Q.36 魔界天使ガブリエル?
唐突に始まった六章。
生きたかった。どうせなら人間に生まれて人間みたいに死にたかった。
どうしてわたしの体はこんなにも丈夫で、こんなにも冷たいんだろう。
生まれる時代が違ったなら、こんなにも違いを感じなかったのになぁ。
必死に生きようと絶望をもがいてる人間たちが、こんなにも羨ましい。
あーあーやめやめ!! うじうじしててもしょうがないって!
楽しいこと何かないかなぁー!!
「やほやほ~! みんながもだえる天界のアイドル、ガブリエルちゃんだぁー!!」
……。
「おい、ミラ。俺のほっぺ抓ってくれないか?」
「奇遇ね。私も悪夢見てるみたい」
このタイミングで人型の天使かよ……!
俺はまだ本調子とは言えないし、ミラはこの通り戦えない。
目の前の天使は羽と輪っかがある以外は幼気な少女だが、こいつらに見た目は関係ない。どいつもこいつも化け物みたいなスペックだったことをこの旅で身をもって学んできた。
決して油断してはいけない……。
「そんな怖いカオしないでよー」
「どうやってここにいるって分かった? 神の命令で俺らを殺しに来たのか?」
「あー! やだやだ! 質問ばっかりおもしろくないよーっ!」
ぷんすか。そんな表現が似合うなこの娘(?)は。
すっと差し出された手に少し警戒したが、どうやら攻撃をしてくる様子はない。
「特別にみせてあげるよー。わたしの『天啓』のちから」
何もない空間から一通の金刺繍が施された、高級そうな手紙が現れる。
「やっぱり一通かぁー。未来の私が不甲斐ないよー。五枚くらい書いてくれればいいのにー」
何やら一人で騒がしい奴だな……。肩ひじ張ってるこっちが馬鹿みたいに思えてくる。
「なにあれ……、魔法なの……?」
「や、ラグエルの笛みたいなもんだろうな。あれは俺たちには扱えないと思う」
「肝心なのは内容! なになにー……ふむふむー」
コイツ……俺たちが敵って分かってるのか? 言っちゃ悪いけど隙だらけ、今なら一撃喰らわせることも出来そうなんだけど。
「……。なあ。お前結局何しに来たんだ? 戦う気が無いなら先進んでいいか?」
「んー。はじめはここでおにいちゃんとおねえちゃんをぶっ殺して、ガブリエルちゃんのお手柄!にしようと思ってたんだけどー」
「あどけない顔で何つーこというのよ、この子……」
「いや、その点に関してはお前も変わんないから……」
自分の事を棚に上げてドン引きしてるミラにドン引きだわ。
「えっ? それって私の顔があどけなくて可愛いってこと?」
「ノーコメントで」
実際可愛い……うん。だけどそれを今言うのは何だか癪だからな。こいつは不用意に調子に乗らせてはいけないという事もこの旅で散々学んできた。
「もう! わたしをのけ者にしていちゃいちゃしないでー!」
「「いちゃいちゃして」」「ねーから!」「ない!」
「あははー! そう言いつつ息ピッタリー!!」
「で? 『はじめは』って事はぶっ殺すのは止めてくれるのか?」
戦闘が避けられるのならば御の字だが……、ここまでの位置特定能力を持っているコイツを放っておくのは、セトラ達の安否や他の賢者の事を考えるとあまり得策じゃない。
「うん。どーやら二人についてくのが一番良いらしいんだけどー……」
「ついてくるってお前、分かってるのか? 俺たちの目的はお前らの主人を止めることだぞ!?」
「んーわたしはあまり主の目的とかどうでも良いからなぁー。大事なのは生きている今を『楽しむ』ことかな!」
……読めない。この少女の考えが本当なのか。
だがここでこの子を味方につけてしまえば、これからのリスクを回避できる可能性は高い。
「シロ? まさか悩んでるんじゃないでしょうね……?」
「悩んでるよ。ミラの言いたいことは良く分かってるつもりだ。けどこのチャンスはぶっちゃけ……かなりデカい」
「こんなちょーかわいい女の子のお願いを断るの……? ねぇ……お・ね・が・い♡」
「ぐっ……その上目づかいは卑怯過ぎる……っ!」
「……おい、ロリコン。あんた……生きてあの村へまた行くんでしょ?」
ああ、怖い!! 目線だけで人を殺せる魔王幼女No.1の名は伊達じゃないな!
