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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
一章 チート勇者とプンスカ魔王と巫女の末裔
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Q.1 世界ってここまで退廃的でしたっけ……?

四捨五入したら成人男性が見た目1〇歳の少女(魔族)と1000年間同じ空間に閉じ込められる…。

(;゜д゜)ゴクリ…


そういう展開は残念ながら、ないです。

 ……声が聞こえる。


 《《アイツ》》の声じゃない。

 けれど聞き覚えのある声。

 何だ? どこか切羽詰まったような……。


「………け……くだ……い……!」


 うん? 良く聞こえない。

 どこから聞こえているかもわからない声に耳を傾ける。

 しかし、聞こえてくるのは俺が望んだ声では無かった。

 もう聞き飽きた《《アイツ》》の声。


「ちょっと! 何よこの声! あんたも聞こえているの!?」


 あぁうるさい。

 キンキンと脳まで響くハスキーボイス。そいつを大声で俺にぶつけてくる小娘。

 声の主は悪魔的な意匠が凝らしてある、ビキニアーマーをさらに過激にした様な格好をしているにも関わらず、とたとたと何の恥じらいもなく駆け寄ってくる。

 自前の長いきらきらとした白髪を振り撒きながら。

 その深紅の眼でまっすぐ俺をとらえ、何の警戒心も持たずに。 

 元、勇者である俺の元へ駆けてくる。

 ……なんだかなぁ。


 ――魔王バゼッタ・ミラ・エイワーズ。

 かつての宿敵だった魔界の総締め、魔物の親玉。

 人類側に忌み嫌われる存在だったこいつとは、今ではかつてのカリスマを微塵も感じない程に見知った仲になってしまった。

 ……仲が良いかと問われるとまたそれは別の問題なんだけど。


「うるせーなー。お前の声で聞こえるものも聞こえねーよ」


「なっ! わらわに向かってその口答えって!? 一応魔王なんだけど!?」


 ご覧の通り自分の事をわらわと呼び、常に人々の上に立つ為の帝王学を半端に身に着けている事から分かるように、性格は高飛車で傲慢である。


「はぁ。まさかお前忘れた訳じゃないだろうな? もう終わったんだよ戦争は。もう地位とか立場とかもう関係ないの!」

 

 この空間に閉じ込められてからというもの、何回も、何十回も、何百回もそう言い聞かせているのにこの様子なのである。最初期に比べれば幾分かましだが。


「ぐぐ……」


 そう。人類と魔族の戦争はもう終わった――はず。

 人類側は一人の人間、つまり俺を。魔族側は魔王であるミラを犠牲にすることで終止符は打たれた。

 その後の世界は残った賢者と幼馴染が上手くやってくれただろう。そうと信じたい。 


「……ゆうしゃ、さま……! たす、けて……!!」 


 ――!! 

 押し黙ったミラのおかげで今度ははっきりと声が届く。

 ゆうしゃさま、たすけて。確かにそう聞こえた。


 誰かが俺に向けて助けを求めている。


 救援へと思考を切り替えるところで一つの疑問が浮かぶ。

 封印状態にある俺らに声が届くのは一体どういう事なんだ?

 この封印は中にいる俺とミラがどれだけ暴れても解けることは無かった。

 永久監獄に等しい強力な檻。

 死ぬことも許されず、かといって生きていると断言できるかといったら首を45度傾け、疑問を抱いてしまうような無の世界。

 これを解除できるのは術者のみ。

 ……幼馴染であるあの子のみ。そのはずなのに。


「何? あんたに助けを求めているの? 全く無駄な事をする奴がいるんもんだねー」


 自分の全力でも壊せなかった封印を前に必死に語りかけている声に心底呆れたような、興味を削がれたような顔の元魔王。

 いや、でもこの声は……!


「……もしかして、来てくれたのか!?」


「は? なにが?」


「居るんだよ……この外に封印を施した俺の仲間の巫女が! たぶん!」


 ぽかーん。せっかくの整った顔を大口を開くことで台無しにするミラ。


「嘘……。だってどれだけ魔力ぶつけても、魔王特有の魔法無効スキル使っても壊れなかったのよ!?」


 ああ、凍てつきそうな色の波動を発動した事もあったっけ。

 ミラ曰く、「昔は自身にも魔法無効が掛かったのよ! プロトタイプなら……!」とかなんとか。

 当の本人はそんなかつての実験結果から破壊不可能と決断を下した為か、まだ俺の言葉を信じていないみたいだ。いつもの俺の悪趣味なからかいだとでも思っているのだろう。


「本当だって。お前相手に嘘言っても同じ反応ばっかで最近飽きてきたし」


「うぐ……一々癪に障ることを……!」


 怒りの八重歯が顔を見せる。

 ミラは怒ると小さな八重歯が見えるようになる。

 全くの余談だけど最近は嘘ついて困惑させるよりはわざと怒らせてこれを見るのが密かな楽しみだったり。

 だって何にもする事無いからしょうがないだろ?


