Q.35 もしも明日が来るならば?
ちょいグロあり。
次からまたシロパートです。早ければ明日明後日にあげられるといいなぁ
「ソルレーヌちゃん! 居ますか!? お話があります!!」
勢い良く開けた王宮執務室の扉。外部からの干渉対策のためフレイヤちゃんとクアさんには部屋の外で待ってもらいます。
部屋に入ると、まるでここに来ること、更には来た理由さえも分かっていたように微塵の驚きも感じていない人類王が、席に着き作業を続けたまま、
「ソルレーヌは――貴様達にはついて行かない。諦めろ」
と。一蹴……ですか。
人類王がソルレーヌちゃんへの接触を促していたからまだ交渉の余地はあったと思ってたんですけど。
まぁまずは確認をば。
「やっぱりそうなんですね。あの子が直系、アールグランド家の血を継いだ賢者なんですね」
書類の上を走らせていたペンをぴたりと止め、ここでようやく席を立つ人類王のテラさん。
「ふっ、良くこの短期間で見破ったものだ。いや、むしろ今まで露わにならなかったのが異常か。こんな子供だましが千年も、な」
「最初は貴方が賢者かと思ってました」
「我はあいつの護衛だ。この家はそうやって賢者の存在を隠し続けて来た。馬鹿馬鹿しいことに千年もだ。そしてそれを知られたからといって我はソルレーヌを此処から出したくはない」
「じゃあなぜ昨日、私をソルレーヌちゃんの元へ向かわせたんですか?」
「ん、見て分かったと思うがあいつには友人と呼べる者が一人もおらん。貴様なら良くしてくれるだろうと思い仲を図ったわけだが? 実際相当嬉しかったのだろうよ。あいつがあそこまで笑っていたのは久方ぶりだったからな」
「……外に出たらもっと笑顔になれると思うんですけど」
「確かに――貴様が言う通りそうなのだろうな。だが危険が大きすぎる」
だからって……そこまで……!
「今から少し意地悪な質問をする。ウォルター=ベルベットはなぜ死んだ?」
「……っ! そ、それは……」
私には天使と戦えるだけの力がないから……。
いや、「力」はあったんだ。あの時も。
「調停者権限だったか? なぜそれを使わなかった? 貴様はそれを魔界で仲間――その扉の向こうにいる炎の賢者の少女の為に使った。ではその少女とウォルターとの差は何だ?」
「……っ」
確かに幾度となく使おうとした。一人、また一人と目の前で死んでいくのが嫌で、でも
「悲しむだろうな、自分を助けるだけの力を隠し持っている卑怯者の為に命を散らしたと奴が知ったら」
「貴、様っ……!!」
考えるよりも手が先に出ていた。その手もいとも容易く止められたのだが。
ウォルターさんがそんなことを想うわけがないと知っていながら、ここまで辿り着くまでの苦労も、苦悩も、苦痛も、何も知らないこの人に自分が「卑怯者だ」と罵られるのが耐えられなくて。
本気であの憎たらしい口を抉るつもりで抜いたナイフがカーペットに吸い込まれ、音すら立てずに突き刺さる。
「まあ待て。我は何も貴様と殺し合いがしたいわけでは無い。お前にソルレーヌを渡すだけの力が無いと、そう言っているだけだ」
――駄目だ。自分を止められない。抑えられない。我慢できない。
ここにフレイヤちゃんが居なくて良かった。こんな私はとてもあの子の前じゃ見せられないだろうから。
胸に手を当て、自己暗示の様に一つ深呼吸。なおも心臓は活発に動いていて、頭に血が昇る、のぼる
つきだした逆側の手を引き下げる。
ここでやっちゃったらソルレーヌちゃんを連れていくどころか、それが原因で世界が終わるとようやく、今更気付いた。
「じゃあ。たたかいます? それで貴方を黙らせれば私の勝ち、それで良いですよね?」
「ふははっ、ここまで壊れた巫女とはな。いや、そこが愉快でもあるのだが」
「どうせ考えていることがある程度は分かってるんですよね?」
「ああ、『場所を変えろ』だろう。貴様ほどになっても仲間の眼は気にするのだな」
「あの子は純粋な子なので。穢したくないだけですよ、私のどす黒い欲望で。あ、後クアさんには知られたくないことがありますので」
「まるで別人だな。大変だろう、そんな顔を使い分けるのは」
私の顔を修羅の顔とでも言いたいのでしょうか。いえ、もしかしたらそうかもしれないですね。
――そんなに自分以外を信頼出来ないかな~?
