Q.28 罪を重ねた未来の先には……?
ぎりぎり書き終わった……!
次話で五章終了の予定です。
「ずっとここに居ようよ……」
やはりそうだ。
こいつはアトラであってアトラじゃない。
「お前もそんなこと思ってたんだな」
「……気づいちゃったんだね」
目にためた涙を拭い、丸く、煌々と空に浮かぶ月を見上げるアトラ。
「この私は罪深い私。シロ達を未来へ送るしかなかった事を後悔し続けた私の残骸……」
アトラの口ぶりからして、恐らく残留思念に近いものだろう。
大戦を治めたはいいが、心残りがあったアトラが無意識のうちに作り上げたもう一人のアトラ。
『俺とミラと村の皆で笑って過ごせる未来』とかその辺をを望んだアトラだ。
……残留思念もどきがここまでの結界空間を創れてしまうあたり、やはりオリジナルのアトラの底の深さが垣間見えるな。正直信じられないが、信じるしかないのが悔しい。
いや、それはそれとして、だ。
「……お前、ここで俺とミラを引き留めるって事はどういうことか分かってるのか?」
レプリカであるアトラに問いかける。
こんな質問はする意味がない。だが、彼女自身の答えが聞いてみたかった。
「……。わかってる、つもり。世界は天界から来た天使に滅ぼされ、皆一度死に、消滅する」
「お前の子孫は今必死でお前が視た未来を変えようとしているんだぞ? それでもか?」
「…………私には関係ないもん。……さいてーなのは分かってるよ。それがどれだけ罪深い事かも」
……。
「今が良ければいいのか?」
アトラは眩い月から目を逸らし、俯いた。
「私は、シロとずっといたかった……!! メルティやリヴィア、ノワールはちょっと難しいかもだけど、皆と笑って過ごしたかったんだよ……」
むぅ……。その気持ちは残念ながらわかってしまう。
俺も、ミラと共に封印されたあの何もない空間の中で幾度となくそう考えていたから。
だから一概に否定し、彼女を拒絶することは出来ない。
「意外だな。お前は、アトラはずっと先を見据えてて、過去や今なんかよりも未来に生きてるような奴だったから」
「そりゃ無敵のアトラさんだから、人類皆の前では自分の役割忘れちゃいけないし……?」
指をいじいじ、なんだか初めてこいつの素顔を見た気がする。
こういった内面を濃縮したコピーみたいな物なんだけど、ここまで素直に本心を話されると妙にこっぱずかしい。
「それで……駄目かな?」
……。
それは俺も心の中で望んだ未来だ。けれど、
「駄目だ」
即答だった。
この答えは譲れない。揺らぐけど譲れない。
「俺はその未来を選べない。でも、アトラと居られる未来があった。それだけで十分だよ」
――だから、ごめん。
――そっか。うん、シロだったらやっぱそうだよね。
そう言うと、彼女はすっと立ち上がった。
俺に背を向け村の方へと歩いていく。
その体は徐々に透け、月明かりと一緒に夜に溶けていく。
「アトラ……?」
「安心して。村の解呪師の効果はこの外でも残るから。ミラちゃんは元に戻るよ」
アトラ……。
やっぱミラの事も分かってて。
もう彼女の体は輪郭も怪しい位に空気と同化していた。
……伝えるべきだ。
せっかく会えたのだから、自分勝手かもしれないけれど、「最後」に言えなかった言葉を。
「ありがとう。……その、ずっと好きだった。アトラの事」
初めて会った時から、旅してる時も。
「……うん、うん。私も好きだったよ。貴方と旅が出来てしあわせでした」
振り返り、消えかけの笑顔を振りまき――彼女は完全に消えた。
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――ありがとう。……その、ずっと好きだった。アトラの事。
――……うん、うん。私も好きだったよ。貴方と旅が出来てしあわせでした。
シロ……。
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家に帰ると、ミラが何やらよく分からない寝言を八重歯が覗いている口から漏らして寝ていた。
……俺のベッドで。
せっかくソファに下ろして毛布掛けてやったのに。一回トイレにでも起きやがったのか?
「ったく、こいつ……」
流石にソファにはミラの小さな体は収まっても一般的な成人の人間男性である俺の体は収まらない。
仕方ない。床で寝るか。
そういえばこいつと離れて寝るのって初めてだ。今までは離れたくても離れられなかったから。
今日は流石に俺が寝るだけの空間が無いし、そもそもそこまでこだわる理由がないからな。
一緒に寝てるのを村の住民に見られでもしたら気まずいし。
「んにゅ、シロぉ~」
「……!? ん?」
急に名前を呼ばれて肩が飛び跳ねる。
「だいじょうぶ~私がやっつけるからぁ~」
「……なんだ。寝言かよ……」
ああ言っておきながら未練あるじゃねーか……。
まぁいいか。明日ミラは力を取り戻す。それで自身も自分も取り戻せるはずだ。
寝る前にソファの上の毛布をミラにかけておく。風邪でもひかれたらこっちが困るからな。
ニヤニヤとだらけきった笑顔。
俺はこの笑顔と共に歩む未来を選んだ。
アトラの想いを受け取ってなお、こちらを選んだ。
「……おやすみ、ミラ」
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朝日が差し込む。
外では鳥が囀りを始め、暖かな陽気が部屋を照らしていた。
……が、眩しいであろう太陽は何者かに遮られていて、その姿を確認することは出来ない。
「……ん?」
「おはよ~。お二人さん、よく眠れたかな?」
「なっ!? アトラ!? お前昨日――」
そう言いかけたとたん手で口をふさがれる。
ミラはまだ起きていない。
「ここは何でもありの空間だから、細かい幻想は気にしない、気にしない♪」
……こっちとしては超恥ずかしいんだが。もうそれは恥ずか死しそうなほどに。
「さ。今日はミラちゃんの呪いを解くんでしょ? なら仕度仕度!」
「もうこの際だから聞いちゃうけどアレってお前の仕業じゃないよな……?」
にまーっと笑うアトラ。
「さぁ~? 私はオリジナルじゃないから良く分かんなーい」
くっ……こいつ絶対何か知ってる……!
