Q.19 戦争、開始?
過去編を時間かけて丸っとやる手も考えましたが、テンポ重視で。でも必ずミラの過去は拾います。
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「……」
「それで? ミラ様はどうするんですか? いえ、どうしたいんですか?」
セトラが優しく語りかける。
メギドラ家への復讐、魔界の救済。
ミラはどちらを選ぶのだろうか。正直この小さな体が抱えて来た残酷な過去を知った今、ミラがメギドラを潰すと言い始めてもおかしくはないと思ってしまっている。
だが、ミラが選んだ答えは、
――ノルンの望みを叶えてあげたい。
「だったらまずはお願いしなきゃですよ。世界を変えるのは意外と根気がいるんです」
本来ならば俺が声をかけるべきなのだろうが、やっぱここぞというときの仲間のケアはアトラの子孫なだけある。こういうとこは本当に敵わない。
……結局俺にできるのは一つだけだな。
「じゃ、行くか。ミラ」
手を差し出す。泣き疲れ、目を腫らした紅眼の少女の小さな掌が俺の掌に触れる。
ガロニアで初めて手を繋いだ時から分かっていた。
俺にできることはこいつの傍に居ることくらいだ。
「お兄ちゃん……? 行くって……」
不安げに俺の顔を窺ってくる、パーティ最年少のしっかり者。
「ああ、今からミラとロノウェ、現魔王に会いに行ってくる。フレイヤ達は待っててくれ。大丈夫、ちゃんと無事に戻ってくるから」
「空から行くつもり~?」
「まあ、そうなるな」
「そっか~。じゃあシロの勇気にご褒美をあげましょう!」
おお? いつもはちゃらんぽらんなクアが珍しく凛々しく見えているんだが。目の錯覚だろうか。
そんなカリスマ三割増しのクアは、高速で呪文の詠唱を始める。透明な、光を捻じ曲げる膜が見る見るうちに俺とミラを包み込んで、
「――はい、おっけ~。水の膜を張ったから、今夜だし遠目からなら二人の姿は見えないよぉー」
「クア。お前……意外と有能なのな……。ったく、普段からそうしてくれればいいのに」
「えぇ~!? たまに頑張ってもこんな扱いなのあたしー!?」
……。クアの多少大げさなリアクションにも、ミラは反応を示さない……か。
「んじゃ、ちょっくら行って来る。ミラ頼んだ」
僅かに頷く彼女の頭。
とても、とても力強く、彼女の翼が地面を引き剥がす。
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「……ありがと、シロ。あんたが、あんた達が仲間でよかった……」
「……ん」
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クアの魔法は大したもので、城壁からの監視の目を易々と掻い潜り、一度も見つかることなく城の最上層付近まで辿り着くことができた。
「ミラ。あのバルコニーに居る奴……」
ただ夜空を眺めている訳ではない。見られている。
ミラやノルンとは異なる特徴的な三本の角。ミラの過去の話に出て来た通りならば、あれが……、
「メ、ギドラ……!」
「気持ちは分かるが焦るなよっ!? ノルンの願いを叶えるんだろ?」
「ぐっ、わかってる!」
佇む男へ向かって接近していく。心なしか嬉しそうな……?
ミラは冷静を装ってか、ゆったりと、堂々とバルコニーに足を着けた。
「はは、どうやら『白夜の魔王が復活した』という噂は本物だったわけか。やあ。今夜来ると思って待ってたよ」
こいつが、現魔王……。
初めて会った時のミラとは違って、こいつからは悪意や敵意を全くと言って良いほど感じない。容姿からは多少の荒々しさ、豪快さを匂わせてはいるが……寧ろあの気味悪い笑顔で招かれてるみたいにさえ思える。さらにそのくせ透明で見透かしたような視線を投げかけてきやがる。
ミラの話に出て来たメギドラとは性質がまるで違う。ノルンが言っていた「メギドラも変わった」、「現魔王の圧倒的カリスマ」とはこの事か……? しかもイケメンだしよ……っ!
「ははっ。じゃあこっちの素性はもう知られてるみたいだな」
「ああ、千年前の英雄、シロ君。そして、『白夜の魔王』、ミラ王女だろ?」
「じゃあどうして俺たちがここに来てるかも当然知ってるわけだ」
「もちろん。俺は戦争を止める気なんか更々無いけどね」
っ! 依然としてロノウェの表情は笑顔のまま。こいつはまずい……。話して説得できるようなタイプじゃない……!
「貴、様……!!」
「待て、ミラ!! ……どうしてやめない? あんたはどうやら話に聞いたメギドラ家と違って賢そうだ。負けることだって分かってるだろ!?」
「いや、負けない。戦争には俺直々に出るし、ここを逃したら魔界は滅んじゃうからね」
「だが! 何千万、もの兵の命が犠牲になるんだぞ!?」
ここまで一片の曇りをも見せなかったロノウェの笑顔が、一変して崩れる。
全てを圧倒するような眼力。ミラが見せたものと同じ、強者の証。
「だからどうした? 魔界が滅ぶよりはマシだろ。君たちに余計な事を吹き込んだのはノルン様かな? あの方らしいが……守っているだけでは訪れるのは死だけだ。多くを生かすための犠牲が俺や俺の兵ならば喜んで送り出そう。それが魔界の長。そうだろう? ミラ王女」
「……わらわは認めない。わらわの手で全部を守ってきた」
「その結果あなたはここにいるんだろう? 最愛のノルン様を守れたと、本当にそう思っているのか?」
こいつ……ミラの弱いところばかり狙いやがる。それが一番有効だとわかってて……!