「むぅー。じゃあこれならどう? わたしの能力『天啓』は一日に一度、未来の私から一から三通まで手紙の形をした情報を受け取ることが出来るの。枚数についてはわたしのやる気次第っぽい。他にも枚数が変わる条件はあるけど」
「つまり俺たちの居場所が分かったのは偶然ってことか?」
「昨日の二通目にそう書いてあったから会ってみようかなーって」
「なんだそれ……未来が確定してるのかよ」
アトラの予知能力みたいなものか?
それよりも短期間かつ確定している分強力か。制限はいろいろありそうだが……。
「待って! おかしいでしょ。昨日の分を送った貴女は私達に会う前のはず」
「ああー。昨日は二通分使っちゃったからさらに一日先まで見えちゃったの」
これは……胡散臭いなぁ。後付けで言っちゃえば情報力で劣っている俺たちには真偽は分かりようがない。
「中々折れてくれないなぁー。じゃあこれならどう? 丁度二日後、ガーデンでおにいちゃん達のお仲間さんにとんでも無い事が起きるとしたら?」
「それがさっき見た手紙の内容か。そしてそれが俺たちについていく理由ってわけだ」
「うん! 話が早いね。じゃあついて行っていい?」
「まだダメだ。その目的を教えてもらう。もしセトラ達に危害が及ぶようなら……お前をここで倒さなきゃいけない」
「勝てないって自分が一番わかってるくせにー……。いいよ、おにいちゃんの熱いハートに感激しちゃったから教えてあげるーっ。わたしが欲しいのはそこで生まれる力。それがあればわたしは本当の意味で『わたし』になれるらしいから」
んん?
「待て待て、意味が分からん。お前はガブリエルって一個体? だろ?」
「だからそれが嫌なんだってー! せっかく『わたし』が生まれて来たんだから誰にも縛られずに楽しく生きたいの!」
「つまり……神の指揮下から逃れるってことか……?」
随分と……また人間らしいというか、この感じはラグエルと戦った時に感じた様な……人に憧れているみたいな……、そんな想いをこの少女から感じる。
「そうなっちゃうねぇー。ラファエルも何か企んでるんだしわたしだけ大人しくするのは性に合わないよー。人間の今後なんて知ったことじゃないしね~」
天使軍、思ったよりバラバラじゃね? ミラと今のガブリエルの話だとあの綺麗なおねーちゃんも裏切ったっぽいし、セトラの方へ行ったあの女の子が負けてたら残りは三体だぞ……?
え? もしかしてかなり優勢になりつつある?
「さあ! おにいちゃん、これ以上か弱い少女から情報をむしり取ろうというのかね!?」
「や、やめろ! 人聞きの悪いことを言うな!!」
「はぁ……もうだめっぽいわね……ホントお人よしなんだから」
ごめんな、ミラ。危険を抱えているのは分かってる。でもセトラ達が危険なら行くしかない。誰一人掛けたくないんだ。
「わかったよ。一緒に行こう。よろしくな、ガブリエル」
「わーい! じゃあもうわたしはおにいちゃんとおねえちゃんの物だから、好きにしていいよ!」
ぶっ!! な、なな、何を唐突に……!
「シロ……? まさか本気でこんな女の子に欲情して……」
「ない!! ないから!」
「よくこんな奴の隣で寝れたわね、私……。今は襲われたら抵抗できないから離れて寝よ」
こいつ……!! 毛布を掛けてやったというのに……!
もう夜冷めして風邪ひいても俺は知らんからな!
「まーまー! 仲よくしてよぉー、楽しくいこー?」
「いや、楽しくいけねーし! セトラ達がやばいなら早くガーデンを目指すぞ!」
「どうやって目指すの? 飛べないんでしょー?」
うっ……そうだった。
目の前には眼をキラキラと輝かせながら親指で背中の羽をアピールしているガブリエル。
うっわ……。非常に頼み辛い。こんな小さい子の羽で二人も軽々運べるとは到底思えない。
「命令は嫌だよ! お願い、して?」
天使という道具故の悲しい感情、か。敵としてしか見れなかったこいつらが急にかわいそうになってしまった。こんなことをミラやセトラに話したら叱られるのかもしれないけど……。ガブリエルだって目指すものがあって、それに向かって真っすぐ一直線なんだ。それなら手伝ってやるのは悪い事じゃない、よな?
