A.2 ファンタジーって言ったら「転生」はもはやお決まりですよねー
本編を書く時間が足りなかったので急遽天使パート2を上げることにしました。
いつかやらなきゃと思ってたんで丁度良かったかも。
本編楽しみにしてくれてた方々には申し訳ないです。
「これが『異世界』の子達? ふふっ、可愛らしいわね」
「まだ召喚しただけで魂の転生は済ませていませんけどねー」
六方が白で構成された部屋、塔の上層部に位置する一室には、まだ幼い少年と少女が安らかな顔でこれまた真っ白な寝台の上に横たわっていた。
活発で、今にも飛び跳ね動き回りそうな健康的な容姿の男の子。
凛々しく、控えめで落ち着きがあり大人しそうな容姿の女の子。
そんな彼らを見下ろしているのは、満足そうに口端を歪め、その身に似つかわしくない小悪魔の様な雰囲気を漂わせる女天使と、打って変わって穏やかそうな雰囲気を漂わせる女天使。
「どうします? ラファエル先輩が見たいなら、今ここで『転生』させてもいいですよ?」
「え!? いいの!? やったぁ! ラミエルちゃん大好きぃ!!」
目の色を輝かせたラファエルはラミエルに飛びつき、抱きしめるだけに留まらず頬ずりまでし始める。突然覆い被さられたラミエルはというと、身長差の為、ラファエルの大きな双丘に顔を埋めさせられ息をするのも苦しいといった様子である。
「ぶはっ! ちょ、先輩やめてくださいよー! そうやって直接自慢するとかいじめでしかないですからねー?」
「え、え? お姉さんラミエルちゃんをいじめてた? お姉さん鈍感だからよく分からないけど、とにかくごめんねラミエルちゃん!」
そんなラファエルの謝罪に肩を竦めるラミエル。ラファエルには悪意が無いことは当然彼女も分かってはいたが、どうしても胸の辺りを憎々しげに見つめてしまう。
しかし、じっと数秒睨むと毒気も抜かれたらしく、
「はぁー。まあいいですー。じゃあ換びましょうかー」
ラミエルは人が話す言語とは別の言葉で詠唱を始める。
「אתה לבוא רגוע בעליל רוטב, מטיילים. לטובה, ללא דיחוי.
אנחנו תקווה רחוב.」
一通りラミエルによる詠唱が終わると、今度は少年と少女の体が青白く発光しはじめた。
真っ白な部屋はたちまち青く輝き、その光に反応して、ラファエルが待ち切れないと逸る体を何とか意志の力で宥めている。
やがて彼らを包んでいた光が完全に収まると、代わりに少年の純真な瞳がゆっくりと見開かれていく。
「あれ……? ここ、病院? 胸の痛みが全くない……?」
ぺたぺたとまだ小さく、曲線が残る掌で服の上から胸の辺りを触る少年。
「ラミエルちゃん、この子どうしたの?」
不可解な少年の行動を訝しんだラファエルが、魂の転生に成功し自慢気なラミエルへ問いを投げかける。
「彼の名は篝大葉ですー。病で死んじゃった所を本人の深層意識の意向により転生させましたー」
「今はもう病気は大丈夫なの?」
「もちろんー。召喚時に健康体に戻しておきましたよー」
「お? おお!? ははっ! 動ける! 体が動く!! これやってくれたのお姉さんたちか!? ありがとう!!」
よほど健康な体が嬉しかったのか、手足を存分に動かしたり、大きく息を吸ったり吐いたりと大忙しの大葉。
そんな大葉の声に共鳴するように少女も目を覚ます。
少女は決して大葉の様にはしゃいだりせずに、夜の闇の様な深い色の瞳をじっとラファエルとラミエルの方に向け、状況を窺っている。
「こっちの子も元の世界では……?」
「はいー。この子、静海葉月はとらっく?とかいう異界の道具にぺしゃんこにされて命を落としましたー」
「そう……。それは痛かったでしょうね」
ラミエルの言葉から、詳細は分からないながらも状況を想像し、沈痛そうな表情を浮かべるラファエル。
そんな消沈しかけの彼女に向けて生まれ変わった少女が言葉を発する。
「わたし、生まれ変われたの?」
「はづきちゃんはこの状況がわかるの?」
「うん。わたしがこうなるのを望んだ様な気がして」
「そうですよー。あなたの心が『生まれ変わりたい』と、そう望んだから願いを叶えましたー」
「そっか。ありがとう。天使のお姉ちゃん達」
さてと。そう言いつつ目に力を込めるラミエル。どうやらまだ作業は終わってないらしい。
「生まれ変わり、世界を移動したあなた達にはこの世界に適応するための『特権』が与えられますー。力でも、この世界での通貨でも、何でも構いませんよー。ただ、もしわたし達に協力してくれるというのなら特別な、あなた達だけの『能力』を選んでくれると助かりますねー。さあ、どうしますかー?」
ああ、だから一度消えた魂を復活させたのね。
ラミエルの話を食い入るように聞く二人に聞こえないよう小さく納得するラファエル。
ラミエルの狙いはきっと、シロ達のパーティに対抗しうる強力な能力を持った忠実な兵士を作ること。その為に『霊魂の管理を司り、生き返った者を導く』という彼女固有の力を利用した、と。
そこまでを理解したラファエルは誰にもわからないくらい小さく微笑んだ。まるでちょっとした悪戯を思いついた子供の様な無邪気さで。
そして言ってしまえば洗脳を始めているラミエルに気づかれないように、こっそりと白い部屋を後にする。
「お姉ちゃんは俺の命の恩人だ! 俺にできることなら何でもするぜ!」
「わたしも。この御恩は返さなきゃ、ね」
「二人ともいい子達ですねー」
――それでは、あなた達のの思い描いた通りの力を差し上げますねー。
部屋から聞こえる言葉を背に、ラファエルは軽い足取りで下界へ飛び立つ。これからの事を考えている彼女の羽が心と連動してぴょこぴょこと軽快に弾み、羽ばたく。
「これはお姉さん、久々に楽しめちゃうかもね~♪」
そう独り言を零し、彼女は遥か下の穢れた大地へと消えていった。
天使もみんながみんな協力し合っているわけではないです。いがみ合ってる人たちもいますしね!
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