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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
一章 チート勇者とプンスカ魔王と巫女の末裔
3/101

Q.2 なぜ勇者と魔王が行動を共にしないといけないのか?

いきなりバトル回。

 後一つ瞬きをする間に、あの天使じみた存在の持つ槍が女の子を貫くだろう。

 命を抉り取る――その為だけに備え付けられた天使の手中にある槍は無慈悲にも速度を増していく。

 耳をつんざくのは不快な風切り音。 


 それよりも先に動いたのは、以外にも、ミラだった。


「失せなさい」


 頭部には禍々しく天を突きさす角。

 腰から生えたのは世界を包む夜色をした羽根。

 小さなお尻にはややアンバランスな竜の尻尾(ドラゴンテイル)

 白と黒で構成された可憐で危うい見た目の少女が発するのは、思わず震えあがってしまうほど冷めた、簡素な言葉。

 何か魔法を使ったわけでもないのに、そのたった一言でこの場の全てが凍り付いた。

 飛び散る火の粉、空に浮かぶ鈍い雲、巫女の少女を狙う敵の凶手――そして俺。


 何時ぶりだろうか。時間の感覚がマヒしているが、ミラのこの姿を見たのは。

 あれはそう――最終決戦の時だ。

 かつて必死でかき集めた俺らの「経験値」を、鼻で笑うかの如く一蹴したあの力。魔王を魔王たらしめる力。独裁者の象徴。 


 彼女はそれを再び振るおうとしている。長年のブランクなどお構いなしに、敵味方の判断もつかぬままフルパワーで。

 

 天使はミラの方を一瞥したものの、まるで意に介せず本来の目的行動に意識を移した。予め与えられた計画プログラムに沿うように。淡々と。

 どうやら神の使いの前ではどうやら勇者も魔王もそこらに生えている雑草の如く無価値らしい。

 当然そんな態度をとられて隣の魔王様が激昂しないはずもなく……。


「ふ、ふーん。わらわを無視するんだー……へー! ……じゃあ死ね!!」


 知性の欠片も見当たらない汚い言葉で宣戦布告。

 次いで大きく振りかぶる。とったのは投擲の構え。

 一見するとミラの手には何も握られていない。……ように見える。

 だが彼女は確かに握りしめていた。

 光が屈折するほど濃密な空気の層を、その小さな掌で。

 次第に空間が揺らめき、彼女を中心に渦を巻いていく。

 この間僅か三秒。もう時間が無い。天使の槍は少女ののど元にまで迫っている!

 

「空間ごと消えちゃえ。『天を抉る魔風の竜槍スピア・オブ・エーテルブレス』」


 しかし、放たれる一撃はその三秒という僅かなロスさえもカバーした。

 その小さな体のどこから力が出るのか、ミラの空気の槍?は発射とほぼ同時に天使の元まで届く。

 風よりも、光よりも、女の子へ迫る危機よりも早く、速く。

 莫大な空気を圧縮したのであろうミラの槍は器用に被弾した天使だけを飲み込んでいく。

 後に残ったのは丸い球体。その中には濃密な空気の層の中で捻じ曲がり、もはや原形を留めていない天使が詰め込まれ、もう身動きすらも取ることが叶わないみたいで奇妙な言語のみを繰り返し吐いている。


 俺と巫女さんは終始ただその異形同士の争いを呆然と眺めているしかなかった。

 それほどに規格外なやり取り。

 そして荒廃した土地に響くのはその戦いを潜り抜けた強者の高らかな笑い。

 

「ふははは! 空気に圧縮される気分はどうかなぁ!?」


 恍惚とした表情の見た目幼女。

 余裕をかましながら敵に近づいていく。

 封印引き籠り生活で積りに積もったストレスを晴らすことが出来てご満悦のようだ。

 

 さ、俺も今の内に女の子を……。

 魔王の配下を演じている訳では断じて無いが、完全にお楽しみタイムへと突入したかつての王に道を譲り、その後をついていく。

 

