Q.22 勇者は何故戦い続けるのか?
いよいよ佳境ですかね?
戦うまでが長かったですけど、次辺りで魔界編は終了です。
「拍子抜けだな……。君たちの『世界』ってのはこの程度なのかい?」
ぜんっぜん削れねぇ……!
どの攻撃もあの七本の角笛の内の一本にかき消される……!
前回がいかにラッキーパンチだったかを思い知らされるな。
お互いにダメージが与えられない拮抗状態。
このまま行くと、先に切れるのは――ミラの魔力だ。
幸いにも?戦闘に参加している天使はラグエル一人。後ろで呑気に背伸びしているお姉さんの天使は一向に闘う気配を見せない。
数体を食い止めるなんて目論見が甘かった。
こいつは全く本気じゃなかった。
(ミラ、後何発分持ちそうだ?)
(悪いけどもう二発も持たないかも……。ところどころ魔法のあらが目立ってきてる)
(次で決めよう。相手の攻撃に合わせてでかいのをぶち込む)
(ええ。どうやら一度に二つの効果は発動できないみたいだし)
今までの戦闘で確認できた効果は四つ。
一、小さな金色のラッパを吹くことで現れる、エルメリアで見せた鮮血の氷礫。これは今の俺達には問題ない。あいつも効かないことが分かったのか、使用したのはこの戦闘の初めの一回のみだ。
二、巨大な山のような火の固まりを打ち出す魔法?の様な物。龍種の角笛を吹いたらこれが来る。こいつもほぼ「リントヴルムが見た景色」の前では影響がない。
三、地形変動魔法だろうか。ほら貝の笛はこの効果。人間領側からいくつかに分岐し、山を崩し、川を新たに生み出してしまうほどの強大な地形変動。
そして四、これが一番厄介な効果だろう。真っ白なラッパを吹くと、こっちの攻撃が真っ暗な闇の中へ吸い込まれ消えてしまう。魔力消費の大半がこの効果に持っていかれてる。しかも厄介なことにラグエルはわざと隙を見せている。ここぞという部分でちまちまと削られてこのザマだ。
さて、とすると狙うべくは二、三だろう。しかし効果がなさそうに見えた手は極端に使わなくなってしまった。
誘発させるか、もしくはリスクは大きいが残りの三つを……。
「そっちもあんまり攻撃してこなくなってきたし、このままじゃキリがなさそうだね」
来るっ!! 多分でかいのが!
「この警笛だけはとっておきだから使いたくなかったんだけどね、君たち相手ならそれさえも惜しくないとさえ思えてしまうよ」
感傷に浸っているのか、ゆったりとした動作で七つの笛の内真黒な一つを手に取るラグエル。
初めて見る笛かっ!!
「今よ! シロ!」
「ああ、みすみすやらせる訳、無いだろ!!」
ここぞと振り下ろす刃。何十回と振り、一度も届かなかったがこのタイミングなら……!
奴の攻撃は笛を吹いて初めて姿を現す。
例えば、笛を吹く→魔法陣から氷礫が現れる、といった様な一連の動作が必要になる。また、一つの笛につき効果は一つだけだ。見た目と効果さえ分かってしまえば、ある程度発動前にどの効果が来るかはわかってしまう。
あの真黒なラッパは初めて見る。だが仮に攻撃系ならば、効果の発動から攻撃の到達までに幾分か時間があることは一、二の効果で確認済みだ。
さあ、喰らってみろラグエル!!
ミラと共に見つめる天使、この距離からでも気づいてしまう。
……奴は勝利を確信したかのようにラッパに触れた口元を緩めた。
ラッパから発せられる音とは到底思えない、鋼鉄を鋸で叩いた様な耳障りで不気味な音。
「アッッッッハハハハハハハハ!!! まんまとかかってくれたね!!」
このタイミングを狙っている所を待ち伏せされた……!?
てことは攻撃じゃない!! 四の笛と同様に相殺系もしくは状態異常系だ!
