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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
四章 枯れた大地の叶わぬ願い
20/101

Q.14 魔界ってここまで世紀末でしたっけ……?

ちょい短めです。

お待たせしてごめんなさい_(._.)_

「一ページだけ? 変じゃないかこの手記?」


 旅商人のおじさんが手綱を握る馬車荷の中。

 有り難くも荷物のついでとして運ばれている最中に、面白いものを見つけたと思い開いてみたものの、最初の一ページだけで終わってしまった手記を見つめて形容しがたいもやもやが脳内を占拠する。


「商品……ではないですよね流石に」


「誰かさんのラブレターかなぁ?」


 有用な情報が無くて肩透かしを食らった俺とは対照的に、そのわずかな文章から恋の匂いを嗅ぎ分けたらしいクア。あんな暮らしをしてたから一般常識と同様に色恋に関しても全くの無知だと思っていたが、どうやらそういう訳でも無いらしい。


「『大図書館の死神』ねぇ……」


 不意に離れたりしないように俺の隣にちょこんと膝を折りたたんで抱えながら座っているミラが、分かりやすく何かを思案し眉を顰める。


「どうしたミラ? 何か思い当たる事でもあったのか?」


「いや……。それ・・は無いと信じたいんだけど……」


 いまいち要領を得ない返事。


「この男?の相手っぽい人の描写がわらわの探しているあの子に似てるの」


「……わたしたちの探しているひと? ミラお姉ちゃんの妹さんだっけ……?」


「正確には義理のだけどね。小さい頃はよく一緒に遊んでて……確か最後に会った時は魔界の大図書館の管理を頼まれたって言ってたような……」


「で、その子が訳わからん男と恋に落ちてるかもしれなくて焦ってると」


「あ、ああ焦ってないわい!!」


 わっかりやす。だからいじりがいがあるんだよなぁ。

 にしても、この手記の内容からして書かれたのは二年以内。ミラの言うあの子が存命しているとしたら千歳は軽く超えるのだが……。

 その年で恋愛ってぶっちゃけどうなんだ? いや、個人の自由だけどそれだけ生きてりゃお婆ちゃんだろうしなぁ。

 ただでさえそっち方面には疎いのに余計ややこしくなってきた。  

  

「でも……もし付き合ってたりしたらどうしよう。結婚してて子供が出来たらわらわ叔母さんになるのかな?」


「いやいや。いくらなんでもそれは気が早すぎですって」


「……相手の人、魔界にはもういないと思う……」


「ですね」「だねぇ」


 ミラを除く女子勢が息をそろえてフレイヤの説を支持しだす。

 

「明文こそされてないですけど、この人はその『大図書館の死神』さんを想って姿を消したのでしょうね。何だかロマンティックな展開です。……これが現実じゃなければの話ですけど」


 うんうん。再びミラを除いて頷く一同には悪いが、さっぱり分からん。仮に空想のおとぎ話だとしてもどこがロマンティックなのだろう? 言葉の節々に未来を見据えて希望を残してはいるものの、どちらかと言うと「遺書」に近いイメージが先行した。どこかで滅んでしまいたい、諦めてしまいたい、そんな風にとれてしまうのだ。何故かこの手記の持ち主と俺は本質的に近いと、そう感じた。

 ……俺は諦めないけどな。同様にこの人も諦めないでいて欲しいものだ。


「ま、それもこれから確かめに行けばいいさ」


 そう。現在この馬車は魔界へと向かっている。

 ここ数年の環境の変化により魔界は人間界の食料無しでは生活できなくなってしまったらしい。と言うのも魔族は元々魔物の肉や魂を主食として生きながらえてきた為である。

 「魂の総数」が減り続けている今、ただでさえ枯れた土地である魔界に食料などある訳もなく、ラ・ブールや、人類領最大の国家「ガーデン」からの供給無しでは存続も危ういとのことだ。

 

 それでラ・ブール発の出荷馬車に無理を言って乗せて貰った次第だ。

 こんな時代に馬二頭を文字通り馬車馬にして運送業をしていたおじさんに感謝である。これで後半日程で魔界に着く事だろう。


「んぅ、お兄ちゃん……なんかきもちわるい……」


 唐突にそう言いつつ、きゅっと小さく袖を引っ張ってくるフレイヤ。

 また・・か。

 ここ数週間の旅の中で、彼女は困ったことがあるとすぐに俺の服を引っ張るという癖がついてしまった。それ自体はトラブルの早期発見に繋がるから悪い事ではないのだが、問題なのは女性陣からの視線が厳しい事だろう。特にミラとセトラ。いいじゃんか。ちょっとフレイヤに懐かれてるからってそんな殺意を含んだ目で見なくてもさ。

 そう思いつつSOSを発しているフレイヤへ意識を傾けようとすると、指輪をはめている方の手の甲に鋭い痛みが走る。

 ……何を思っての行動か、ミラが肉を抉るようにつねってきやがった。

 ミラの爪結構鋭いから普通に痛いんだけど。


「の、乗り物酔いか?」

 

「……なに……? それ……うぅ……」


 顔も青ざめ、伏目がちな彼女の視線は更に下へと向かっていく。

 エルメリアからほぼ出たことが無いフレイヤにとって乗り物酔いは未知の体験だろう。何とかしてあげたいが、俺には丸めた背中をさすってやることしか出来そうにない。もちろんつねられてない方の手で。


「フレイヤちゃん、わらわの治癒魔法を――」


「治癒魔法ならあたしにお任せだよー!!」


 ミラに一歩出遅れ、クアも効果があるか不明な治癒魔法をフレイヤにぃ――!?

 いてえ! 加わる力が更に強くなってる!