「頼む、俺達をセトラの元まで送ってくれ」
「うんっ! 頼まれた!」
――じゃあ、飛ぼうか!
羽が舞う。雪のように白い羽が空の青に良く、よく映えて。
幼い頃絵本で見た本来の「天使」とは、この子のような子の事を言うんだと、そう思った。
勿体無いとは思ってしまうけど、道具をやめることが彼女の望みなら。
「さあ、待ってろよセトラ、フレイヤ、クア! 今行く!!」
・
・
・
地面に別れを告げ、数時間。
雲の流れは、空に近づいた割にはあまり早くはなかった。というか、ぶっちゃけ変わらない。
「……遅くね?」
「バカっ! せっかくガブリエルちゃんが飛んでくれてるんだからわがまま言うなっての!」
いつもとは逆、俺の腕の中でミラがわめく。
「ととっ、暴れんなって! ミラお前今筋力一般的な少女レベルなんだからフツーに落ちるぞ!」
ぴたり、死の恐怖を感じ取ったかお腹まできゅっと力が入っている。ちょっと面白いかも。
どれ、一つからかってみるか。
「あー手に力が入らないー」
落ちない程度に手の拘束を緩めてみる。
「ひゃぁ!? やめてシロ! お願い! 死にたくない!!」
「あはは~喧嘩をするほど仲がいいっていうのかなぁ~、いいコンビだねー!」
「何を見てそう思えるのよ!! 殺されかけてるんだけど!?」
「あれ? ミラちょっと太った? お腹がぷにぷにしてんぞ? さてはアーレア村で食いすぎたなー?」
「殺す! 最も残酷な方法で殺す! 乙女の気にするところを弄ぶなんて絶対に許さないから!!」
「はいはい、そういうのは力が戻ってから言おうねー。ま、戻ればだけどな! ぷぷー!」
「くそぅ……くそぅ……! どーして力が戻らないのよぉーっ!!」
「ミラおねえちゃんは魔王じゃなくなっちゃったんだ」
「そうなの! ガブリエルちゃんどうにかできない?」
「やぁー、魔族は天使と対極の存在みたいなものだからねー。ちょっとむりかなぁ」
「まぁ、いつか元に戻るだろ。戻った時に力が必要ないって位が一番良いのかもな」
「なにそれ! 最終戦までお荷物なんてごめんだから!」
「例えばの話だよ。真に受けんな。……もし本当にそうだとしても……」
「そうだとしても?」
「ん、何でもない。心配するなってこと」
「……? なにそれ、ヘンなのっ!」
「あっつあつだーっ。羨ましいねぇー…………ほんとにさ」
……。
「っと、そうこうしてる内に日が沈みかけてきたぜ。ガブリエルも飛びっぱなしはきついだろうし、水辺かどこかでいったん休もう」
「わたしはだいじょうぶだよぉー! 早く着いた方がいいでしょ?」
「いーや駄目だ。予定の時間に間に合えばいい。無理して潰れられるのが一番困るからな!」
「シロおにいちゃん……!」
「ほんっと自分以外には甘々ね。私にももう少し優しくしてくれると嬉しいんだけど」
「ミラはホラ、半分自分みたいなもんだからダメ。お前は甘やかしたらつけあがるタイプだからな」
「にゃにおう! 仮にも元王なんだけどっ!」
……むしろ元王だから言ってるんだが。
「ありがとう……あの日未来を見たのは間違いじゃなかったよ……ありがとう」
「おう、気にすんなって。早く休憩しようぜ。腹も減って来たしな」
「うん……うんっ……」
天使も……泣くんだな。そりゃそうか。笑ってしゃべるんだから、悲しいこともあるわな。
はぁー。やり辛っ……。敵と仲良くなるのは心に良くないな。
困ったもんだ。ガーデンの件が一段落したらどうしようかねぇ。
全然関係ないですけど、作業中はアトリエやアルトネリコのBGM聞いてます。
昔から今まで名曲ぞろいでおすすめ! フィリスが楽しみですね。
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