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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
五章 A-part はじまりの村と二人の英雄
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Q.25 元魔王様は勇者と共に0からのスタートを切るようです……?

データ飛んじゃったので一日遅れちゃいました。ごめんなさい。


今回は本格的な五章スタートのお話し。

 バゼッタ・ミラ・エイワーズという少女について今一度考えよう。

 

 彼女は千年前に俺と共に封印された魔界を統べる王、当代の魔王だった。

 性格は高飛車で傲慢、だがしかし、ここ数か月彼女と共に生活を送り、死線を潜り抜けて来た中で意外な一面も知ることが出来た。

 あの高圧的で他を寄せ付けない様な態度は、魔王であるが故の責任、立場を見失わないための彼女なりの防衛策だったのだろう。

 ガロニアの森で見せた、自分を着飾ることに楽しみを見出し、満面の笑みで隣に居てくれたそんな彼女の一面も、フレイヤやノルンに対し、姉としてのブライドを見せる彼女も見た。

 そして、さらに付け加えるとするならば、バゼッタ・ミラ・エイワーズという少女は臆病で脆い一面も持っている。外側こそダイヤモンドで繕ってはいるが、中身はガラスと例える表現がぴったりなほどに繊細なのだ。それは魔界で交わしたノルンとの約束、メギドラ家との確執の曝け出した彼女の脆い部分に他ならない。

 

 傲慢で、孤高な、魔界を統べる魔王様といえど、時には年頃の少女の様に悩み、落ち込み、感情を爆発させる。

 

 そんな経歴が少し他とは違った普通の女の子。


 ――だった。


「あはは、これじゃあもうシロに偉そうにできないね」


 目の前の少女は、自虐を繰り返し、無理やり笑っている。

 絶対的な自信の裏付け、脆い中身を守っていた外殻が剥がされたことから目を逸らすように。


「ミラ……」


 戸惑いを整理し終えて、それが彼女にとってどれだけ重大な事であるかを理解する。


 そこからは、もう。流れるように予想できた。

 ――俺が一番辛い展開が、避けようもない現実が、押し寄せる。


「ぅっ、わあぁああん!!」

 

 洞窟に響き渡る大声。ミラはらしくも無い速度で俺の元へ駆け寄ると、寝たきりで体が動かせない俺に覆い被さる形で泣き叫んだ。


「いやだっ、やだよぉ……っ!! 今まで、必死に積み上げて来たんだっ! ノルンの生き方も、クロの命も犠牲にして、多くの物を、数えきれない物を犠牲にして、犠牲にして、犠牲にし尽くして!!」


 ――やっと手に入れた力なんだよぉ……。


 ボロボロの毛布越しに伝わるジワリと温かい液体。それは顔を毛布に押し当てて発した彼女の声と共に、俺の体に直接触れてくるようで。

 

「………………。安心しろ。お前が魔王の力を取り戻すまでは、しょうがないから傍に居てやる」


 出て来た言葉はほとんど無意識に近かった。

 彼女の涙に動揺し、言葉を選んでいる内にすっと胸の奥から出た言葉。

 

「そばに……? とりもどす……?」


 そんな言葉にただオウム返しの様に呆然と尋ねるミラ。


「なんならこれまで通り5mでも良いぜ? いつも通りトイレも風呂も寝るのも一緒になるけどな」


「いいの……? わらわは、……っ。……私は、もう魔王じゃないんだよ……?」


 なおも元魔王だった少女の涙は止まらない。少し下品な冗談は、綺麗に躱され勢いをなくす。


 彼女は魔王じゃない自分には存在価値が無いと、本気でそう思っているんだろうか?

 ミラには散々助けられた。

 力で及ばない天使との戦いに、敗れ死にかけた時でも立ち上がる力を与えてくれた。

 それは魔王としてのバゼッタ・ミラ・エイワーズにではない。一人のミラという存在に助けられ支えてもらった。


「今度は、オレが守る番だ」


 誰かに借りたその言葉が、力を持つのを実感する。

 それは一種の誓いなのかもしれない。

 一人ではミラを守ることも出来なかった俺自身に、別の誰かが課した制約。


 ――俺が愛した魔王様の隣に、ずっといてやってくれよ?


 脳裏に焼き付く、いつの間にか交わしていた誰かとの約束。

 ミラが一人で立てるまで、ミラと再び肩を並べるときにちゃんと隣に居られるように。

 

「なんなら魔王の力については、一つ心当たりがあるしな。だからもう泣くなよ」


 風化した鉄の様にきしむ腕を何とか動かし、ミラの顔を上げさせる。

 真っ赤な眼が日に照らされ灼けるように輝くと、ゆっくりと涙が止まっていく。

 光を失いかけたミラの眼に、旅を始めた時と同じ輝きが戻ってくる。


「あ、けど体動くようになるまで待ってくれよ……? 今無理やり引っ張られたらそこら辺の魔獣に殺される自信あるから」


 俺がそう言うと、ミラは涙を、千切れ裂けた洋服で拭い立ち上がる。


「…………ふふ。それは一理あるかも」


 それを期に一変。

 にやりと僅かに吊り上がる口角。先ほどまでのだらしない位に大きく開き慟哭を上げていた口とは思えない表情。

 え、笑ってらっしゃる……?


