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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
四章 枯れた大地の叶わぬ願い
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Q.21 長く果て無い因縁の先に?

前回ごめんなさいの土曜投稿。

 割れた蒼空が元の陰鬱さを取り戻す。

 俺たちの世界・・にさして変化はないけれど、それでもエルメリアを思い出した俺の喉はカラカラに乾いて上手く機能してくれない。

 ミラも僅かに緊張しているのか、はたまた闘争本能に火が付いたのか、握った手に加わる力が強くなる。感覚を魔力を通じて半共有している為、鼓動も加速していくのがいるのが手に取るように分かった。

 きっと同様に、ミラも俺の心情のブレを感じているのだろう。 


 しかし、こんなにも心がざわつくのはなぜだ?

 フレイヤが傷つけられたから? 世界を救う邪魔をするから?

 ……それとも、ミラが居なくなるかもしれないのが――、

 

 いや、駄目だ。考えるな。

 戦うしかない。勝たなければ魔界が滅ぼされ、世界は終わる。 


 震えるな、例え神に抗うとしても、怯えたら負けだ。

 ノルンの為にも、アトラの為にも、そして繋いでいるこの手を離さないためにも……!


 気づかれないように大きく一つ息を吸う。


「……よう、久しぶりだな。そうだな……『次は塔で』とか言ってなかったか?」


 次いで、眼前の天使の一人目掛けて、ゆっくりと言葉の牽制を投げかける。

 

 現れた天使は計三体。

 実年齢は詳細には分からない(そもそも天使に年齢という概念が備わっているかもわからん)が、ほぼセトラと同じ年齢であろう女の子。

 一人分後ろでふわふわ浮かぶのは、女の子と比べてしまうと胸部の破壊力がとんでもない、笑顔が穏やかなお姉さん。

 そして、エルメリアで交戦した因縁深い青年の天使。


「……。生憎だが、今日はそんな安い挑発には乗らないよ。今日こそは――」


「ラグエルさん、お話長いのは勘弁ですー。とりゃー」


 そう女の子の天使が戦闘前の心理戦に割って入った次の瞬間――。

 完全に、かつてラグエルと自ら名乗った天使に注目していた俺にとっては唐突に、閃光が通り過ぎた。


「――っは?」


 俺たちが立っている地面以外は綺麗に抉り取られて、ぽっかりと穴が開いていた。


「ありゃ、やっぱ通用しませんねー。どう貫通させましょー?」


 何をされた?

 消滅系の魔法か? 

 あまりにも刹那的な環境の変化に、頭までも上手く機能しなくなってしまう。

 や、でもこんなの見て動揺しないやついないだろ……! 


「……魔力的には雷ね。けど魔力そのものの濃度が高すぎて原型を留めてない。ま、わらわも同じような事は出来るけどねぇ!」


 ミラが俺を落ち着かせようと見栄を織り交ぜ、冷静な分析結果を告げてくれる。


「幸い、神にもこの魔法は通用するみたい。安心して、どこにもいかない」


「ん。サンキュ」


 危うくパニックになりかけた思考をミラの助けも得て取り戻した。

 まずはあの女の子の天使だ。ノーモーションであの威力、場合によってはラグエルよりも厄介な相手かもしれない。


「……ラミエル。邪魔をしないでくれるかな。もちろん主の命令は『三翼で戦地へ赴け』だ。けれどここは僕に譲ってくれ」


 ん? 何だ、仲間割れか?

 登場時のハイテンションをどこに置いてきたのかと問いたくなる、キザ天使のシリアスさ。何やら揉めているみたいだ。


「えぇー。私も彼らの闘いを見てみたいんですけどー」


「――お願いだ。ここで彼らを殺さないと、僕は狂ってしまいそうだよ」


「…………。へぇ、勝手にどうぞー、と言いたい所ですけど……そこまで言うなら分かりましたよー」


 ……?

 俺らに名残惜しそうな視線を残したかと思えば、くるりと向きを変え、ふわふわと空を飛んで――、


「じゃあ、コソコソしてる別動隊を潰しに行きますねー。あっちにももう一人・・・・神の翼を破った子がいるみたいですしー」


 まずいっ!! あんな力を持った天使がセトラたちの元へ行ったら、彼女達じゃ太刀打ちできない!


