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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
六章 天使になりたい少女と天使をやめたい少女
51/101

Q.40 かみさまのおとしもの?

前半と後半の落差が激しい回。

 ぱたぱたと、見よう見まねで羽ばたかせている「光速飛翔白銀翼オフィエル」、


「助けられたのは良いが、無事に地上まで降りれるかが心配だな……」

 

 残存魔力はもちろんのこと、俺も地上に立ち生き永らえた人類である以上、自身の飛翔能力に不安しか見いだせない。

 

 ――だが。

 両の手には助けたかった二人の少女。

 ちゃんと最後は俺の力で助けることが出来た。いや、もちろん「レプリカ」の持ち主がいなかったら死んでたし、他にも多くの人に助けられはしたけど。


 俺にしかできなかったことを、成し遂げた。

 

 今までにない満足感だ。千年前からようやく一歩が踏み出せたような、そんな感覚。

 これで、またみんなと一緒に旅が――、


「……~~!! 避けなさいっ! 勇者シロ!!」


 は……? この声、どこかで……?


「うっ…………!」


 それはまるで太陽光線の様な、無色透明の光の筋。

 透明なはずなのに認識できたのはきっとそれが魔力で出来ていたからで、その光は俺の腕の中から綺麗にガブリエルだけを吹き飛ばし貫いた。

 

「――……主に背くとは愚かな奴だ。罪の重さを知れぃ!!」


 遠くから放たれる怒声。

 翼をはためかせた筋骨隆々な男の天使。

 あいつが……!!

   

「ガブリエル!!」


 今すぐにでも叩き潰してやりたい!! いとも簡単に、命を奪い去るあいつらを許せない!!

 そう憤る体、でもまずはガブリエルをっ――!!


挿絵(By みてみん)


 頭から落ちていくガブリエル。目立った外傷はないが、天使の魔法を人間になりかけの体でもろに喰らっている。まず無事では済まない……。

 ようやく人になれたってのに……そんなことっ!!

 

 落下するガブリエルよりも早く、速く、加速する。

 

 ようやくガブリエルを空いた方の手で再びつかんだ時には、もう地面は目と鼻の先だった。

 ぎりぎりまで背中に垂直に逸らせた魔法の翼に力を込め、接地すれすれで大きく一つ、羽ばたく。


「ぶへっ!!」


 呑気に駆け寄ってきたミラがその風圧で吹っ飛ぶ。


「あ、あんたねぇ!! 私が援護射撃してなかったら死んでたこともう忘れたの――って……」


「ミラ、今すぐガーデンから人を呼んで来い! できれば治癒魔法がある程度使える人だ!!」


「あ、……う、ガブリエルちゃん……」


「早くっ!!」


「うぅっ!!」


 余裕を持つ時間などなくて、つい怒鳴り散らしてしまう。全力疾走で駆けていくミラの後ろ姿。焦りと怯えが伝わってくる。……俺が怯えててどうする! 何か、できること……。まずは安全を……!

 空からの追撃は――どうやら来ていないようだ。ガブリエルへの報復だけが目的だったのか……?

 当のガブリエルはピクリとも動かない。眠っているかのように安らかな顔のまま目を瞑っている。


「くそっ……こんなのどうすれば……」


「……シ、ロ様。天使の魔法なら……」


「セトラ? どういうことだ!? なあ!」


「シロ様が最後に取り込んでくれた世界収束虹彩環オクなら、あの天使の子の死を……世界の歴史から無かったことに出来ます」


「見せてなかったもう一つの魔法か……! いやでも、もう魔力が……」


「ええ、私ももう空っぽです……。それにもう一つ。世界収束虹彩環オクが使えるのは一度きりです。その子を助けるなら、今後私たちの死は避けることのできないものと思っておいてください」


「……わかった。」


 元よりそのつもりでここまで来たんだ。それはこれからも変わらない。

 それでガブリエルが助かるなら――、


「……ふふっ、その子、ガブリエルちゃんですか?彼女ももう『大切な仲間』なんですよね?」


「ああ、一緒になってセトラを助けてくれた。人間になりたいって変わってるけど優しい天使だよ」


 約束したんだ。一緒に旅をするって。

 人間と同じように暮らすって。

 

「話は聞かせてもらった……。ぐふっ、オ、オレの魔力を使え……」


「テラさん!? まだ生きて……いえ、それよりそんな体じゃ……とても……!」


「ハハ、セトラ、貴様がやってくれたのによく言う。気にするな。この程度時間を掛ければどうとでもなる」


 え? 何セトラこの人と知り合いなのか……?

