Q.30 意外と使える? クアさん直伝読心講座!?
五章二部です。
※この話を読んでも読心できるようにはなりません。
「そう……ですか……。お姉ちゃんとシロ様は行方不明……ですか」
沈んだ面持ちのノルンさん。
あの戦いから一晩過ぎて、やってきたのは大図書館。
事情を聞かされていない魔界内では様々な憶測が飛び交っていました。魔王ロノウェが単騎で天使軍を破っただとか、天使軍が内部分裂しただとか、人類側からの精鋭が代わりに闘っただとか。
あり得そうなものから荒唐無稽な噂話まで。
ですからあの戦いの真相を知っているのはほんの一握りでしょう。
私とシロ様、ミラ様、フレイヤちゃんにクアちゃん、そしてノルンさん。
そして――メギドラ・ロノウェ・エイワーズがシロ様達同様行方不明である為、これだけの人数のです。
「あのお二人の事ですから対天使用に手は打っていたと思います。何もなしに突っ込むほど無謀じゃないはずですよ」
シロ様は特に、です。他人の死を恐れてますから何としてでもミラ様だけは生かそうとするはず。……あの人は優しすぎます。あんなのは自殺衝動に似たようなものです。本気で自分の手の届く範囲の人をみんな助けようって言ってる様な物なのですから。
「だと良いのですけど……お姉ちゃんがまた居なくなったら――いえ、駄目ですね。私がここで落ち込んでいてもお姉ちゃんが返ってきたときに合わせる顔がありません」
ふむ。やはりお強いのですね。
流石は千年間ミラ様を待ち続けただけはあります。アフターケアが必要かもしれないと思いましたが、大丈夫みたいですね。
いえ、むしろ必要なのは――、
「フレイヤちゃん。大丈夫。勇者様とお姉ちゃんは生きてるよ。だから元気出して、ね?」
「その通り。大体だけどお二人の魔力はここからでも感じ取れてるから、きっと大丈夫」
――ミラ様の魔力だけ何か変ですけど……。
そんな私達の慰めもほとんど効果が見られない程、彼女のショックは思っていたよりも深刻でした。
魔術の過剰使用に加え精神的にかなりの負担。この歳で経験するにはあまりにも過酷な負荷。
……私の責任ですね。対ラミエル戦で彼女に重役を与え、囮にしたのは私ですし。
「…………うん……」
「フレイヤちゃん……」
こんな時シロ様なら立ち直らせるよう手を尽くすのでしょうが……、残念ながら私では代わりには……なれません。
しばしの沈黙。クアさんは相変わらず眠そうに目をこすってて関心がなさそうですし……。
すると、
「そ、それで! これからはどうするんですか?」
気まずさに耐えかねたノルンさんが多少強引に話を切り出してくれました。
「魔界はこの通り魔王不在で荒れてますし、あまり滞在には適さないです。抜け出すなら今の内かと」
「そうですねぇ。ミラ様が生まれた故郷ですから少し名残惜しい気がしますけど」
「お気になさらず。またお姉ちゃんと一緒に会いに来てもらえれば、私はそれで満足ですっ!」
ですね。次は世界を救った後で、姉妹水入らずの時間を。
「はい。お元気で。――」
――シャドさんにお会い出来たらよろしくと伝えてください。
その言葉を言いかけて飲み込みました。また会えると……いいですね。
「――また会いましょう」
「……ええ! お待ちしてます!!」
・
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「それでどうするつもりなのぉ~?」
気だるげなクアさんが目をこすりながら問いかけてきます。
魔界の主要都市を出て早数日。
ノルンさんに会い、再開の約束をしてからの数日間はただひたすら歩き続けるだけの日々。幸いにも食料は買いだめできたけどそう長くはもたない、はず。
そもそもが私自身どちらを目指せばいいのか悩んでしまっています。
シロ様とミラ様を探すか。
まだ接触できていない残りの賢者を探すか。
とんとん、とクアさんが素早く耳に人差し指を二回叩きつけて合図しました。
……ああ、”回線を開いて欲しい”と。
彼女も何も考えて無さそうで案外考えているんですね。
(フレイヤちゃんは気づいてないけど、セトラある程度両方の位置分かってるんでしょ~?)