「させるかっ!! ミラ、『剣』っ!!」


「りょーかい! 魔力を合わせて!」


 ミラの手を引き寄せ魔法の構成範囲を絞る。

 目を閉じ、逆の手では剣を掴むイメージを創り上げる。

 ほんの少し遅れて、ミラも剣を手に取る。

 二人の世界を削った分だけ剣先は遠く、長く。


「「と、どぉけぇ!」」


 縦に大きく振りかぶった不可視の剣を、セトラたちを狙う魔の手へと振り下ろす。


 ――が、しかし。


「分からなかったのなら改めて言わせて貰おうか」


 ラグエルの周りに浮かぶは、七つの笛。

 立ちふさがる天使は、狂喜のあまりかにやりと唇を歪ませ告げる。


「君たちの相手は、この僕だ」



 このままじゃお二人は助からないっ!

 一刻も早く、駆け付けないと……!!

 いっそのこと私だけ馬を捨てて、身体強化で――、

 いや、駄目です。まだ敵の増援があることも視野に入れると、ここでこの二人を置いて先に進むのはあまりにもリスクが大きすぎます……。


「セトラ、来るかも! 距離1000だよ!」


 探知魔法を最大展開していたクアさんから、彼女に似つかわしくない真剣な声色が発せられました。


「そうきましたか。わかりました。こっちに来てくれただけ向こうのお二人の生存確率も上がります。私たちで止めましょう」


 手間が省けた、のかもしれません。

 いくらあのお二人といえど、エルメリアでの戦いを見る限りでは分が悪いです。ここで私たちが食い止めることができれば……!


「……来た……っ!」


「フレイヤちゃん! 捕捉出来たら構わず撃って! クアさんは攻撃に備えてください!」


「起源魔法、愉快に燃える大行進(フォイア・パレード)!!」

「起源魔法! 歪め霞む蜃気楼ニーゼル・レーゲン!!」 


 フレイヤちゃんの純粋な炎魔法で創られた十数匹の動物たちが、曇り空目掛けて宙を蹴って上昇していきます。子リスにウサギ、フクロウ、今はもうあまり見かけない原生動物種たちに加え、ペガサス、ドラゴンといった神霊種、龍種までもが一斉に一点を目指して突進。

 フレイヤちゃんはあまり戦闘に魔法を使いたがらないのですが、今回ばかりは彼女もやる気のようです。


「うーたん……左側攪乱、ドラールは中央突破……!!」


「距離300だよ! そろそろ見えてくるかもー!」


「前回の交戦から、敵は未知の力を持っている可能性があります! 十分に気を付けて可能な限り離れないでくださいね!」


 ゴロゴロと、鉛色の雲がおなかを鳴らせたかと思うと、青白い雷電が大地に突き刺さりました。それも一本だけでなく、数十本の雷が同時に。


「そんな…………全……滅……?」


 雲の中で何が起こったのか、隣で馬を駆るフレイヤちゃんが顔面を蒼白に変えました。

 フレイヤちゃんの魔法を消し去った高純度の魔力。こんな近くで雷を見るのなんて初めてです。自然現象をも操れる……。フレイヤちゃんやクアさんの様な賢者の末裔でも、ここまでの「天災」に限りなく近い純粋な力は恐らく出せません。

 これだけの力を持っておきながら……どうして……。

 

「来ましたか」


 馬から降り、臨戦態勢を整えます。地に足が付くと、体を支えるのがいつもよりも大変なような、重力が数倍になったような妙なプレッシャーを感じます。


「貴女が神の御遣い……ですね?」


 轟く雷鳴と共に、ゆっくりと姿を現す一人の天使。私と同じくらいの見た目の女の子が空を飛んでいる光景は不思議なおとぎ話のようで――、


「おや、意外と少ないんですね。こんな人数でわたしを足止めできるって思ってるなら結構笑いのセンスありますよー?」


 エルメリアの天使といい、人型の天使って結構饒舌ですよね……。案外人間らしいというか。個性がおありのようです。


「無理に笑ってくれなくても結構ですよ、天使様? 私たち――本気ですから!」


「へぇー……。とと、忘れてました。ラグエルさんをやったのはー、確か……エルメリアの【炎の賢者】でしたっけー?」


 突然の名指しにびくりと怯える視界の端の小さな女の子。


「わたしはラグエルさんほどか弱くはないですよー。その分可愛いですけどねー♪ さ、雑談はこの辺にして、見せてもらいましょうかー、神を殺した力を」


 不敵な笑みから漏れだす圧倒的力量差。いつだって殺せるんだ、そう言わんばかりの余裕と、余裕を自覚した隙の無さ。

 身の危険を本能で理解したのか、フレイヤちゃんが一歩前に出て、


「今度は失わない……っ!! 守るんだ! もう一回出てきて! みんな!!」 


 先ほどよりも数、大きさ共に高純度の魔法の炎でできた動物たち。覆われた炎の嵐で、視界すらもまともに確保できません。

 これなら――!


