Q.20 勇者と魔王の新・共同作業……?
戦闘? うんまあ戦闘回か。
「じゃあ改めて作戦をおさらいしておくか」
魔界郊外、ほぼ東端の荒れ地にて。恐らく数十時間後には魔王軍が通るルートを先回りし、何としても大戦を未然に防ぐ為に俺たちは作戦会議を行っていた。
「まずパーティを二分する。俺とミラが飛んで先陣を切るから、セトラ、フレイヤ、クアは近くの村で馬を調達して追いかけてくれ」
「……やっぱり、わたしもお兄ちゃんたちと行きたい」
声を震わせながら、懇願してきたのはフレイヤだった。
正直、温和な彼女の口から出て来たとは思えない意外な提案。
だが、
「ん……駄目だ。敵はあの量産型の天使を大量に投入してくる。互いの位置が分かる俺達じゃないと危険だ。でもありがとな。その分俺達で頑張るから」
その言葉でしぶしぶ納得するフレイヤ。悪いけど彼女まで危険に晒す訳にはいかないから。
「それで――」
「こっちは相手の第一波が止まったタイミングを見計らって合流ですね」
「そうだ。頼んだセトラ。相手はロノウェや俺らを警戒して最初から全戦力を投入しないはずだ。第一波で引っ掻き回した後に、強力な戦力を投入する。俺ならそうする」
「俺ならそうする……って、相手もそうする確証はどこにもないけどね。まあ何も考えず突っ込むよりマシね。で、強力な戦力ってのが……」
エルメリアでの交戦を思い出してか、フレイヤの顔つきが険しくなる。
可能ならばあいつとは合わせたくないが、戦争においてフレイヤの火力を生かさないのは愚策だ。前回の複合魔法は戦闘の決め手となっているし。
「……だいじょうぶ。戦えるよ、わたし」
可能ならばこんな幼い子に例え相手が天使であろうと力を振るって欲しくはない。ないんだけど、
「……ああ」
ノルンとの約束を果たすチャンスはここしかないんだ。
「あたしは何すればいいのぉ?」
唐突に、ここまで一切参加してなかったクアが自身の役割を問いただしてくる。
「さっきも簡単に説明したのにもう忘れたのか……。まあいいや、クアは基本的に回復・支援を任せる。重傷者が出た場合は魔王城のときの透明化とか使って安全を確保してから治療。その際はセトラの通信に連絡を入れてくれ」
「…………。うん、わかったぁ!!」
今の間、完全に思考を放棄したよな? ほんとにわかっているんだろうか?
「――みんなあたしが治すから。誰も死なないから、安心していいよぉ」
相も変わらず何も知らないようなふにゃっとした笑顔。ったく、これから戦うんだぞ。いや、きっとクアはそんな事、
「……クアさん。ですね! みんなで帰ってみんなでノルンさんのとこへ報告しに行きましょう!」
「だな。じゃあ大まかな作戦はここまでだ。そこから先は現地の状況で都度判断して指示する」
それじゃあ、とミラが俺の手を取る。
と、その前に、
「あ、ちょっとだけ待ってくれ」
「ん? どしたの?」
…………。
…………。
「うん、ごめん。じゃあ行こうか、ミラ」
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・
「さっきセトラと通信で何話してたの?」
繋いだ手のさらに上方から翼をはためかす音に交じって、少し不満げな声色が聞こえてくる。
……やっぱ気づかれたか。
「おやおやー? ミラもしかして嫉妬した?」
「落と……せないんだった。だったら、岩肌ですり下ろされたい?」
「やめてください」
魔界の岩は見た目が禍々しいからかより一層固く見える。あんなのにこの速度で擦り付けられたら堪ったもんじゃない。
「で、なんだったの? わざわざセトラ以外には聞こえないようにして。わらわたちの事信用してないの?」
「セトラの通信範囲について聞いてたんだって」
「嘘。それなら隠す必要ないじゃない」
ぐ、意外に鋭いな、こいつ。
セトラの通信を利用した理由はミラを想ってなんだけどな、まあ、今のこいつならあるいは。
「――なあミラ。お前まだメギドラの事許せないか?」
ミラの凄惨な過去。たった一人で魔王まで登り詰めたその前日譚。それを先日語った時の悲しげな表情が脳裏にちらつく。
「なっ、まさか……っ!」
「ごめん、できれば俺達で終わらせたかった。でもメギドラの、いや、ロノウェの力を借りなきゃいけないかもしれない」
「…………。」
返事は、なかった。
見上げる角度じゃミラの表情さえ知ることも叶わない。
「なーんて。今までのわらわだったら怒り狂ってたかもね。でも、それで皆が助かるなら……我慢する」
「……ありがと、ミラ」
それからはお互いに一言も喋ることなく、ただただ風を受けて、彼方で黄金色に輝く軍勢を目掛け空を翔けていった。
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前方数十㎞先、数千体、多くても数万と想定していた天使。
だが、俺の見積もりは甘すぎた。
「ミラ、あれどれくらいいると思う……?」
「そうね、ざっと二十万くらい?」
「いけそうか?」
「愚問ね。その為にわらわたちだけで来たんでしょ?」