 知り合いなのに殺されかけてたのか……?


「大丈夫です、シロ様。この方は人類王、テラ・エルド・アールグランドさんです。決して敵ではないので安心してください!」


 いや敵じゃないって、思いっきり血まみれにされてたの見たんだが。

 その手前そう言われても……。

 

「信頼しろ、勇者よ。暴走したセトラを止めてくれたお詫びと思ってくれればいい」


「う……、あーもう! 二人ともほんと後で詳しく聞きまくるからな!? ちゃんと説明しろよ!?」


「ハハハ、今夜は徹夜で尋問のようだな。了承しよう。受け取れ勇者シロ!」


 力強い魔力が流れ込んでくる。

 大地に根を張っているみたいに脈々と伝わる魔力の渦。 

 千年根付いたアールグランド家の血。きっとかつて土の賢者として共に旅をしたノインの血が受け継がれている。

 

「よし、これなら発動できそうだ。っと、テラさん、大丈夫か?」


「あ、ああ……問題ない。強いて言うならソルレーヌの顔が見たい……か」


「ダメですぅー! 一応私が勝ったのでソルレーヌちゃんの所有権、その他諸々の全権利は私にありますぅー!!」


 誰だ、ソルレーヌって……。てか何? 人身売買的な話なのか? ちゃんってことは女の子だよな……その子を巡ってあんな大惨事を引き起こしたとかそんな馬鹿げた話じゃないよな?

 い、いや……流石にいくらセトラでもそこまでやるか……? やるか……やるな、うん。

 

「な、なにを言っている!? あんなもの決着と認めんぞ! 現に我はまだ生きている!」


「貴方も見たでしょう? シロ様はそう言われても止まりません。だってシロ様は私の勇者様ですから!」


「な……っ、全然前後関係がかみ合ってないからな!」 


 ぶっちゃけアトラと瓜二つの顔でその言葉は胸に来るものがありましてですね……。


「フッ……確かに、な。勇者の可能性を見せてもらった。ひとまずソルレーヌの話は置いておいて、だ。早くその天使の少女を救ってやれ」


「あ、ああ。世界収束虹彩環オク……!」


 振り絞った魔力で形成されたのは天使が頭に浮かばせているような光の輪っかだった。

 膨らみ、縮みを繰り返しながら徐々にガブリエルの体を覆う位の直径にまで広がっていく。

 眩く輝きを増す光輪を前に、何が起きるのかと期待と不安に揺れている内にパッと消えてしまった。

 

「失……敗……?」


「いえ、大丈夫だと思いますよ。私の見る限りガブリエルちゃんの生体反応は元に戻っています。今は天使と人間の合間を行き来していて不安定ですけど、このまま適切に処置すれば明日には目を覚ましそうです」


「そうか……。よかった……。よかったよ……」


 今度こそ、完全に脱力してしまう。

 もう、力が入らない。全部を出し切った。

 青く広い空を仰ぎながら柔らかい緑の絨毯に体を預けて目を閉じた。


 ――ふふ、この様子じゃ当分は尋問、できそうにないですね。



「ごめんねおにいちゃん。わたし約束守れそうにないや。せっかく人間になれたのにねぇ……」


「待て! 行くな、ガブリエル!! 一緒に旅するんだろ!?」


「ううん、できない。一足先に行くね。また、会えたら……うれしいな……」



「夫婦にもなるんだろ!? ガブリエル!! はっ……!!」


 あれ、どこだここ……? てか夢……?

 ざっと見た目は病室のようだ。木組みの優しい温かみ、窓からさす陽光が安心感を与えてくれる。

 俺、あの後倒れたまま寝ちゃったのか……?


「……ふぅん? 随分と熱心じゃない? 最愛のパートナー(笑)は所詮噛ませ犬ですかそうですか」


「あ……ミラ……。無事だったか……」


「はい、ロクに戦闘にも参加せず、助けを呼びに行くのにも足が震えちゃったミラさんは無事ですけど何か?」


 あっ。なんかめんどくさい。何かまずいこと言ったっけ?

