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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
四章 枯れた大地の叶わぬ願い
21/101

Q.15 元魔王がアイドルオタクで何が悪い……!?

超遅筆。

忙しくてなかなか更新できなくてごめんなさい。

週一回は必ず更新できるよう努力しますのでお許しを!

「こっちこっち! みんな早く!」


 久々のホームだからかいつもより機嫌、元気共に五割増しのミラの後を息を切らしながらも追いかけていく。

 現在俺たちは完全に魔族領、俗にいう魔界の内部にまで踏み込んでいる。馬車を降りて向かっている先は魔王城。ミラがかつて玉座についていた魔界の中核部だ。

 今の魔界の現状を知らないミラ。セトラが現魔王や情勢について知っていることを一通り挙げたは挙げたのだが、その情報は「あの子」には関係無いと一蹴し、何かしらの手がかりが残っているであるだろう自分の居城を目的地に設定したのだ。

 ……少々強引ではあるが、確かに闇雲に探すよりは効率的か。

 

 魔王城。最終決戦の直前に攻め込んだ難攻不落と謳われた巨大な城。

 若干もやがかかった記憶を辿ると、周りには馬鹿でかい城壁がそびえていることをかろうじて思い出す。それを見たリヴィアの第一声は「かえろっか」だったな……。

 何とか俺とアトラで彼女を引きずりながらながら入ったっけ。


「はぁはぁ……。ミラさんよ、もう少しゆっくりいかないと指輪の糸でも切れちゃうぞ」


 セトラはともかく、後続の賢者勢が顔にしわを寄せているのが見える。


「ミラお姉ちゃぁん……もすこしまってぇ……」

「ちょ、ペース早くない~? あたし体力面は専門じゃないよぉ……」


 生まれた時からずっと同じ一つの街でつい最近まで過ごしていた彼女らにとって、魔界のこの岩ばった大地を歩き続けるのは苦行だろう。それもミラの興奮気味、一歩先へ早く進みたいというこのペースで。

 俺も若干つらいし。 


「あとちょっとだけど……うん、休憩しよっか。ちょっとはしゃぎすぎて振り回しちゃったし」


 そういうとはやる足を止め、手ごろな岩に腰を下ろすミラ。

 こいつ……封印が解けた最初期と比べると心なしか仲間思いになってる気が……。いや、気のせいだろう。我儘なのは変わってないし、すぐ怒るし。

 

「ふふ、ようやく横に並べる仲間が出来たから、ですかね」


 訝しがる俺の表情から思考まで読み取ったのか、俺を追い越すセトラが過ぎ去る瞬間に、まるで独り言を嬉しそうに口に出すように小さくつぶやく。 


「……そっか。ずっと独りぼっちだったもんな、あいつ」


 「白夜の魔王」。圧倒的知力と武力、加えて卓越した人心掌握の力で魔界の頂点に君臨した、していたミラ。

 あれだけの勢力だったんだ。優秀で命を預けられた部下はきっと多くいただろうが、きっとNo.2とミラとの間には圧倒的なまでのスペックの差があっただろう。

 

 ――それを埋めたのがきっとシロさんなんですよ。

 

 肩の辺りで結んだ髪をくるりとふりまき、にっこりと微笑むセトラから飛ばされる遠隔通信魔法。

 ……うわあ。超恥ずかしい。嬉しいけどさ。

 

