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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
三章 水の都の勘違い女神
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Q.13 あたし? 賢者だけど何か文句でもある?

水の賢者編終了!


遅れてごめんなさい! 次は比較的短いので早めで頑張ります!

「も~ムリ! あたしこれ以上歩けないぃ~!」


 ラ・ブールを離れ早一時間。

 ミラも俺の懸命な慰めによって復活しかけた頃、女神から水の賢者にジョブチェンジしたクアが弱音を口にし始めた。

 まだ年端もいかないフレイヤですらここまで一度も不満を言わずについてきたのに、クアはと言うと早くも草原に寝ころび荷物を下ろし始めている。無理言って仲間に引き入れたのは俺達だが……いくらなんでも自由すぎるだろこの賢者……。


「クア、これから魔界へ入るんだぞ? もっと厳しい道のりになるんだから少しは我慢をだな――」


「いえ、シロさん。ここらで一度休憩しましょう。旅を共にする仲間なんですから、改めて自己紹介とか色々必要ですし」


 確かに俺達が出会ったクアが偽物であると確定した以上、ほぼ初対面になるからそれはそうなのだが……。何だかセトラ甘くないか?

 女の子が持つのに似つかわしくない巨大な荷物をクアの対面に下ろし、俺達を呼ぶようにぽんぽんと若草を叩くセトラ。ミラはその提案に歓喜し俺の事もいとわず一目散に駆けて行く。待て待て、置いて行かれないようついていくのだが、フレイヤはいつもに増して無表情のままその場に立ち尽くしている。

 

「フレイヤ? どした、せっかくだから休んでいこう。あいつら言い出したら聞かないだろうし、これから魔界へ入るからたぶんもっとしんどくなるぞ?」


「……ん、その……」


 半分ミラに引きずられる状態の俺を追いかけながら顔を近づけ――って近い近い! 具体的に俺とフレイヤの距離を述べるとするなら、ミラとはまた違った穢れの無い宝石の様な赤色の眼しか視界に映らない程に接近されている。その読み取る事が困難な表情の下で彼女は何を思っているのだろうか。何を考えてこんなマネをしているのだろうか。かつて幼馴染に女心に疎いと罵られた俺からしたらさっぱりわからない。

 あ……昨日風呂に入ったばかりだからだろうか、彼女の歩調に合わせてふわふわと揺れている栗色の髪から果実の様な甘い香りがする。

 ……こういう事ばかり考えるからデリカシーが無いとも言われるんだろうな。

 

 そんなやけに積極的なフレイヤだが、顔を赤らめている所を見るとどうやらこの顔を近づけてくる接近は意図したものではないようだ。そうじゃなくて近づこうとしているのは俺の耳? 何かを伝えたがっているのか……? 

 と、それに気が付いたのと同時にミラの動きが止まる。

 チャンスだとばかりに距離を詰めてきたフレイヤが、俺の右耳に向けて小さく語り掛ける。吐息交じりで耳がくすぐったい。


(わたし……クアお姉さんがちょっとこわいの……)


 確かにフレイヤは自分から他者に関わっていくタイプでないことは彼女の性格から予想は出来た。しかしだ、初対面だった俺達にも笑顔で接してくれた彼女が明確に拒絶を示したのは初めてだった。


(どうしてだ? 道、教えて貰ったんだろ?) 


(あの時お姉さんのようすヘンだった……。その道通ったらわるい人におそわれて……)


(それでクアが元々危険だと知っていて道を教えたんじゃないかってことか)


(うん……きらいじゃないんだよ? でもそんなこと聞けないし……)


 ふむ、なるほどな。その幼さ故、きっと一度受けた悪意に敏感になってしまったのだろう。そしてその元凶であるクアは――多分気まぐれだ。フレイヤが普通に幸せそうな住民に見えたから悪戯をした程度の認識だろうな。 

 任せろ。そう言う代わりにフレイヤの小さな頭にポンと手を置く。

 折角の旅の仲間なんだ。仲良くしてもらうに越した事は無い。先に腰を下ろした三人の輪の中に加わり、機会を伺う。


「では言い出しっぺの私からですね。フルネームはセトラ・アーリエと言います。このパーティでの役割としては――何でしょう?」


「セトラは伝達担当兼、財布管理役じゃない?」


「ですかねー? 本職としては巫女なんですけど……」


 役に立てないからと思っているのか、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべる。別にミラもそんなつもりで言ったんじゃないだろうけどな。そもそもセトラが欠けてたらこのメンバーが集まる事も無かったんだろうし。