だからクアさんにあんなこと言われるんですかね。あはは……。
「今の私、どんな顔してます?」
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転移魔法でやってきたのはガーデンの白壁が遠くに見える平原。
緑の絨毯が波打っているような草原にポツリ、私とテラさん。
「決着はどう決める?」
「どちらかが負けを認めるか――そうですね、死ぬまでやります?」
「はは、勘弁してくれ。我にはまだ御守りをしなくてはいけない奴がいるんだ」
「だったら私は世界の御守りです、よ!」
五感拡張と同時に繰り出すナイフ。
相手の筋肉を視る。奇襲を躱せない箇所、左肩――!
「躱せない体の個所を狙う攻撃、まるで格闘家の様な巫女だ。いや、もはやバーサーカーだな」
が、するりと躱される。
「人類最速なら初動、一歩のみで躱せるレベルだ」
速――っ! さっきまで目の前にいたのに回り込まれて!
「そっちが身体特化なら、こちらも使わせてもらうかな、どれ、五感拡張」
な――! そんな見ただけで!?
身体強化系の魔法ならこの世に腐るほどあるけど、あれは私のと全く同じ。素の機動力の差だけ追い付けない……!
「『相手の技を盗める』、いや、『相手のすべてを理解できる』みたいな能力……?」
「くはは。誰を相手にしていると思っている? 相手はこの人類王だぞ? ならば人類全てが貴様の敵に回ろう!!」
――『全人類の思考、技術、その他諸々をすべて理解できる能力』!?
……。……規格外すぎる……。
武器創造魔法を唱えると共に人類王の構えが変わる。片手に、一振りの剣。
ウォルター=ベルベットを想起させる構え。
いや、あれはもう、ウォルターさんそのものだ。
「どこまでっ……人を馬鹿にするっ!!」
感覚超過――!!
限界を超えるレベルで細胞単位を活性化させる!
――これなら、見える。相手が振り下ろすモーションに入ってからでも避けることが出来る。
狙うは次の大振り、
「私を舐めるなっ!」
人類王が剣を薙ぎ払うよりも速く、鋭い一刺し。
ぬぷりと柔らかい感触がナイフの柄を伝って敏感になった感覚に送り込まれてくる。
ふらつく人類王。
ここで躊躇うと思うなよ……! ソルレーヌちゃんには悪いけど、この人は許せそうにない!
半分手首を捻り、勢いをつけ引き抜いたままの回転で、逆の手に握りしめたもう一振りのナイフで、終わらせる――!
「くは……構わず来るとはやるな。ならこれはどうだ」
詠唱、あれは多分、武器創造魔法。
けど、それを振るうにはまだ、遅い!
――幻想展開仮想魔法・槍……!
瞬間。
私の体を地面に縫い付けるように突き刺さる無数の魔法の槍。
「うぐぁ……っ……。ぁ……て、手が……」
「はは、使いにくいなこの魔法は。武器を必要とするのは厄介なコストだ」
体の内側に火が灯っているみたいに焼け付く痛みの感覚。
「それだけ感覚を拡張していたらさぞ痛いだろうな。けれど天使と戦うならこの程度じゃすまない」
「……ひゃ……ゃあ……、や、めて……ぇ」
凍り付くくらい感情を殺した人類王。
この人、ほんきだ。槍を掴んで、
「肉を裂かれ、筋繊維をかき混ぜられ、骨が出るまで抉られ、出て来た骨を砕かれ」
「あ゛あ゛ぁあああ゛ああぁぁあああ!!!」
痛くて、いたくて、涙が出て、大声が出て、ちがあふれて、
「次は……内臓を千切る」
「ごめんなざいっ……あぇ……げほっ! あ゛ぁっ……ぅぐぃい……!!」
もはやゆっくりと振り下ろされるあの槍を止めることもできない。
もう駄目かと思ったけど、おなかの上に槍が触れ、そこで止められる。
「……。まだ天使と戦うか? 弱いお前が。自力じゃ誰も助けられない、お前が」
……だって……っ……、わた、しがやらないと……!
