Q.27 幼馴染の策略?
帰郷回。
前回投稿できずすみません。明日もう一本上げますね。
この村はこんなに広かっただろうか。
アトラに案内され宴の席へと向かう道すがら、押しつぶされそうな雰囲気のせいで時間間隔が狂っているような錯覚を起こす。
いや、実際に物理的に押しつぶされているからかもしれない。
右側にミラ、左側にアトラという何とも嬉しくない組み合わせ。
せめてどちらかがフレイヤだったらほのぼのと夕餉の献立について語り合えただろう。あぁ、純真無垢成分がこんなにも恋しいなんて。早くあいつらとも合同しなきゃいけないよなぁ……。
さらに付け加えるならば、ミラの方は状況が状況というのもある為か、俺の腕にしがみ付く形で離れようとしない。全くの平らなのでドキドキはしないが、二人の作り笑顔が怖くてガクガクはしかけているかもしれない。
重い足取り、沈黙を破ったのはアトラだった。
「ミラさんと会うのはあの決戦ぶりかな? ごめんね、いきなり閉じ込めちゃって」
そういえば、このアトラが本物だとすれば、二人は千年ぶりの再会になるんだな。
今でこそ俺とミラは相棒(だと俺は思っている)だが、二人からしたら宿敵という認識はあまり変わっていないのかもしれない。
「いいわよ、そんなの大分昔の事だし。あなた達より長い時間を生きて来たからどうってことなかったし。こっちこそごめんね、アトラ」
……嘘つけ。お前出る直前の言葉を忘れたとは言わせないからな?
「いいよ~。ここまでシロを守ってくれたのはミラさんだしね!」
「ミラ、でいい。私もアトラって呼んでるし。シロの幼馴染でセトラのご先祖ならそう改まることも無いでしょ」
「じゃあミラちゃんで! いいかな?」
「うん、いいよ」
意外にもミラは冷静だ。……今の所。
アトラの方はいつもの事だが真意を測りかねる。何もかも計算ずくかと思いきや、天然ドジを多々やらかす。十数年行動を共にしてきた俺ですら彼女が何を考えているかは最期まで分からなかった。仲間思いとかそういった側面はわかるが、彼女の心の奥の部分は何時も不透明なまま。ある意味ミラとは正反対かもしれない。ミラは隠そうとしてるのがバレバレだし、俺からしたら隠しきれてないし。
そんな色々と対称的な二人に挟まれて歩く。二人で喋るならどっちかによって歩いてくれ。頼むから。
淡い期待を二人が読み取ってくれる訳など無く、会話は続いていく。
「シロに変な事されなかった? こいつ前風呂のぞいたりしたんだよ!」
オイ待て。思わぬ所から過去の失態が発掘され、慌てて右側の気配を窺う。
「ばっちり見られた。しかもアトラの子孫も被害にあってるよ」
……。お前は俺の味方じゃなかったっけ?
「待て待て、あれは事故で解決したはずだよな!?」
「うわ……。子孫が毒牙にかかってるとか想像しただけで……」
「かけてないからな!!」
セトラとはそういった不純な関係では一切無い事をここに宣言しておく。
「多分アトラに面影重ねてるんでしょ」
「うわぁ、きもちわるぅ」
「……お前ら会ったばかりなのに案外仲良いな」
訂正、宿敵じゃなく盟友だった。
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散々冷ややかに罵られながら会場につく。ここは確か――長老の家だ。
村で一番広いのはこの家だからまあ宴をやるならここだとは思ってた。けどなんだか懐かしいな。
色々と世話を焼いてくれた長老。村が反対する中、アトラの護衛の後押ししてくれたっけ。
「シロ坊か……。ちょっと見ん内におおきゅうなったなぁ……」
優しい声で迎えてくれた長老は、最後に見た時よりも皺が増え、腰が曲がっていた。
懐古と哀愁を味わうと同時に、確信する。
ここはアトラが戦いから帰った後の時代。俺とミラが封印された直後のアーレア村だ。
村ごと何かの術式で転送されたのか、それとも大規模な幻術の類にかかっているか、過程と目的は今だ謎のままだが、現況を確認することは出来た。
ミラも同じ考えに至ったのか、僅かに視線で訴え、頷いてくれた。
「お久しぶりです。長老。お元気でしたか?」
とはいえ、今は敵対する理由はない。
交わすことが出来なかった会話を楽しませて貰うとしよう。
「いや、わしもそろそろ歳かもしれん。床から動くのもやっとになってしまった。死ぬ前にお前の顔が見れてよかったよ」
「そんな、縁起でもない」
「あの泣き虫坊やが随分と逞しくなったもんだよ。ん? そっちの小さい娘は許嫁か?」
何をどう解釈したのか、元魔王を杖で指した長老。
感傷に浸っている所を一気にひっくり返された台無し感。
ミラはと言うと……。
「なっ、こ、こいつが、こいつと、いいなずけ……!?」
何が感情を支配しているのだろう。やはり怒りだろうか。照れならまだありがたいが、そんな期待をするだけ無駄だろう。きっと次の瞬間には――、
……。
炎魔法はともかく、グーパン一発すら飛んでこなかった。
フレイヤの如く袖を引っ張り俯いてしまっている。
……魔法が使えないだけでこうも人が変わる物なのだろうか? このままお淑やかな淑女とかになってくれないだろうかと叶いそうもない願いを望んでいると、
「もうっ、長老ったら! この子はミラちゃん、魔王様だってば! さっきも言ったでしょ」
「かかか、冗談だ。そう縮こまらんでも良い。我々はお主を歓迎する」
もはやボケか冗談か分からんな……。
「あ、ありがとう……ございます」
(何であんたの故郷って人を食った様な性格の奴しか居ないの!?)