「さ、ミラちゃ~ん! 朝だよ起きて! あ、魔族は朝に弱いのかな?」
俺の追求ターンは強制終了、ミラを起こしにかかることで回避に努めるアトラ。
……知る必要はない、もしくは何らかの理由で教えることが出来ない?
駄目だ分からん。やっぱこいつは訳が分からん。
「んぅー? あ、アトラ、とシロ。おはよー」
起こされてしまったか……。
「これから村一番の解呪師のおばあちゃんの所行くから急いで急いで!」
その一言でミラの視線は鋭く変容し、その矛先は当然ながら俺に向いていた。
言葉にしてはいないものの、大体のニュアンスは伝わる。
――どうなってるの? 二人で相談してからって言ったよね?
いや、俺にも非はあるが、そもそもお前酔いつぶれてたし……。
一応宴の帰りに「あしたどうする?」って質問の返答が「もうおなか一杯~」だったからな?
――後で魔力戻ったらおしおき。
もはや恒例になりつつある悪しき習慣を前に、無性にミラにはそのままの無力で少し生意気な少女のままでいて欲しくなってきた。
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「これは、『呪い』などではないぞ。一種の自己暗示じゃな」
「「は?」」
アトラに連れてこられて、腕利きの解呪師の家にて。
あれほどに悩み、ミラを苦しめていたのは自分自身だという報告に耳を疑う。
「私が自分で能力を制限してるって事!?」
魔術的な衣装が施されたいかにもな机を平手で打ち付け、解呪師を問いただすミラ。
「まあそう怒りなさんな。5mという制約の方も一時的に解除されているだけで、元々の魔力を解放した時は世界の均衡を保つために再びシロと行動を共にせざるをえくなるじゃろな」
「そ、それは……よかったのか?」
根本的な解決には至っていないような……。要はミラの気持ち次第って訳で。
「それよりも、じゃ。シロ、お前の方が厄介なことになっておる」
「え? 俺?」
確かにまだ完治とは言えないが……違和感は感じてないぞ?
「お前の中には三つもの力と意思が混在している」
何その設定!? 異常者じゃねえか!
「一つは他ならぬお前自身、勇者としての力。二つ目は……契約によって同じ型の魂が無理やり詰め込まれておるな。それによってお前の本当の名は存在を喰われておる」
「それって……クロ……かな?」
事態をさして驚きもせず静観していたアトラの方に視線をやる。
……へったくそな口笛を吹いていた。
「……お前が犯人だな?」
「犯人なんて人聞きが悪いなー。クロ君がミラちゃんを助けたいっていうからサービスしただけだって」
こいつどこまで見越して予防線張ってるんだ?
「まあ、その魔族の力は収まりつつあるからさして影響はない。問題は三つ目じゃな」
「まだあるのか……しかもさらに厄介と来た」
俺の知らない所で勝手に俺の体を弄るのはやめてもらいたいんだが。
「シロよ、結論から言うとお前は今、勇者兼闇の賢者じゃ」
……は?
それってつまり……シャドは……。
「安心せい。元々の闇の賢者から力だけが移っただけじゃ。どうしてお前さんに力を移したのかは当人に聞かんと分からんが、な」
ミラの顔に安堵の色が漏れる。彼女なりにノルンの事が心配だったのだろう。
それにしてもなぜ俺に……? いつか必要になると見越したのか?
「勇者の力と闇の賢者の力が混同しておるから暴走にだけは気を付けろ。今は前者の二つで押さえつけてはおるが、ふとした瞬間にそれが爆ぜたら周囲まで巻き込むことを肝に銘じておくんじゃな」
「はい……」
ここで改めて考えてみた。
シャドの影響で爆弾(仮)を抱えている。
↓
シャドは先祖からの伝言から術式をペンダントに込めた可能性あり?
↓
シャドの先祖、つまりノワールにそれを吹き込んだのは……。
↓
アトラ・アーリエの可能性99%。
「結局全部お前のせいじゃねーか!!」
げっ、バレた、と言いたげなアトラ。即座に俺から顔を逸らす。
「……わかった。一言だけ言い訳をさせてやろう」
ちょっとまって。手を前に差し出しジェスチャーでそう伝えてくる。
数瞬の後、覚悟を決めた顔のアトラが口を開く。
「て、てへぺろ~☆」
拳て頭を小突き、馬鹿みたいに舌を出した情けない幼馴染の姿が、そこにはあった。
「せめて言い訳をしてくれよ!」
……はぁ。どうして俺こんなのを好きだったんだろう。
いよいよもってセトラやフレイヤみたいな常識人が恋しくなってきた。
「ほっほっほ。相も変わらず仲がいいのぅ」
同レベルで扱われたくないと、切に思った瞬間だった。
万能感あるキャラって中々難しいです。恐らく作中最高の性格の難度を誇っているアトラちゃん。時点でメギドラおじ、お兄さんかなぁ。
投稿が遅く、延期等迷惑をお掛けしているにも関わらず、毎回見て頂きありがとうございます。
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