せかいは、まもれない。
そうだ、この程度であきらめられない!
こぽこぽとなる喉を必死に震わせて、叫ぶ。
「たたがうんだ……! 私が世界を救うんだ!!」
「……っ! どうしてそこまで、『世界』に拘る……!! お前も、真っ白なあの勇者も! ソルレーヌも!!」
「……視れば良いじゃないですか……ぐぅ……っ! 貴方なら、分かるはずでしょう……?」
分からないんですよね。視ても。
この国しか護ることを考えていない貴方は、
「貴方は臆病だ。ガーデンという檻に閉じこもる事しか考えていない。貴方ならきっと人型の天使とだって互角に渡り合えるのに、それをしない」
「我はここを離れる訳にはいかない。ここの民と、家族、そしてソルレーヌを護るために」
「あははっ! 大好きなんですね人間が!」
「……っ、ああ。」
でも、人間はそんなに甘くない。
私が、そうであるように。誰もが誰もフレイヤちゃんやソルレーヌちゃんみたいに純粋な夢を持っている訳じゃないんだ。
「人間の私じゃあ貴方に勝てない。ほら、腕ももう変な方向曲がっちゃってますし、ナイフも握れません。血が出過ぎてふらふらします」
「ならば、諦めてくれるのか?」
べー!
歯ががちがち震えて、鉄の味しかしなくなった口から何とか出した舌を、きっといつもより数倍真っ赤でグロテスクなその舌を人類王に思いっきり見せつけてやる。
「やです。誰が諦めるか。ソルレーヌちゃんも、世界も。私は私のやり方で救って見せる。明日の空をみんなが笑って迎えられるように。……人間じゃ勝てないんだったら……やめてあげますよ」
――人間。
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「セトラ……駄目だよ……その力は、それを使っちゃ、シロ達と居られなくなる…………」
「……? ……今クアお姉さん何か言った?」
「……ううん、何でもないよぉ~」
「んん? ……遅いねぇ、セトラお姉ちゃん」
「そう……だね……」
そっか、セトラが遠くへ行っちゃいそうで、怖いんだ。あたし。
きっと、シロならきっとどうにかしてくれるんだけど、どうしてこんな時に居ないのかな。
助けてよ、シロ。
今回ちょっとあとがき長め!
別に飛ばしちゃっても大丈夫です。後設定とか長々しいの嫌いな人も注意かもです。
セトラとシロとテラはそれぞれ目指しているものが異なります。
テラはぶっちゃけ今回が出番のピークの予定なので明確にしておきますが、「自分の愛する人々(基本国民)を天使から護る」ことを行動原理としています。今回のお話でソルレーヌちゃん(くん)の境遇に負い目を感じており本心から心配しているけれども、現状ガーデンの外(自分の目が届かない場所)程危険なところはないので、セトラを多少強引にも引き下がらせようとして剣をとります。
ウォルターさんの件に関しては完全に煽るためだけに言っちゃってます。弱点をよく理解してますね。
セトラもセトラで引き下がれないだけのものを背負ってるので、分かりやすくバトってもらいました。本気のセトラさんはちょっと怖いダーク系女子なので近づくと死にます。痛い思いをさせて申し訳ないですけど。
シロに関しては散々シロ視点で語られてると思うので説明不要……なはず。考え方としてはセトラ≒シロかも。まぁセトラがどうするのかは今回である程度分かったかもですが。賢いクアさんはそれに気づいているのでどうにかしたいわけですね~。
あまり物語に説明を加え入れるのは良くないし、やっぱり文章の中で読み取ってもらえるようにならないとだめだと思いますが、ここ最近は週一ペースで感覚も開いちゃってるので軽いまとめ的な感じの設定でした。
こういうの嫌いな方はごめんなさい!
あ、あと。先日何ともビックリですけど活動報告的な所にコメントを下さった方がいらっしゃいました。
うわぁ……私恥ずかしいこと書いてるなぁ……。って見返して思っちゃったんですけど、そんなの見てなお応援してくださって嬉しくて泣きそうでした。いや、冗談じゃないです。この場を借りてお礼しちゃいます。ありがとうございました!
以下いつもの
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