 ……! もしかして、


「あー、あの時怒鳴ったことなら謝るよ。正直余裕が無くてさ。悪かった、ごめん!」


「ちがーうっ!! もう! どうしてシロはいっつもこうなのよ!! こんなのの看病なんてやってらんないわ、フレイヤちゃんにでも頼んで作業・・に戻ろうっ!!」


「ちょ、待て! 何でそんなにキレてんだよ!? 悪かったって!」


「バーカ! 体内で魔力が暴走して爆発して死ね!! 明日、絶対あんたとなんか行ってあげないんだからっ!!」


 八つ当たり、ドアが哀れになるほどの轟音を叩き出し部屋を後にするミラ。

 何なんだアイツ……。訳わかんね……。

 ま、フレイヤなら安心だろ。

 

 と、いてて。何だかんだであちこちが痛い。最近よくボロボロになるなぁ……。

 そういや、毎回ミラに看病して貰ってるな俺。


 

 こん……こん。

 

 少々控えめなノック音。フレイヤだ。

 扉を開ける前に分かってしまう。そんな彼女独特の雰囲気すらも懐かしく感じてしまう。


「シロお兄ちゃん……? 入っても……だいじょうぶ?」


「おー、フレイヤ。久しぶり。入っていいぞ」


 てくてくと、恥ずかしいのかうつむきがちな彼女は一直線に俺のベッドまでやってくる。

 ミラと比べると圧倒的な癒し力の差が目に余る。本人の前では絶対に言えないが。


「……ひどいけが。また……むりしたの……?」


「セトラが大変なことになってたからなぁ。まあいいんだよ俺はどうなっても、皆が元気なら」


 そんな俺の一言にきゅっと唇を結ぶフレイヤ、続けて、


「わたしは嫌だよ……っ!! お兄ちゃんにもう会えないかって思って、辛くて、怖くて……!!」


 控えめな彼女にしては珍しく、身を乗り出して抱きつくという初めての所業。

 突然の事態にまず考えたのは、「こんなところを第三者に見られたら間違いなく殺られる……!」だった。情けないことに。非常に。

 

「ああ、そうだな。考えてなかった。ごめんな」


 フレイヤの言葉を受け止める。俺がいなくなって困る奴なんてそうそういないと思っていたから。

 そんなこと言われたの、初めてな位で。

 なんというか純粋に嬉しかった。


「ありがとう、フレイヤ。でもこれでまた一緒だ」


 しっかりと抱き返す。

 

「あ~! シロがフレイヤを襲ってる~!!」


 げ、クア!


「ま、待て! 誤解! ほら、フレイヤも説明してくれ!」


「お兄ちゃん……そんなっ……クアさんの見てる前なんてぇ……ダメだよぉ……」


「なんですと!?」


 てかほとんど無表情じゃねえか! おい、フレイヤさん!?


「はいアウト~。セトラがいい? ミラがいい? お姉さん優しいから特別に選ばせてあげるよ~」


「どっちも駄目ぇー!! 冤罪だ! 俺は何もやってない!!」


「は~い、言い訳は署で聞きますからね~。それかぁ~明日デートしてくれれば許してあげる!」


「する! するから許して!!」


 正直、そのデート先でもいろいろトラブルはありそうだが、まずは目先の危険から処理すべきだ!


「あ……、お兄ちゃん私も準備・・があるからそろそろ行くね。あんまり看病できなくてごめんね。でも……元気そうでうれしかった……よ?」


「あ、はい、そうですか……。それはよかったです……」


 ――じゃあ、明日・・、二人で会おうね。


 ぱたん。


 待て待て、あれは看病じゃないだろ。美人局とかそんな部類だろ。

 いつの間にあんなブラックな部分を持つようになっちゃったんだ、フレイヤ……。

 というか、勝手に二人で会う約束されちゃったし。治るかな、体。



 コンコン。

 お、誰か来た。看病係が決まったのだろうか?