 ひどく衰弱している様子の巫女の少女。

 もう数日も不眠であることは、整った顔のやつれ具合や、目が大きい事で余計に露わになってしまっている黒紫色のくまが強く主張している事から一目瞭然だ。

 ここまで来るのによほど神経を張り詰め、ギリギリの進退を繰り返していたに違いない。

 

「その……無事か?」


「……も、もう駄目かと思いました……! ありがとうございます、勇者様……ですよね?」


 うわ……小首をかしげる仕草までもが記憶に残るあの子に似片寄っている。

 声なんて目を塞いでしまえば聞き分けられる自身が無い。  

 が、それでも、あくまでも冷静を装いつつ話を続ける。

 

「お礼なら俺じゃなくてそこの性悪小娘に言ってやってくれ」


「だ、誰が性悪よ!?」


 いや、天使を空気の檻に閉じ込めて喜んでいる奴が言う事じゃないよな?


「……まあ魔王らしいっちゃらしいけどさ」


「へ……? もしかして……魔王様?」


 うそ……そんな、そんな奇跡が……!

 俺の言葉に過剰に反応した女の子――。

 

 その後ろには。


「おいあんた離れてろ! ミラ、来るぞ!」


 べぎん。ばりん。

 何だよっ! あの天使!? 空気を――喰ってる!!

 

「――魔法構成把握。魔法耐性付与。最重要目標更新。魔王バゼッタ・ミラ・エイワーズ」


「あの魔法拘束を破れるの!?」


 魔王の高等魔法をいとも簡単に破れるとか、これ勝ち目あるのか……?

 ミラはまだ力を残しているとしても、基本人間である俺が太刀打ちするのは難し――。


「対魔族『消去』武装『ケラノウス』安全装置解除。……対象魔力解析30%完了」


 消去? 俺の耳がおかしくなければこいつは今、消去と確かに言った!

 魔族を消去とか冗談だろ? あれだけ苦労した魔族の耐久度をそんないとも簡単に「消去」とか性能差が違い過ぎる!

  

 ……逃げる、いや駄目だ。それでは生き残れない。

 取れる手は、ただ一つ。ここで天使を堕とさなければ、死ぬ。


「先手必勝だ!! 何か武器になる物ないか!?」


「え、えーと、とりあえずこれくらい?」


 にゅーっと地面にぽっかり空いた穴から黒鉄の剣が伸びてくる。

 いかにもラストダンジョンにありそうな厳かな意匠が施された剣。

 多少損傷するかもしれないが、これなら――、

 

「お父様の形見だけど、いいよね?」


「重っ!! よりによってなんでそのチョイスなんだよ!?」


「だって、わらわ武器はあまり使わないから――」


「時間が無い! あるだけマシだ、ちょっと借りるぞ!」


 太陽に照らされ鈍く輝く黒の宝剣を半ば強引に手に取る。欠けたりしたらその時はその時だ。今はここを生き抜くのが最優先事項――ぐ。本当にちょっと重い。まさかとは思うけど筋肉落ちた……? 

 まあいい。「剣」である事には変わりはない。

 後はそう。ただこいつを打ち込めば良いだけだ。


 魔王戦の為に鍛えた敏捷を存分に生かして敵への接近を試みる。

 距離ざっと10m。今なら2歩で詰められる。

 まず1歩、これならいける――!

 

「『幻想展開(イマジナリ)――!』」

 

 !?

 ビタリと足が地面に縫い付けられたように動けなくなる。

 同時に頭と腹を蝕むような痛み。大きな蛇が体内にいるみたいで、気持ち悪い……!