 続いて、セトラの隣に陣取る魔王様が誰に勧められたわけでもなく、自分語りを開始する。


「わらわが千年前人類を脅かした伝説の魔王、バゼッタ・ミラ・エイワーズ! 役割としては天使どもを一匹残らず黙らせることかな。幸運『は』クアに負けてるけど、他じゃ負けないから!」


 まだ根に持っているのか、疑似的とはいえ二連敗を喫したのが相当応えたのか、わざわざ自身の有能さを強調して自己紹介を終えた魔王様。しかし、クアにそんな皮肉が通じる訳もなく、「かっこいいなぁー」と純粋に褒めたたえられている。

 それを見て更に闘志を燃やしている鈍感バカはほっといて、輪の回り的に次は俺の番かな――、


「クア=レーゲン。まだまだ現役の十八歳だよぉ~!」


「俺の番が飛んだ!?」


「あ、ごめんごめん。あたしよくこういう時流れを切っちゃうって言われるから」


「……だろうな。まあいいよ続けてくれ」

 

 自由奔放さは先祖譲りか。フレイヤといい、賢者の血は相当色濃いのだろうか?


「女神改め賢者として旅をすることになたんだけど~、まだまだみんなの事全然知らないから仲良くしてくれると嬉しいかなぁ」


 隣のフレイヤをこっそりと見てみる。あれは明らかに警戒しているなぁ……。今のが完全に裏目に出てる。騙された側、ましてやフレイヤの様な冷静な性格の持ち主なら警戒して当然か。ここはフレイヤの警戒を解くためにも俺から一歩歩み寄ってクアに悪意が無い事を伝えないといけないかな。


「おう、回復魔法が得意なんだって? よろしくな!」


「うん! よろしくぅ~」


 そう言いつつ差し出す右手。何の疑いも持たずにクアはその手を取ってくれた。セトラとも違う、少し大人びた手の平のぬくもりが伝わってくる。

 うっ、何も知らない巫女魔王コンビの視線が痛い。フレイヤも「うらぎったの!?」ってな感じで目をまん丸くしているし……。多少は緊張がほぐれたならいいんだけど逆効果だったかも。

 上手くクアとフレイヤを話し合わせる手は無いだろうか? 

 で、今度こそ俺の番。


「俺は――シロだ」


「あれ? それだけ? 何だか犬の名前みたい」


「シロ様は記憶を無くされたんですよ。私の先祖様が意図的に消したらしいですけど……なので私が記憶が戻るまでの代わりにと」


「それで『シロ』ってつけたセトラもセトラだけどねー。……ほんと」


 ジト目でセトラのネーミングセンスをからかうミラ。気のせいだろうか……? 最後に付け足した一言がどこか寂しげだったような……? 前も確かこんなことあったよな。

 

「さ、続き続き! そんな記憶喪失のシロにも色々あるでしょ?」


「あ、ああ。ミラと同じ千年前からやってきた。一応勇者と言うことで名が通っている――や、名は通ってないな。まあ、勇者だ。最近の楽しみは宿屋のふかふかベッドを楽しむ事くらいかなぁ」


 ――なにそれー。

 うるさい。お前だって風呂入る事なんだから変わんないだろ。

 

 さてと、回って来たフレイヤの番。律儀に立って自己紹介を始める。


「わ、わわ、わたしはフレイヤ・リヒトムート……っ!! って言い……まひゅ!!」


 うん、見事に緊張していて微笑ましいですね。

 じゃなくて。


「フレイヤ、まず落ち着けって。な? クアなら大丈夫だから」


「え? あたし何かしたかな?」


 あー……。やらかしたか? いや、もう正直に打ち明けたほうが、


「えっとな……、クアはラ・ブールでフレイヤに会ったよな?」


「会ったけど……あ!」


 思い当たる節があったのか急に血の気が引いていく顔。

 

「ごめんねぇ! フレイヤちゃん! あたしあの時、知ってて意地悪しちゃったの!」


「ほう……? やはりそうでしたか……詳しく聞かせて貰いましょう」


 でかしましたよ、シロ様! と、笑顔で小さく親指を立て、その笑顔のままクアに詰め寄り始める人類代表の巫女。怒りを隠しきれていない笑顔はもはや人類でなく、鬼のモノだった。同じく問い詰めようと腰を浮かせたミラですらその激怒っぷりに浮いた腰を戻せないままでいる。

 まさかセトラも気が付いていてわざとここで休憩をとったのか? そういや昨日の晩に何か言ってたっけ?