 敵の興味がフレイヤちゃんに集中している今こそ、一撃を加えるチャンスです!


『クアさんはそこでフレイヤちゃんをサポートしててください! 一発も喰らったらだめです!』


『でもセトラは? 一人じゃ危険だよぅ……』


『全部避けます。私の事はいないと思ってくれるくらいでいいです。その方が相手の注意も逸れますから』


 ――五感拡張ライズ・オール

 こうやって魔法越しに見ると、魔力の量がバカげてますね。でも、そのおかげでこの火柱と雷の雨に視界が遮られたこの状況でも、どこにいるかがお見通しです!!

 

 進んでっ!!

 委縮して思いのほか念じた通りに動かせない足に焦りを覚える。

 少しでも、フレイヤちゃんが潰れない様に、速くっ!!


 二人を背に、相手のいる方向から45度の角度へと幾分と落ち着きを取り戻した足で地を掻くように走る。

 

 鳴り響く雷鳴。

 90度の切り返しを終え、再度加速。 

 一匹、また一匹と、天使の電撃につかまり形を失う炎の幻獣達。

 まずいです、このままじゃ火柱のカムフラージュももう持ちません……!

   

 足りないです……。後数秒は必要なのに!


「これでとどめを! フレイヤちゃん!! 天からの栄雨メディラ・アモーレ!」


 クアさんの回復魔法がフレイヤちゃんの魔力を回復させていきます。もう少し耐えてくれれば……、


「まだ……とっておきの子達が残ってる……! きてぇぇぇえ!!!」


 火柱と濃煙と電撃の向こうでフレイヤちゃんが大きく手をあげ、初めて聞いたくらいに張り裂けそうな声で叫びました。

 炎で描かれた大、中、小、三つの魔法陣。

 それらをくぐり、ゆらゆらと陽炎の様に現れた三体の幻獣。

 三つ首の猛犬ケルベロス漆黒の大蛇ピュートーン天まで届く()ほどの巨体を持つ竜

 いずれもノルンさんの大図書館でフレイヤちゃんが見た幻獣たち。

 フレイヤちゃんの魔力量は恐らく限界を超えています。エルメリアのときのシロ様との複合魔法に負けず劣らず、いえ、魔法の純度ではこちらの方が勝っています。これが当たればラグエルと呼ばれた天使と同様に戦闘不能へと追いやれるでしょう。

 ですが、相手も冷静、


「っと、そいつは流石に喰らったらやばそうですねー」


 天使の彼女が腕を幻獣たちに向け、すっと目を閉じると、魔力が次第に集まっていきます。

 大地から吸い取っているわけではないのは見ればわかります。しかし、そうだとしたら一体どこから……? フレイヤちゃんの魔法も色あせることなく揺らめきながらも煌々と輝き、こちらも次の一撃で決めようと魔力を蓄えています。

 答えは出ません。けれど相手が私を認知していなく、かつ力を蓄えることに集中している今こそ好機!


 と、ど、いてっ!!

 手に持つのは私の「切り札」。人と神の仲介役である巫女のみが使用できる一度限りのとっておき。

 あらゆる「魔」を封じる短剣の切っ先を相手に向け、最高まで高まった速度のまま、


 足音を消して、


 ぶつかれっ!!


「なっ!! 小癪な――!!」


 手に握った刃が触れるほんの少し前、天使の彼女が私の方に小さな掌を向け――、


 目を貫くような真っ白な閃光が、

 選択の余地なく、

 走った。

神様の右腕相手に人間が相手できるってのも相当化け物ですよね。まあ賢者とか勇者とか巫女とかだから多少は……。


あ、あと謝罪に使っちゃった話分は消せないので、いつかおまけエピソードとして編集します。編集したらあとがきでお知らせします!


毎回見て貰えて嬉しい限りです!

評価、ご感想、ご意見等頂けるとありがたいです!

ブックマークしてくださってる方、超感謝!


Twitter → @ragi_hu514(超だんまり中)


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