「シロ様、体調どうですか?」


「お、セトラ! 俺はまあ、起き上がれるくらいには回復したけど、お前こそ大丈夫なのか?」


 天使化。結局全く理由を聞いていないが、あんなことをすれば負担はすさまじいだろう。

 なのに、いつもと変わらない笑顔。備え付けられた椅子に座るニコニコセトラさんだ。


「ええ、ちょっと違和感はありますけど。まぁガブリエルちゃんと似たような状況です」


 確かに。ここまで近づいてわかることだが、僅かにセトラからは天使の魔力を感じる。


「あ、ガブリエルは無事? 顔見たいけど動けなくてさ」


「ええ、順調に回復してますよ。クアさんの治癒魔法思ってるよりすごいですからね。後でお礼を言っておかなきゃです」


「おう、だな!」


「それじゃあ私はこの辺りで。持ち場の準備(・・)がありますから」


 セトラも何か作業を手伝っているのか。

 なんか俺だけ寝たきりで申し訳ないな。 


「じゃあな、わざわざ顔出してくれてありがとう」


「いえいえ、お礼と言っては何ですが、明日ちょっと私に付き合ってくださいね」


「……? ん、まあ良いけど……。あ、体が動いたらな」


「ふふ、じゃあゆっくり休んで元気になってくださいね」


 ――それと、ミラ様とフレイヤちゃんの件、覚えておいてくださいね。私は優しいので怪我が治るまでは遠慮しておきますから。


 ドスの効いたおどろおどろしい声。セトラ……なんだか迫力上がってないか……?

 俺たちがいない間に鬼気迫る場面とかあったのだろうか。

 

 そしてクアの野郎チクりやがったな!! 絶対許さん! デートなんざクソくらえだ!

 ああ、怪我が治るのが恐ろしい。



 こんこんっ。

  

 しばらく一人で街の喧騒に耳を傾けていると、扉が小気味よく音を立てる。


「はーい、どうぞー」


 って、俺の部屋って訳でも無いんだけど。まあ他に誰もいないみたいだし、いいよな。


「し、失礼しまーす」


 入ってきたのは人形の様な目がくりくりとした金髪美少女。うさぎの人形を連れているのがまた様になっている。

 普通の健全な男の子ならここで喜ぶのだろう。しかし、俺の危険女子レーダーは確実に学習していた。こいつはヤバい、と。


「どちら様かな? 俺に用があって来たの?」


「ひゃ、ひゃい! あいたっ……! ひたはんじゃっらしたかんじゃった……」


 なんだ、この可愛さに全振りしたような生き物は……。

 ますます疑わしい。というかもう軽く女性不信にまで片足を突っ込んでいる気さえする。


「いや、その、まず落ち着いたら? ほら、俺は見ての通り逃げないし、ゆっくりでいいからさ」


 うん、改めて見ると可愛い子だな、THE・女の子って感じ。

 洋服から仕草、揺れた髪からわずかに香る匂いも甘い匂いだ。(決して自分から好んで嗅いでいるわけでは無い事だけは弁明しておきたい。)

 

「ぼくっ、ソルレーヌって言いますっ! よろしくお願いしますね、お兄さん!」


 ん……? 

 記憶を辿る。

 『ダメですぅー! 一応私が勝ったのでソルレーヌちゃんの所有権は私にありますぅー!!』


 はいヤバい。俺は学んだ。もうこれ以上変なことに巻き込まれて堪るか。


「おう、よろしく! 俺はシロっていうんだ、じゃあまたな! わざわざ来てくれてありがとう!」


 畳みかけるように握手、そして手を振る。さよならの合図だ。

 この少女に悪意はないのだから多少心は痛むがやむを得まい。さっさと俺の聖域から出て行ってもらおう。

 

「……シロお兄さん、ぼくの事嫌い……?」


 ギクリ。ここは重要な分岐点の様な気がする。


「なに言ってるんだよ、まだ会ったばっかなのに嫌いもクソもあるかよ」


「……じゃあ好き?」


「まあ、今のところはな!」


 まだ何もされてないからな!


「じゃあお祭り、一緒に回ってくれる?」


「お祭り?」


 あ、フレイヤの準備・・ってそういう……。

 なんて考えている間に、


「明日だからねーっ! ぜったいだよー!」


 って、行っちゃったよ……。

 祭り、かぁ……。

 そういえば皆明日って行くって言ってたよな……。あ、ミラは違うか。

 

 いや、待て。フレイヤ、セトラ、ソルレーヌ、ついでにクア。

 見事に予定がかぶりまくってる……! 

 お、俺はどうすれば良いんだ……!?

次回、頑張ったシロ君へのボーナスパート(大嘘)。


久々に絵を描きました。まぁ多少なりとも想像が捗って頂けたら成功ですかね。

空いてる時間があればまたやりたいかなぁ。


ブックマークありがとうございます!

ナメクジペースですけど、これからも引き続いて楽しんで頂けると幸いです!

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