セトラ不在の為、思想伝達が使えず、ひそひそ声で悪態をつくミラ。
(遺伝……?)
だとしたらとんでもない嘘つき村だ。そりゃ人も来ないわけだな。
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「さて、主役の二人もそろったところだ、そろそろ宴を始めようかね」
会場へと招かれそのままの並びで座らせられる。
大きなテーブルにはすでに見知った顔の村の人たちと、ラ・ブールなどと比べると流石に劣ってしまうものの、この村にしてはかなり豪華な食事が並べられていた。村人の中には解呪師もちらほら。これならミラの解呪もできる可能性が高くなってきたかもしれない。
料理の内容は今では貴重な山菜に、魚貝類、そしてこの村でしか取れない果実を魔法で圧縮したぷにスライム型ゼリー。
……マジで豪華だな。こんなごちそうはこの村にいる間は食べたことすらなかったぞ。
「最近ずっと木の実とかばかり食べてたからちゃんとした食事はひさびさね!」
ミラが目をキラキラと輝かせてアトラにこれは何だ、それは何だと未知の料理に質問を重ねている。
しかし待ってほしい。この普通とは言い難い空間で果たして物などを食べてしまっていいのだろうか。結界術の知識を持つセトラが昔こんなことを言っていた気がする。
『相手の陣地、結界の中にある物を体内に取り入れてしまうと最悪その空間から自分の意思では出られなくなってしまいます。相手を受け入れる、という一種の契約が成立しちゃうんですね。一度取り入れちゃったら構成としては結界の一部です。外から術者が結界を終了させたら存在ごと消滅するので気を付けてくださいね』
え、じゃあこれまずいよね?
とりあえずミラを止めないと――、
「星の危機を救った勇者と魔界の姫君に乾杯!」「いただきまーす!」
速攻だった。
乾杯の音頭と同時に料理に口をつけるミラ。
「どう、ミラちゃん? 村一番の料理上手な私のお母さんが作った料理!」
「うん! すっごくおいしー♪」
あー……。これもアトラの策の内なのだろうか?
これでこの空間を作り上げた者の許可がない限りはここから出られないわけだ。
この点については迂闊だった俺のミスだ。食事を用意しているとアトラが言った時点で考慮すべきだった。
まあ、ミラが食べたのなら食べるしかない。ここで拒むのも不審に思われるだろうしな。
「いただきます」
あぁ。この味、よくアトラの家でごちそうになった時の味付けだ。
ここまで、完全に再現できるのか……。
「シロ? どうしたの? 嫌いだったっけ?」
「いや、おいしいよ。すごく……おいしい」
おいしいから、好んだ味だから、戸惑ってしまう。
本来もう二度と食べることはなかった料理を、二度と会うことがなかったであろう人たちと食べているこの状況に。
「ヘンなのー」
ミラは相も変わらず料理を頬張っている。リスみたいだ。
わかってる。一刻も早くミラの呪いを解いて天使を倒さなければいけない。
けど、ここはどうしても居心地がいいんだ……。
ミラがいて、アトラや村の皆が居て。セトラやフレイヤ、クアが居ないのは心残りだけど、満ち足りているあったかもしれない過去。
居心地の良さと違和感が混同して、でも幸せで。
そして、気づいてしまった。
誰がこの空間を創ったのかを。
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「お、来た来た。二人きりで話すのは随分と久しぶりだねぇ」
宴の席はあのまま他愛もない会話をしたり、ミラが酒でべろんべろんに酔ったりして、楽しく終わることが出来た。
……しかし、「もー食べられないぃ……」と唸るミラを背負いながらの帰り道、アトラの耳打ちで俺はここに呼び寄せられることになってしまった。
――夜、村の裏側の岩場で待ってるから。
正直警戒はしている。
ミラが動けないこの状態、逃げ出そうにも逃げ出せなくなってしまった上での分断だ。
アトラの気まぐれトークタイムかもしれないし、俺を油断させて殺す何者かの策略かもしれない。後者の線は限りなく薄くなってはいるが、無いとは限らないからな。
強烈な弱体化がかかっているミラの方が心配だが、俺の家には簡易的だが探知魔法をかけておいたからとりあえずは安全だろう。きっと今頃爆睡してるはずだ。
「ま、とりあえず上がっておいで」
月を背に妖艶に笑う救世の巫女。
悔しいことに絵になっていた。
言われるがまま岩場に上り、彼女の隣に座る。
足をぷらぷら宙に投げ出しながら月を眺める巫女はやはり何を考えているか分からない。
「何で呼び出した?」
もうここまで来てしまったら一番怪しいこいつに聞いてしまうべきだろうか……。
俺の直感ではこの空間を作ったのは十中八九アトラなのだ。
断定こそできないが、仮に見知らぬ第三者がこの空間を作ったにしては記憶との相違がなさすぎる。
俺の記憶と寸分も違わず、ここまでの規模での時空改変が出来るだろうかと、宴の席で考えていた。
それに俺とミラが結界内の物を体内に取り入れた時点で、俺達の無力化は完了している。あとは外から空間を閉じてしまえばいいのだ。
さらに、だ。
よくよく考えればセトラや天使以外の第三者が俺たちがここの付近にに飛ばされた過程を知るはずがないのだ。それなのにこのアーレア村にピンポイントで、このタイミングで、結界術を発動させることが出来るだろうか?
考えれば単純な事だろう。
懐かしい風景、故郷の味、そして二度と会いないはずの幼馴染。
きっと、このアトラは……。
「ねえ、シロ。……お願い。ずっとここに居ようよ。ここで暮らそう?」
千年ぶりに再会した幼馴染は、目に涙を浮かべながら、そう告げた。
ミラちゃんまじちょろいっすね。
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