「……それはっ――」
「いいや、ミラは守ったさ。そしてこれからも魔界を、ノルンを守り続ける。もちろんアンタもな」
「シロっ……」
繋いだままだった手に力が込められる。
……あーあ。言っちまった。もう後戻りはできないわな。
「ミラ、行こう。俺たちが戦うのはコイツじゃない」
「まさか本当に数人で天使と戦おうと? それこそ賢い選択だとは思えないな」
ロノウェが鼻で俺たちをあざ笑う。続けて、
「せっかくそれだけの力を持っているんだから、俺の部隊で共に戦わないか? 案じなくても必ず君達は生かしてみせるからさ」
ミラの、ノルンの気持ちを徹底的に踏みにじられる気がして、我を忘れ、俺が言い返そうとして――、
それよりも先に、ミラが、言い返す。
そんな彼女の次の行動が分かってしまうほどに、先ほどまでの弱々しさを振り切ったような真っすぐ、未来を見据えた綺麗な眼で、
「貴方の思い通りにはならない。わらわが止める。魔王として。姉として」
「……。へぇ。どうやら独りぼっちだった『白夜の魔王』にも随分と信頼できる仲間が出来たみたいだね」
一通りセリフを言い終わる頃には、ロノウェは張り付いたような笑顔に戻っていた。
「じゃあ、機会があれば、また」
「シロ、飛ぶから放さないでね」
「ああ、放すもんか」
――絶対に。
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「ようやくいつも通りに戻ったな。これで変に気を使わなくて済むと思うとせいせいするぜ」
「まあ、らしくなかったよね。でももう大丈夫だから」
「たくよー、フレイヤなんか何故か自分が泣いてたんだからな、気づいてたのか?」
「うん。気づいてた。うれしかったよ、皆の気持ち」
「……そっか」
…………。
「で? ロノウェの奴結構イケメンだったけど、お前のお眼鏡には適わない訳?」
「もー! そういうのやめてよ! 結構人に知られてるのって恥ずかしいんだから!!」
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「あ、お帰りなさい。……その……どうでした?」
ミラの事情を考慮してか、控えめに結果を尋ねてくるセトラ。
フレイヤとクアも心なしか緊張した面持ちで俺たちの返事を待っている。
「ごめん。駄目だったわ。ミラも頑張ってくれたけどあっちの意思が固まり過ぎてる」
「あら、あれで褒めてくれるんだ。ちょっと意外かも」
結果、思い通りにはいかなかったけど、セトラも、フレイヤも、クアも、皆ミラが普段通りに戻ったことの方が嬉しかったみたいで、
「じゃあ、私たちで魔界、救っちゃいましょうか!!」
「……うん! きっと、できる……!!」
「やっぱ、楽しくいかなきゃねぇ~!」
ミラが言う通り、俺たちは仲間に恵まれた。こいつ等となら、天使だって。
「最善とはいかないけど、まだノルンとの約束を守れなかった訳じゃない。ここから、これから守れるように、戦おう、五人で」
俺以外の四人からきょとんとした視線が寄せられる。
「な、なんか変なこと言ったか……?」
「いやー、シロ様魔界に来てからなんだか熱血だなーって」
セトラはにやにや。
「……でも、そういうお兄ちゃんもかっこ、いい」
フレイヤはにっこり。
「青春だねぇ~」
クアはうざい。
「ま、シロはくれぐれも足引っ張らないでね♪」
そしてミラはいつものドヤ顔で。
「おう、お前の横は任せとけ」
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早朝、魔界からでも高く聳えるのが辛うじて視認できるあの塔の方向へ進む前に、俺たちはノルンの大図書館へと寄ることにした。
戦争を止められなかったこと、けれども血は流させないつもりでいること、必ず戻ってくること、それぞれの決意を伝えたい、ミラの意見だった。
「ん、ここで大丈夫。小型の使い魔を展開しておけば太陽が昇り始める頃にはノルンも気が付くはず」
「じゃ、行きますか! 手始めとして魔界を救いに!」
何千、何万の天使が投入されるのだろう? あのいけ好かない人型の天使もいるのだろうか。
とてもとても高い壁だろう。
けどこの五人で、生きて必ずノルンに……!!
次はようやくバトル回ですね! シロ陣営、魔界陣営、天使陣営、そして人類陣営。入り乱れる大乱闘の予定です!(セルフハードル)
毎回見て貰えて嬉しい限りです!
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ブックマークありがとうございます。まだ少ないですけどじわじわ増えてて感動しました。
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