Q.24 魔王失格?
新章一話目!
今週は珍しく土曜投稿です。
――忘れかけてた……つもりだった幼き頃の記憶。
ただ家柄の問題で、私の人生は大きく狂った。
お父さんは身に覚えのない罪を着せられて、裁かれ殺されて。
お母さんはその後連れ去られ、知らない男の元で毎晩遅くまで働いて、そのうち気が触れて自殺した。
行き場のなくなった私達を引き取った叔父と叔母は、私の力に気づいたとたん私達を奴らに売った。
当時10歳にも満たなかった私が悟った世界の構造はあまりにも分かりやすく、単純で。
信用できるのは血の繋がってない妹だけ。
それ以外は全部敵。
自分もいつ世の中に殺されるのかと、怖くて、不安で、妹の事も心配で、周囲に威嚇し続けて。
でもそんな生活は、案外早く終わりを告げた。
いっそ全てを壊してしまえと、自棄になって暴れているのを止めてくれた男の子。
私がまだ私でいられたのは、誰が何と言おうと間違いなく真っ黒な男の子のおかげだった。
……だからわらわは、彼の背中にあの男の子を重ねていたんだ。
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いったい俺はどうなった……?
もしかしたら死んだのかもしれないし、あ、いやでも死んだら魂は灰になるんだっけ。
じゃあ死んでない?
ゆっくりと海に堕ちていくような、不安定で幻想的な感覚。
いつかもあったこんな感覚。確かガロニアの森で……。
ふと記憶の履歴をあさっていると、俺の周りにまとわりついていた黒い靄が形を成す。
鏡写しの様な、俺にそっくりな青年。顔も目も何もかも真っ暗で見えないけれどなぜか直感的に彼が笑っているという事だけは感じられる。
「やーやー、契約時ぶりだなぁ、元勇者君。無名の冒険家が大きくなったもんだぜぇ」
声、そう言い切るにはやけにくぐもった重低音。
「誰だ? いや、今はそれどころじゃ、ミラが、魔界が大変なんだ」
なぜ今まで思い出せなかったのか。憎たらしくも可愛らしい相棒の顔が思い浮かぶ。
「あー、アレってそんな大事だったのか……ミラがぶっ倒れてるからただ事じゃねーとは思ってたけど」
何を言っているんだこいつ? まるであの場に居たような、そんな物言いをして。
「ま、そんなことはどうでも良い。こちとら時間がないんでね。消えゆく先祖ポジションのオレから送りモンだ。有り難く受け取れよ」
差し伸ばされる拳。相も変わらず絵の具の黒をぶちまけた様な、闇が縁取った五指がもったいぶっているかゆっくりと開かれていく。
真っ暗な男の手の中にあったのは鈍く光る多面体の結晶だった。
ずっと見つめていると飲み込まれてしまいそうな妖しい光。
「オレとしてはお前に託すのはひじょーに不安な訳なんだが、性悪巫女との契約なんでね。まあしゃーない」
ぐいと伸びた闇の手が、俺の心臓へ突き刺さる。
不思議と痛みは無い。ぬぷんと、それは水面に落ちる雫みたいに俺の体の中へ入り込んでいく。
「じゃーなー。もうオレが助けに出るなんてことはないから気ぃ引き締めて戦え」
そう言うと、ふいに彼を覆っていた闇が剥がれた。
ガラスが砕けるように。カシャカシャと音を立てて剥がれていく。
「あ、それと……」
――俺が愛した魔王様の隣に、ずっといてやってくれよ?
俺とそっくりな彼は、やがて幾重もの破片となって消えてしまった。
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「ん……」
「よかった……!! シロ、しろぉ……」
「おわっ! ミラ? どうしたんだよ!」
目が覚めると、天使の姿はそこには無く、ただ泣きじゃくる魔王様が抱き着いてきた。
「もう4日も経ったし……っ、起きないんじゃないかって……」
紅い眼をさらに真っ赤にして泣きはらしている少女。
急に密着されて高鳴った動機が、これが夢じゃないという事を告げてくれる。
ここに至った過程が全く持って解らないが……まあよかった。
またミラの顔が見れた。涙で可愛い顔が台無しだけど、またコイツの顔を見ることができた。
心が安息を覚えると、ようやく脳が稼働を始める。
双眸をくるりと回し状況を確認する。どうやらここは洞窟のようだ。
ミラの傍には果物を中心とした食料、木彫りの簡易的な食器類が並んでいる。どうやら彼女は数日の間ここを拠点として生活していたようだ。しかし、手作り食器はあくまでも二人分。しかも使用されているのは一人、つまりミラの分だけだ。
理解が追い付かない。俺たちは魔界にいたはずだが、どうして急に植物などが自生しているであろう人間領にいるのか。
知るのが怖いが、何があったかを聞かなければいけない。
魔界がどうなったか。セトラ達は何処に居るのか。
「ミラ、いったい何があったんだ……?」
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大まかな説明を受けた。
ミラが元々説明下手だし、嗚咽交じりだしで所々訳分からんところはあったが、大体の事のあらましはつかめたはずだ。
「まさか千年以上前に死んだはずのミラの眷属?が現れるなんてな……。で、敵側のあのお姉さん天使が裏切り? ぶっちゃけ超展開過ぎて俺ら振り回されっぱなしだわ」
これもアトラの仕業だろうか? だとしたらどこまであいつの思惑通りなのだろうか。
「わらわももうダメだって思ってた。でもシロが諦めなかったから……」
あの時は必死だっただけだ。諦めてたし、助かるとはとてもじゃないけど思えなかった。
それにしても、
「生きてる、のか」
一度死を覚悟したせいか、やはり実感がつかめない。
これからどうすれば良いかも、何を目指すべきなのかも。今すぐには纏まらないような脱力感。
「ん、いてて」
とりあえず体を起こすが、全身が錆びついた様に軋みをあげる。
「起きちゃダメ! 外傷こそないけど、中はズタズタなんだから!!」
「え? 中って……いつの間に俺のそんなとこ///」
そんな軽いジョークに今度は目じゃなく頬を赤くするミラ。
「……ばば、バカ! そんな意味じゃない!」
「いや、知ってるから叩かないで。全身に響いていたいから」
「魔力を精製する体内機関がめちゃくちゃになってるの。他には筋肉も酷使しすぎてる。幸い骨には異常はないけど、クア位の治癒力がないと駄目みたい」
「魔王様ならその程度余裕なんじゃ……?」
と、俺がそういうとミラは若干ばつが悪そうに下唇を噛んで俯いた。
「……わらわ、魔法使えなくなっちゃった」
………。
「セトラの指輪、とれてるでしょ? だからほら、5m離れても……大丈夫なんだ」
洞窟の入口へ向かい、柔らかな太陽の日差しを背に無理やりはにかむ彼女。
「わらわ、魔王じゃ、なくなっちゃった、へへ……」
……。
…………。
………………。
「はあぁー!!??」
まるで無人島生活みたい。海は近いけど普通に大陸です。
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