「けどやだ、今行こう。思えばシロにはバカにされたし、裸見られたし、フレイヤちゃん取られるし、戦闘で足引っ張られるし、懐かしい顔を思い出させられるし、色々恨みが堪ってるんだった」

 

 内三つは自業自得と言わざるを得ないが、そのほかに関しては全く悪気が無いのに色々と罪状だけが蓄積されていた。

 俺がそれに突っ込むよりも早く、挙げたままの手を掴まれる。


「さあ行きましょうか。まずは拠点ね。私久々にお風呂に入りたいかも」


「なっ!? やめ、ちょ、ミラさん!!? あぎゃ! いて、いててててて!!」 


 俺を有無を言わさずに引っ張る力はもう彼女には無かったけれど、それでもいつものミラだった。

 事実、体は裂けるように痛いがこのやり取りが心地よい。

 

「す、すぐ泣く弱虫のくせに力は強いんですねー……?」


「ん? 死にたい? 動けないシロをやるのなんて赤子の手を捻るよりも簡単よ?」


 ほら、ぼそりと零した悪態にもこなれた返答をしてくれる。

 

「あはは、冗談よ。まずはその体、早いこと回復させてよね? 急がないと私、そこらの雑魚魔獣に襲われて死んじゃうかもしれないし」


 か弱い女の子ですから、と洒落にならない冗談を残し、彼女は光刺す洞窟の出口の方へと再び歩みだす。


「じゃ、お昼ごはん取ってくるね!!」


 ぱたたっ、と気持ち軽めの足取りで駆けていくミラの背を四分の一周傾いた視界で見送る。


「ほーんと困った弱虫だ。なんだっけ? ミラの側近の……クロとやらもさぞかし大変だったことだろう」 


 何故か他人事が他人事じゃないような不安がこみあげ、この事について考えるのはやめにしようと、そう判断を下した。



 俺が目を覚ましてからさらに一週間が経った。

 まだ万全とは言い難いが、一応外に出られるだろう状態まで回復した俺はようやくこの洞窟から出られることとなった。


 その間、ミラの力の消失を解決できるかもしれない心当たりについて、かなり昔の記憶を辿っていた為、これからの目的地はある程度決まっていた。


 解呪師。文字通り、人や物にかけられた呪いを解く術者。

 彼らに会い、ミラの身に起きた異変を解決、もしくは解決策を聞き出すことが出来るはずだ。セトラ達や、魔界の動向も気になるが、ミラがこんな状態では非常に危険な旅となる。

 現在位置は座標表示ポインティングの魔法である程度確認済みだ。

 何と幸運にも、ここからは「とある村」に非常に近い。


 アーレア村。

 俺とアトラが育ち、旅立ったその村は、各地域から集まった名高い解呪師が多く暮らしていた。解呪師と言っても普段は普通の老人が多かったので、当時は魔族との戦争の事もあり、全く気にも留めてすらいなかったのだが。もちろん俺たちが旅立ってから千年も経っている。解呪師はおろか、生まれ故郷が無くなっているなんて事もあり得なくはないが、それでも思いつく案はそれくらいしかない。

 ミラの話を聞いた限り、あの戦いにおいて天使に何かされた訳でも無いらしい。とすると消去法で考えられる一番の原因はノルンから貰ったペンダントになる。ラグエルと戦い気を失ってから、女の天使に飛ばされるまでの間でミラの身に何か起こったのであれば、あのペンダント、そして俺に入って来た(?)力が原因だと考えるのが妥当だろう。そしてモノが起動の鍵になっているのなら解呪師の力を借りることで解呪ができる可能性が残っている。      


 希望の光は僅かに差し込む程度しかないかもしれない。

 けれど、ミラと再び戦えるようになる為には、今の俺が思いつく限りこれしかない。

 

「さ。行こう、シロ。あなた達のはじまりの村へ」


 差し伸ばされる無力な少女の細く、なめらかな手。

 いつものように、幾度となく繋いできたその手をとる。


「初心者冒険者、ミラ・エイワーズの旅立ちね!」


 この日を待ちわびたかのように、吹っ切れたように、ミラは声高に第一歩を踏みしめる。

 遅れないように続いて、俺も一歩。


「良いのか? バゼッタの名前は……その、ノルンとの家族の証みたいなもんだろ?」


 魔王の証、そう言いかけて言い留まる。

 ミラは何かを察したのか、それでも純粋で柔和な笑みを俺に見せてくる。


「お預けって所かな。こんな状態でノルンに会っても姉としての威厳が皆無だしね!」


(……ノルンと比べたら胸や身長も皆無だがな)

 聞かれたら瀕死必死のその言葉は、今度は心の中だけにとどめておいた。


「あー? なんか聞こえた様な気がするな~? イルミンスール使うようになった辺りから、シロの心の声が時々聞こえる気がするのは気のせいかな~?」


 ジトッと舐めまわすような視線で俺のやましい心を揺さぶってくる。

 嘘だろ!? いやいや、だって俺はミラの心の声なんて呪文使用時以外分からな――っ!!

 明らかな動揺が顔に出た瞬間、


「図星だな? よし、千年ぶりの英雄の凱旋時に『この勇者に千年間監禁されてました! 幼気な少女です』って大声で叫ぼう!!」


「やめろォ!!」


 そんな正真正銘悪魔的思想に身を染めたミラの、小刻みに跳ねる足並みを見て、思う。

 こんな傲慢少女と過ごす時間が、たまらなく大好きだという事に。


「へへ~! やーだね~♪」


 願わくばこんな時間が、こんなやり取りが、何時までも続いてくれる事を、と神様じゃない何かに祈るほどに。

 

「アーレアいっち番のりは私だぁ!!」


「待てコラ、冗談じゃなくおっぬぞ!!」


 離れた5mを埋めるように、彼女の背を追いかける。

微妙な距離感。

ミラがへこみ立ち上がっていくにつれて、ちょっとずつシロへの心境が変化していったり。


あ、後セトラ側の動向も書いていけたらなと思ってます。


ブックマークありがとうございます。増えてて嬉しいです!

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