「あれぇ? シロさんすっごく変な顔になってるよ?」

「むー……これはよくない顔だ……」


「は!? いやいや何でもないからな!!?」


 炎と水、二人の賢者に問い詰められて我に返る。

 いけねえ。こんなのらしくないぞ、俺。



 認められた気がして高揚した気分のせいで何とも言えない休憩を過ごし、再び立ち上がり歩を進める。

 ミラによればもうすぐそことのこと。魔界まで一か月と出発当初は見積もっていたが何やかんやあって結構かかってしまった気がする。だが、もうすぐで旅の第一の目標が――、


「あった! この先……に……」


 真黒な大地が盛り上がり形作られた丘に差し掛かり、立ち止まるミラ。

 ん? かつてない既視感。まだパーティーがミラとセトラだけの時に同じ光景を見た気が……。

 慌ててミラではなくセトラの方を見る。彼女も同じことを頭の中で思い描いていたらしく、図らずとも顔を見合わせてしまう。


「どしたの? 二人とも顔見合わせてー。ひきつってるよぉー?」 


 フレイヤがいるから口には出さないが、これはまさしくエルメリアの時と同じ。場面の使いまわしだと言われるかもしれない程の再現度。

 5m先のミラのもとに駆け寄るまでもなく分かる。分かってしまう――


「お城……わらわのお城がぁ……無くなっちゃったぁ……!」


 若干幼児退行している気がしないでもないミラ。近寄ると目尻に雫を浮かばせている。

 肝心の魔王城はというと一部を残してほぼ半壊。そびえる城壁など跡形もなく、城すらも風化が激しいらしく数室はこちらへとむき出しになってしまっている。


「魔王城の位置変わってたんですね。知りませんでした」


「まあ千年も前になるんだしな。人類と和平結んだらそりゃ技術力を頼って再建するよな」


「わぁー見事にぼろっちい廃城になっちゃってるねぇー」


 オブラートに包むという慣用句を知らないであろうクアの口がミラのメンタルを追い込んでいく。


「だ、だいじょうぶ……! まだこわれてない所もある、よ?」 


 追い打ちを喰らい、今にも零れ落ちそうだった涙はフレイヤの言葉で何とか踏みとどまったミラ自身の腕によって拭われた。


「そ、そう! 残っているあそこならまだわらわの部屋があるあたりだから……!」 


「え? あそこお前の部屋もあったのか?」


「そりゃそうでしょ。あそこに住んでたんだから!」


 魔王自身の内部事情の告発によって、魔物の巣窟というイメージが崩壊していく。

 

「シロ達が攻めてきたときは緊急で魔獣を配備しただけで普段はみんなあそこで暮らしたり仕事してたりしてたんだからね」


「おぅ……それは悪いことしたな」


「気にしない! 結局平和になったんだからあれでよかったの! さ、いこっ!」


 俺の手を半ば強引に掴み引っ張る細く真っ白な手。

 先ほどまでの涙はどこへ行ったのか、えらくエネルギッシュな力が手に伝わってきた。



「うー……くもの巣だぁ……」


 外見と同様に内部もひどいものだった。入口が瓦礫で塞がれていたため裏口から入ったのだが、そもそも廊下だったはずの場所は一直線に繋がっておらず、崩れ積み上げられた壁面の残骸が行く手を阻んでしまっている。

 それをダンジョンか何かと勘違いしているのか、セトラが我先にと踏破しようと息を巻いてしまっている。さすが救世の巫女の子孫。勇者よりも勇者をやっていて、こちらとしてはやや複雑な気分である。

 ミラの案内、といってもミラもあまりにも内部構造が変化しすぎているため先頭に立てていないのだが、それすらも差し置いて進んでいくセトラの足がある一部屋で止まった。何か見つけたのだろうか?