 立っているのがやっと、痛みがかろうじて意識をつなぎとめている。

 敵の魔法か? 罠を張っておくような知性がある敵には見えなかったが……。

 そして同時に、後方で響くのはミラの絶叫。


「うああぁあ!!! いたいっ! 溶けるっ、溶けるぅっ!」


「!? どうしたミラ!」


「わかんないっ! あんたが敵に攻撃しようとしたら、背中の羽が焼けるように、熱いっ!」


 状況を確認しようにも、こっちからじゃミラの背後は良く見えない!

 ……背中? 俺は頭と腹。なぜこうも部位が限定的で異なっているんだ!?

 

「対象魔力解析90%完了――」


 ――原因を突き止める時間も与えず、無機質な声が現実を突き付けてくる。

 何よりも時間が足りない! あと一歩、5m弱詰められれば……!

 いや、それが敵わないなら……!

 

「ミラ! こっちへ来い! 魔法を合わせる・・・・・・・!」


「! あんたの例のあれ・・ね! それなら――」


「急げ!! もう時間が無い!」

 

 刻まれるカウント。――91、92、

 翼の痛みにもがきながらもミラが俺の隣まで飛んでやってくる。

 ――93、94、


「さっきのだ! あれだけの魔法なら十分《《引き出せる》》!」


 ――95、96、97、


「オーケー! フルパワーのおまけよ! 『原典プロト神を穿つ暴魔の龍槍(エーテルブレス)』!!」


「喰らえ! 『幻想展開仮想魔法・槍イマジナリ・クラフトワーク』――!」


 ミラが作り出した魔法の槍は魔力量だけでも先ほどの10倍の規模は優にある。

 が、それでも俺の槍には敵わない・・・・

 世界を欺き、改竄し、変換するのが俺の魔法。

 本質を引き出し、極めるのが元勇者のみに与えられた特別な魔法。

 

 透明な空気の槍を手に取る。

 指先に触れた瞬間、世界に認識され生まれ変わる。  


 ――98%


 神に抗うは、何の飾り気も無いただの白い長槍。

 

「お前は俺の想像に殺される。今、この瞬間においてはこの槍が最強だっ!!」

 

 天使の中央、狙いを外さぬよう思い切り突き立てる。 

 ずぶり、肉のような何かにめり込んでゆく嫌な感覚。

 

 9……9…………%……。

 

「「消えろぉぉぉおお!!」」


 ミラと一緒に叫んで気が付いた。魔王とこうして共に戦う日が来るとはな……。

 そう思ったのは彼女も同じらしく、命がけの戦闘中にもかかわらずつい顔を見合わせてしまう。

 

 ――こ、今回だけだから。勇者と魔王なんて相いれないんだから。

 ――ああ、これっきりだ。こっちだって鳥肌立ちっぱなしだわ。

 

 瞬間――眩しい光と共に世界が書き換わる。

 空を覆う雲は割れ、僅かだがその隙間から青い天井が顔を見せる。

 漏れた日光が天使を迎えに来たように。

 仮称、天使なる存在は跡形もなく消え去り、後に残ったのは消失し、削れ、抉られた大地のみ――。


 力が抜けぺたりと座り込んだミラと、急展開についてこれず呆け顔の巫女の少女、そして青空を仰ぐ俺。

 

 犠牲は――出なかった。

 命を奪われかけた巫女も、消されかけたミラも、多少の傷は作ってしまっただろうが、みんな無事。

 正直――焦った。まさか魔王を凌駕するほどの力を持つ者がいるなんて……。

 複雑な心境ではあるが、ミラの存在を有り難く思ったのは初めてだ。

 かつての仲間も居ないこの状況でこいつまで居なかったら――。


「ちょっとあんた、一体この世界はどうなってるのよ? いきなり起こされたと思ったら殺されかけたし!」


 うーん。相も変わらず傲慢な態度の元魔王。

 

「ひぃ!! あ、あぁすみませんすみませんっ! 命だけは!!」


 対するは、巫女服の袖をぷるぷると震わせ命乞いをする命の恩人。

 

「……ミラ、その前にすることあるだろ」


 ミラが少女の胸倉を掴みかけたところで流石に制止する。


「はっ!……わ、わらわとしたことがちょっと取り乱しちゃった……!」


 ちょっと……?

