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Q.隣にいる魔王から5m以上離れないで世界を救うにはどうすればよいか?  作者: ねここねこ
三章 水の都の勘違い女神
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Q.12 あたし? 女神だけど何か文句でもある?

一度でいいから自由に空飛んでみたいなぁ。

『こちらチームα! 感度良好、オーバー!』


「いやセトラ、そういうの要らないから」


『ぶー。シロ様つまらないですー。隊長さんは乗ってくれたんですよ? ちゃんとコードネームSって呼んで下さいよぅ。 おーばー』


 作戦会議の結果、水の賢者の末裔捜索隊はセトラの提案により二部隊編成の形をとることとなった。まあ部隊と言っても二人組を二つ作る事しかできないんだけどな。

 まず俺とミラの空中機動部隊。ミラの羽と筋力を利用して、五感拡張魔法がかかった俺が街の上空から賢者の末裔――クアだっけ?を大雑把に捜索する役割を任された。

 次にセトラ&フレイヤの地上探索部隊。こちらはセトラが昨日お世話になった自警団の協力を仰ぐことが出来た為、このチームには路地裏や屋内といった街の入り組んだ部分を幅広くカバーしつつターゲットの確保までを任せることにした。これが先ほどの五感拡張魔法の通信越しに聞こえてきたチームαだ。

 

「どう? シロ。ちゃんと見える?」


「おーばっちりだ。セトラの視覚拡張のおかげで見ようと思えば道行くおっさんの毛穴までばっちりだ」


「そんな事させるために担いで飛んでるんじゃないんだけど?」


 一瞬、ほんの一瞬、力を緩められる腰に巻きつく細い腕。

 

「やめっ! し、死ぬからやめて!!」


「冗談。シロが落ちたらわらわも消えちゃうでしょ」


 あ、確かに。一心同体になって初めて5m制限がメリットに働いた気がする。 

 まあこれが無ければミラだけ飛んで捜索なんて事も出来たのだけど……そう考えると自分の体の倍はある男を吊り下げさせてしまって申し訳ない気持ちになる。

 そんな力持ちの魔王様は魔王様で久々の浮遊を楽しんでいるからからまあいいか。

 

 ……さてふざけ合うのもこの辺にして、おとなしくミラの言う通り捜索しますか。


 俺達が飛んでいるのは街の200m上空。一番高い建物、街の中央にそびえている時計塔でさえ80m弱なので俺の視界を遮るものは一切無い。ここまでの高さとなると神の目線に立ったと錯覚するほどに街往く人々はゴマのように小さく、ちんけなものに変わってしまった。

 きっと人類が天から絵を描く技術を手に入れたなら、こんな景色が描かれるのだろう。

 と、つい芸術の話へ持って行きたくなる程に、水の都の俯瞰風景は美しかった。これ程の景色はもしかしたらもう人生の中では見ることが叶わないのかもしれないな……。

 

 それで、肝心の賢者は、っと――いた。

 相も変わらずぼろっちい布の服を身に纏い、呑気にパンをほお張りながら歩いている。散歩だろうか? 昨日勝った分の金で服くらい買えばいいのに……。

 いや、クアもリヴィアと同じく気まぐれな性格だとしたら、そもそもおしゃれに興味が無いのではないか? リヴィアはむしろ拘束されているみたいだと服を嫌う傾向があったし。


 彼女はこちらからは見えない路地裏へ入っていく。ここからはセトラ達の出番だな。 


「クアを発見した。今は――ラ・ブール資料館の裏通りへ入っていった。ちょうど入れ違いで黒い格好の男が出てきたからその人にどっちに向かったか聞けば楽に見つかりそうだ」


