SS2 第一回! シロの心を撃ち抜くのは誰だろな選手権!!
お遊びなので本編とは関係ないと思っていただいても結構です。
時間的にはQ.40.5って感じかな?
「そこの勇者(笑)! 最近のあんたってほんと鈍感ね! あんた見てると弟と被ってイライラするのよっ!!」
「……は?」
うん、訳が分からん。どうして俺は開幕早々少女に説教を食らっているのだろう。
ぼっさぼさの真っ赤な髪。炎の妖精が人の姿をとったならきっと目の前の彼女のようになるのだろうと思わせる風貌。
怒っていると、燃え盛っている火のようだ。いや、全く何故怒っているのかは分からんが。
「でもあたしも鬼じゃないわ。同じ世界を救う者として手を差し伸べてあげる」
「あのー。どちら様でしょうか? てか、何? 君も世界救ってるの? ごっこ遊びかな?」
「ちがーう!! ちっちゃいからってバカにしてると痛い目見るわよ! そこら辺の魔法使いよりはよっぽど強いんだから!!」
ほう。確かにこの子から溢れ出ている魔力は一般的な人間のそれとは違う、どこか特別な気配を感じる。
「あたしのことはどうでもいいのよ。やっぱり主人公たるものちょっとくらい女の子に慣れてないとね」
何言ってんだこいつ?? まったくもって話が見えん。
「さ、あたしの魔法が見せる世界、思う存分堪能してね。シ・ロ・お・に・い・ちゃ・ん♪」
そう言いつつ少女が指を鳴らした瞬間、一気に視界がぼやけ、霞んでいく。
ちょ、せ、せめて説明してくれよ……。
何もかもが説明不足な中、だんだんと意識が、薄れていく。
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~case1 フレイヤちゃんの場合~
「あは……。お兄ちゃん、起きた?」
ん……。ここは……?
「ほら、もう朝だよ……? 早く起きないと仕事……遅れちゃう」
え、はぁ!? 何だ何だ、どうなってんだ!?
目の前にいるのは確かにフレイヤだ。エプロン姿の。だがどこかおかしい!
「あ……、ふーん。王子さまはキスしないと起きられないのかなー……?」
まず等身! てかこれが違和感のほとんどを担っている。現在進行形で近づく顔つきもどこか大人っぽく、色っぽく……。
「ま、待ってくれ!! それはダメだって!!」
つい反射的にフレイヤの口づけを拒んでしまう。幼いあいつを知っているからこその背徳感が、理性が、何とか拒絶を選択してくれたみたいだ。
が、どうやらその選択は正しいとは言えないみたいで、
「なんで……? どうしてそんな事言うの……。ずっと一緒って、大好きって言ってくれたのに……」
フッと表情がフレイヤの顔から消えた。出会った時のような無表情。炎を操る彼女には似つかわしくないような冷たい表情に背筋に悪寒が走る。
くるりと踵を返したフレイヤは部屋から出て階段を下りていく。
緊迫感から一時的に解放され、漂っているスープの香りに鼻が反応する。
え、なにこれ。フレイヤと同棲してるってことなのか……? 見渡す限りこの部屋には俺しかいないし、気配も魔力も感じ取れない。
い、いつの間に世界に平和が戻った……?
記憶がない。
とん、とん、とん。今度は登ってくるフレイヤの足音。
「フレイヤ、何が起きてるんだ!? ミラは? セトラは?」
「何言ってるのお兄ちゃん。みんな死んじゃったんだよ……。残されたのはわたしとシロお兄ちゃんだけ……。だから二人でみんなの分も頑張ろうって約束したのに!!」
手に握られていたのは調理に使われているはずの包丁。
「お、おい、フレイヤ?」
「ねえ、わたしのどこがダメなのかな……。こんなにもお兄ちゃんのこと大好きで、大好きで」
――大好きで、大好きで、大好きで大好き大好き大好き……なのに。一番大好きなのになぁ……。
「ばいばい、おにいちゃん……。あっちのわたしには優しくしてあげて……ね?」
切っ先が腹を捉え、取り乱したフレイヤを見て気が動転した俺は、抵抗もしないままに体内から引き裂かれた。
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「はっ……! 夢……?」
「うーん、半分正解? にしても早かったわねー。ま、現実じゃああならないように気をつけなさいよー。じゃー次いこっかー」
「待て! お前何者――!」
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~case2 クアちゃんの場合~
次は……ラ・ブールの街? これじゃまるで空間転移魔法じゃないか。
「くっそ、なんなんだよこれ……! 魔法なのか!?」
「お、シロじゃ~ん! 早いねぇ~」
げ、クア。
「うわぁ~、そんな露骨に嫌な顔しないでよぉ~」
「これ以上厄介ごとを抱えたくないんだ。っと、クアもあのへんな少女にあったか?」
「どったのシロ? 頭でも打った~? お姉さんがよしよししてやろうかぁ~?」
不意打ち。背後をとられ、がっちりと拘束される。
あろうことかこの水の賢者は俺の頭をなでなでしてきやがった!