 まあいい、まずはお礼と自己紹介だろう。


「封印を解いてくれてありがとう。元…勇者の……ッ!」


 脳が悲鳴を上げる。

 あ……れ……? 勇者の……? え……?

 自分の、名前……。思い出せない。

 そこには初めから何もなかったみたいに、ぽっかりと、存在を表す名だけが……綺麗に消え去っている。


 気が付くと俺は縋るようにミラの方を向いていた。

 

ミラだけが俺を知っている! 俺の存在を確固たるものにしてくれるはずだっ!

 しかし、彼女は気まずそうに首を振る。

 

「駄目だ……ごめん。思い出せない……あんたの名前。ここに来る前は確かに覚えていたのに、思い出せない」


 嘘だろ……? 

 しかし、ミラはむかついた顔で「うっそでーす!」とは言わなかった。辛そうに、本当に惜しそうに悔しがっている。

 

 そうだっ! この少女は俺を勇者だと分かって接触してきた! ならば!


「勇者様? お名前が……分からないのですか……?」


「たのむっ! 教えてくれ、俺は……誰なんだ……?」


「……人類生存安全圏、ガーデン中央街の貴族であるアールグランド家の次男、ノイン・エルド・アールグランドと、そう言い伝えられています」


 ……違う。聞いたことがあるかもしれない響きだが、違う。

 そもそも俺は貴族じゃなかった……はず。

 あの子と同じ村に生まれ、彼女に流されて同行したのが旅の始まりだった……と思う。

 

「いやいや、到底こいつが貴族なんてなりには見えないから。貴女が言う勇者はここにいるこいつとは違う。刃を交え、共に戦ったから分かる」


 ――貴方は本物よ。安心して。

 まるで赤ん坊をあやすような優しい口調が、「自分」を失いかけていた俺を引き戻す。

 

「じゃあ……そうだとしたら……この伝承の相違は一体?」


「さあ? 魔王討伐の手柄を横取りしようとした輩でもいるんじゃない? 魔族も人間もそこらへんは同じなのね」

 

 貴方もそんな下らない事に巻き込まれて記憶失うとか可哀想ねー。

  

 他人事なのを良い事にニヤニヤと封印生活のお返しだと言わんばかりの満面の笑みを見せるミラ。

 その顔を見るだけで、有り難いことにウザさが不安を凌駕した。

 

「――ほう。いい度胸じゃんか。もっかいここで決着付けるか?」


「えー? 名無しの勇者君なんてわらわの下級魔法一発でメンタルやられちゃわない? わらわぁ、弱い者いじめは好きじゃないなぁ~☆」


 はい、再封印決定。

 今すぐこのクソ生意気な幼女魔王を封印しよう。そうしよう。


「――ちょ、ちょっと待って下さい! お二人で争っている場合じゃないんです!」


 上手い事俺とミラの間に割って入る巫女の少女。

 

「見てくださいっ! この大地や空を! みんな泣き叫んでいます!」


 ……見ればわかる。

 生命が生まれることも敵わない、大地を埋め尽くすのは幾重にも重なっているであろう黒い灰。

 太陽を拝むことも敵わない、空を埋め尽くすのは生物の様にうごめく鈍色の雲。

 

 死の世界。ミラがどう思うか知らないが、魔界と例えてもいいかもしれない。

 少女は続ける。


「お二人のおかげで、人類と魔族は手を取り合って生きてきました。千年間、小さな争いこそあったものの大戦に至ることは無く平和な世だったと聞いています。けれど二年前、突然、そんな掛け替えのない平和を壊すように突然、あれが降って来たんです……!」


 少女が指さすのは、高く、高くそびえる神々しいほどに美しすぎる塔。

 その塔だけが、曇天を突き刺し、あの青い空を独り占めしている。


「神の作った建造物。『カディンギルの塔』。あれが天界と地上を繋げる門です。地上には瞬く間に『天使』が溢れました。最終決戦が繰り広げられたとされるこの地は『塔』の落下地点と言う事もあり特に天使が多かったのです」


「多かった・・・?」


 彼女の意味深な過去形にミラが反応する。


「ええ。私達は一週間前にこの地を訪れました。人類最後の希望である勇者様の封印を解くために」

 

 ――わらわ、まさかのおまけっ!?

