Q.18 おや……!? ミラのようすが……!
ぎりぎり日曜投稿。
「さーさー流されるままやってきたまおうじょー!!」
魔界の薄暗くどんよりとした雰囲気にそぐわない笑顔&歓声。
「クア、頼むからちゃんと礼儀を尽くして大人しくしててくれよ? ここ結構重大な分岐点だと思うからさ」
俺の忠告が耳に届いているのやらいないのやら、衛兵もいる中で堂々と正面から城へ突っ込もうとするクア。
ぜってえ聞いてねえ。
あ、
「なんだ貴様!!」
案の定、重装備の有翼の衛兵に首根っこをつかまれ、クアの両の足が地面から離陸しはじめる。
侵入者に対してはまだ手温い対応だったが、苦しそうにもがくクアを見てセトラがすぐさま衛兵の元へと駆け寄った。
「すみません!! クアさんはあまり常識がないのでっ!」
「ぐ、む、むぅー……セトラ、しつれ、い~……」
「すまない。俺たちは……えと……」
しまった。自分とクアの迂闊さにようやく気が付く。
まず、俺たちはこの魔王城にあくまでも交渉をしに来た立場であるという事。ノルンの第一目標としては戦争の中止、撤退。流れる血を一滴でも減らすために今、このタイミングでは兵を戦場に出さないでほしい、そう「お願い」しに来たのである。
さらに、非常に不利なことに俺たちは明確に人類側の機関に所属しているわけでもない。セトラの名は人類領では多少広まっていたが、ここ魔界でも同様に通用するか怪しい。……セトラの名を出しても衛兵が無反応なあたり、やはり巫女の名だけで通して貰えるほど甘くは無いようだし。
つまりもし下手にここで「勇者御一行だ」とか名乗ってしまえば高確率で怪しまれかねない。
そして、俺とクア以外にも迂闊な奴がもう一人。
「退きなさい。わらわはメギドラの党首に用があるの」
魔王じゃなくてメギドラの、か。
「な、何者なんだ貴様ら!? その姿……魔族が魔王様に反逆するか!?」
あー……。
漏れた嘆息はセトラのもの。
実際この状況には俺も尻尾を巻いて逃げ出したかったが、5mという忌々しい制約が許してくれそうにない。衛兵もまさか目の前の怪物幼女が千年前の魔王だなんて思わないよな……。
となると与えられた選択肢は二つ。
1、衛兵その他諸々を全員なぎ倒し現魔王ロノウェの元へ向かう。
2、一時撤退、「侵入」へと作戦を切り替える。
まあ考えるまでもなく2だろうな。このままじゃ交渉どころか戦闘だ。もし仮に勝ったとして、ミラが再び魔王の座に就くというのも俺とミラの関係上厳しいし。
そんなことお構いなしに翼を広げ禍々しいオーラを放出しているミラ。
奇しくもセトラ、フレイヤと目が合う。どうやら二人とも同じ考えのようで、こくんと頷き合ったのが脱走への合図となった。
「五感拡張!! フレイヤちゃんはクアさんを!」
「……うん! ごめんねクアお姉さん!!」
「う、げほっ! ありがとーフレイヤちゃ――お? おお!!? ひゃあああああ!」
セトラの魔法発動と共に吹き荒れる爆風。フレイヤの炎魔法は器用に局地的な熱風を吹かせ、クアがするりと、いやとても勢いよく衛兵の手から離れていく。あれよあれよという間に星のごとき小ささに。あれ着地大丈夫なのか?
衛兵はというと、高温度の突風に煽られのけぞるように尻餅をつく。だが、流石は門番、逃げようとはせず、なおも立ち上がろうと震え交じりの足を奮い立たせている。
「邪魔しないでよ! これはわらわのっ、家の問題でもあるんだから!!」
そして俺はそんな衛兵とミラの間へと割って入っていた。
怖えー……。こいつこんな怖かったっけ……? 日常とは、千年前とは段違いのプレッシャーに俺も尻餅をつきそうになる。ミラもここまで本気という事は何か理由があるのだろうか? とにかく対峙したことでただならぬ執念を感じているのだが、
「それでも邪魔する。ここは退くぞミラ。ちょっと冷静になればわかるだろ?」
戦いを間延びさせるありふれたセリフ。
今の俺じゃミラを強引には連れていけない。だからせめて時間を稼ぐ。
「でもっ! ノルンがっ!!」
「だったらなおさらだ。今のお前はもう魔王じゃないんだ」
俺ももう勇者じゃないけど。
「ぐ……、なら丁度いいわ。ここでシロ、あなたを――」
「そんな展開、ミラ様にはお似合いじゃないですよ?」
「セ……トラっ!!」
ずどん!