 

「ひいぃぃ! ちち、違うのぉ!」


「何が違うんですか……?」


 セトラさん? 怖いですよ……? 

 頭から角がにょきっと生えてきそうな勢いだ。

 もう絶対にセトラを必要以上にからかわない様にしようと隣のミラと目くばせし、頷き合う。


「あたしはフレイヤちゃんが普通の市民に見えて幸せそうだったから、その……ちょっといたずらしようと思っただけでぇ……!」


 予想は完全に一致していた。

 それにしても貧困にあえぐ人を救う一方で、助けてくれない裕福な人を僻むのもどこか歪んでいるよなぁ。もちろん街の人も助けなかったのも原因の一部ではあるけど、自分だけ放っておいても恵まれていく一方でどうあがいても飢えから脱せない人々を間近で見てきたのが彼女がこうなってしまった直接の原因な気がする。

 その格差の問題は自警団の人達に任せるしか手は無いし、それが仮に大金が転がってきて解決されたところでクアのこの一般的にクズと呼ばれるであろう性格が治るわけでもないし。


だけ・・? それがフレイヤちゃんを、私の大事なフレイヤちゃんを危険にさらす理由になるんですかね……?」 


 こっちもこっちで十分歪んでいると思うけど。激昂の理由である栗色の髪の幼女は、そんなセトラに怯え、ひしっと俺のローブを掴み離れないでいる。

 改めてうちのパーティ、シスコンにフレイヤ狂いにクズとかとんでもないのばかりだな。フレイヤだけが俺の心のオアシスだ、割と本気で。

 このままじゃセトラがその怒りに満ちた視線だけでうっかりとクアを殺めかねないので、


「その辺にしとけって。クアもちゃんとフレイヤに謝る。それで終わり!」


「……ですね。すみません取り乱しちゃって」


「うぅ……ごめんなさいぃ~」


 怯えつつもクアをじっと見つめるフレイヤ。数秒の沈黙。

 果たして自分を窮地に立たせたクアを許すのだろうか?

 この判決によって自分の未来が絶たれるかもしれないと確信したのか、とうとう祈るように手を組みだすクア。女神を自称していた奴がそのポーズを取るのかと吹き出しそうになって何とかとどまる。隣でひくひくと肩を震わせているミラもどうやら俺と同じくツボに入ってしまったらしい。


「~~~~っ!!」


「ん……! よろしくクアお姉さん……!」

 