心拍数が上がったのはびっくりしたからだと、そう思いたい。そうに違いない。それ以外あり得ない!!
「や、やめろって!! フレイヤといい、何だかお前たちおかしいぞ!?」
「お、懐かしい名前だねぇ~。フレイヤちゃん今何してるかなぁ?」
「は? 何言ってんだよ。いつも一緒だろ?」
特にラ・ブール以降、お互い賢者ということもあってか仲が良くていつも一緒にいる気がする。
最初は苦手だって言ってたのにな。
しかし、気になるのはクアの発言だ。さっきのフレイヤの時みたいに時間が飛んでるのか?
「それはもう何年も前でしょ~。もう、あたしの旦那様は時々天然になちゃうんだから~」
……?
旦那様?
「お前結婚してたの?」
「む、お姉さん、それはいじりだとしても許せないなぁ~。怒るよ?」
「あ……ごめん」
つい気圧されて謝ってしまう。
いつも飄々としているクアがこんなに感情を剝き出しにするところを始めてみた。
「シロがあたしを選んでくれて嬉しかったんだから~! あれだけ興味ないーって感じだったのにまっさかあたしのことが大好きだったなんてね~。もしかしてツンデレってやつかな!?」
……あ、うざい。やっぱチェンジで。
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「え? ちょっと!! なんでキャンセルできたのよ!」
帰還の言葉もなしに、のっけから前のめりに怒声を浴びせてくる謎の少女。
「いや……なんかできたわ。なんでだろ……。じゃなくて! 何なんだよこれ!」
「まぁいいわ。次!!」
「おい話聞け――!」
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~case3 セトラちゃんの場合~
「シーロさん! えへへ……久々のデートですねー」
……。
思わず見惚れた。今度はセトラか、とそんな感想よりもまず可愛らしい彼女の姿に目を奪われる。
いつもの巫女服ではなく、現代の若者のようなふりふりとしたおしゃれな服装で着飾っているセトラ。
そしてどうやら今度は恋人設定らしい。
「んー? どうしたんです? 私の顔に何かついてます?」
「あ、ああ、うん。何でもない」
三回目にもなると、戻るにはどうすればいいのかについて冷静に考える余裕ができる。
フレイヤの時は俺の死亡。
クアの時は不明。
何かしら条件があると信じたい。そしてなるべくなら死ぬのは勘弁だ。
少女の言葉や行動、今の状況から、どうやら俺がセトラに対して何かをすれば元に戻れるはず。
「なあ、セトラは俺にして欲しい事とかあるか?」
「え? どうしたんです急に」
「何かないかなって思ってさ」
ふふ、これで帰れる!!
「んー……。ないです!」
へ?
「私はシロさんと一緒にいられれば幸せですから♪ 世界が平和で、好きな人と一緒にいられるのにこれ以上何かを望むなんて私には過ぎた願いです」
「お、おう……」
「あ、でも、もし何かお願いしてもいいって言うのなら――」
とんとん、彼女が合図する指の先。
薄ピンク色の唇へと視線が泳ぐ。
「キス……してほしいです……」
な、なんだこのけしからん妄想!! これもあの少女が考えたのか!? 飛んだマセガキじゃねえか!!
いや、でもこれであの少女のもとにたどり着けるなら!
ええい、どうせ妄想だ、殺されたりしない!!
「ぁ……。…………。あはは、何だか、恥ずかしいですね」
あぁ、確かに恥ずかしい。恥ずかしさからか頭がぼーっとして……。
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「おー! すごいすごい! やればできるじゃない!!」
「お前なぁ……。俺にこんなことさせて何が面白いんだよ」
「全然面白くないわよ。強いて言うなら育成みたいなものかな、シロの」
「はぁ? 何でそんな頼んでもない事――」
「はいはい、次行くわよー。っていっても最後だけど。同じようにできるかしら?」
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~case4 ミラちゃんの場合~
まぁ、フレイヤ、クア、セトラときたら最後はお前だろうな。アトラとか来たら真っ先に舌を噛んで自殺しようと思っていただけに安心した。
「もうっ! 五分遅刻!!」
俺よりも時間にルーズなお前にそれ言われるのか……。あの少女の再現性も大したことないな。
いや、もしかしたら未来のミラはしっかり者に生まれ変わっている可能性……?