『了解です!!』


 さて、これで役目は終わった。セトラ達が取り逃さなければこの絶景ともお別れだな。


「ミラ、降下し始めていいぞー」


「えぇー、せっかくだからもうちょっと二人でこの風景楽しまない?」


 パタパタと真っ黒な翼を羽ばたかせながらふくれっ面になるミラ。相当気に入ったらしい。

 封印時代に魔界は風景を楽しめるようなところが全く無かったって話を聞いたから、人類圏の景色は彼女にとってとても新鮮な景色なのだろう。 


「これを壊そうとしてたんだもんね。笑っちゃうわ」


「魔界ってそんなに何も無いのか?」


「人類と違って魔族は『器用さ』が無いからねぇ。オークとかいかにも不器用そうでしょ? 多分美しいって感覚を知らない種族もいっぱい居たんじゃ無いかなぁ」


「あー。なんとなく納得した。確かに人類は少ない魔力量を手作業で補うとこあったからな。それが芸術とかに活かされてるのかも」


 ミラはその魔族の中でも上位種だから芸術を感性を持ち合わせているわけだ。


「でしょ? 向こうじゃ美しいの感性が違うの。いかに槍に生き物の首を多くぶっ刺せるかみたいな?」


「さり気無く物騒な事を言うな……」


「だって本当の事だしねぇ。強さ=美しさの曲解みたいな?」


 まあ、その方程式もはき違えなきゃ正しいのだろうけど。最初にミラに出会ったときは、敵ながらもそんな印象を抱いたのかもしれない。


『――あのー。芸術のお話の途中首を挟んで申し訳ないのですけど、本当に資料館の裏へ入っていきましたか? 先ほどの男性に話を聞いたのですが見て無いそうですよ? あ、オーバー』

 

「早速オーバー忘れてるじゃないか」


『シロ様がオーバー返してくれるまで続けますからね? えっと、それで見失っちゃったのでもう一度探して貰えませんか? オーバー』


「あの青い髪を間違えるはずがないんだけどな……」

 

 もう一度街の細部を注視する。

 資料館近くの裏通りは街の中央に通じているため、そのまま単純に行けば時計塔付近や昨日泊まった宿の付近にいるはずだ。

 ――いる筈なのにクアの姿は一向に見当たらない。単に狭い通路を通っている可能性も十分にあるが……もしかして俺達が探している事に気付いている?

 仮に気付いているとするなら逆側か?

 もしやと思い視線を街の端へと移す。

 いない、いない、いない――……いた。

 ぱっと見暮らしが豊かそうではない人々に囲まれて――話をしている? もう撒いたと思っているのだろうか? 随分と余裕らしい。

 

「セトラ。中央には向かっていない。むしろ貧困区、目標は動きを止めている。俺達もこのまま向かうぞ」


『え? そっちの方向ってここからかなり距離ありますよ? 空間転移魔法でもなければ……』


「詳しいことは分からんがあそこにいるってことはそうなんだろ。幸いにも油断しきっている。ミラがいれば捕獲まで二秒とかからない。任せてくれないか?」


『ラジャー。一任します。オーバー』


「さんきゅ。これで最後の通信だ。オーバー」


「お話は終わった? このまま降下するから絶対暴れないでね?」


 にぃ。そう心底楽しそうな笑顔を浮かべるミラ。

 二秒かからないって言ったけど、ここからって訳じゃ……!

 次第に体が感じる風の勢いが加速度的に増していく。

 まてまてまて! 冗談じゃなく死ぬ!


「れっつご~!!」


「うおぉおぉおぉおぉおおおおお!!!!」



 実際、二秒だった。

 が、体感した時間はおよそその五倍。天空から地面へと急接近していく視界は俺の脳を麻痺させるには十分だったらしい。

 うっぷ……まだ気持ち悪い……。

 ミラはと言うと着地の衝撃をすべてその細い両足で吸収し、即座に拘束魔法を発動。俺を一度も離す事なく、クアを束縛してしまった。流石魔王、情けない勇者と比べると超有能である。


「なっ――!? なにこれぇ!? この街の女神であるあたしになんてことするのよぅ!!」


 は? 女神? 賢者だろ?

 クアの絶叫を聞くと、周りにいた住民の方々は一目散に駆けて行った。口々に「女神さまが捕まった! もう終わりだ!」、「悪魔よ! 悪魔が降ってきたのよ!!」とかなんとか。え? なに、そういう設定だったのか?

 色々と腑に落ちないがまずは敵意は無い事だけでも示しておくか。


「クア――だよな? ちょっと手荒になったけど話があって来ただけなんだ。急で悪いけど少しいいか?」


「誰? あたし何か悪いことした? 何で名前知ってるの!?」


 わかりやすく混乱しているクア。だがどこか様子がおかしい。

 そう、誰だという問いに眉をひそめる俺とミラ。特にミラは今の一言を「あら~。あたしに負けた雑魚の顔なんて一々覚えていないけど?」ってな感じに曲解したようで、顔は引きつり、ぶち切れかけている。即首根っこをつかまない辺りまだ良い子だ。思わず垣間見えるミラの成長に少し感動。

 にしても、どういうことだ? 先祖のリヴィアがちゃらんぽらんだったから「単に忘れた」ってのも無い事もないが……俺達とは昨日会ったばかりだ。あんな出会い方をしたのにそんなにすぐ忘れるだろうか?

