


「わかんないって……、何話そうと思ってたんだよ?」


「なんかさ、話しちゃっていいのかなって――、まぁお姉さんもお姉さんなりに色々考えてたりするんですよ~ってことかな」


 つまり話すつもりだったけど話せなくなったと。


「……セトラにも言うつもりだけどよ。その……なんだ、もうちょっと俺の事信頼してくれてもいいんだぜ?」


 これが俺にとっての精一杯の勇気だった。


「『信頼』かぁ……。それがシロの場合は負担になっちゃいそうでさ。ほら、シロはいっつも頑張りすぎるからね~」


「だって仲間が困ってたらほっとけないだろ。それはクアだろうと、セトラだろうと、フレイヤだろうと……ミラだって同じだ」


「うんうん、さすがはあたしの弟だ! じゃ、特別に教えてあげよう!」


「え、結局話すのかよ。実はかまって欲しかっただけとかやめろよ? 超恥ずかしかったんだからな」


「ちがうよ~。……うん、でね。セトラの事なんだけどさ」


 急に声のトーンからおふざけが消えた。

 いつもお調子者なだけにこうやって真面目に来られると、よほど内容がシリアスなのだろうと身構えてしまう。

 

「あの子――」



 移り変わり行く季節が運んできた涼しい風が、音を立て木々を揺らす。

 やけに続きを口に含んだままのクア。

 ようやく開かれるその唇。ざっと十数秒は費やしただろうか。


「最近太ったと思うのはクアお姉さんの気のせいかな~?」


 ……思わずベンチから転げ落ちそうになる。

 

「何なの? ねえマジでさっきのシリアス何なの?」


「え~? だって女の子にとってお肉は敵だよ~? シロには分からないだろうけどみんなこれでも悩んでるんだからね?」


「いや知らねーよ! そしてわからないって思ったんなら聞くなよ!」


「う~ん、男の子的にはどうなのかなぁ~って思って」


 ……これまた答え辛い質問である。

 こういうのってほとんど正解が無いんだよなぁ。しかも「なに選んでも正解」じゃなくて「全部不正解」の方。


 いいと思うよ→わかってない!

 いや痩せろよ→努力してるの!


 どちらに転ぼうともこうなるのは間違いないとさえ言えそうだ。幸いなのは当人がこの場にいないことか。

 それよりもセトラが太ったことに衝撃だ……。長い事一緒じゃなかったからかとてもそうは見えなかった。はたして女の子の太ったは何グラムから始まるのだろうか。

 

「気を使いすぎて倒れられるほうが心配だからなぁ……」


「あはは~、シロらしい答えだね~」


「クアはそれだけ食べてるのによく太らないな」


 ……なんて、とりとめのない雑談。

 クアといると、今この世界が崩壊の危機に瀕していることさえ忘れてしまえるようだ。


 それは、街の雰囲気のおかげでもあるんだろうけど――。

 

 川の流れのように蠢き、流れる人ごみの中。

 ぴょこぴょこと持ち前の低慎重を活かし、人の流れを縫うようにすり抜ける金色。

 ぱっちりとした碧眼。

 間違いない、ソルレーヌだ!

 

「悪いクア! 少しここで待っててくれ!!」


「え、うん、いいけど……」


~~~


 あはは、行っちゃったか。

 ソルレーヌちゃんを見つけたのかな? さっきその辺うろうろしてたし、たぶんそうだろうな~。

 ……わざと教えなかったのは意地悪だったかなぁ~。


 はぁ……。


 「信頼」、ね。セトラにあれだけ言っておきながら、あたしだってこうだもんね。なんて自分勝手なんだろ。

 

 でも、言える訳ないよ……。

 「セトラは死ぬつもりだった」なんて……、そんなのシロに……。


「はぁ~……。立場しんどいなぁ~。はやく宿に帰ってフレイヤちゃんのほっぺたムニムニした~い!」


 あれがあれば嫌なことは何でも忘れられるのです~。


~~~


「いた! ソルレーヌ!!」


 小さな手を、数多の手から掴み手繰り寄せる。


「きゃっ! え? え? 誰ですか!? やめて、僕にひどいことしないでっ!」


「なっ、違うって誤解だ! 俺だよ、シロ!!」


「あー! シロお兄さんだ! なになに? ぼくを迎えに来てくれたの?」


「それなんだけどさ、他に予定はいっちゃっててすぐにはソルレーヌとお祭り回れないんだ」


「え……そう、なんだ……」


 わかりやすく落ち込んだ様子のソルレーヌ。ああ、心が痛い。

 だが、あいつらとの約束をすっぽかすわけにもいかない。

 

「でも夕方には来られるから! 用事を済ませたらあそこの公園で待ってるからさ、ダメか?」


「んーん! それならだいじょうぶ!! 時間を言わなかったぼくも悪かったんだし。わざわざ言いに来てくれてうれしいっ!」


 そう言いつつ、ソルレーヌが抱きついてくる。

 もうなんかこういうパターンにはフレイヤで慣れたので、さして動揺こそしなかった。しかし、代わりに一つ疑問が浮かぶ。


 何でこの子はこんなにも俺に親しくしてくるんだろうか?


