Q.33 二つ目の手がかり?
今回三点リーダが多い気がする。
「ウォルターも逝ったんだったか……」
忘れもしない名前。シロ様達と会う前、ギルドから派遣されたカディンギル遠征部隊に居た傭兵さんの一人。
「はい……私が至らなかったせいで……」
王が知っているという事は傭兵ギルド経由の連絡が届いていたんですね。
良かった、です。
「奴は優秀だった。元はこの国の宮廷騎士だったのだが、大型魔獣討伐遠征の際に腕に傷を負ってな」
「あっ、怪我で引退したって……」
確かに左腕を庇うような戦い方をする方でした。けれど誰もが諦めかけていた中、最後まで諦めないで私をあそこまで……。
だから今こうやって私は生きているわけで……。
「王の我ともまるで友人の様に接してくれた奴でな、そうか、最後はちゃんと貴様を護って死ねたのか……」
……。
シロ様は気にするなとおっしゃいましたけど……こう言われると堪えますね……。
「そう気を悪くするな。別に貴様を責めているわけではない」
「……はい」
「あいつは人を護るのが生き甲斐みたいな奴だったからな。貴様がここで生きているのなら報われているさ」
何故でしょうか。不思議と本人に言われているような……。
「どうした? 巫女よ」
「へっ!? いや、あの……まるでウォルターさんが言ってるみたいに聞こえて……」
ニヤニヤと何故か楽しそうな人類王。
「案ずるな。本人でもそう言うさ、必ず、な」
「……? はぁ……ですがそう言ってもらえてありがたいです。色々と気が楽になったというか……」
「なんだ貴様、案外本音でも話せるではないか」
「え?」
「何でもない。そうだ、茶を馳走した代わりと言っては何だが、良ければソルレーヌと遊んでやってはくれんか?」
き、来た!!
わざわざ王宮へと足を運んだ理由の一つ。恋愛イベントを起こすならば、まずその子のいそうな場所まで行くことは基本です!
「……我と話す時よりも生き生きしだしたな貴様……まあよいが」
若干不服そうですね。捉えどころのない人ですけど、私との会話を望んだり嫉妬したり実は人ともっと関わりたいんですかね……?
案外人間離れしたように見せて人間らしいというか、かわいいお方です。
「ソルレーヌは末っ子としてあまり好ましくない境遇に生まれたからな……。他の兄や姉、召使にも相手して貰えんのだ。我が遊んでやっても良いのだが腫れ物に関わるなと煩いし、何よりこう見えて多忙でな」
「お任せください! その分も私が可愛がりますので!!」
「……一応忠告はしておくが手を出したら、たとえソルレーヌだろうと国を敵に回すと思えよ?」
「は、はーい……」
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いやぁー、流石王宮、広いですねぇ。もしかしたらちょっとした町より広いのではないでしょうか?
一面真っ白で汚れ一つない床、壁。徹底的に管理されていることが一目でわかる植木、庭。
一週間ほどここで暮らしてしまえば世界が危機にさらされているなんてつい忘れてしまいそうです。
「そういえばソルレーヌちゃんのいる場所を聞くのを忘れてましたね。困ったなぁ……ちょっとしか会ってないから魔力探知も自信無いし。あ!」
いた。一面の薔薇庭園の中、ひと際輝いて見える綺麗な黄金の髪。間違いなくソルレーヌちゃんの髪の毛です!! 一度見たら忘れないですよ~!
しゃがみこんでいる彼女の元へゆっくりと近づくと、聞こえてくるのは何やら途切れ途切れ嗚咽の様な音。
って、あれ? もしかして泣いてます? 肩も小刻みに震わせていますし……。
「あ、あの~。ソルレーヌ、ちゃん?」
「ふひゃ!? 泣いてません! 泣いてませんからっ! ぼくを、もうっ、たたか……ないでっ!!」
ぼくっ娘きた!……なーんて言ってる場合じゃなさそうですね。
これは……。
人類王の言っていることは冗談でも過剰でも何でもないらしいですね。こんな幼い子が人に出会うだけで反射的に防衛反応をとり、謝るのは異常です。相当酷い仕打ちを受けているのでしょう。
まずは話を聞いてもらわないと、ですね。
視線を合わせるところから始めましょう。しっかりお話ししたいですから。
「大丈夫。私はここの人じゃないですから、ソルレーヌちゃんの事を叩いたり虐めたりはしませんよ」
近くで見ると可愛い娘というのが改めて良く分かりますね。フレイヤちゃんが素朴な温かみのある可愛さなら、この娘は気品のある可愛さという感じですか? 稲穂の様にさらさらと煌く髪の毛を今日は二つに結って首辺りまで垂らしているのもグッド! そして、ミルクみたいにすべすべな肌。あぁ、触るともち持ちしてて余計に……!