セトラが大地を踏み蹴ると、歪ながらも弧を描いて地面がへこんだ。
次の瞬間ぐわんと大きく引っ張られる感覚。気づいた時にはもう魔王城は遠く、クアがぶっ飛ばされた方向に一蹴りで進んでいた。さながら人間砲台。セトラを挟んで、俺と逆側の細い腕に必死にしがみ付いていたフレイヤはあまりの速さに怯え、もう半泣きだ。
さらに後方からぴったりと5m位をくっついてくる幼魔王。その相貌は憎々しげにセトラの背を睨みつけていた。
・
・
・
どれくらい離れただろうか。ひとまず衛兵からは絶対に視認できない距離まで離れることに成功したセトラは、徐々に速度を緩めつつ魔界の黒い大地に突き刺さっている水の賢者を探すと、その付近に着陸する。
「いやーこれは明日筋肉痛かもですねー……」
「セトラお姉ちゃん……ぐっじょぶ」
「どういたしまして! フレイヤちゃんも多少手荒だったけど協力してくれてありがとう!」
「いやいや手荒ってレベルじゃねえだろアレ……。生きてるのか……?」
「ぶはっー! し、死ぬかと思った~」
「あ、良かった、生きてるんだな。流石パーティの回復担当」
「えぇ!? ならどうしてヒーラーがダメージ負ってるのさ~!?」
「何でよ!!?」
そんないつもの緩い雰囲気をなおも変身状態のミラがぶち壊す。
「どうして行かせてくれなかったの!?」
見せまいと俯いてはいるが、ミラの目から涙が零れるのを見てしまう。
「あのな、ミラ。あの状態じゃお前絶対現魔王と戦ってただろ。お前ノルンとの約束はどうした?」
「そんなのっ! 結局わらわ達が天使に勝てば……!」
「あのノルンが衛兵含む城内の魔物が傷ついて喜ぶか? なあ、どうしてそこまでムキになってるんだ? 手段は一つじゃないだろ?」
ミラの握りこぶしに力が加わるのが目に留まる。こいつ、また何か抱え込んでるな……。それもきっと現魔王に関係していることで。
「…………シロに分かるわけっ!!」
「教えろって。あんまこういった言い方柄じゃないけどさ、俺たち仲間だろ? 特に俺とお前はさっきみたいにもう離れられないんだしさ。だから教えてほしいよ。お前がどうしてそこまで現魔王に執着してるか」
「そうですよ。そして出来ることならお手伝いしたいんです!」
「……わたしも。旅は楽しくないといやになっちゃうよ?」
「え~? みんな今さっきのあたしがどうなったか覚えてて言ってる~?」
パーティの面々からかかる言葉を小さな魔王は俯いた顔のまま受け止める。だが、それでも答えは返ってこない。
「なんならさっき俺を思い切って見捨てればよかったのに。ミラならいくら虚を突かれたとはいえ、セトラより早く動けるはずだろ?」
「っ!! それは……っ、わらわも消えちゃうかもしれないし…………別にそんな……」
「でも来てくれた。だよな? それなのにまだ信用してもらえないか?」
…………。
解けていく変身。大きな翼、威圧的な角は消え、そこに立っていたのは目を赤く腫らした一人の女の子だった。
「千年前に何かあったんだろ?」
「……うん」
魔王城についてからあからさまに目の敵にしてたしな。ノルンの前でそこまで執着して言わなかったのもきっと何かこの異常なミラの行動に関係してるはずだ。
……良くも悪くも分かりやすい。伝えてくれれば……いや、今回は気づいてて言い出さなかった俺の責任もあるかな。
だったら、
「教えてくれるか?」
「……」
返事の代わりにミラは小さく頷いた。
「あれはまだわらわが魔王じゃない頃の話――」
――魔界がぐちゃぐちゃだったころの話。
キャラの複雑な心情ってなかなか上手に表現できませんね。
え? バトル? まだ先ですごめんなさい。
毎回見て貰えて嬉しい限りです!
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