くそ! 振りかぶってしまってもう戻せない!
「せっかくだ。死に行く君たちの為に、せめてもの報いとしてこの警笛の効果を教えてあげるよ」
漆黒の魔法陣に透明な刃が飲み込まれていく様を場に居た誰もが見つめる。
「そうだな……君たちが『世界を創る』力なら、僕のこの笛は『世界を壊す』力だ。ありとあらゆる魔法効果を壊し二度と使用できなくする。ただし、使えるのは一度きりだ」
ラグエルの言葉は、俺の耳にはもう入らなかった。
俺たちの魔法が、消えていく。絶望的な光景を前に、俺とミラほぼ同時に膝をつき、地に横たわる。
残り少ない魔力がミラに戻って、元の生ぬるい魔界の風が5mの世界に流れ込んでくる。
残り魔力が少なすぎて、もはや倒れたまま立つことも叶わない。
「へぇ~。ラグエルちゃんそんなとっておき持ってるなんてお姉さん知らなかった~」
そんな呑気な声を聞く気力も無い。
俺たちの切り札が――完全に破られた。
「シロ、流石に今回はやばいかも……。もう魔力が切れちゃう……」
力の開放を無意識のうちに抑え込んだのか、いつもの人の姿へと戻るミラ。
ここで、負ける訳にはいかない。諦める訳にも。
だけど……あいつを倒す術が見つからない……っ!!
「勝てると思ってたんだけどな……」
内心で半ば諦めかけたからだろうか。
ふと遠くで雷鳴が響き渡っているのが耳に届く。
セトラ達も交戦しているのか……。
もう、俺たちに何の脅威も感じないと判断したのか、ラグエルは地に降り、こちらへと歩み寄ってくる。
その距離およそ5m。
「ラミエル、ああ、さっき向こうへ行った彼女は相当強い。純粋な制圧力ならおそらく僕よりも上だろうね。十中八九死ぬだろう」
負けるのか?
人と神々じゃ文字通り立つ次元が違った?
セトラも、フレイヤも、クアも、ノルンも、そしてミラも。殺される。
「させるか……っ」
立ち上がった足は、支えるだけでやっとだ。けどまだ立てる。
「絶対に屈しない。守らなきゃいけないものが、近くにあるんだよ!!」
「ハハハ……ッ!! やっぱり君しかいないよ、僕を満たしてくれる人間は。君を灰にしてようやく『ラグエル=エンデュミオン』は完成する。君の……名前を教えてくれないかな?」
「シロだ。絶賛記憶喪失中だから本当の名前は教えられない。けど、今ここにいるのは紛れない『シロ』だぜ」
「ありがとう。君に会えたこと感謝するよ」
残された魔力なんてもうない。クラフトワークもイルミンスールも(こっちはもう使えないんだけっけ)、下手したら下級魔法さえ撃てない。
けど、やっぱり諦められねえわ。
あいつらが死ぬなんて、認めない。
「だめ!! それは……っ!!」
動けないままのミラが叫び呼び止める。
ラグエルはもう動かなかった。俺を殺すのは容易だろう。なのにだ。最後の一撃を受けてくれるとはな……。
奴に向かって一直線に向かう途中、「シャド」という名が脳裏に浮かんだ。
きっと彼もこんな気持ちだったのだろう。絶望の淵に立たされ、けれども諦めきれなかった往生際が悪い奴だ。はは、そう考えると似た者同士案外仲良くできるのかもな。
最後の一撃。これがラグエルに致命傷を与えられないことなんざ分かってる。
けれど、このこぶしで奴の気が変わって、ほかの天使を連れて帰ってくれるかもしれない。
そんな相手任せのだっさい考えだが、俺にできるのはこれくらいしかない。
あいつらを守るためなら、この体もプライドさえも、何もかも全部投げ打ってやる!!
