SS1 何故お二人は片付けが出来ないんですか?etc.
短編二つ。お話の間のお話です。
最近暗めの話ばっかなので、清涼剤として。
~何故お二人は片付けが出来ないんですか?~ Q.11.5
「シロ様! ミラ様! 起きてください!! 今日は水の賢者の子孫を捕まえに行くんでしょ?」
「ん、ぅん~、あとじゅっぷん~」
耳元に転がるミラからうにゅうにゅと言語になっているかも怪しい言葉が聞こえ、そのくすぐったさで意識が起こされる。
とは言ってもミラの意見には同意したい所。まだ眠い……。
「って!! お二人とも! どうしてこんなベッド汚いんですか!?」
はっ!!
「おわ、セトラ? おはよ」
「あ、おはようございます――じゃなくて!! 汚し過ぎですよ!! 着替えはまだしも備え付けのカードゲーム、チェス盤、これは……水晶玉に魔力の結晶? どうして片付けずに寝るんですか!?」
信じられない、そう言いたげな怒声が完全に眠気を吹っ飛ばす。やばい、結構マジ切れセトラモードだ。
ミラの奴はこの状況でも十五分とか図々しいことを宣いてやがる……。
そもそも、だ。昨晩昼間の一件で娯楽に興味が湧いたからポーカーやチェスをやろうと言い出し、誘ってきたのはこの大変寝つきが良い魔界のお姫様だ。
「これ、ミラが出してきて片付けませんでしたー」
俺にそこまで攻められる筋合いはないだろう。
昼間の腹いせに俺でストレス解消を行ったこいつが悪い。
セトラは先に起きた俺から目線を外すと、ふくれっ面のまま、丸くなっているミラの毛布を剥いだ。
「うにゃ……寒いー……あとにじゅっぷ――!」
そしてそのまま昨晩ミラが生成した水晶玉で彼女の頭を叩きつける。
「ひゃっ!」
予想外の出来事に驚いたのか、いつの間にか起きていた(もしかしたら俺よりも先に起きていたかもしれない)フレイヤが当事者でもないのに小さく悲鳴を上げる。
「お、フレイヤ。おはよ。よく眠れたか?」
「え、あ、うん。おはよ、お兄ちゃん。あ……」
俺とミラを交互に見ながらも律儀に挨拶を返してくれたフレイヤは、恐ろしいものを見るように俺の後方、すなわち殴られたミラの方を震えながら指さす。
「いったいなぁ~!! わらわの安眠を邪魔する奴は全員死あるの――み……」
激昂したミラの勢いは何故か次第に弱くなっていく。
そして気づく。フレイヤが指していたのはミラではないことに。
セトラ・アーリエ。巫女の末裔、改め、最恐の巫女。
ついに怒りが臨界点に達したのか、セトラはこの世の者ではない何かと比喩すべき表情を見せていた。
ミラは目をぱちくりさせ、冷や汗をだらだらと流している。
魔王である彼女も流石に察したらしい。
絶対に敵わない相手だと。
「か・た・づ・け・て・く・だ・さ・い」
「は、はい!!」
「お、俺も手伝う!! 早く片付けて賢者探しに行くぞミラ!」
誰が悪いとか、そんな議論も起こさせない威圧感があった。
体は自然と動き、散らばったチェスの駒を次々と拾い上げていく。
……もしかしたらこのパーティで一番強いのはセトラなのかもしれない。
もう二度と逆らわないでおこう。
「…………。さてと……はみがきはみがき……」
情けない勇者と魔王から目を背けるように、フレイヤがうわごとのように呟いた。
~貧乏女神がっ!?~ Q.14.5
新たな仲間、クア=レーゲンは大変困ったヤツだ。
水の都ラ・ブールで女神(笑)として活動していた彼女は、一般的な人よりも比較的強い承認欲求を満たすための対象として俺を選びやがった。
魔界の道を往くのは決して楽じゃないというのにこいつの相手をするとなるとさらに疲れる。
「ね~シロさん!」
ほら来た。年が近いセトラや精神年齢が同じミラと遊んでくれればいいのに、また俺だ。
「なんだ?」
後ろに居るクアの話をとりあえずは聞いてやろうと振り返る。と、
ぷにっ。
……クアが俺のほっぺに指を埋めていた。
「あはは~。引っかかったぁ~!」
うっぜぇぇえぇえええええ!!!
何だ? 俺に恨みでもあるのか!? 何がしてーんだよコイツはよぉ!!
ぶん殴ってしまいたくなる、が理性が何とか踏みとどまらせてくれた。
「セトラ! コイツどうにかしてくれ!」
藁にもすがる思いでセトラへ救援要請を出す。が、
「仲が良くて羨ましい位ですよー」
返って来たのはそっけない態度のみ。微塵も手を差し伸べようという気概は感じられない。
それが巫女のやることか! 空の上でアトラが泣いてるぞ!
少し笑えない冗談は心の中だけにとどめておいて、
「ミラ――!」
そっぽを向く魔王。口笛まで吹いてやがる……。まだ何も言ってないのにこの仕打ち。
いや、もう一人いるじゃないか。
こんな非道巫女や極悪魔王と比べるのもおこがましい大天使が。
「フレイヤ……分かってくれるよな……?」
情けなくも少女の両肩を持って語り掛ける。内容が内容だけに恐ろしくかっこ悪いのは承知の上だ。だが、一刻も早くこのたちの悪い貧乏女神を何とかしてしまいたい。
フレイヤはいきなり肩を掴まれて照れたのか、ほのかに顔を赤らめながらコクリと頷いた。
やった!! 流石大天使フレイヤちゃん! だいす――き?
差し出されたのはフレイヤの水筒。
へ?
「わたし、口つけちゃったけど……それでもいいなら……いい、よ……?」
いやいやいやいや!!
どう曲解した!? 俺もしかして水が無いとそこまでやる奴だと思われてんの!?
「ミラ様、あれが犯罪者です。あそこまでして間接キスを欲しがるのはもはや同情すら覚えますね」
「パートナーが性犯罪者だった件について」
やめろォ!! いろんな方向にあらぬ誤解が行きわたるだろ!
「お兄ちゃん……いや、だった……?」
「いや、違、そうじゃなくてだな……クアが……」
俺がクアの名を出した瞬間フレイヤが露骨に落ち込んだのが分かった。
そして、
「……クアお姉ちゃんの方が……よかったんだ……ごめんね」
のおおおぉぉぉ!!
ヤバすぎる……これが幸運を操る水の賢者、クア=レーゲンの力なのか……!?
「シ~ロさんっ! どん、まい!」
もう許してぇ……。
2があったら、大図書館とミラの看病日誌にしようかと。
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