……! クアさん、何気に鋭いです。
確かに、お二人の不安を掻き立てない様にと初日以外は二方向の中央へ向かっていたのですけど。それに気づきますかね、普通?
(セトラの性格からして、フレイヤちゃんの状態を見て迷わずシロの方へ向かわないってことは相当遠い、もしくは賢者が近い、のかなぁ?)
(……どうしてわかったんです?)
(勘だよぉ♪)
多分本当に勘なんでしょうね……。幸運の女神の名は伊達じゃないですね。末恐ろしいです。
(では、クアさんの意見を仰いでもいいでしょうか?)
(ん~、あたしは賢者優先でもいいと思うよ。結局は行かなきゃいけないんだから天使に手を出される前の方が安全だよね。それに、シロ達が簡単にくたばるわけないよ~)
それについては同意見ですけど……。フレイヤちゃんがですね……。
(心配なの? フレイヤちゃん。あたしとしてはここは一人で乗り越えなきゃいけないと思うけどなぁ~)
(そんな! まだ彼女は子供なんですよ?)
(ふぅん。じゃあセトラは一緒に旅してる「炎の賢者」を信頼してないんだ?)
(なっ!? そんなわけじゃ――!!)
(うん。セトラは皆を信じてる。人類も魔族も、その他の今この大地に生きている全ての種族が生き残ることを信じてる。けどそれは信頼じゃない)
…………っ!
……見透かされてる。敵じゃないはずなのに。クアさんに。私の心の中を。
(この話はいずれ二人きりでしようと思ってたんだけど、まぁいっかぁ。あのさ、最終的に世界の全権を握っているのはセトラ。でも救世の巫女――ううん、違うね。世界の主になりうるセトラがそんなのでどうするの? そんなに自分以外を信頼出来ないかな~?)
――バレてる!?
これはもうブラフとかそんなあてずっぽうで当たる内容じゃないです……!
(世界の頂点に立つセトラがそんなんじゃ、新しい世界もきっと楽しくないよ。そんなのはただの管理世界。あたしが一番嫌いな世界)
表面上は無言で歩いている彼女の眼が、いつもの能天気さとは打って変わって真剣な眼へと変貌する。
(――どこまで知っているんですか?)
質問は手段から内容へと変わっていました。
もはや、手段などどうでも良い程に私は焦っていて、シロ様にもお話ししなかった秘密をどう覆い隠そうかで必死でした。
返事が無い彼女から発せられるただならぬ迫力を前に、弁解する言葉すら探せないでいると、
(……話す気が無いなら今は良いよ。ただ、最終局面においてもそれを隠しているようならあたしは容赦しない。その時はあたしが――)
「あ……煙……。あれ、村だ……。魔界、おわり……?」
ぼーっと虚ろな目で前方を見つめていたフレイヤちゃんがぼそりと呟くと、熱が冷めた様なクアさんの声が脳内に伝わってきて、
(――意地悪いこと言っちゃってごめんねセトラ。でも……もっと頼ってよ。一人で抱え込まないで……)
ぷつん。
胸の奥から絞り出した様な一言を最後に、通信は切られました。
・
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「ひゅ~!! 露天風呂だぁ~!!」
「……わぁ……!」
ぱたたっと駆け出すフレイヤちゃんはいいとして……、
「もうっ、クアさん! 速攻で男湯を覗かないっ!! 向こうからも見られるんですよ!?」
「えぇ~? いいじゃんいいじゃん。ほら向こうにシロがいるかも!」
「ミラ様と一緒ですから居るとしたら透明化してこっちに居ますよ……」
普通は逆ですからね……? まあそれこそシロ様くらい度胸がないとわざわざ死のリスクを踏まえてまで覗きなんてしないと思いますけど。
けど、お二人がそう興奮してしまうのも無理はありません。ラ・ブールを出てからドタバタ続きで碌に休息をとれませんでしたから。フレイヤちゃんも今は少し笑顔が見られますし良い療養です。
「セトラお姉ちゃん……っ! このお風呂すごいすごいっ!」
ぼこぼこと湧き出るお風呂の前でしゃがみながら、恐る恐る湯をつつくフレイヤちゃん。
すっごい微笑ましいですっ!
もう、目をキラキラ輝かせてる辺りとか!! 守りたい、この笑顔!