 セトラづてに俺の事を聞いたのかもしれないが、それでもつい昨日知り合ったばかりだ。

 ……子供ならこんなものなのだろうか……? うーん……フレイヤも似た感じでじゃれてくるしなぁ。

 後でセトラに聞いておくか。今はそこまで悠長に話をしている暇もない。 


「じゃあそういうことで頼む! あ、あと、気を付けろよ。俺だったから良かったもののこういう人が多く集まるところにはちゃんと大人と来ないと――」


「えへへーわかったー」


 ……やっぱり子供ならではの気まぐれかな。出会った頃のアトラと重なる無邪気さだ。

 そして俺の言葉はもう耳に入っていないらしく、「なに見て回ろー」などと上の空状態である。


 でも、うん。これで大体の目途が立ったかな。時間的にこの後はガブリエル。その後が誰かはセトラに一任したけど、何とか誰も嫌な思いをせずに丸く収まりそうだ。

 ……残る問題はといえば、ミラかな。

 

「クアも待ってるだろうし、そろそろ行くな」


「うん、じゃあまた夕方! 約束だからね!」


「おう!」



 なんだかんだで十分くらいかかってしまった。

 クア怒ってるかな。普通怒るよなぁ。いくら事情があるとはいえ、デートの途中で他の女の子追いかけてたら。 

 うーん……、行かないほうが良かったのかも。

 なんて、選択した後に罪悪感を感じてしまう。あの時は咄嗟に体が動いてしまったけれど、ほんとに悪いことしたと思う。

 お詫びといっちゃなんだけど、セトラには内緒で屋台で好きなものたくさん買ってやろう。


 そう考えつつ、ベンチの前まで戻る。

 が、そこにクアの姿はなかった。


「あれ、もしかして本当に怒らせちゃったか……?」


 あたりを見回すがクアらしき影はない。

 その代わりにあるものを見つける。


「紙……。メモ?」


『飽きたから先に帰ってるね~。次はガブちゃんだから病室まで迎えに行ってあげてね!』


「『飽きた』って……自由すぎるだろ……。確かに俺も悪かったけどさぁ……」


 一番の気まぐれ屋はクアかもしれない。

 

 ん……? 一番下に小さく矢印が……、紙の裏側?


『P.S 約束破ったのにデートしてくれてありがと~。また悩み事聞いてくれたらうれしいかも~』


 ……。なんだか少しだけ微笑ましい気分になる。上手く言葉にはできないけれど何だか満ち足りたようなそんな感覚。

 それはクアなりの気遣いかもしれないし、もしかしたら俺がソルレーヌを追いかけていたことを知っていて皮肉気味にそう書いたのかもしれない。でも、それでも、なんでもよかった。

 またこうしてクアとくだらないやり取りができたことが、ただただ嬉しかったのかもしれない。

  

「はは、美味しいもの奢るのはまた今度だな」  


 さ、次のお相手はメモに記されていた通りガブリエルだ。

 多少時間に余裕があるが早い事診療所に戻っておこう。



 現在時刻、昼の手前。

 またまた戻ってきた彼女の病室。


 こんこん。


 今度はちゃんと、ノックをする。

 もうガブリエルはどこにも行かないことを知っていたから。

 焦らずにゆっくりと二つ、ドアをたたく。


 まだまだ祭りは序盤も序盤。


「はーい。入っていいよー」


 第二ラウンドを始めよう。


せめてメモを挿絵で描こうかなって思いましたけど、私字が綺麗じゃないので泣く泣く断念しました。

折角の個人パートだから恋愛ゲーム的な感じで挿絵入れたいですけど時間が……。

出来る限り頑張ってみます。


ブックマークありがとうございます!

ナメクジペースですけど、これからも引き続いて楽しんで頂けると幸いです!

ご意見、ご感想、評価、ブックマーク、お時間がある方はぜひ!


Twitter → @ragi_hu514(基本更新情報のみ)

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