「ここ、誰か来てますよ?」


「いやいや、この荒れ様だぞ? ほこりや蜘蛛の巣で覆われてるし、それを俺たちみたいに無理やり突き進んだ様子も無いし。それは無いんじゃないか?」


「これ、こっち来て見てみてください」


 それまで床の一点を見つめていたセトラは振り返り、その代わりに今まで視線を落としていた箇所を指さした。

 足元の壁の破片に気を付けながら、ミラと共にセトラの正面へと回り込む。

 淡く紫色に光り輝く魔術的な模様。


「……召喚陣?」


「似てるけど違うわね。確かメルティちゃんだっけ? シロこの前話してたじゃない。あの子の本に書いてある魔法よ」


「あ、空間圧縮魔法の方か」


 空間圧縮魔法。ミラが言う通り、メルティの本の中に遺されていた興味深い魔法の一つだ。

 効果は単純。ある一点と一点を繋ぐというもの。正確には距離が何万分の一の簡易的な異世界を作るのだが、まあ簡単に言ってしまうなら瞬間移動の一種だ。ただ設置は多少面倒で二つの条件を有する。一つは空間を繋ぐためには二点を訪れ魔法陣を描き設置しなければならない条件。もう一つは一度設置したら解除するまで一定の魔力を消費し続け、解除した瞬間に異世界の通り道は魔法陣ごと消滅してしまうという厄介な条件。

 見た限り魔法陣が存在している為、この術者はまだこの移動を用いてここに何かをする必要があるという事になる。

 

「何の為……でしょうか?」


 湧き上がる疑問をセトラが一足先に言葉にしてくれた。 

 こんな廃城にまで魔力を消費し続けて何をしに来ているのだろう。ここにきているという事はこの城の関係者という線が濃いが……。


「あ! このためじゃないかなぁー?」


 特徴的な、まるで朝方のセトラのような間延びした水の賢者の声がする方向。やや離れた位置にいる、フレイヤとクアが二人して立っている扉の前。

 俺がその扉の中央やや上の名札、「Moira'sミラの roomへや」というプレートを見つけた瞬間――、

 

「そ、の、と、び、ら、から! 離れろぉおおお!!!」


 突風に煽られたかの如く引っ張られる手。何故か本気ガチモードになって扉へ突撃するミラをかろうじて視界にとらえる。

 バキャリ。

 木が予期せぬ力を加えられて仕方なく砕けるような音が静かだった場内に響く。

 

 急激な移動が収まり、気が付くと俺は数多くの美少年に取り囲まれていた。

 

 いや、違う。彼らは生きてはいない。というより今ここには存在していない。

 部屋の壁面、なぜか保存状態が異様に良い部屋に所狭しと居座っている美少年の壁紙。アイドルという奴だろうか。やけにキラキラとした服に身を包んだ魔族の少年たちがこちらを見て笑っている。

 一通り見回した後、冷静になってから目についたのは、ミラのやってしまったという後悔が全面に溢れ出た表情。


「……」

「……ぐすっ」

「や、複線……あったもんな」


 エルメリアでの「古今東西世界の美少年大全」や、「イケメンに囲まれている」というミラの発言。薄々感づいてはいたけどここまでとは思ってなかった。


『大丈夫ですか!?』


 扉の外からセトラの声が聞こえる。


「大丈夫だ! むしろ危ないから入ってこないで、そこで待っていてくれ!!」


 危ないのは主に俺の命だが。

 さて、ここからだ。

 ここからは爆発魔法の札の解体と同じだ。慎重に最適解を探さなければ!


Q「……ひっぐ…………引いたでしょ?」

A「びっくりはした。けどまあミラが何が好きかは自由だし、引くまではしねーよ」

 

 実際エルメリアでも同じ感情だったし、これについてはとやかく言う権利は俺にはないからな。


Q「……ほんとに? 気持ち悪くない?」

A「ほんとに。や、どっちかというと負けたみたいで劣等感煽られて悔しいかも」


 主に顔面偏差値がこの壁でニコニコしている方たちとは違うからな。


「……あはは。そっか」


 乗り切れた……!? 