 小さく口元で解析魔法を唱える。大まかなステータスを見れば人違いかどうかは見破れるはず。

 ……目に映ったステータスは幸運値が異常に高い。およそ一般人の数千倍、つまりリヴィアの血を受け継いだ賢者の子孫である証だ。

 となると、これは明らかにおかしい。


「昨日カジノで会っただろ?」


「人違いでしょ? あたし昨日はカジノなんて行ってないもん!」


 だとしたら昨日俺達が会ったのは誰だ……? わざわざ「クア」と名乗ったのは誰なんだ?

 

「シロ。落ち着いて。どっちにしろこの娘は連れて行くんでしょ?」


 ……そうだな。クアは無事にここでじたばたしている。だとしたら昨日の出来事は放置しても大丈夫なはずだ。

 と、ここでセトラとフレイヤが息を切らしながら到着する。


「あ、昨日のお嬢ちゃんとお姉さん! ちょっと助けて! この人達おかしなこと言ってる!」


 動けないながらも必死に一本に束ねられた足でセトラの元に寄り、飛びつくクア。 


「ひゃっ!? えっと、クアさん? ちょ、落ち着いて下さい!」


 セトラとフレイヤは覚えている……? となると考えられるのは――。

 ミラに合図をして拘束魔法を解いてもらう。


「ふぇ? え……ありがとう……?」


「一旦ここを離れよう。落ち着いて話がしたい」



 入ったのは居住区から少し離れた落ち着いた雰囲気の喫茶店。

 客もそういないみたいだし込み入った話をするにはちょうど良いだろう。


「あー。何から話したらいいんだ……? えっと、まずクア、君は賢者だ」


「違う! あたしは女神。幸運の神様に選ばれたんだから!」


「いや、そういう冗談の話じゃなくて、賢者の子孫なんだって」


「冗談じゃないっ!」


「……なあ聞いてくれクア、これは遊びじゃなくて――」


「遊びじゃないもん!」


 ……。平行線だ。注文したコーヒーを啜りながらその苦さに思わず眉間のしわが増す。

 ――ここは任せてください。

 そう脳内に響く声。俺にはもうどうしようもない気がしてきたので、おとなしくセトラに会話を譲る。


「クアさんは女神さまだったんですね? では、あそこで何をしてたんですか?」


「あそこで暮らしている人たちが可哀想だったから、物を分けたりけがを治してたりしてたの」


「ああ、だから昨日も」


「街のお金を沢山持っている人たちは誰も助けてくれないんだ。だからあたしがお金を……」


「――私の様な人たちから物やお金を貰ってたんですね」


「その……ごめんなさい。弱い人に優しくするのが、幸運を分けるのがあたしの仕事だから……」


 だから「女神」か。この様子だと演技とかじゃなくきっと本気でそう信じていたんだろう。まあやっていることは詐欺に近いけどな。


「いえ、別に怒ってないですよ。むしろちゃんとあの方々の下で使って貰えるとわかって安心です」


「へ? じゃあなんで連れてこられて……?」


「先ほどこちらのシロ様がおっしゃった通り、クアさんの力を貸して欲しくてですね」


 おお、相手の警戒心、誤解をほぐしつつ本題へと誘導している。凄いなセトラ。社交的な奴だとは思っていたけどここまでとは。隣で我関せずと無言で座っているフレイヤや、向かいで自慢の八重歯を巧みに使い、ぼりぼりとジュースの氷をかみ砕いているミラにも見習って欲しい。