 扱いの違いにショックを受けるミラ。


 そんなミラを見ても少女はピクリとも笑わず、ましてや謝罪することもしない。

 ただ目を伏せる少女。

 その垂れた髪から見えた目は、まだ十代半ばだろう少女のする目では無かった。


 ……多くの死を目の当たりにした目。

 重く、多くの命を、希望を背負った目。

 千年前に見た、巫女の少女が最後の日に見せた目。


「最初は百人だったんです。皆、みんな……死にました。たった一つの希望を私に託して」


「……ここにたどり着いたのは、あんただけか?」


「はい。二時間前に最後の一人、ウォルターさんが殺されて……一人になりました」


 その前には、ミザリーさん。その前はキールさん。その前は――。


「……もう、いい。それ以上自分を追い詰めるな。あんたが辛いだけだ」


「……っ! ……ありがとうございます。勇者様。ミラ様も一緒に出てきてくださるとは思ってもいませんでした」


「ふんっ! ついて来ちゃってすみませんねぇ!」


 あー、こいつは全く本当に残念な奴だ。

 すぐ拗ねるところとか見た目通りの年齢すぎてもう。実年齢はきっと○百歳なのに。

  

「違うんです。本来勇者様と魔王様は同時にこの世界に居られない定め。お二人の魂が大きすぎるが故に、存在を食べあってしまうんです。ですから最初は勇者様だけを呼び戻すつもりでした。それが何故か今、お二人は同時にこの地に存在しています。これはまたとない奇跡……そう思うのです」


 ――奇跡、か。神に裏切られてもなおそんな言葉を信じて希望に繋げられる前向きさ。あの子もそうだった……。

 いつでも、どこにいても、隣で笑いかけてくれた。案外それが巫女を巫女たらしめる所以なのかもしれない。

 もう俺はこの少女が幼馴染の子孫であると確信していた。もしかしたらあの封印の中で声が聞こえた瞬間からどこかで気付いていたのかもしれない。

 その少女に問いかける。


「で、俺がやる事はあの塔を上って天界へ行くと、つまりそう言う事だな?」


「はい。無理を承知で言っています。人類と魔族の英雄であるお二人にとんでもない事を言っています。それでも、どうか世界を、守っては頂けないでしょうか……!」


 力強い、人類が未来を託した少女の懇願。

 ……俺で良かったのだろうか。

 勇者になれたのも偶然。

 巫女の隣に常にいたから、魔王とともに封印されたから。――始まりのあの日、彼女が俺の手を引いてくれたから。

 それだけで勇者になった。なってしまった。

 

「……もう、貴方しかいないんです……どうかっ! どうか、救いの手を……っ!」


 引き下がれない。15歳のあの日決めた選択は、千年経った今もなお俺を縛り付けているのか。

 

「……分かった。できるは限りやってみる」


「ふーん、話は決まったみたいね。まぁわらわは一回魔界に帰ってから決めるわ。わらわの治めてた世界がどう変わったか気になるし」


「「……は?」」


 ミラの空気読めない発言に思わず人類側の息が揃ってしまう。


「いや、今から塔登る流れじゃん」


「だ、だってそんないきなり言われてもねぇ…」


「え? 何? もしかしてビビってんの? 敵強すぎた?」

 

「ビ、ビビってないわ! なんでわらわがビビらにゃいかんのか説明してよっ!」


「うっわ。まあいいけど。腰抜けが居ても困るし」


「あんたがそれ言う!? 中身スライムみたいなメンタルのあんたが!? もう知らない、巫女の末裔の子、あんたには悪いけどわらわは抜けるわ。やってけない」


「けっ、解放されたと分かったらすぐその態度だもんな! 『独りぼっちは嫌』なんじゃなかったのか?」


「う、うぅ…うわぁぁぁぁああん!! 覚えてろぉぉぉ――って熱いいぃぃ!!」


 お、俺も眩暈が……?