「ふ、そうだった。じゃあお披露目しますか、特訓の成果!!」
メルティとアトラが遺した魔法、幻想展開仮想魔法。その構成する要素は「世界の改竄」。俺自身がある物質を「最強だ」と思い込む力が世界に伝播する魔法。
+ミラの無尽蔵な魔力。おまけにここはミラのホームだ。大地が魔力をミラに供給しているとさえ言ってしまっても良い程に。
隣に立ち、天使を待ち構えているミラの手を取る。
互いに強く握りしめた掌から、呼応するように魔力が流れ込む。
「行くぞミラ!」
「オッケー。いつでも来て!!」
「「リントヴルムが見た景色!!」」
ミラの姿が変わっていく。禍々しい双角、小さな体を包み込むほどの翼。戦闘用の魔族らしいミラの本来の姿に。
同時に鬱屈とした魔界の雰囲気が一変する。
なんて心地が良い空間なんだろう。空気が澄んでる。
永久に変わらないような、妙な安定感。けどミラの魔力は依然として脈々と流れているのを感じる。
「この魔法使うとあの封印されてた時期を思い出すよな」
「ヘンなこと言わないでよ! わらわはもう絶っっ対あんな所嫌だから!!」
「ははっ、同感だ。っと、早速くるぜ」
まるで大きな黄金色の空が迫ってくるかの如き軍勢の、一番先頭の十数体が進行方向から逸れて俺達へと急接近してくる。
『対象捕捉。最重要抹殺対象、勇者シロ、魔王バゼッタ・ミラ――』
「あーもう、うるさいっ。さっさと消えなさい」
塔の麓で最初に出くわした時の如く、接近し、手にくっついている巨大な槍を突き立てたとたん、量産型の天使は音もなく塵と化す。
クラフトワークで空間を飲み込み消した時とは違い、ミラに接近した個所からぽっかりと消滅する十数体天使。
よし、効果あり。これなら三十分もあれば二十万体潰せる!
「ミラ! 取りこぼしが無いように空!」
「わかった!」
ミラの翼なしにふわりと空間ごと宙に浮かぶ。右、左、旋回はばっちり。
隣で頷く元魔王。
手を繋いだまま、そのまま風に乗るように黄金の空へと突っ込んで――。
――簡単な話、この魔法は世界を一つ「創る」魔法だ。
俺がごまかした5m内の「世界の構成」をミラが魔力で無理やり形にする。
誰にも邪魔されないたった二人だけの世界。
よって俺とミラが許さない物質はこの空間では存在も許されない。
「にしても、シロったらよくこんなぶっ壊れた魔法思いついたわ」
「実はヒントはメルティが遺してくれてたんだよな」
「炎の賢者……あー、あの魔導書?」
俺たちに触れた天使から次々と、この世界から姿を消していく。
「そうそう。一番最後のページになんか違和感があったからクラフトワークを使ったんだ。そしたらメルティの走り書きが浮き出てきてさ、多分あいつの事だから魔導書を作るときに乗せるかどうか悩んだ後、上書きして消してたつもりなんだろうけど」
「なんて書いてあったの?」
多くの人々を黒い灰に変えて来た天使が何十体、何百体とまた。
「『どうか……、お兄ちゃんが幸せな世界を創れますように』だってよ」
「あはは、まるでさっきのフレイヤちゃんみたいね。あーあ、わらわももっとアトラ達と話したかったかも。きっとセトラみたいなんだろうけどね」
「いや、アトラはガチでセトラよりポンコツだからな」
「いいの~? そんなこと言って。『アトラ復活イベント』とか始まったら怒られそうだけど」
「どういう展開になったらあいつも復活するんだよ……。……まあ、もし復活するんなら見せてやりたいかもな」
「平和な世界?」
「ああ、子孫、セトラたちが笑って暮らせるそんな世界を」
・
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「これで最後!!」
戦闘開始から約三十分後。
世界の法則を無視したミラが、消費ゼロの火炎魔法を繰り出す。フレイヤとの合体魔法と同じくらいの大火に包まれ、やがて天使は消滅してしまった。
「ふう、ようやく終わった。セトラ! こっちは全滅させた。もう来てもいいわよ!」
『……! 予定より早いですね。分かりました今すぐ向かいます!! …………っ! そんな……三体も……!!?』
「何!? どうしたのセトラっ!!」
『そこか…すぐ離れ…ください!! 人型が三体…接…して……』
「魔力の通信が何かに干渉されてる……。どうやら来るみたい」
セトラとの通信が途絶えた瞬間、陰鬱な魔界の空が二つに割れた。
降りてくるのは二度と見たくはなかった、下卑た笑みと――、
「ハハ。やぁやぁ、地上に巣くう虫けら代表のお二人。どう? 元気だったかい?」
嫌に純白な三人の天使だった。
漂う〇〇無双感。
戦力差があり過ぎて話にならない……! 次回はラグエルさん達との交戦なので大分マシですけどね。
※修正:西端→東端ですね。
位置としては西から魔界→人間領北部→カディンギルの塔の順です。
今のところシロ達は魔界と人間領との間あたりに居ます。
毎回見て貰えて嬉しい限りです!
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