「あ……ぇ……? お姉ちゃん昨日来て、お兄様に会ってた……、んにゃ、むぅー? どうしてほっぺ触るの?」
はっ! いけないいけない! つい我を忘れてました。
「はい、セトラ・アーリエって言います。人類王――あ、テラさんにソルレーヌちゃんと遊んでやってくれって頼まれてですね――」
「遊ぶって、ぼくと? そんな事したらお姉ちゃんまで怒られるかもしれないよ?」
ここまでとは。最初の頃のフレイヤちゃんを思い出すような消極性ですね。
じゃあついでです。私だけ情報なしじゃ情けないですから、揺さぶってみますか。
「んーそれならお姉ちゃんと一緒に逃げちゃいます? ここに居ても辛いでしょう」
ソルレーヌちゃんが見せたのは明らかに困った顔。少し意地悪ですけど許してください。
「外の世界って見たことあります? 面白いんですよ、大きな木の中に人々が暮らしていたり、街の至る所に水が流れている都なんかも!! どうです? 興味湧きました?」
「ぼくも赦されるなら外の世界、見てみたい。でもそれは……だめ。ぼくはお兄様から離れちゃだめだから、お姉ちゃんと一緒には行けない」
これは――何か訳ありですかね? それとも単純に兄が好きなだけ?
全くのノーヒントよりはマシですけど、王宮外に賢者がいる可能性も考えなきゃいけないかもしれないですかね。
ま、今やることは一つですね!
なるべくフレンドリーに、怖がらせない様に、哀れな境遇の報われない少女へと手をさし伸ばす。
「じゃあ一緒にこっちに来て! お姉ちゃんにいい考えがあるから! ね?」
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「で? 何故ここで遊ぶ?」
「やー、ここなら誰にも見つからずソルレーヌちゃんといちゃいちゃできるかなぁ、と」
「ふん、戯言を。まあ一応感謝はしておく。投げ出すかどうか半々の賭けだったが、貴様――セトラを過小評価していたようだ」
「はい、どうぞお姉ちゃん♪」
ソルレーヌちゃんが注いだふりをした小さなおもちゃのカップを口元に近づけつつ、
「嫌ですねぇ。私が可愛い女の子を見捨てるとお思いで?」
「ふははははっ!! やはり面白いな! 最高だぞセトラよ!」
「ふふっ、お兄様そんなに笑っちゃ失礼だよ。お姉ちゃんはいい人なんだから」
「そうだな、ここまでのお人よしはそうはいまい。まぁせいぜい仕事の邪魔をするなよ? 方々での被害が甚大でその処理だけで一日終わってしまいそうなのだからな」
「邪魔はしませんよー。その代わりこっちの邪魔もしないでくださいねー。さぁ、ソルレーヌちゃん、ティータイムが終わったから次はお医者さんごっこでもしようねー♡ げへへ……!!」
「ぐっ、貴様……我の前でソルレーヌを穢すとは良い度胸ではないか……! 覚えていろよ、早急にこの書類の山を片付け貴様の思惑を邪魔してやるからな……!」
「いや、多分その量が終わる頃には私宿に帰ってますから……」
だって、書類の山が殆どテラさんの顔が見えないくらいまで積まれてますよ? 幾ら有能だと言っても人間の仕事量の限度を超えているような。
「別に泊まっても良いのだぞ? ここは余った部屋が多すぎるからな」
「わーい! セトラお姉ちゃんと一緒に寝たい、寝たいっ!」
ぐ、嬉しいんですよ? 嬉しいんですけど、
「すみません、待たせている友人達がいますのでまた今度で」
「えー……? お姉ちゃんぼくといっしょに寝るのいや?」
「そ、そんな潤んだ目で見ないでっ! 決意が揺らぐから! と、とにかく後二時間くらいしたら帰らせていただくので!」
自分を見失う前に!!
「あ、お姉ちゃん! ちゃんとお医者さんのまねしてよ! ほら、それ胸に当てて?」
あわわ……ちょ、聴診器を当てるとソルレーヌちゃんのこ、鼓動がッ……!!
無知ゆえか凄く積極的ですね……!! お姉ちゃんそういうのも大好きですよ!!?
さあ、残りの時間二人で沢山楽しいことしましょうね!!
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「さて、と。それでは今日の戦果をお互いに話し合いましょうか」
「……セトラお姉ちゃん、何で鼻血出してるの……?」
「くんくん、この独特の甘く優しい香り、これは幼女の匂いだなぁ~!!」
な、勘だけでなく嗅覚まで!? クアさんどこまで探偵力を極めるんですか!?
「ふっふっふ~。動揺が顔に出てるよ~?」
「うっ……」
「……セトラお姉ちゃん? よその女の子に手を出すのは……ダメ」
ゆらぁ、とフレイヤちゃんの手から吹き上がるどす黒い色の炎。
直感が告げる。あれに触れたら死ぬ、と。
「と、とと、ともかく情報交換! しましょう! それについても詳しく説明するから落ち着いて、ね?」
「……ん、いちおう聞く」
「さて、今日で目星が付くと良いんですけどね……」
――それじゃあ私から、話しますね。
ここまでしつこくご褒美イベントしておいた方がセトラも幸せだし良いと思った。
次回目明し編! ……みたいな?
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