「はぁ……。で、どこ行くんだっけ?」
ミラの格好もラフな服装。これからどこかに遊びに行くということはなんとなく想像できた。仕方ないが付き合わないことには始まらない。
「ぁ――――。」
「ん? 何だって?」
もじもじと口ごもるミラ。こうやって見ると可愛いんだが……いかんせんダメダメ部分がなぁ。
「あ、アイドルグループの上演会よ!!」
あー……。あったなぁ、そんな趣味。
そんなのに俺を誘って行くのか……。一緒に行く俺の複雑な心境を考えて欲しかった。
「……なによ、いやなの」
しまった、顔に出てたか?
「そりゃまあ、男を連れてるのに別の男を見に行くって言われたらあまりいい気分ではないわな」
「……いっつも別の方見てるのはシロの方じゃん……」
「……? どういう意味だよ」
「大事だ、守るんだ、っていうなら目を離さずに私をずっと見ててよ!!」
「何言ってんだよ、今までずっと一緒だったろ?」
「離れ離れになってからは、シロはどんどん離れてく……。私を置いて一人で遠くへ行っちゃう!!」
次第に感情が昂ぶり、やがては大粒の涙を地に落とすミラ。
こいつがそんなこと考えてるなんて、思いもしなかった。一度たりとも。
「ごめん……。確かに一人で何とかしようって、ミラに負担かけさせないようにって思ってた、かも……」
それが空回りして、ミラを傷つけてたなんて、なんて皮肉だ。
「……キスして」
「な、何でいきなりそうなるんだよ!」
「セトラにはできたんでしょ? なら、私にもそれくらい、ううん! それ以上のことをしてよ!!」
……。
…………。
「悪い、できない。少なくとも、今は」
そんな資格は俺にはないんだって。お前を守ってやる以外の方法で幸せになんて、俺には……。
世界が、崩れていく。
次第に形を失っていくミラの顔は、とても、とても、せつなそうで、かなしそうで――。
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「ふーん、何でミラちゃんにはキスできないのかなぁ~。リリィちゃん気になるなぁ~」
「……うるさい。それにちゃんと答えられたらこんなにモヤモヤしてない」
「ま、いっか。じゃああたしは帰るから。今日のお祭り頑張ってねー♪」
はぁ……。
「何だってんだよ、全く」
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「はっ……!」
なぜか目が反射的に周りを見渡す。ガーデンの病室の風景が広がっていることに安堵し、胸をなでおろす。
「夢、みてたのか……? にしてもとんでもない夢だったような……。うわ、寝汗やば……」
そういや俺、いつの間に寝て――、
時間についての危機感を脳が認識し、慌てて窓の外の景色を確認する。
大きな壁の向こう側から眩しい太陽の光が注ぎ込まれている。鳥の鳴き声に誘われたか、今日というビッグイベントを逃すまいと張り切った商人たちが街を駆けていく石畳の音。
朝。結局対策も何も考えないまま今日という日を迎えてしまった。
「やばいやばいやばい!」
どうか今日という日が俺たちにとって、今までで一番刺激的で、幸せな一日になりますように。
……うっすらと、もやがかかりつつも脳裏に刻まれている悪夢みたいなのは勘弁です。と、憎むべきはずの雲の上へと祈りを捧げるのだった。
リリィちゃんを出したかっただけなのにどうしてこんなに重い話になった……。
どうもラブコメを謳ってる割には重っ苦しいのがいけませんねー。とりあえず次回以降のキャラごとの感情整理って感じで。
フレイヤちゃんに関しては完全にわたしの趣味ですけどね。本編ではよっぽどシロ君がやらかさない限りは大丈夫です。純情ゆえの弊害ですね。かわいい( *´艸`)。
あ、たぶん知らない方が大半だと思うので、一応説明を。
リリィちゃんは前作の主人公みたいな子です。あまり日の目を見られなくてかわいそうだったのでゲスト出演で。今後出てくるかは気まぐれ次第ですが、敵とか本編には関わらないので安心ください。
ブックマークありがとうございます!
ナメクジペースですけど、これからも引き続いて楽しんで頂けると幸いです!
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