 ミラが駆けだした数秒後、唐突に先ほど感じた鈍い痛みが襲ってくる。

 ……まだ、敵が生きて――は、いない。

 姿は見えない。魔力も感知できない。

 な……んで……?


「……これ、さっきも思ったんですけど……お二人は一定距離しか離れられないんじゃないでしょうか? 見た感じ敵の魔法じゃなく勇者様が敵に近づいた、魔王様から離れてからお二人に異常が起こった気が……」


 何だとぅ!!

 由々しき事態すぎる!

 いや、落ち着け。まだそうと決まったわけじゃない。

 

「よし、ミラ。ちょっとこっちまで来い」


「偉そうにわらわに命令しないでよっ!」

 

 そう言いつつも体は素直に此方へ向かってくる。

  

「よし。俺が離れていくからここでじっとしてろ」


 ――結果は見えてると思うんですが……。

 

 アーアーキコエナイ。ナンニモキコエナイ。

 何よりそんな最悪な現実を直視したくない。


 一歩、また一歩とミラから遠ざかる。

 距離にしておよそ5m。


「「――っ!」」


 嫌な予感が…現実に変わる。


「あれ? おい、お前からこれ以上離れられないんだけど……」


「……え? 嘘うそ! なにこれ、最悪なんだけどっ!!」


「ほら、やっぱり結果は同じじゃないですか」


 茶番だと言わんばかりにため息を吐く少女。

 

 一方、激怒し、喧嘩別れを選択したミラはというと……、


「いやいやいやいやっ!! 何でこんな陰気陰湿性格最悪クソ雑魚勇者モドキなんかと!」


 ――酷い言われようだ。

 どうやら先ほどのやり取りで好感度が0まで急下落したらしい。そんな奴と運命共同体とか、今まで受けたどんなクエストよりも厳しいんじゃないか?


「あのー巫女さん? 塔を登る時間制限タイムリミット的な物って……」


 俺の質問の意図を察したのか一瞬渋い顔をする巫女の少女。


「……あまり長くはないと思います。人類、魔族の活動可能年数が後三年と言われていますから」


「ほんのちょっとだけ寄り道したいんですけど良いでしょうか……?」


「まあ、その年数以内なら、後敬語止めてくださいっ。むずむずしちゃいます」


「ごめん。こんな勇者と……後、魔王で。多分これからも巫女さんに迷惑かける」


「良いですって。半ばヤケクソの策でしたから。お二人が復活しただけで99人の魂もきっと浮かばれるでしょう。それと――」


 ――セトラ。私の名前はセトラです。


 記憶が一致する。幼い頃の記憶と。


 ――アトラ。わたしアトラっていうの。あなたのお名前は?


 ……そっか、アトラ。

 これはきっと運命だったんだろう。

 あの日なり損ねた勇者に、俺、今度はちゃんとなれるかな。


「……よろしく、セトラ」


「はいっ。こちらこそです、勇者様!」


 うっうぅっ……わらわを……無視するなぁ……ひっぐ、ぐす。



 ――こうして勇者と巫女に魔王という奇妙な組み合わせの旅が始まった。

 頭が痛くなる諸々の諸事情は置いておいて、今は新たな旅路に思いを馳せよう、うん。


                  ……やってける気がしねぇぇぇえ!!!

実は投稿までに二転三転したり。

あのまま塔の外壁から登る展開なんかもあったりなかったり。

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