「ここは魔界の山脈帯が近いから、多分源泉かけ流しって奴かなぁ」
「げんせん、かけ……ながし?」
フレイヤちゃんが私の言葉に小首をかしげます。
「地面から湧いたまま、本物のお風呂ってこと。きっとお肌にいい成分がいっぱいだよ!」
「げんせんかけながし……すごい……!」
体を流してからそっとつま先で湯に触れ、警戒を解いたのか徐々にお湯に体を静めていきます。
「お……おぉー……!」
「ふふ、気持ちいい? 自然のお風呂は?」
「気持ちいいよ……っ! ちょっとかんどう!」
「それは良かった。じゃあ、私も!」
くぅ~!! 堪りませんね!!
ミラ様曰く、この旅は世界各地の宿をめぐる温泉旅行でもあるらしいですけど、こんな大迫力の露天風呂に入れないなんて可愛そうです。
再会したときはたっぷり自慢してあげましょう!
「それで結局どうするのぉ?」
ようやく人並みの落ち着きを取り戻し、湯船に大人しくつかり始めたクアさんがそう尋ねます。
至って平然と、いつもの口調のままですが……、先ほどの言葉を思い出し、温泉のせいか緩みかけていた背筋に力が入ります。
信頼、ですか。まさかクアさんに言われるとは少しも思ってなかった言葉。
――しかし、今はまだ話せないんです。私の役目の事は。
(クアさん、さっきはごめんなさい。いずれ来るべき時にしっかり話します)
一方的に回路を開き、終わった瞬間に閉じる。そんな一方的な会話。
……我ながらずるいやり方です。本当は、言えたらいいんですけど……ズレは少ない方が……。
クアさんは何か言いたげな顔をしています。
フレイヤちゃんの手前言葉にし辛いのでしょう。……すみません、本当に。
「ここから人類生存安全圏、ガーデンへと向かいます」
「がー、でん……?」
クアさんだけがポカーンとした顔で首をかしげます。
ああ、ラ・ブールではほぼスラム生活でしたね、そういえば。
ならば知らないのも……まあ、頷けます。
「魔界の中央があるように、人間領にも中央があります。それがガーデン。人類の首席が座している人間領最大の都市ですね」
「そこに賢者がいるの~?」
「はい、恐らく」
「って、なら後回しでも良くないかな~? ある程度安全ってことだよね~? あれだけ言っておいてなんだけどさ」
「いえ、想像の通りシロ様達が遠すぎるんです。ここから馬車などでまっすぐ進んでも数か月、その間あのお二人がじっとしている訳も無いのでここは安定をとります」
絶対に同じ所に留まらないですからね……特にミラ様は。
「あとは……人類王に話をつけておきたくて、ですね」
「……人類王? その人……仲間になるの……?」
「ああ、えーっと、きっと色んな事情でガーデンから出られないから一応協力関係を結べれば、って感じかな?」
ま、これはあくまでも保険ですけどね。
基本的に少数の方が敵に見つからずに済みますし、戦力的な面から言えばシロ様達と合流さえできれば解決ですから。
最悪の事態――人類側との対立を防ぐ為の保険です。
「ん……りょーかい」
「という事でまだまだ移動が続きますけど頑張りましょう!」
「「おー!」」
「ってこれはシロ様の受け売りですけどね。頑張るのは明日からです。今日ぐらいはのんびりしていきましょう。せっかく女三人旅になっちゃったんですから楽しまないと、です」
「ふっふっふ……じゃあお風呂から上がったらガールズトークの時間だよ~!」
「良いでしょう! フレイヤちゃんも今日は寝かさないよー?」
「え……起きてていいの?」
「今日はこのセトラお姉ちゃんが許すっ!」
「やった! えへへ……」
楽しみです……フレイヤちゃんのあんな話やこんな話。あ、ついでにクアさんのも。
……それにしても、現人類王、テラ・エルド・アールグランドですか。
勇者を語った人物の子孫、ですよね。普通に考えるなら。
噂じゃ堅物と聞きますし、厄介事に巻き込まれなければいいですけど……。
ま、何とかなるでしょう! 多分!
いろいろ思惑。
クアは実は案外できる子なので、今までも要所要所で考えを巡らせたりしてます。
それが裏目に出ることもありますけど。
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