「あたしの力?」


「クアさんが女神の力だと思っている力は、大昔の賢者の一族の力なんです。クアさんが幸運なのもご先祖様の血を受け継いでいるからだそうですよ?」


「そうなんだ。あたし気が付いたらお父さんとお母さんが居なかったから……知らなかった」


「賢者だってこと教えて貰えなかったんですね」


「……うん。それで、力を貸すってどうすればいいの?」


「私達と旅をして欲しいのです。神を討ち、世界を救う為に」 


「外では天使が人を殺すっていうの本当だったんだ……」


 外の現状をほとんど知らないのか。この街の特徴からなんとなくは想像できたけどここまで危機感が無いとは思わなかった。


「ああ。だから俺達が止めないといけない。その為にはクアの力が必要なんだ」


「……そっか。それがあたしの本当の仕事だったんだ」


「頼む!」


 俯き、コーヒーに映った自分を見つめ黙るクア。

 老練な店員がカップを拭く音のみがしばらく店内を包み込む。


「……うん。わかったよ。でも一つだけお願いしたい事があるの」


 

 クアの頼みを聞き入れやってきたのは、アトラがお世話になった自警団のアジト。

 

 ――この街を出ていく前にやらなきゃいけない事があるの。


 クアが条件として提示したのはこの街の治安についてだった。彼女が長年続けた「女神」の仕事。しかしいくら経っても貧困は無くならなかったらしい。それが気残りだから、そう言う彼女にセトラは自警団を訪ねる事を提案した。


「こんなに早く戻っちゃったら示しがつかないですね」


「え? クア捜索の時手伝って貰ってたじゃん」


「それとここの敷居を跨ぐのは別なんです! 感動的なお別れだったんですから!」


 そう言いつつも扉を開け中へ入っていくセトラ。


「おおー! こういうせまっちい所は何だか楽しくなっちゃう!」


「……秘密基地……みたい」


 人ひとり通るのがやっとな通路を一列になって進んでいくと、数名の団員だろうか、同じ制服を着た男女が驚きつつも出迎えてくれた。


「セトラ? どうした? 探し人は見つかったんだろ?」


「いえ、それとは別で用があって。ほらクアさん!」


 セトラに後押しされ前に出るクア。


「あの……プフッツェ居住区の事を相談しに来ました」


「プフッツェ? ああ……」


 あの地区が貧しいのは有名らしい。それを聞き、クアの服装を見た団長さんが憐憫の情を向けるほどに。


「あたしがこの街を離れる事になるときっとあそこの人達はもっと苦しい生活になると思うんです。ですから、どうか助けてあげられないでしょうか? すぐにじゃなくて良いんです。ちょっとずつでも他の人と同じ生活を、弱い人をつくらない街に出来ませんかっ!?」


「……お嬢さんの話は伝わった。俺達だけじゃ厳しいかもしれないから、憲兵にも頼る事になると思うが必ず何とかしてみせる……! 勇気を出して現実を突き付けてくれてありがとうな」


「団長さんはやるときはやるんですから! 安心してくださいクアさん!」


「おいおい、プレッシャーを掛けるようなことを言うなよ」


「ありがとうございます……! これで旅立てる……」


 何度も何度も頭を下げ感謝しているクア。

 きっと彼女にとってあの場所は自分の存在意義ともいえる場所だったのではないだろうか。きっかけは彼女の幸運、賢者の力だったのだろうけど、あそこに住む人にとってはクアは女神と同じ存在に見えたはずだ。

 ――それも今日で終わり、この街の女神は街を出る。


(これってわらわ達蚊帳の外なんじゃない?)


(うるさい。いいとこなんだから黙っとけ)   



「あーっ!」


 アジトを後にし、ラ・ブールの街を出る為真っすぐと門へ向かっていると、何かを思い出したかのようにミラが声を上げる。


「そう言えば勝負! カジノに行かないと!」


 あ、こいつまだあのクアが別人だって気付いてないのか。怒りでを抑える為必死だったとしても鈍すぎる。

 けどカジノは――、


「カジノはダメですよ」


 ぴしゃりと俺が突っ込むよりも早く、セトラはミラの提案を却下する。


「だってよ。じゃんけんくらいにしとけって。一応確率なんだし健全で手軽だろ」


「ぐ……やむを得ない! クア! いざ勝負!」


「え? ええ!?」


「じゃんけん――ぽん!!」「ぽ、ぽん!」


 ……。

 …………。

 

 こうして街を出てからの数十分間、ミラは俺の背中で涙を流し続けたとさ。


はい、お疲れ様でした。

フレイヤちゃんがやたら寡黙な理由は次のお話で!


感想、ご意見お待ちしてます!!

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