 判決、ノットギルティ。

 安堵から、蛇のように長い溜息を吐き出すクア。セトラさんもこれにはにっこり、もう先ほどの怒りはどこかへ行ってしまったようだ。

 慈愛に満ちた、本当の笑顔でセトラは手を差し伸べる。


「改めてようこそ、星を救う隊へ!」


 ちょっと感動的なのに、名づけのセンスで色々と台無しだなぁ……。



「そういや、その様子じゃ『アトラの伝言』も伝わってないよな?」


 話はこれからの予定に移り、ラ・ブールの喫茶店で聞けなかった色々を思い出し聞いてみた。

 両親と面識がないと言っていたし、クアからしたら思い出したくない事に触れてしまうかもしれないが念のために、な。


「ん~? なにそれ。あたしまだ賢者についても良く分かってないからなぁ」


 案外軽い返答で安心した。ラ・ブールでのクアはどこか影があったように見えてたから心配だったが、それも杞憂だったようだ。


「だよなぁ。アトラは本気で千年後へ伝言を伝えようとしたのか? 思い付きの余興程度の適当さで頭が痛くなってきたぞ」


「あー……私のご先祖様がダメダメですみません」


 足元の草をいじいじしながらもう片方で頭を掻くセトラ。


「でもフレイヤの時は残ってたじゃない! きっと残してくれてる賢者も――」


「一番まともなのがメルティだったんだよ……。ぼんやりとしか分かんないけど残りも碌な奴が居なかった気がするし」


 みんなメルティより年上なのになぁ……。まるでこのパーティみたいだ。


「本当に何も覚えてないのか?」


「ん~。あ!」


 お? 何か思い出したのか? 一同、情報が得られるのかと息をのむ。


「ご飯食べない? あたしお腹減っちゃった!」


「ぶっ!」


「ほんと自由なのね、クアは……。まあわらわもちょっとお腹空いちゃったかも」


「……わたしもおなかすいたー」


「じゃあ携帯食料になりますけどお昼ご飯にしましょうか!」


 セトラがそう言いつつ鞄を漁り、簡易魔法符が張られた容器を取り出す。鉄製の容器の蓋が開き小気味良い金属音がすると、中から小麦の香ばしい香りが広がっていく。どうやら中身はパンのようだ。

 パン以外の食べ物でない事にほんの少し落胆したが、特に肉や魚は魂の総数のせいで携帯食料ですら軽く20000フロルを超すくらいだからまあしょうがないとその気持ちを抑える。パンも主食になりつつあり品質が上がって十分においしいから文句は無いのだが、千年前から来た人間としては肉や魚が食べられないのはわかっていても少々辛い物があるのだ。

 小麦の香りからそんなお腹の空虚感を感じているとクアが再度声を上げる。


「思い出した! みんなに会う前に教えて貰ったかも!! その人パン食べてたからこの匂いで思い出した!」


「え? 教えて貰ったって、賢者への伝言をか?」


 というか匂いで記憶してたのか……? 何という曖昧記憶能力……。


「うん! 顔は隠してたから良く分かんなかったけど~、二日くらい前に教えて貰ったよ! こう、頭をとんってされたなぁ~」


 きっとクアは賢者について何も知らないから別の事と勘違いしているのだろう、誰もがそう思っただろう。だって水の賢者であるリヴィアの一族のみ知りえる情報のはずだし、この分じゃクアの前代まで伝わっていたかすら怪しい。仮に教えてくれたのがクアの両親のどちらかだとしてもクアの生活を知ってて放置するのは普通の親だったらあり得ない。 

 だとしたら考えられるのは……誰だ? さっぱり見当もつかな――、

 あれ? もしかして、あの偽物のクアか?

 思えば空からクアを探した時も不思議な事が起きた。まるでクアが二人いるような。そう、クアと入れ違いでラ・ブール資料館の裏通りから出てきた黒服の男、例えば彼がクアに変装して俺達を付けていたとしたら確実に賢者関係、もしくは天使関係のどちらかだ。

 いやでもだとしたら何でリヴィアへの伝言を知って――、

 

「それで何て伝言だったの?」


 思考を遮ってミラがクアに尋ねる。


「確かぁ……『転生者への対策』だっけ? 何言ってるかわかんなくてそれだけしか覚えてないや」


 謎のワードに誰もが首をかしげる。本当にそれが伝言なのだろうか。単にクアが騙されただけでは? 一度そんな考えが頭を過るともう先ほどの想像が馬鹿ばかしくなってきてしまった。


「結局何もわからないってことですよね? 語感的には魔法関連ぽいですし、魔界へ行ったらどなたかに聞いてみますか?」


「だな。ミラも知らないとなるとあまり期待できそうにないけど一応聞いておくか」

  

「何よぅ。まるでわらわが使えない子みたいじゃん!」


「そうは言ってねーって。まーとにかく魔界だな。気を引き締めて行こうぜ」


 おー! 

 

 こうして勘違い女神改め、初心者賢者のクアを仲間に引き入れて、俺達の旅はこれから最も過酷であろう魔界へと足を踏み入れる事になる。

 順調に南西へ向かって塔からは離れる一方だが、エルメリアの一件もあるし妙な胸騒ぎがする。


 色々と気になる事はあるが……何もない事を祈るばかりだな。

お疲れ様でしたー!

次回はちょっと裏方を。


ご意見ご感想レビュー等貰えると嬉しいです! 今後に生かしたいのでぜひ下さい!


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何気にフォロワーさんじわじわ増えてて嬉しい……

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