「でも、それが本当なら、外に出られるの……?」


「え? 俺だけじゃない? 呼ばれているの俺なんだし」


 緊急時だとはわかっていても、さらに追い打ちをかけたくなってしまった。

 しかし、返ってきたのは予想外の反応。


 ぐすっ……!


 年相応――いや、見た目相応にぶわっと目に大粒の涙を浮かべる元魔王。


「いやいやっ!! それは嫌だっ! わらわも一緒に連れて行ってよっ!!」


 魔族に許された圧倒的敏捷で一気に距離を詰めしがみ付いてくるミラ。

 腰を締め付ける腕力は流石魔族と褒めたたえざるを得ない。

 あ、やばいってほらみしみしって。俺一応普通の人間だから折れるから。

 薄れかける視界に映った犬の様にしょぼくれた尻尾が悲痛さを物語っている。


 ……流石に冗談が過ぎたか?

 あの傍若無人、残虐非道のバゼッタ・ミラ・エイワーズといえども、この0が無限に続いていく空間を恐れているのだ。当然俺だって、こんな所はごめんだ。

 ましてや、かつて目の敵にしていた奴となんて。

 ふと目を閉じ、一人になった時の事を考えてみる。

 ……こんなくだらない言い合いを出来る相手すら居ない空間の事を。

 心の奥で嫌な黒々とした負の感情がふつふつと生まれてくる。

 絶望だったり、孤独だったり。

 あーうん辛いなこれは。


「わぁああ……! 独りぼっちは嫌だぁ……! うぅ……」


「……悪い。冗談のつもりだったけど、言いすぎたわ。ほら」


 かつての敵に手を差し伸べる。


「? いいの? わらわも一緒で…」


 その真っ赤な瞳の奥にそんな希望を浮かべられると罪悪感がさらに増すから止めてくれ。

 うるうると涙を含んだ視線も痛いから止めてっ!


「ああ良いって、悪かったから! 早く、手、出して」


「う、うんっ! ……ぁ、ありがとう」


 ごにょごにょとお礼を誤魔化したつもりだろうがはっきりと聞こえてしまう。

 かつて殺し合いをしていた奴から感謝されるのがこんなに気味が悪いとは……!


 真っ白な空間に鮮やかな色が付く。音をたてて裂けていく。声がより鮮明に聞こえてくる。


「出るぞっ!」「うん……っ!」


・ 


 ……。

 ……長いこと使われなかったせいか脳の処理速度が目に入ってくる情報に追いつかない。

 かつて「勇者」らしく、様々な苦難、苦境に立たされてきたけど、こんな光景は見たこともない……!


 まず背景、強烈な炎の赤が何よりも最初に目に入った。

 炎の海、その表現が適切だろうか。

 建物という建物は全部が全部木っ端微塵、瓦礫と化して燃えている。ミラと戦ったこの地は確かに廃墟、人の居ない所だったがこれはそんなレベルじゃない。

 更に大地はズタズタに裂け、代わりに天に伸びる塔だけが無傷を謳っていた。


「来て……くれた……!」


 次に俺の眼が捉えたのは数m先に座り込む一人の女の子。

 予想していた人物とそこに座っている人物は別人だった。

 ……だが似ている。顔、背丈、服装。唯一違うのは髪型くらいか。

 あの子が俺達を出してくれたのか?

 涙を流している女の子は、巫女としてともに冒険をした幼馴染に酷似している。

 が、今考えるべきなのはそこじゃない。


 その後ろに覆いかぶさるようにして立っている、いや君臨している物体。こいつが最優先なのは例え初心者冒険家でも分かるだろう。

 右手?の位置には鋭い槍上の突起。

 まぶしく光輝くそれは今にも巫女服の女の子を貫こうとしている。

 そして何よりも特徴的な輪っかはそれの性質を表すには十分すぎていて、


「なに……あれ……てん、し?」


 ミラが真っ先にその答えを口に出す。


 おとぎ話のあの天使が、あろうことか人間に牙を向いている。

 人間の信仰の対象である神に仕えている幸せの象徴が。

 あり得ないと思ってしまう様なこの状況が、何よりも理解できなかった。

 ただ、次に何が起こるかだけは分かる。

 

 やばい、早くあの娘を助けないと――殺される。

「今やメジャーな交換転生! ~双子の姉と異世界救済~」とリンクしている部分もあります。

話に出て来るか微妙なほどですけどね。

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