 このままじゃ持って行かれる!! あ、肉にめり込んでく感覚が、いてててて!!


「クアー? ちょっと黙ってね?」


「ひっ! ひゃ、ひゃい……。あ、あたしの出番がぁ……」


 「フレイヤを助ける権利」がようやく自分の元へ来たことが満足だったのか、次第に緩まっていく爪の力。見るのも恐ろしかったが、熱く一応痛みを訴える手をそっと細目で覗く。

 ……案の定真っ赤だった。

 トロリと垂れている。

 

「あのー……ミラさん? こっちの方も治してくれませんかね……?」


「う・る・さ・い♡」


 ぶすり。


「ぁあいてぇえー!! ク、クア!! 出番! 今すぐ治して!!」


「はいぃー!! お任せー!!」「……お兄ちゃんをいじめたらだめだよー」


「ごめんね? フレイヤちゃん。次から(・・・)気を付ける♪」


 あっ! やばいそれ以上は……やめてぇぇええ!!



 まぁそんなフレイヤを巡る血みどろなやり取りが数度繰り広げられた所で、ようやく馬車が静止する。


『あんちゃん達! 着いたぞ!!』


 外から聞える商人のおじさんの合図。

 ミラの治癒魔法を受けたは受けたが、未だ顔色が優れないフレイヤは我先にと布の幕を潜り外に飛び出していく。

 

「どうだ? 魔界は――?」


 一足先に魔界の地へと降り立って行ったフレイヤに聞きつつ俺も幕を持ち上げる。

 

 …………。


 黒い雲に覆われ、日もほとんど差し込んでいない世界。どす黒い大地は痩せているのが一目で分かる。

 ここまでは千年前と同じだろう。

 だが、俺の問いかけに答えずにフレイヤが呆然と立ち尽くしている理由、彼女の視線の先の出来事は千年前とは一線を画していた。


 小さな有角の少女。見た目だけならフレイヤと変わらないくらいの魔族の少女に群がる数名の男女。

 彼女が体を丸めながら死守しているのは恐らく携帯食料の缶詰。

 一瞬の間では理解できなかった。

 実年齢が分かりにくい魔族だが、明らかに子供である少女に対して大人が強奪を働こうとしている状況が。

 呆気に取られている内に、フレイヤがその集団に向かって駆けて行く。


「ちょ、待て――!」


「嬢ちゃん!! ……やめときな。お前さんも襲われるぜ」


 純粋無垢で正義の塊である彼女の足を止めたのは俺ではなく商人のおじさんだった。


「関わらん方がいい。魔界はもうここまで来てるんだ。ここで止めても彼らは別のカモを見つけるだけさ」


「いや、でも!」「……だけど……!」


 それでも助けなきゃいけないと思ったのはどうやらフレイヤも同じだったみたいだ。


「……二人は引っ込んでて。魔界の事は魔界の主に任せなさい」


 すぐ後ろ。馬車の中から響く、いつもより数トーン低い声。

 愁いを含んだ、ミラらしくない、ずっと一緒にいた俺でも初めて聞く声。

 

 音も立てずに馬車から降りたミラの姿は角、翼、尻尾、全てを魔族らしい装いに改めた、所謂魔王モードへと変貌を遂げていた。

 ミラの久々のカリスマに圧倒されてしまう。これがさっきまでフレイヤとの絡みに嫉妬していた少女と同一人物とは到底思えない。

 

「退いて」


「……おう」


 言葉の圧力。それを肌で感じた。

 俺とフレイヤの間を堂々たる顔付きですり抜けていくミラ。


「そこの悪魔達。貴様等に魔族の誇りは無いのか?」


 言葉遣いも多少後退してしまっている。威厳を求めた先に行きついたミラ本来の話し方だ。

 だが、その一言は少女への暴行を止めさせるには十分だったらしく、ぴたりと大人悪魔達は停止する。


「第666代魔族当主、バゼッタ・ミラ・エイワーズだ。現当主が誰だかは知らんが、貴様等も魔族の端くれ。元当主に逆らうという事は、その頭上の角を打ち砕かれる覚悟があっての事と心得ているだろうな?」 

「あれが伝説の『白夜の魔王』?」

「っ! そんなわけがない! 千年前の人物だぞ!?」

「しかしあの出で立ちはまごう事無きバゼッタの血筋……!」


「わらわを贋物だと宣うのならそれも良い。どちらにしろ気高い魔族としての誇りを失った者など、生きながらえる価値は無いと知れ!」


 威圧的なその一言を皮切りに魔族の少女を取り囲む輪は散り散りになって行った。

 よろよろと立ち上がりぺこりとミラに向かってお辞儀をする有角の少女。彼女を口を開けながら見送り、おじさんが唾を飲み込む。


「魔族の嬢ちゃん……あんた……」


「ん? おじさんもわらわの事にせものだと思う?」

 

 にっこり笑顔。角も翼も引っ込みおっかないミラは一瞬で霧散してしまった。


「……や、そうとは思わねえ。その……ありがとうな。助けてやってくれて」


「どういたしまして!」


『み、ミラ様ー……? 魔力が怖すぎて外に出るの怖いんですけど何かあったんですか?』


 馬車荷の中から発せられるか細い声。


「だいじょーぶ。ほらほら出ておいでよー!」


 馬車へ駆け寄り幕を思いっきり開くミラ。それに応じてセトラとクアが連なって降りてくる。


 彼女らに差し伸ばされる真っ白な手の平。


「ようこそ! わらわの治めていた世界へ!」

書いてる途中、魔族の女の子が可哀想で可哀想で。

でも魔界編はもっと残酷な予定なのでお楽しみに!

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