「行くぞおぉぉおああああ!!」
握ったこぶしを振りかぶったその時、胸のペンダントがどす黒い闇を放出した。
「駄目だよ……クロ……」
背後でぽつり聞こえたミラのか弱い声は、俺には向いていなかった。
ミラと繋いだ指輪が音を立てて砕け散り、
意識が――反転する。
・
・
・
「やあやあ、君たちはシロ君の仲間だよね?」
まず私が確認したのは、天使の女の子の腰に刺さった短剣。自分が助かるなんて思ってもいませんでした。突っ込んで、手を向けられた瞬間に私の心は完全に相打ち覚悟に変わってたはずです。
けれど生きてる。
「あなたは……間に合ったんですね……!」
「こんなにギリギリな戦い方をするなら最初から呼んでくれればよかったのに。ここからはこの、現魔王メギドラ・ロノウェ・エイワーズがお相手しよう。とは言っても――」
「ぐっ! どうしてっ!! 力が入らない……!! 何を、したんですっ!?」
「『調停者権限』。巫女の力が宿った剣で恒久的に天使の力を剥奪させていただきました。本来は最終交渉時における妨害対策の強行手段ですが、事態が事態なので使っちゃいました♪」
本当は一時的に封印するだけですけど。まあこういう駆け引きで命が助かるのなら使わない手はないです。
「巫女ですか……っ! ここに来て余計な邪魔を!」
「これじゃあ俺の出番がないなぁ。てっきり瀕死くらいだと思ったけど、ほとんど外傷が無くて何よりだ」
飄々とした態度の魔王様。この何というか理性的な方が直情的なミラ様の親戚とは到底思え……。いえ、何でもないです。
「ふぅ……こうなったらー、呼びますかー。来てください二人ともっ!!」
!? まだ何か隠して――!!
何かを唱えた女の子の天使、しかし何も起こりません。
もしかして、気づいてないだけでもう発動したのですか……?
しかし、その割には、
「!? どうしてですっ? 何で召喚陣が起動しないんですかー!?」
「なるほどね。そんなことする奴がいるんだ。厄介だねぇ」
え? え? いったい今のは? もう戦闘は終わったってことで良いんですよね?
一人で納得されても困るんですけどぉ!
ま、まあともあれ。生きたまま役目を果たせました。心臓がもうバクバクです。
「えへへ、無事でよかった。セトラお、姉ちゃ、…………」
「「フレイヤちゃん!?」」
言葉の途中で急に倒れるフレイヤちゃん。思わずクアさんと叫んでしまいます。
「あらら、魔力の使い過ぎだね。巫女さん、薬は持ってる? 持ってるなら早く飲ませてやるといい。幼い頃の急激な体内魔力の変動は成長に影響するからね」
や、優しい……!!
魔王様がおっしゃるにはフレイヤちゃんは気絶してるだけのようですね。安心です。
「さて、俺は先へ行くよ。どうやらまだ終わってないらしい」
いつの間に魔法を発動したのか、女の子の天使を黒い靄の様なもので拘束し、彼女を背負ったまま私たちに背を向ける魔王様。
「まだ……? あ! シロ様達はどうなって――」
「あっちには近づかない方がいい。心配しなくともじきに終わる。問題はその後だ」
――じゃ、俺は行くから。
それと……、
君たちはもうあの二人と会えないよ。
・
・
・
「ようミラぁ、随分と久しぶりだな。千年ぶりかぁ?」
セトラは自身に秘策があることをシロにしか言ってなかったり。問い詰めると「ど、読心を恐れてたんですっ!!」とか言い出す。きっと。
あ、クアさんの魔法効果は範囲攻撃(明確な目標をとっていない攻撃)を逸らす魔法です。雷による被弾0なのはクアの魔法の力が大きいので、地味に活躍してるクアさんでした。
毎回見て貰えて嬉しい限りです!
評価、ご感想、ご意見等頂けるとありがたいです!
ブックマークしてくださってる方、超感謝!
Twitter → @ragi_hu514(超だんまり中)