「……ほんとにイイ奴ね。シロは」


「……ありがとよ。んで、何か探すなら早くしたほうがいいぞ。いつ冒険好きの血が疼いたセトラが入ってくるか分からないからな」


「ううん。大丈夫。この部屋を見て分かったから。あの空間圧縮魔法がどこに繋がってるかもね」


 それについては俺も違和感の後に気が付いた。

 この部屋は他と比べて綺麗過ぎる。蜘蛛の巣どころかほこりすら無い。恐らく、あの空間圧縮魔法の使用者がここに来て掃除をしているのだ。

 

「それが『あの子』ってことか」


「うん。きっとそう。あの子の魔力を感じるから」


「じゃあ出るか」


「うん……。ありがとね」


「お礼言われるようなことしてないぞ?」


「いーの! 行きましょ。あの子のいる場所へ!」


 いつの間に発動したのだろう。ミラが扉に発動したのであろう遮断魔法を解除して取っ手に手をかける。


「一瞬で出るからシロも素早く出てきてよ?」


「はいはい。わかったわかった」


 言われた通りミラに続いて素早く部屋を出る。

 するとそこにはとても心配そうな顔をしたセトラ、フレイヤ、そしてぽけーっとしたクアが立っていた。


「よかったです! お二人に何かあったのかともう心配で心配で……」


「けが……してない……?」


 そりゃ、いきなり狂ったように突っ込んで入ってくるなって言われたら焦るわな。 


「あ、出て来た。早くあの魔法陣入ってみましょーよぉー」


 クアさんは微塵も心配してくれなかったようですね、この反応は。


「そのつもり。行きましょ、あそこと繋がっている所に」


 そのミラの一言で、一度は安心しきったセトラがまた不安な顔色に戻る。流石に今回は警戒心が冒険心を上回ったらしい。


「危険じゃないですか? 罠かもしれませんし……」


「安心して。わらわが保証するから。ね、シロ?」


「ああ、ほぼ確実に安全だ。俺とミラを信じて付いて来て欲し――」


 そう言い終るが否や、


「やったぁー! いっち番のりぃー!!」


 クアが飛びつき転送されてしまった。


「はぁ……クアさん……。これで後戻りできませんね。私も続きます」


 そう言い残してセトラが、


「早くあの子に会いたいなー!」

 

 次いでミラ。

 そして残った俺とフレイヤ。

 一応しんがりを務めたほうが良いだろうと判断して立ち止まっていたが一向にフレイヤはその場を動こうとしない。それどころか例の如く袖を引っ張ってくる。


「ん? どした?」


「……ちょっと怖い……かも」


 目の前で人が消えたらそう思うか。じゃあしょうがない。


「なら一緒に入るか?」


「うんっ……!」


 それならば、とフレイヤの足も魔法陣へ近づいていく。

 袖を引っ張る手を取り、足並みを合わせて複雑な紋様へ踏み込む。

 その瞬間、真っ暗闇に転移される。正しくは異世界へ足を踏み入れただけなのだが、転移されたと錯覚してしまうほどにがらりと見えるものが変わってしまったのだ。

 真夏の夜に吸い込まれたような深い闇。足場もなく立っているかすらも不安になってしまう位だ。

 

「すっげ。これが空間圧縮か」


 より一層強く握りしめられる繋いだ手。強くといってもミラほどの馬鹿力ではない可愛らしい強さが俺の指の数本をきゅっと締め付ける。


「……シロお兄ちゃん……はなさない、で」


 聞いただけでフレイヤが怯えているのが分かるほどか弱い声。


「大丈夫。まっすぐ歩くだけだ。ほら、あそこに白い光が見えるだろ?」


 一歩一歩、歩くたびに大きくなる光へ向かって歩き続ける。

 この先にミラの追い求めていた子がいるのだろうか?

 まもなく闇の端にたどり着く。

 目を開けるのも躊躇うほどの眩しさだ。

 

「さ、これで終わりだ。よく頑張ったな」


 そう言って俺とフレイヤは最後の一歩を、大きく、思い切り踏み込んだ。

お疲れ様です!

ミラの名前の綴りはわざとああしてます。一応関連付けの関連付けみたいな名づけ方をしちゃったので困惑してしまった方がいたら申し訳ないです。


ご感想ご意見等頂けると嬉しいです。


Twitter → @ragi_hu514(超だんまり中)

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